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夜ふかしを楽しんでいたハルは、ふと思い立って壁掛け時計を見た。時刻を視認した瞬間、その表情が僅かに引き締まり、一人きりのはずのリビングに緊迫した空気が張り詰める。そろそろ頃合か。居心地のよいソファーから降りそそくさとリビングを退散したところで玄関の扉が解錠される音が鳴り、ハルは慌てて自室に入って間一髪扉が開く前に鍵をかけた。
ハルが自室に鍵をかけてすぐ、玄関の扉が開き、およそこの時分には相応しくない音量の「ただいまあ」がこだまする。いつもはすぐに玄関まで駆けてくるはずの自分が来ないことに違和感を抱いているのか廊下とリビングを行ったり来たりする足音と自分を呼ぶ声がして、ハルはドアの前で声を押し殺しながら笑った。
「ハルちゃぁん? ハルちゃ〜ん」
「ハルちゃんどこぉ〜」
「ハルちゃあ〜ん」
大声で名前を連呼しながらリビングから順々にドアを開けて自分を探している鈴木。この調子ではおそらく浴室や御手洗も開けているのだろう。ハルが堪えきれず「ふふふ」と声を漏らしていると、ついに自室のドアノブが動いた。鍵がかかっているため当然下がらない。だが、それで中にハルがいることを確信したのか、鈴木は無理やり開けんとばかりにドアノブを激しく動かし始めた。ガチャガチャとけたたましい音が深夜27時半過ぎの家中に響き渡る。
「ちょっと、JENさん! ドア壊れる! 壊れるから!」
「ハルちゃ〜ん! いるじゃぁん! なぁんで開けてくんないのォ〜⁉︎」
「酔っ払ってるからやだ!」
「酔っ払ってなぁいよ〜!」
なおもドアノブを揺さぶり続ける鈴木にハルが猛抗議する。開けるわけにはいかないのだ。以前酔って帰ってきた鈴木をいつもどおり出迎えた時、それはもう散々な目に遭った。靴を脱ぐ前にキスの雨を降らされ、藻掻こうが暴れようが抱きしめ——いやあれはもはや締め上げ——られまったく逃げられず、仕舞いには靴も脱がずにそのまま玄関で寝落ちされ、半ば引きずりながらベッドに連れていったこともあるし、帰ってくる前に就寝したらしたでベッドに侵入してきて、明日は朝早いんだと言ってもお構いなしで結局一睡もできないまま腰痛を抱えて仕事へ向かうこともあった。酔っている様を眺めるのは楽しいが、絡まれるととにかく厄介なのである。
しばらくドアノブの音とハルの名前を繰り返していた鈴木であったが、ふいにそれがすべて止み静かになる。どうしたのだろうか。構ってもらえず拗ねてしまったのか、まさかその場で寝落ちてしまったのか。
「隙あり!」
「ブエー!」
おそるおそるドアを開けた瞬間、大きな体躯に飛びつかれハルは鈴木とともに倒れ込んだ。やられた。しかも背中をしたたかに打ってもおかしくないほどの衝撃だったのに、鈴木が腕を回して庇ってくれたおかげでそこまで痛みはない。酔っ払っていて見境がなくなっているはずなのに抜け目のない気遣いに逆に腹が立つ。気を割いて欲しいのはそこではない。
「ぎゃあ! JENさん離してよぅ!」
「やぁだ〜。ふふ、ハルちゃんただいま」
「……おかえり」
やっと帰宅した鈴木を迎える挨拶をしたところで、ハルをキスの雨が襲う。のたうち回って抵抗したところで鈴木は退かないし意に介していない様子である。これはまた、このままここで寝落ちするか朝まで寝かせてもらえないだろう。だがまあいい。幸いベッドはすぐ横にある。どちらにせよ自分のベッドに鈴木を押し込んでやればいいだけだ。ああ厄介厄介と思いながらも、ハルは酒に呑まれた鈴木の普段より割増な愛情表現は嫌いになれないのであった。
ハルが自室に鍵をかけてすぐ、玄関の扉が開き、およそこの時分には相応しくない音量の「ただいまあ」がこだまする。いつもはすぐに玄関まで駆けてくるはずの自分が来ないことに違和感を抱いているのか廊下とリビングを行ったり来たりする足音と自分を呼ぶ声がして、ハルはドアの前で声を押し殺しながら笑った。
「ハルちゃぁん? ハルちゃ〜ん」
「ハルちゃんどこぉ〜」
「ハルちゃあ〜ん」
大声で名前を連呼しながらリビングから順々にドアを開けて自分を探している鈴木。この調子ではおそらく浴室や御手洗も開けているのだろう。ハルが堪えきれず「ふふふ」と声を漏らしていると、ついに自室のドアノブが動いた。鍵がかかっているため当然下がらない。だが、それで中にハルがいることを確信したのか、鈴木は無理やり開けんとばかりにドアノブを激しく動かし始めた。ガチャガチャとけたたましい音が深夜27時半過ぎの家中に響き渡る。
「ちょっと、JENさん! ドア壊れる! 壊れるから!」
「ハルちゃ〜ん! いるじゃぁん! なぁんで開けてくんないのォ〜⁉︎」
「酔っ払ってるからやだ!」
「酔っ払ってなぁいよ〜!」
なおもドアノブを揺さぶり続ける鈴木にハルが猛抗議する。開けるわけにはいかないのだ。以前酔って帰ってきた鈴木をいつもどおり出迎えた時、それはもう散々な目に遭った。靴を脱ぐ前にキスの雨を降らされ、藻掻こうが暴れようが抱きしめ——いやあれはもはや締め上げ——られまったく逃げられず、仕舞いには靴も脱がずにそのまま玄関で寝落ちされ、半ば引きずりながらベッドに連れていったこともあるし、帰ってくる前に就寝したらしたでベッドに侵入してきて、明日は朝早いんだと言ってもお構いなしで結局一睡もできないまま腰痛を抱えて仕事へ向かうこともあった。酔っている様を眺めるのは楽しいが、絡まれるととにかく厄介なのである。
しばらくドアノブの音とハルの名前を繰り返していた鈴木であったが、ふいにそれがすべて止み静かになる。どうしたのだろうか。構ってもらえず拗ねてしまったのか、まさかその場で寝落ちてしまったのか。
「隙あり!」
「ブエー!」
おそるおそるドアを開けた瞬間、大きな体躯に飛びつかれハルは鈴木とともに倒れ込んだ。やられた。しかも背中をしたたかに打ってもおかしくないほどの衝撃だったのに、鈴木が腕を回して庇ってくれたおかげでそこまで痛みはない。酔っ払っていて見境がなくなっているはずなのに抜け目のない気遣いに逆に腹が立つ。気を割いて欲しいのはそこではない。
「ぎゃあ! JENさん離してよぅ!」
「やぁだ〜。ふふ、ハルちゃんただいま」
「……おかえり」
やっと帰宅した鈴木を迎える挨拶をしたところで、ハルをキスの雨が襲う。のたうち回って抵抗したところで鈴木は退かないし意に介していない様子である。これはまた、このままここで寝落ちするか朝まで寝かせてもらえないだろう。だがまあいい。幸いベッドはすぐ横にある。どちらにせよ自分のベッドに鈴木を押し込んでやればいいだけだ。ああ厄介厄介と思いながらも、ハルは酒に呑まれた鈴木の普段より割増な愛情表現は嫌いになれないのであった。
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