my sweet heart
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「かんぱーい!」
景気よく響いた乾杯の音頭を合図に、各々が勢いよくグラスの中身を減らしていく。団体の中心近くに座らされたハルも冷えたお茶割を美味そうに飲む。その表情はここ数カ月に及んだ緊張やプレッシャーから解き放たれたかのように晴れやかであった。
端午の節句を終え、街に初夏の緑が萌え始めた頃に突如舞い込んだ仕事は、ハルを歓喜と驚愕に陥れた。自分がこの世に生を受ける前から活動し、いざ生まれた頃にはミリオンヒットを何曲も生み出し、今もなお衰えず音楽の最前線を走り続けるモンスターバンド。彼らが主催するツーマンツアーのうち、東京公演のゲストとしてハルの所属するユニット、こんばらりあにお呼びがかかったのだ。
ハル自身も彼らのファンである。青春時代を幾度も助けられ、彩りを添えてくれた存在であり、何よりメンバーの一人は学生時代同じ楽器を演奏する自分に衝撃を与え、今のエンターテイナーとしてのハルの大きな基盤を作った存在でもあった。そんな彼らとのステージは緊張とプレッシャーの連続であったが、終わった今となってはそれらから解放された安堵よりも、やはり彼女の心を占めるのは楽しかった、人生にまた一つよき思い出が増えた喜びばかりである。
「ハルちゃん美味そうに飲むねぇ! もしかしてお酒好き?」
「お酒も好きですけど、どちらかというと宴会の席が好きです! みんな楽しそうだし」
いいよねぇ、俺も好き。と人懐こく笑う彼は、バンドでドラムを担当するJEN——こと、鈴木 英哉であり、先述のエンターテイナーとしてのハルの大きな基盤を作った存在その人である。
相方や、今回のツーマンライブを機にハルが彼に憧れを抱いてきたことを知ったメンバーがここぞとばかりに彼の隣にハルを配してくれたのだった。
「ハル 、MCで随分愛語ってたよねぇ」
「やめてぇ〜? 今になって喋りすぎたなって後悔してんだから!」
「ええ〜そうなの? 嬉しかったけどなあ。ねえ?」
鈴木の言葉に、同じくメンバーである田原と中川はにこやかに頷き、桜井は自身のトレードマークとも言える笑顔で彼をからかうように指をさした。
「一番嬉しかったのはJENでしょ? 袖でずっとにやけてたもんね」
「うんもう表情筋痛くなるくらいニヤニヤしてた」
「それもそれで恥ずかしいです……」
袖でこんばらりあのステージを観ていた時の再現をするように少々変な顔で笑う鈴木を見てハルの頬が恥ずかしそうに染まる。各々が言うとおり今日のライブのMCはハルがほとんど彼ら——少々多めに鈴木——の魅力について語り、それに対してナツが相槌をうつというものだった。いくら対バン相手で主催の話題といえど、出演者なのにファンの立場になり過ぎたと自省していたハルはため息をつく。
「途中から話しすぎたのに気づいて尻すぼみになってたよね」
「うん、そろそろ話すのやめないと押すなと思って」
大先輩とのツーマンライブで自分たちの時間を長引かせるわけにはいかない、と理性がブレーキをかけた瞬間を思い出しながらナツが喉を鳴らして笑う。その時間管理能力がハルの生真面目たる所以だ。
鈴木はハルとナツのやり取りを聞き少々身を乗り出した。
「じゃあほんとはまだ話せたってこと?」
「あっはい、正直まだ全然話し足りないくらいで」
「ほんとに⁉︎ よし、じゃあJENが聞いちゃおうじゃない」
「JEN聞きたいだけでしょ」
「バレた?」
桜井の的確な指摘に鈴木はおどけながら笑う。とはいえハルの話を聞きたいのは本音である。同じアーティストであり、本業でないものの同じ楽器を演奏できる人物であり、何より20代のうら若い女の子に自分たちについて、ましてや自分について語ってもらうなど中々ない機会だ。今日くらいそれを堪能したってばちは当たらないだろう。
桜井に指摘されてもなお耳を傾ける姿勢を崩さない鈴木の態度から彼の本音を気取ったハルは、おずおずとMCの続きを話し始めた。鈴木のプレイスタイルやサウンドに対する賞賛や憧れ、それを学生時代にどう自分のプレイスタイルに反映していったか、今の自分にどう落とし込もうとしているかをMCの時より詳細に、感情的に話す。その内容の濃さに時間は徐々に経過していき、鈴木の前に置かれたビールが日本酒に変わって少し経った頃、桜井と田原が彼の様子を見て立ち上がった。
「ハルちゃん、そろそろ座る場所代わろっか」
「え?」
「あの……JENもう、結構酔っ払ってるから、その……」
隣に座る鈴木を見ると、先ほどと変わらず相槌をうっていたが、その目は水気が増し、目尻が少し下がっていた。彼の酔った時の癖をファンであるハルは知らないはずがなく、桜井の言葉に合点がいったように頷き席を立った。
「そうですね。ナツも、お向かい側行かせてもらおっか」
「え、いいけどなんで?」
「あのね、」
ハルがナツにこっそり耳打ちする。JENさんはね、酔うとキス魔になるのよ。その言葉を聞いたナツは目を剥きながらハルと鈴木を交互に見た。
「まあ〜、一発ぶちゅーっともらいたい気持ちはありますが!」
「ハルちゃんほんとに言ってる⁉︎」
「JENさんのちゅーってご利益ありそうだなって」
「JENのキスにご利益なんかないよ⁉︎」
周りから総ツッコミをくらい笑うハルと一緒に向かい側へ移動しながら鈴木の方を見る。彼は移動してきた桜井にしなだれかかるように抱きつきながら「かず〜来たの〜? ハルちゃんは〜?」とさっそく頬に唇を寄せようとして、「ぎゃあやめろ、ハルちゃんはお前がそうなるから移動してもらいました!」と突き返されていた。アルコールが入っても顔色は変わらぬハルがそれを見て楽しそうに笑う。彼女もなかなかでき上がり始めているらしい。あんなことを言っておきながらも大先輩が自分とのスキャンダルを疑われるような真似を未然に防ぐ理性はさすがに残っているようだが、鈴木の癖を忘れてあのまま隣に座り続けていたら危なかったかもしれない。ナツは桜井と田原の英断に感謝し、ほっと胸を撫で下ろした。
景気よく響いた乾杯の音頭を合図に、各々が勢いよくグラスの中身を減らしていく。団体の中心近くに座らされたハルも冷えたお茶割を美味そうに飲む。その表情はここ数カ月に及んだ緊張やプレッシャーから解き放たれたかのように晴れやかであった。
端午の節句を終え、街に初夏の緑が萌え始めた頃に突如舞い込んだ仕事は、ハルを歓喜と驚愕に陥れた。自分がこの世に生を受ける前から活動し、いざ生まれた頃にはミリオンヒットを何曲も生み出し、今もなお衰えず音楽の最前線を走り続けるモンスターバンド。彼らが主催するツーマンツアーのうち、東京公演のゲストとしてハルの所属するユニット、こんばらりあにお呼びがかかったのだ。
ハル自身も彼らのファンである。青春時代を幾度も助けられ、彩りを添えてくれた存在であり、何よりメンバーの一人は学生時代同じ楽器を演奏する自分に衝撃を与え、今のエンターテイナーとしてのハルの大きな基盤を作った存在でもあった。そんな彼らとのステージは緊張とプレッシャーの連続であったが、終わった今となってはそれらから解放された安堵よりも、やはり彼女の心を占めるのは楽しかった、人生にまた一つよき思い出が増えた喜びばかりである。
「ハルちゃん美味そうに飲むねぇ! もしかしてお酒好き?」
「お酒も好きですけど、どちらかというと宴会の席が好きです! みんな楽しそうだし」
いいよねぇ、俺も好き。と人懐こく笑う彼は、バンドでドラムを担当するJEN——こと、鈴木 英哉であり、先述のエンターテイナーとしてのハルの大きな基盤を作った存在その人である。
相方や、今回のツーマンライブを機にハルが彼に憧れを抱いてきたことを知ったメンバーがここぞとばかりに彼の隣にハルを配してくれたのだった。
「ハル 、MCで随分愛語ってたよねぇ」
「やめてぇ〜? 今になって喋りすぎたなって後悔してんだから!」
「ええ〜そうなの? 嬉しかったけどなあ。ねえ?」
鈴木の言葉に、同じくメンバーである田原と中川はにこやかに頷き、桜井は自身のトレードマークとも言える笑顔で彼をからかうように指をさした。
「一番嬉しかったのはJENでしょ? 袖でずっとにやけてたもんね」
「うんもう表情筋痛くなるくらいニヤニヤしてた」
「それもそれで恥ずかしいです……」
袖でこんばらりあのステージを観ていた時の再現をするように少々変な顔で笑う鈴木を見てハルの頬が恥ずかしそうに染まる。各々が言うとおり今日のライブのMCはハルがほとんど彼ら——少々多めに鈴木——の魅力について語り、それに対してナツが相槌をうつというものだった。いくら対バン相手で主催の話題といえど、出演者なのにファンの立場になり過ぎたと自省していたハルはため息をつく。
「途中から話しすぎたのに気づいて尻すぼみになってたよね」
「うん、そろそろ話すのやめないと押すなと思って」
大先輩とのツーマンライブで自分たちの時間を長引かせるわけにはいかない、と理性がブレーキをかけた瞬間を思い出しながらナツが喉を鳴らして笑う。その時間管理能力がハルの生真面目たる所以だ。
鈴木はハルとナツのやり取りを聞き少々身を乗り出した。
「じゃあほんとはまだ話せたってこと?」
「あっはい、正直まだ全然話し足りないくらいで」
「ほんとに⁉︎ よし、じゃあJENが聞いちゃおうじゃない」
「JEN聞きたいだけでしょ」
「バレた?」
桜井の的確な指摘に鈴木はおどけながら笑う。とはいえハルの話を聞きたいのは本音である。同じアーティストであり、本業でないものの同じ楽器を演奏できる人物であり、何より20代のうら若い女の子に自分たちについて、ましてや自分について語ってもらうなど中々ない機会だ。今日くらいそれを堪能したってばちは当たらないだろう。
桜井に指摘されてもなお耳を傾ける姿勢を崩さない鈴木の態度から彼の本音を気取ったハルは、おずおずとMCの続きを話し始めた。鈴木のプレイスタイルやサウンドに対する賞賛や憧れ、それを学生時代にどう自分のプレイスタイルに反映していったか、今の自分にどう落とし込もうとしているかをMCの時より詳細に、感情的に話す。その内容の濃さに時間は徐々に経過していき、鈴木の前に置かれたビールが日本酒に変わって少し経った頃、桜井と田原が彼の様子を見て立ち上がった。
「ハルちゃん、そろそろ座る場所代わろっか」
「え?」
「あの……JENもう、結構酔っ払ってるから、その……」
隣に座る鈴木を見ると、先ほどと変わらず相槌をうっていたが、その目は水気が増し、目尻が少し下がっていた。彼の酔った時の癖をファンであるハルは知らないはずがなく、桜井の言葉に合点がいったように頷き席を立った。
「そうですね。ナツも、お向かい側行かせてもらおっか」
「え、いいけどなんで?」
「あのね、」
ハルがナツにこっそり耳打ちする。JENさんはね、酔うとキス魔になるのよ。その言葉を聞いたナツは目を剥きながらハルと鈴木を交互に見た。
「まあ〜、一発ぶちゅーっともらいたい気持ちはありますが!」
「ハルちゃんほんとに言ってる⁉︎」
「JENさんのちゅーってご利益ありそうだなって」
「JENのキスにご利益なんかないよ⁉︎」
周りから総ツッコミをくらい笑うハルと一緒に向かい側へ移動しながら鈴木の方を見る。彼は移動してきた桜井にしなだれかかるように抱きつきながら「かず〜来たの〜? ハルちゃんは〜?」とさっそく頬に唇を寄せようとして、「ぎゃあやめろ、ハルちゃんはお前がそうなるから移動してもらいました!」と突き返されていた。アルコールが入っても顔色は変わらぬハルがそれを見て楽しそうに笑う。彼女もなかなかでき上がり始めているらしい。あんなことを言っておきながらも大先輩が自分とのスキャンダルを疑われるような真似を未然に防ぐ理性はさすがに残っているようだが、鈴木の癖を忘れてあのまま隣に座り続けていたら危なかったかもしれない。ナツは桜井と田原の英断に感謝し、ほっと胸を撫で下ろした。
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