オスカーが大声をあげているとき、ラナは小走りでケヴィナー内を移動していた。
トムソン基地へ向かう最後の角を曲がった瞬間、ラナの歩みが止まった。
彼女目の前には、一番会いたくない幹部の男、ジュードの姿。
「おやおや、ラナ姫ではありませんか。相変わらず徒歩での移動ですかな？」
不気味に笑う、この男がラナは大の苦手だった。
「一人では誰に狙われるかわかりません、私がお送りしましょう。どこへ行くのですかな？」
ジリジリと近づく男に恐怖感を覚え、後ずさりをすると、誰かがラナの前に立った。
「ラナに何か用ですカ？」
「お前…トムソンの！」
「うちのラナが何かしましたか？ジュードさん」
前に立つ人とは違う声に振り向くと、オスカーとルークの姿。
「なんでもないわ！さっさとトムソンへ帰れ！」
そう言うとジュードは転送して消えた。
「ラナ、大丈夫か？」
ルークが声をかけると、小さな声で「ええ」と言った。
「しっかし、あのオッサンだけは好きになれねぇナァ」
「俺もだ。あのときお前が助けてくれてよかったよ、ノア」
「いいって！たまたま通りかかっただけだしナ！」
ノアと呼ばれた青年は、オスカーの前に立ち顔を覗き込む。
「お前さんが新入りカ、俺はノア・マーカス。トムソンの隊員ダ」
「あ、僕はオスカー・ゲイルです。よろしく」
2人は、握手を交わした。
「そんじゃァ、行くカ！トムソンまで案内するヨ」
ノアを先頭にトムソンへ向かい皆歩き出した。
歩くにつれて、壁も床もケヴィナーとはまったく違い、黒一色になっていった。
「さ、着いた！」
ノアが足を止めた場所はどう見ても行き止まりで、窓もドアも何もなかった。
「ここ、行き止まりじゃあ？」
「そう見えるだけサ、ちゃんとドアはアる」
そう言うと、ノアは壁をノックする。
するとその周辺がスッと形を変えて、あっという間にドアができた。その先に奥へ進む通路が見える。
「すごい…」
呆然と立ち尽くすオスカーの肩を軽く叩いて、ルークが先に進んでいった。
続いてラナ、ノアも歩いて行く。
もう戻れない。覚悟を決めないと。
オスカーは深呼吸して、その道へ進んだ。