捨てられる前に
「博士、その手を下げてください」
「っ!!」
風のように現れたトルソにビクリと体を硬らせ言葉を
飲み込んだハワード。
サムは突然のこともあり状況が把握しきれなかったが、
目の前に立つロボットが自分を庇ってくれたのだけは理解した。
「博士、彼は一般人です。
我々が手をあげることは許可されていません」
「っ生意気な!」
振り上げた手は行き場をなくし、ただ手を下ろすわけには
プライドが高すぎたハワードは上げたその手に持っていた
ボードで思いっきりトルソの頭を殴りつけた。
サムは目の前の光景に思わず悲鳴を上げた。
「いくらロボットだからって殴ることないだろっ!!?」
「お前のような馬鹿に何が判る!」
トルソは殴られたことを然程気にしなかったが、
サムは理不尽な暴力に声を荒げた。
しかしハワードは更に機嫌が悪くなったようで
左腕をサムに伸ばす。
「博士」
その手はトルソが掴み止めたことでサムに届くことはなかった。
ハワードは大きな舌打をして、立ち去った。
「え、えっと……あの……大丈夫?」
「ええ。ご心配には及びません。ご挨拶遅れました、
私はトルソと申します。はじめまして」
「あ、あぁーはじめまして。……サミュエル・ウィトウィッキーです。
気軽にサムって呼んで」
「先ほどはハワード博士が失礼しました」
「いやいやいや、気にしないで。それより殴られた所は大丈夫?
なんか、こう変な感じとか」
「大丈夫ですよ。何の支障もありません。
それよりもレノックス少佐がお呼びです」
「え?あ、ああ!そっか、そうだね。じゃなくてそうですね。
ええっと……」
オドオドした青年に笑みをこぼしながら、
トルソは出来る限り優しい声でサムに話しかける。
「ご案内しますから安心してください」
「あ、ありがとうございます」
「それに私に敬語は不要ですよ」
「そ、そう?」
「はい。私はアンドロイドですから」
「で、でも、しっかり主張はすべきだよ」
サムはずうっとさっきの事を気にしていた。
本当にただの物のように理不尽な怒りも甘んじでうけるトルソを
放っておくことはどうしても気が引けたのだ。
(だって、君はこんなにも気を使ってくれる優しい人? なのに)
口には出せなかったが、目の前の存在はもはや人とさえも思えた彼は、
少し震えるような声でトルソに語りかける。
「お節介かもしれないけど、目の前で人が叩かれるのは
気持ちいい物じゃないよ」
「……そうですね、ありがとうございます」
自分はアンドロイドだと訂正しようとしたが、
それは彼の気持ちを無下にする。と考えたトルソは素直に
感謝を述べ、サムをガレージへと案内した。
移動中しきりにサムはハワードについてトルソに念を押したが
彼の態度に対して関心がないのか、あまり効果が見られず
サムはそれに微かな不満を抱いた。
