気分屋の薔薇
「闇の鏡の前に立つあなたに問う」
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寮に戻ると丁度、寮長が談話室に居るのが目に入る。
「ただいま戻りました寮長」
「…………おかえり……??」
寮長に挨拶をし、手を洗い再び寮長に話しかける。
「寮長、私が食べ損なったタルト一切れ、食べてもいいですか?」
「構わないよ……どうしたんだい、まだ調子が悪いのかい?」
「???いえ、気分ですよー」
寮長は訝しげに私を見るが、構わずに冷蔵庫から
一切れの苺タルトを取り出し、座って食べる。
副寮長が寮長に何かしらを耳打ちし、2人は談話室を後にした。
何かあったのか少し気になるが、今はタルトを
食べたいのでそちらに集中する。
やはり美味しい。
たまには美味しいものもいい。
あっという間に食べ終わり、お皿を洗って自室に戻る。
シャワーも浴び、課題も済ませやる事は全て終わらせた。
次は何をしよう。
ベットにどさり、と身を沈め天井を見つめる。
少し、いまだに信じられなかった。
自分のことだ。
あの記憶は、すんなり受け入れられた。
しかし、ここで暮らして居ること。
私と過去の私が全くの別個人ということ。
あの人がいないことは、どうしても受け入れたくなかった。
……夜、ちゃんと寝れるかなぁ。
気分が落ちるのを察知した私は、タブレットを手にし、
ペンを手に取る。
こんな時は絵を描くか何かするに限る。
今まで描いていた絵が全部幼稚に見える……。
確実に昔の方がうまかった。
そんな風に自嘲し、ペンを動かす。
このタブレットは絶対に他人に
見せないからなんでも描ける気がした。
シューちゃんとジョワちゃんには見せるけど。
なんと言っても絵描き友達だし。
資料を読み漁りながら筆を進めて気がつけばあっという間に
時間が経ってしまう。
結局、22時頃にイラストは描き終わり、マジカメに
ハッシュタグをつけ、アップロード。
スマホを投げ出し、また天井を見る。
微妙な時間になってしまった。
これから出来る暇つぶしなんてたかが知れている。
ゲームも好きだが、私は皆んなとするゲームが好きなだけであり、
1人でする気にはあまりなれなかった。
散歩、と言うのも考えたが、誰が許してくれるか。
そして何より、私は暗い場所が本当に苦手だ。
嫌な感じがして怖い場所という認識でしかない。
大人しく寝ろ、と言っても1人じゃ寝れない。
誰かがいたりしないと寝れない。
実に子供っぽい。
ため息一つ付き、机のすみに追いやられた道具箱を引っ張り出し、
最近手付かずだったアクセサリー作りに勤しむ。
寝落ちすることを期待しながら手を動かす。
それもすぐに終わってしまって。
仕方ない、と立ち上がり、水を飲むためにキッチンへ向かう。
この時間になるともう誰もが部屋で過ごしていて、
案の定談話室には誰もいない。
コップに一杯の水を汲み、一気に飲み干し直ぐに自室へ戻る。
部屋につき、イヤホンをして眠くなれそうな落ち着きのある
音楽を流す。
普段あまり聴かないタイプの曲ではあるが、
少しは効果がある様で一曲聴き終わる頃にはもう欠伸が出ていた。
────────
────
─
「…………くわぁ」
何時の間にか寝ていた様で、目覚ましの音で目が覚めた。
アラームを止め、体を伸ばし欠伸をする。
また、夢を見た。
いや……夢じゃない。
私が私で無かった、過去の私だった頃の記憶を……。
気分が悪い。
だるい体を無理やり動かし服を着替え、
寝癖を直し身支度を整える。
そろそろ朝食の時間だ、早く行こう。
お腹すいたし。
廊下を歩いていればゾロゾロと朝食に向かう他の
寮生たちと合流した。
「おっはー。めっちゃ眠そうだな~」
「おはよう、なんか眠気が取れなくてさー」
他の寮生たちと駄弁りながら寮の食堂的な所に向かう。
「んじゃー」とそいつは私に手を振って
別の寮生の方へ歩いていく。
なんだかんだ言って、幾つかの仲良しグループみたいなのに
別れて皆んな食事を摂る。
「おはよう。だいぶ眠そうだな」
「おはようございます副寮長。そうなんですよねー」
ははっと笑いながら副寮長は私分のトレーに乗せた食事を
手渡し、「コケるなよ?」と冗談まじりに念押しする。
「大丈夫ですよ」と返しながら受け取り、席に向かおうとすると
「折角だ、一緒に食べないか?」と誘われたのでありがたく
承諾する。
「おっはよ~、レヴンちゃん超眠そうだね~」
「おはよう。シャキッとしないかい」
「おはようございます」
テーブルにつき、2人に挨拶をする。
副寮長も席につく。
2人はもう食事をしていた。
私たちも食事を始める。
「こら、よく噛んで食べるんだぞ」
何時もの様に食べて居ると副寮長が横から窘める。
「そうだよ、消化にも悪いし」
ダイヤモンド先輩にも言われてしまったので、「はーい」と
軽い返事をした後、何時もより少し多く噛んで飲むこむ。
「昨日打ったところはもう良いのかい?」
「はい、たんこぶになってるぐらいでもう平気です」
「それは良かった」
寮長と話して居ると、慌てた様子のエースとデュースが
やって来た。
「君達、遅いよ」
「す、すいません!」
ため息を吐いた後、寮長はそれだけ言うと早く食事を取る様に
促し、再び自身の食事を再開する。
慌てた様子で2人は席に座り食事を始める。
「そう言えば、ガトーショコラを作ってそれが余ってるんだが
レヴンはいるか?」
「是非!」
副寮長の言葉に食い気味に私は返事をする。
少し驚いた様に「くい気味だな」なんて笑いながら言葉を繋げる。
「1ピースで良いか?」
「あ、3ピースでお願いします!」
「? わかった、後で用意しておくから
冷蔵庫から取っていってくれ」
「ありがとうございます副寮長!」
私がガッツポーズをして居るとダイヤモンド先輩が
「あれ、レヴンちゃんってチョコ系苦手じゃなかった?」と
言うので得意げに私は笑いながら答える。
「仲良い友達の1人が大好きで、折角なら友達3人で
食べたいなーって思いまして」
それを聞いた先輩たちは驚いた顔でこう言った。
「友達いたの!?」
「失礼な!」
「その……あまり聞いたことがなかったからな……」
どうやら一度たりとも2人のことを話したことが無かったようで
冗談なしで驚いて居るようだった。
「まあ、良いですよ。じゃ、私はお先に失礼しますね」
食事を口に詰め込み、食器を片付け自室に向かう。
今日のスケジュール、持ち物等学校に行く準備を着々と始める。
中でも2年生との合同授業が1教科だけあるのがだるいな、
なんて考えながら。
あとは……少し、昨日の事をまとめておこう。
忘れたくないから。
書くことで、少しは気分が良くなるかも知れない。
それを書く用に小さな手帳も用意し、部屋を出て
学校に向かう。
ガトーショコラは放課後とかにでも食べよう。
朝持っていっても食べる時間がないし。
