my sweet heart
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『で、あれからJENさんとはどうなん?』
「……打ち合わせの開口一番がそれってどうなん?」
議題とはまったく異なる疑問にハルは眉を歪めながらペンを置く。鈴木がハルに想いを伝えて2カ月ほど経過した頃。ハルとナツは電話を繋ぎ、作業途中の楽曲についての打ち合わせを始めようとしていた。
『いやだって、最近全然話聞かないからさあ』
「先週お会いしたわよ、火曜日に」
『言えや! で、どうなん』
「どうとは」
『お付き合いするかどうかよ』
やっぱそこか……とハルは天を仰ぐ。正直に言うと、自分も鈴木のことが好きだ。だがやはり差が気になる。色恋となると石橋を叩いて渡るどころか叩き壊して結局渡れなくなってしまうことの多い性分だ。自分が決断するまでに残された時間ももうあまりないであろうことも十分わかっている。それでも、あと一歩を踏み出す勇気がどうしても出ない。
「……まだ、考え中かな」
『まだ? JENさんいいと思うんだけどな〜。ハルだって好きなんでしょ?』
「好きは、好きだけど……でもあれからまだ返事訊かれてないし」
『いやそこは自分から言わなきゃでしょ』
「やっぱ? そうだよなあ……」
確かにナツの言うとおり、鈴木はおそらく自分を急かさないようにあの日から一度も返事を訊いてこないのだ。ことあるごとに訊かれても困るものではあるが、訊かれなかったら訊かれないでいつ返事を伝えたらいいのかわからない。いやそもそも返事は決まっていないのだ。伝えようもない。
ナツが何も言ってこないのをいいことに、それぞれ答えを出した後の自分を想像する。
まず素直に自分も鈴木が好きだと伝えた場合。自分に向けられる周りの目ばかり気にしている自分が、鈴木のことを大事に愛することができるのだろうか。やがてすれ違いが生じて、うまくいかず結局破綻してしまうのではないだろうか。そうなればアーティスト同士として付き合いを続けることも自分には困難だろう。後悔や未練に苛まれる姿まで容易に想像できる。
そうなるくらいならとお断りした場合。嘘偽りなく理由を述べたところで、断ったことが後悔や未練として一生心に残り続けることは間違いない。鈴木と顔を合わせるたび、いやテレビ越しに見ただけでも都度思い出し、結局前者と同じ結末になるだろう。どちらにしてもだ。進むも退くも地獄。八方塞がり。四面楚歌。もはや考えることも嫌になり頭を抱えた。
『やばい、急にすべてが面倒くさくなってきた』
「またあんたはすぐそういうこと言う〜!」
『え〜んだってぇ〜』
「だめ! ちゃんと向き合いなさい」
『わかってるよ〜……』
恋愛にのみ発揮されるハルのリセット願望を嗜めつつ、ナツもどうしたもんかな、と天井を仰ぐ。ハルはきっと、鈴木の想いを受け入れても拒絶しても自分に待っている結末は碌 なものではないと考えているのだろう。どうも彼女は恋愛になると途端に悲観的後ろ向き思考になってしまうきらいがある。本来ならば今の「お互いに想い合ってはいるが、付き合っていない関係」は恋愛において一番楽しい時期であるはずなのに、彼女にはそれを楽しむ機能が備わっていないのだ。
鈴木は今のこの状況をどう思っているのだろうか。おそらく楽しんではいるのだろうが、そこは年の功、ハルの不安もすべて悟っていることだろう。そこをどう解いていくか四苦八苦しているに違いない。彼も一苦労だな、と少し同情しつつも、どうにかしてくれるのではないかと期待している。何せ人生の大先輩なのだから。
『さて、打ち合わせ始めますか』
「あんたから振ってきたくせに」
『でも打ち合わせもちゃんとやらなきゃでしょ?』
「それはそう」
ハルは鈴木から仕事に思考を切り替え、今度こそペンを握り直した。互いの進捗状況、曲のイメージを擦り合わせながらまだできていない部分の展望を構築していく。話が一区切りつく頃には時計の針が2周進んでいた。
『——まあ、こんな感じで進めていきましょうか』
「承知〜。締切までに間に合いそう?」
『そこはなんとかする……できれば』
「いけるって。いつもギリギリになりつつなんだかんだ間に合ってるんだから」
『だね。……あ、そうそう。ハル』
「ん?」
『来週さあ、ピンで仕事入った』
「お、承知! お休みちょっと先延ばしだね。大丈夫?」
ハルの問いにナツは心配ない、と言うように頷いた。
『全然だいじょぶよ〜。ヤバかったら言うけど』
「そうして。なんの仕事? 言えないやつだったら大丈夫だけど」
ナツに来たピンでの仕事とは、とある音楽番組へのゲスト出演だった。ナツの好きなアーティストの特集で、かねてよりラジオでもよく話題にあがり、その愛を余すことなく語ってきた星川にお呼びがかかったのだそうだ。相方にとってとても楽しそうな仕事に、ハルも嬉しいという反応を見せた。
「いいねえ! あんま喋りすぎないように気をつけてね、好きなものの話になると我を忘れるのは私もナツも同じなんだから」
『それな〜。善処します』
「でも、何より楽しんでおいでね」
『ありがと、そうする。じゃあまた明日』
「うん。おやすみ〜」
『おやすみ〜』
ナツとの通話を終えたところで、液晶画面に通知が表示される。まさか噂をすればなんとやら、と覗き込むと、メッセージの送り主は鈴木ではなく、先日出演した番組のプロデューサーだった。内容は食事のお誘いで、日取はちょうど話していたナツの一人仕事が入った日である。自分はとくに予定はないので快諾した。こういう誘いには積極的に乗った方が次の仕事に繋がる可能性が広がる。仕事としての会食は特に苦手なのだが、ナツが人見知りな分外面のいい自分が担うべき役割なのだ。翌日にはナツによい報告ができるように頑張らねば。とハルは決意をするように携帯電話を閉じた。
「……打ち合わせの開口一番がそれってどうなん?」
議題とはまったく異なる疑問にハルは眉を歪めながらペンを置く。鈴木がハルに想いを伝えて2カ月ほど経過した頃。ハルとナツは電話を繋ぎ、作業途中の楽曲についての打ち合わせを始めようとしていた。
『いやだって、最近全然話聞かないからさあ』
「先週お会いしたわよ、火曜日に」
『言えや! で、どうなん』
「どうとは」
『お付き合いするかどうかよ』
やっぱそこか……とハルは天を仰ぐ。正直に言うと、自分も鈴木のことが好きだ。だがやはり差が気になる。色恋となると石橋を叩いて渡るどころか叩き壊して結局渡れなくなってしまうことの多い性分だ。自分が決断するまでに残された時間ももうあまりないであろうことも十分わかっている。それでも、あと一歩を踏み出す勇気がどうしても出ない。
「……まだ、考え中かな」
『まだ? JENさんいいと思うんだけどな〜。ハルだって好きなんでしょ?』
「好きは、好きだけど……でもあれからまだ返事訊かれてないし」
『いやそこは自分から言わなきゃでしょ』
「やっぱ? そうだよなあ……」
確かにナツの言うとおり、鈴木はおそらく自分を急かさないようにあの日から一度も返事を訊いてこないのだ。ことあるごとに訊かれても困るものではあるが、訊かれなかったら訊かれないでいつ返事を伝えたらいいのかわからない。いやそもそも返事は決まっていないのだ。伝えようもない。
ナツが何も言ってこないのをいいことに、それぞれ答えを出した後の自分を想像する。
まず素直に自分も鈴木が好きだと伝えた場合。自分に向けられる周りの目ばかり気にしている自分が、鈴木のことを大事に愛することができるのだろうか。やがてすれ違いが生じて、うまくいかず結局破綻してしまうのではないだろうか。そうなればアーティスト同士として付き合いを続けることも自分には困難だろう。後悔や未練に苛まれる姿まで容易に想像できる。
そうなるくらいならとお断りした場合。嘘偽りなく理由を述べたところで、断ったことが後悔や未練として一生心に残り続けることは間違いない。鈴木と顔を合わせるたび、いやテレビ越しに見ただけでも都度思い出し、結局前者と同じ結末になるだろう。どちらにしてもだ。進むも退くも地獄。八方塞がり。四面楚歌。もはや考えることも嫌になり頭を抱えた。
『やばい、急にすべてが面倒くさくなってきた』
「またあんたはすぐそういうこと言う〜!」
『え〜んだってぇ〜』
「だめ! ちゃんと向き合いなさい」
『わかってるよ〜……』
恋愛にのみ発揮されるハルのリセット願望を嗜めつつ、ナツもどうしたもんかな、と天井を仰ぐ。ハルはきっと、鈴木の想いを受け入れても拒絶しても自分に待っている結末は
鈴木は今のこの状況をどう思っているのだろうか。おそらく楽しんではいるのだろうが、そこは年の功、ハルの不安もすべて悟っていることだろう。そこをどう解いていくか四苦八苦しているに違いない。彼も一苦労だな、と少し同情しつつも、どうにかしてくれるのではないかと期待している。何せ人生の大先輩なのだから。
『さて、打ち合わせ始めますか』
「あんたから振ってきたくせに」
『でも打ち合わせもちゃんとやらなきゃでしょ?』
「それはそう」
ハルは鈴木から仕事に思考を切り替え、今度こそペンを握り直した。互いの進捗状況、曲のイメージを擦り合わせながらまだできていない部分の展望を構築していく。話が一区切りつく頃には時計の針が2周進んでいた。
『——まあ、こんな感じで進めていきましょうか』
「承知〜。締切までに間に合いそう?」
『そこはなんとかする……できれば』
「いけるって。いつもギリギリになりつつなんだかんだ間に合ってるんだから」
『だね。……あ、そうそう。ハル』
「ん?」
『来週さあ、ピンで仕事入った』
「お、承知! お休みちょっと先延ばしだね。大丈夫?」
ハルの問いにナツは心配ない、と言うように頷いた。
『全然だいじょぶよ〜。ヤバかったら言うけど』
「そうして。なんの仕事? 言えないやつだったら大丈夫だけど」
ナツに来たピンでの仕事とは、とある音楽番組へのゲスト出演だった。ナツの好きなアーティストの特集で、かねてよりラジオでもよく話題にあがり、その愛を余すことなく語ってきた星川にお呼びがかかったのだそうだ。相方にとってとても楽しそうな仕事に、ハルも嬉しいという反応を見せた。
「いいねえ! あんま喋りすぎないように気をつけてね、好きなものの話になると我を忘れるのは私もナツも同じなんだから」
『それな〜。善処します』
「でも、何より楽しんでおいでね」
『ありがと、そうする。じゃあまた明日』
「うん。おやすみ〜」
『おやすみ〜』
ナツとの通話を終えたところで、液晶画面に通知が表示される。まさか噂をすればなんとやら、と覗き込むと、メッセージの送り主は鈴木ではなく、先日出演した番組のプロデューサーだった。内容は食事のお誘いで、日取はちょうど話していたナツの一人仕事が入った日である。自分はとくに予定はないので快諾した。こういう誘いには積極的に乗った方が次の仕事に繋がる可能性が広がる。仕事としての会食は特に苦手なのだが、ナツが人見知りな分外面のいい自分が担うべき役割なのだ。翌日にはナツによい報告ができるように頑張らねば。とハルは決意をするように携帯電話を閉じた。