代償を払った先の未来
ジリリリリリ
ピッ
スマホのアラームを止め起き上がる。
パンを焼きながら服を着替え、荷物のチェックをし終わった頃
チンッとパンが焼き上がる。
それをお茶で胃に流し込み鞄を片手に家を出る。
近所の人間に奇怪な目を向けられながら学院へ向かう。
「おはよう、ヴォーン」
「……ん」
教室に入り、冷たい視線を受けながら席につけば
アソーカが挨拶をしてくる。
コイツも変わり者だな。
そんなことを思っていると教室のドアが開き、
厳ついザブラクが教室に入ってくる。
「全員席に着け」
そいつは教卓に教材を置き、低い声で唸るように告げる。
号令と共に授業が始まる。
内容としては古代ダークサイドの教えというものだった。
何となく知っている内容を聞き流しながら横目でアソーカを
見ると、まあ、嫌そうな顔で授業を受けていた。
授業に対して、と言うよりも教師に対しての様だ。
再び視線を前に向け、授業内容をノートにまとめる。
2時間の授業が終わり、次は体育の時間だ。
教師はスカぴょんだとアソーカが言っていた。
服を着替え、アソーカと共に運動場に向かえば
『遅いぞ』とスカぴょんが声をかけてきた。
「うっせ」
「礼儀正しく出来ないのか」
「ッチ、煩いですね黙っていただけますか???」
「そうじゃない」
『はぁ』とため息をつくスカぴょんに中指立てていると
アソーカに注意をされた。
「授業を始める!」
そうしてる間に全員集まり、早速授業が開始した。
私はスカぴょんに呼ばれ少し離れた場所に移動する。
「まず、お前には基本的な身体能力テストを受けてもらう」
「……っす」
彼から種目の内容を聞く。
中にはどう考えても普通の学生はやらないような内容も。
私はスカぴょんの指示に従い、50m走から始まり、
持久走、クライミングや障害物走のタイムアタックとか
一通り終わらせ、水分補給をしていると職員室から
こちらを見る視線に気づき、こちらを見る教師どもを
ひと睨みするとあのノートランは歯を見せる笑顔を向けて来た。
腹が立ち中指を立てる。
それを見てスカぴょんが声を上げた。
「中指を立てるんじゃない!」
私の手を降ろさせ、ガミガミ説教をし始めた。
「うっせぞスカぴょん」
「敬語!」
「へいへい」
「どこへ行く! まだ話は終わってないぞ!」
「もっとカルシュウム取れよ」
説教を受ける気はさらさらなく、私は彼の手を上手く避け
そのまま運動場から逃げた。
「サボりは良くないな」
「……ッチ」
それを見ていたのかノートランに足止めされたのは言うまでもない。
「ほら、運動場に戻るんだ」
「……っす」
大人しく引き返す、なんて事はしない。
私はフォースジャンプで校舎の窓辺に手をかけ、そのまま
屋上に跳ぶ。
「ロア!!」
「黙れノートランッ!!」
思わず声を荒げたノートランに怒鳴りつけ、
私は塔屋に登り、そのまま横になる。
「どいつもこいつも……」
思わず口に出た愚痴は気分が悪いほどの快晴の空へ溶けて消えた。
そして、奴の声を忘れたい一心で私は目を瞑り眠りにつく。
目覚めたのはそれからしばらくしてからだった。
やけに騒がしくなった屋上で目を開け、体を起こして
周囲を確認すればもう昼なのだと気づく。
私に気づいたであろうトワイレックの男がこちらを見つめている。
それを無視して私は屋上を去ろうとするが、
後ろから声をかけられた。
振り返るとそれは先ほどこちらを見つめていた
トワイレックが立っていた。
彼の輪の全員が私に目を向ける。
「……んだよ」
「……いや……貴女は最近入学したのか?」
「ああ」
「そうか……俺はランドール・マルサス。
気軽にランディと呼んでくれ。
俺たちは普通科だから殆ど会わないだろうが、よろしく」
「……ヴォーンだ。よろしく」
突然始まった自己紹介に戸惑いながらも私は彼と握手を交わす。
奴は明らかな動揺をしている様だったが”私”には関係ない。
「もう良いか」
「良ければ一緒に食べないか?」
「……気まずいだろ」
彼は私の言葉を聞き、後ろで食事を続けるメンバーに
アイコンタクトを取って『大丈夫だ』と告げ、
自身の昼食を持って輪から移動した。
「ほら」
「……ありがと」
彼は持っていたパンを1つ分けてくれた。
2人で屋上の端に座り、お礼を言いながら受け取る。
「ここには中々慣れないだろう」
「……ああ」
「この時期とかに入って来る生徒は大体そうだ。
急に環境が変わってストレスを抱えてる」
「……そうか」
「貴女もだろう?」
「そうだな……アンタは? 普通科、大変なんだろ」
「俺は……そうだな、授業は難しい内容だがやりがいもある。
それに……今は入学して良かったと思う」
「そうか。それは……良かったな」
私は袋からパンを取り出し、口に頬張りながら
彼と会話を続けた。
少なくとも、ここ最近で1番心が休まる時間だった。
「貴女もいつかこの学院に入学して良かった、と思える日が来る」
「どうかな。少なくとも今は、これっぽっちも思わない。
けど……アンタは優しいし素直な人だ。それだけは言える」
「……そうか? ありがとう」
私は空になった袋を丸め、拳の中に納める。
「パン、ありがとな。じゃ」
「ああ。授業終わり、また会えるか?」
「……門で待ってれば会えんじゃねーの」
心地の良いフォースにそっけなく突き放すように告げ、
階段を五段飛ばしで駆け降り、教室へ逃げ込んだ。
やけに大きく聞こえる動悸に気づかないフリをして、机に伏せて
授業が始まるのをただ待った。
そんな様子を見ていたアソーカは揶揄うように話しかけてきたが
テキトウにあしらう。
「皆さん、席について下さい。これより3限目の授業を開始しますよ」
12時半。
ミリアランの女教師が教室の教卓前に立つ。
号令によって倫理の授業が始まった。
食後の授業は流石に眠気が酷い。
どうにか睡魔と戦いながらノートに内容をまとめつつ、
辺りを伺うとまあ、みんな真面目に受けている。
眠いのは私だけか。
はぁ、と小さなため息をこぼし、ぼやける頭を冴えさせる為に
手の甲を一つ抓り。
そうすることで何とか3限目を乗り切った。
休憩時間、仮眠をとり忌々しいノートランの声で意識が覚醒する。
「授業を始める」
4、5限目、歴史。
寝起きの頭を左右に振り、霞を払えば完璧に睡魔から解放され爽快だ。
あいつの笑顔さえなければさらに良かった。
6限も調子良く終わり、7限目のHRで明日の連絡を受け、
必要な物だけ持って教室を出る。
この段階でランディと合流できれば良かったのだが、
如何せん生徒の数が尋常ではなく、無理だった。
軽く夕食を済ませ、食堂を出る。
「ヴォーン」
「げっ……何すか」
そこにはあのノートランが待ち受けていた。
もうウンザリである。
「『げっ』とはなんだ。2限目のサボりの件だ」
「……っす」
私は彼に連れられ、生徒指導室へ入る。
「反省文を書くまで帰れないからな」
「ッチ」
渡された紙に私はシャーペンを取り出しさっさと
反省文を書き込む。
今まで散々書いてきたのでお手の物。
「何か用事でもあるのか」
「集中してるんで話しかけないで下さい」
様子を見ていたノートランにピシャリと言い放ち、
書き直しにならない様気をつけながら反省の主旨を書く。
「君は随分と私を嫌っている様だが、何か理由でもあるのかな?」
「話しかけんなっつったばっかりだろうが」
「純粋な疑問だ」
パキッとシャーペンの芯が折れ、机を音もなく転がる。
顔を上げれば、やはりあの眼だ。
反吐が出る。
「亡霊に囚われた眼で私を観るな」
「……それは……どういう事だ」
「てめぇらが1番良く知ってんだろ?!」
私は勢いよく書き終えた反省文を奴の前に叩きつけ、
走るように部屋を出て門まで走った。
腹立たしかった。
「悪りぃ、待たせた」
「大丈夫だ。それより、走って疲れてるんじゃないか?」
「問題ない」
ランディと合流を果たし、暗くなりそうな歩道を横一列で歩く。
聞いた話によると、案外家は近そうだった。
「私の家はランディの家の少し手前みたいだな」
「案外、近いものだな」
「ああ」
殆ど車が通らない細い道に入り、鈴虫の音色を片耳に
学院の事を尋ねたり、趣味の話とかしながら
自分の家に着く。
「じゃあな」
「ああ、また明日」
想像よりもずっと早く私たちは打ち解けていた。
彼に手を振りながら家に入り、電気をつけて
シャワーを浴び、歯を磨いてベッドに潜り込む。
ほんの少し、明日が楽しみだった。
『明日一緒に登校しよう』
彼からのメッセージを見て頬を緩ませながら眼を閉じた。
