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代償を払った先の未来


朝、アラームが鳴る前に目覚め、パンを食べて
準備を済ませて家の外に出る。

相変わらず視線は冷たいものだったが、もう気にしない。

「早いな」
「少し早く目が覚めた」

一緒に登校しながら会話を楽しみ、校門前。

「おはよう、ロア、ランドール」
「おはようございますマスター」
「おはようございます、先生」

マスターに手を振って分かれ、そのままランディとも分かれる。

「おはよロア!」
「はよ、アソーカ」
「今日もランディと?」
「そうだ。だからなんでニヤけるんだ」
「別に~?」

一緒に教室に向かいながら喋っていると教室前にモールが佇んでいた。
アソーカは『げ』と嫌そうな顔をする。

「はようございます、モール先生」
「……もう良いのか」
「はい。……なんか新鮮すね、”先生”って」

彼の驚いた表情を横目にアソーカを連れて教室に入る。

「意地悪じゃない?」
「どこが」

一緒にクスクス笑いながら席につく。
私の変化に他の生徒も少なからず気づいているようだ。

そして、またいつもの様に授業が始まる。

ノートを取りながら、アンドゥーリ先生の授業に耳を傾ける。
いつもより、時間の経つのが早い気がする。

気がつけば2限も終わりを迎え、昼食の時間だ。

アソーカと食堂まで一緒に向かい、彼女と分かれて
ケノービ先生を探す。

「ケノービ先生」
「ん? ああ、えーっと」
「……ロアーズです。この間は、すみませんでした」
「そうか、ロア、と呼んでも?」
「どうぞ」
「ありがとう。この間のことは気にするな。
もう体調は良いのか?」
「はい」

私は料理を取りながら彼と会話を進める。

「今日はこの間の埋め合わせと言ったところか?」
「……まあ」
「ではお言葉に甘えて」

2人用のテーブルに料理を置き、向かい合わせで彼の様子を伺う。
相変わらず優雅な男だ。

「学院は楽しいか?」
「……まあまあ、です。きっとこれからでしょう」
「そうだな。まだ学ぶことは多くある。
授業はどうだ?」
「それほどでもないです」
「つまらないか? 知ってる内容は」
「はい。……!」

返事をしてはっと顔をあげる。
してやったり、と口角をあげるケノービ。

「いつからだ?」
「……数年前っす」
「何故仲間を突き放すんだ」
「…………」

このパターンか。
話すのは少し気が引けて口を閉じた時。

「それについては私から話そう」
「マスター……」
「……そのほうが良いのなら、そうしよう」

ケノービを連れてマスターは離れた席の方へ向かった。
空いた席に代わりに座ったのはノートラン……
ではなく、フィストー、先生。

「急にすまないな」
「……いえ」

気まずい。

「プロから話は聞いた」
「……そうっすか」
「放課後、時間を貰えないか」
「…………わかりました」

彼の目から視線を逸らし、食事を胃に詰め込み席を立つ。

「すみません、先に失礼します」

申し訳程度の謝罪をして逃げるように食道を去る。
『生徒指導室で待ってる』と言う声が聞こえなければよかった。
まだ、素直に話すには勇気が足りない。


逃げてしまいたい。
それは紛れもない本音で。
向き合わなければならないと思うほどに時間は過ぎていく。
あっという間に授業が終わって、夕食はまともに喉を通らなかった。

ランディには先に帰ってくれと伝え、生徒指導室の前に立つ。
ノックして返事が聞こえた後、中に入る。

「座ってくれ」

おずおずと椅子に腰掛ける。

「今は、気軽に接してくれ」
「……」

無茶を言うな。
確かに、昨日受け入れることはできたが、
まだ心のどこかでロアーズ≠私と考えていて、それが頭から離れない。
気軽に接する余裕など、ない。

向けられる好意に背徳感しかない。

「……怖いか?」
「…………いえ」

恐怖、とは違う。
戸惑いに近い。

「こっちを見てくれ、ロア」
「……っ」

私に何を求めているんだ、アンタは。
指先を手で包み、優しい目を向ける。

「私は、どんな君でも受け入れる」

その言葉に少し瞳が揺れる。

「大丈夫だ」
「……あんたは、何を求めてるんだ……?
昔のように接して欲しいのか?
昔の関係を、求めているのか?
昔の私を」
「ロア、違う、私は」
「私は私だ、私は偶像じゃ」

目の前に、奴の顔が広がっている。
ちゅ、と音を立てて顔が離れていく。
何があった。
唇に柔らかい感触が今も残っている。

キス、されたのか。
そう理解すると自然と心臓が破裂しそうなほど跳ねる。
顔が熱い。

「愛している」
「……」

待て。
飛躍しすぎだろう。
そう思っていれば、もう一度口付けをされた。

「……っ、すまない」

はっとしたように彼は頬に添えた手を退かし身を強く引いた。
この男の想いは本物だ。
嘘を言っていない。

堪らずしてしまった、とでも言うのか。

ああ、くそ。
どう逆らっても、私はロアーズなんだと思い知らされた。
呼ばれるたびに喜びを感じ、高鳴った胸。
認めるしかない。

コンコン、とノックが聞こえ奴が返事をする。

「もう下校しろ」

モール先生だ。

「はい、わかりました」

素直に私は返事をして生徒指導室を出る。

「……大丈夫か」
「……まあ」

彼の少し冷たい手のひらがおでこに当てられる。

「熱いな。一度医務室に向かうぞ」
「……はい」

私はモール先生と共に医務室へ入る。
棚から検温機を取り出し、私の額に向ける。

ピピッと音がして彼はふむと唸る。

「どうしてこんな高熱に気づかない」
「そんな、馬鹿な」

彼の持つ検温機を覗き込むとそこには103.5°Fと表記されている。
高熱じゃないか。

「座って待っていろ」

ソファに座らせられ、彼の動きを目で追う。
確かに少しぼーっとする。

「ほら」

額に冷却ジェルシートを貼られる。

「ありがとうございます」
「自分の体調管理ぐらい怠るな」
「ごめん」

「横になれ」

彼は甲斐甲斐しく私を横にさせ、そばに椅子を引き寄せて腰掛ける。

「ありがと、モール」
「……気にするな。今は休め。すぐに奴が来るだろう」
「いい、一人で帰れるよ」
「馬鹿を言うな」

彼は『待っていろ』と言って医務室を出て行く。
大丈夫だと言うのに。

そのまま待つこと数分後。
モールが戻ってきた。

「モール……?」
「ああ」

彼に抱えられ、医務室を出る。

「お前のマスターは別件で手が離せない。
俺が家まで送る」
「……うん」

彼の車に乗せられ、家に着く。

「鍵を」
「ん」

私はカバンから鍵を取り出し、モールへ渡す。
彼は玄関の鍵を開け、家の中に私を運び入れる。

ベッドに寝かされ、彼は帰ろうと背を向ける。

「嫌だ」
「……ロア」

悪寒に襲われ、震える指先で彼の服を掴む。
彼ははぁ、とため息を吐きクッションの上に腰を下ろす。

「寝るまでだ」
「わかった」

私は彼の手を握って縋り付く。
少しでもこの苦しさを紛らわせたい。

優しい手つきで私の頭を撫でる。

「モー、ル」
「なんだ」
「ごめんね」
「何がだ」
「全部みんなに押し付けてさ」
「……」
「死ぬつもりなのも黙って」
「知っていた」
「すごいね、気づいてたの」
「……もう寝ろ」
「モール。銀河は、どうなった?
君は、どうだった?
少しは、幸せだった?」
「お前のいない世界に興味などない」
「そっか、今は?」
「マシだ。だから寝ろ」
「どうしたらもっと良くなる?」
「…………俺を試しているのか?」
「ううん」
「……ロア」

ベッドの上に顔を覗かせるモール。

「これ以上俺の忍耐を試すな」
「?」
「弱っているお前に手を出したくない」
「モール?」
「そんな目で俺を見るな」

彼の冷たい手が頬に添えられる。
気持ちいい。

「モール?」

ちゅっと唇に少しひんやりとする柔らかい感覚。

「……悪い、もう寝ろ」

彼の手が視界を覆う。
ゆっくりと意識が薄れる。

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