「オスカー！朝ごはん出来たわよ！起きなさい！」
オスカーの母親が、１階から彼を呼ぶ。
「う〜ん…」
オスカー・ゲイルは普段は朝に強い方だ。
だが今日は、昨夜ゲームに夢中になり寝たのが明け方だったので、なかなか起きられなかったのだ。
ゲーム機を自分の部屋に持ち込んでいるので、そんなことを母親が知るはずもない。
母親は階段を上がると、ドアの開いているオスカーの部屋へ入った。
「オスカー、今日は博物館の見学に行く日じゃないの？！いい加減起きないと遅れるわよ！」
その声に反応し、オスカーは勢いよく起き上がった。
「そうだった！わっ！もうこんな時間？！ママもっと早く起こしてよ！！」
「ママは何度も起こしたわよ。起きないあなたが悪いのよ！」
バタバタと用意をする息子を見てため息をつくと「早くね！」と母親は１階へ降りていった。

オスカーは12歳。
近くの学校の中等部へ通っていて、今日はその学校の行事で博物館へ行く日だ。
彼は記念館や博物館、美術館などの持つ雰囲気が大好きで、彼にとって今日は特別な日だった。
「いってきまーす！」
朝ごはんのトーストを急いで口に詰め込むとオスカーは家を飛び出した。
「遅刻だぁー！」
そう言いながら、彼は通学路を全力で走った。
学校に着くとバスが停まっていて、中にはすでに生徒が乗り込んでいる。
慌ててバスに近づこうとするが一足遅かったようで、バスはオスカーをおいて走り去っていった。
「…最悪だ」
こうなってはどうしようもない。
オスカーは重い足取りで帰り道を歩き始めた。
だが、このまま帰ると確実に母に叱られる。
そう思って、家とは反対の街へと向かった。

街に着くと人々はオスカーを見て「学校はどうしたんだい？」と聞くので「休みなんだ」と無理やり笑いながら答えた。
公園のベンチに座り、これからどうしようかぼんやり考えていると、目の前の道を全身真っ黒な、まるで影のようなものが通っていく。
「なんだろう？」
初めて見たものに好奇心が湧き、オスカーはその人影を追った。
それはビルとビルの間に入っていったので、オスカーも追って入る。
だが、人影はそこで消えた。
「いなくなっちゃった…」
とても気になるが、いないものはしょうがない。諦めて帰ろうと後ろを振り向くと、目の前に先ほどの人影がいた。
いや、人影というより”黒い人型のブヨブヨした物体”がいた。
オスカーは怖くなり後退りすると、物体はひも状になってオスカーの足首を掴んだ。
「ひっ…！？」
バタバタと暴れてみるが、縛りがきつくなるだけだ。
恐怖で声も出ない。
”誰か助けて！！”
目を瞑り、心の中で叫んだ。
すると、鈍い音と共に黒い物体はオスカーを離した。
そしてそれはやがて液状になり、消えていった。
尻餅をついて肩で息をするオスカーの前に、また黒い人影が現れたが、今度は人間のようだ。
その人物は黒いボディースーツを着ていて、顔もヘルメットで見えず、手には銃が握られている。
”殺される！？”そう思ったオスカーは、目をぎゅっと瞑る。
そんな彼を見て”黒い人”は、ヘルメットをとり、しゃがむと「危なかったな、坊や」と頭を優しく撫でてきた。
恐る恐る見ると、その人は若く優しそうな男の人だった。