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代償を払った先の未来


夢を見た。

暗闇の中、蹲ってる夢。
誰もいない。

酷く冷たい夢。

苦しくて目が覚めた夜明け前。
二度寝する気も起きず、ただぼーっと過ごす。

良い時間になったらランディに先に行ってくれと伝えとこう。

スマホでニュースを垂れ流しながら何をするでもない。

――――空っぽだ。

改めて自分には何にもないと痛感する。
どうして、私は。

くそっ。


――――――――
――――


ランディには先に行くようにメッセージを送り、
学院に欠席の旨を連絡した。

もう授業が始まるという頃。

家のチャイムが鳴った。

誰だ。
重たい体を引き摺ってドアアイを覗き込む。
あのケル・ドアだ。

「……何すか」

ドアを開けず、挟んで問いかける。
帰ってくれ。
誰にも会いたくないんだ。

「少し、話をと思って来たんだが……少し出かけないか」
「……」

本当は会いたくもない。
ただ、その男のフォースが本当に心配そうで、
哀れだと思っただけだ。

私は服を着替え、必要そうな物を持ってドアを開けた。

「ゆっくりできる場所へ行こう。ここは、良くない」

車に乗るように言われ、失礼しますと言って乗り込む。
やはり、嫌なほど落ち着く。

荒れていた心が、嘘のように。

どうして。

私の意思とは違う。

「少し眠りなさい。着いたら起こそう」
「……はい」

気がつけば意識はなかった。


「ヴォーン」

体が揺さぶられ、呻きながら目を擦る。

「はようございます、マスター……」

つい口から出てしまった言葉に一気に意識が覚醒する。

「なっ、これはっ、別にッ」

言葉を紡ぐよりも先に彼は私を抱きしめていた。
少し苦しい。
同時にフォースが流れ込んでくる。

やめてくれ。

私は。

「ロア」
「ちがッ、私は」

どうして涙が出るんだ。
どうして、こんなに心が安らいで。

「私は……」
「お前も、過去のお前も、同じロアーズだ」
「違う! 私はッ」

どうして体が言うことを聞かないんだ。
頼むよ。

本当に、私が私じゃないみたいだろ。

私の震える腕が、彼の背に手を回す。
頼む、やめてくれ。

ぼろぼろ流れる涙を拭うケル・ドア。
やめてくれ。

「ロア」
「やめろッ、私は、違う!
あんたまで、私を殺そうとするのか!!
私を否定して、殺すのか!!
あの目であの表情で!」
「違う、聴くんだ」
「今までの、私は、何だったんだ、全て、無駄だったとでも」
「ロア!」

彼に両肩を掴まれ、視線を合わせられる。
ぼろぼろ溢れる言葉が喉に詰まる。

「見失うな、ロア。お前は、どんなお前でも、
ロアーズであり、ヴォーンであり、ロアーズ・ヴォーンなのだ」
「……」

『ひとまず中に入ろう』そう彼に手を引かれ一軒家に入る。
酸素濃度が低い。
私は支障ないが、他の種族は無理だろう。

「続きを、話そう」

彼は、自分のマスクとはめ込んでいたゴーグルを取り外した。

「……」
「お前は、”ロア”と自分を分けて考えている。
それは、記憶を思い出した頃、既に新たな人格が
形成されていたからだろう。
しかし、その考え方は、お前を苦しめるだけだ。
お前は、昔のお前を思い出しただけだ。
受け入れて、お前が消える訳でも、淘汰される訳でもない」

『自分を追い込むな』と、彼は言った。

隣で頭を撫でるその手つきは、どこか懐かしい。

「……もう、大丈夫だ。私が付いている。
もう独りで抱えるな。私たちは、分かち合える」

温かい。
涙は止まることを知らない。

ただ、認めたくなかった。

どうして、私がこんなに苦しんで、
冷酷な世界で生まれて、
あんな目を向けられなければならないのか。
それに耐えて、耐えて、生きて来た私は
”ロア”でなければ、愛されない。
私を、誰も見ない。

私が、ロアと認めてしまえば、苦しんできた私は、どうなる?

私だけは、私を、否定したくなかった。
なのに、誰よりも、私を否定していたのは。

私だ。

「お前は、生きていて良いんだ。
もう、自分を……赦しなさい」

……私は、誰かに寄り添って欲しかっただけなんだ。

「私も、皆、赦そう」

赦して欲しかった。

私は、年甲斐もなく、ただひたすらに泣いて謝罪をした。
いろんな言葉が溢れ出した。
ずっとうちに秘めていたものが。

愛して欲しかった。
誰にも受け入れられなかった私を。
自ら振り払った愛を、もう一度。
そう願うことを赦して欲しかった。
過去を。

彼は静かに背中を摩りながら聴いてくれた。
何も言わず。ずっと。

震える体を優しく抱擁し、この痛みを分かち合おうとしてくれている。

「よく頑張った。
よく……堪えた」

意識が薄れる中で、ただ、今は彼に甘えていたくて。
そっと、服を掴んで目を閉じた。

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