気分屋の薔薇
「闇の鏡の前に立つあなたに問う」
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ズキズキと頭の痛みで意識が浮上する。
思っていたよりも体が軽く感じて、余裕ブッこいて
体を起こせば脈打つ様に激しい痛みが頭部を襲う。
「目が覚めた様で良かった。……全く、頭に打ち付けたに
しては随分と余裕がおありだね?」
声のする方に目を向けると、腕組みをし
不満そうに眉間にシワを寄せる男の子が立って居る。
「……?」
「? なんだい、僕の顔をそんなに見つめて」
彼の声は聞こえて居る。
だが、脳が働いていない気がする。
彼は呆れた様に目の前で手を振る。
そうして、意識がハッキリしていないと悟ると
ベット横の机に置いてあった冷たい何かを頭に乗せ、
寝る様に促す。
「全く世話が焼けるよ」
彼はその後、何か言って部屋を出て行った。
何と言ったか理解できず、頭に乗った冷たい感覚に
心地よさを感じながらゆっくり目を瞑る。
─────────
────
─
ガチャリ、と扉の開く音で再び目を開ける。
どうやらあのまま少し眠っていた様だ。
「調子はどうだ?」
扉の方を見れば、メガネをかけた人が立って居る。
「まだ、意識がハッキリしてないのか?」と
呆れ笑いを浮かべ、彼はそばに椅子を持ってきて座る。
「痛みはもう無さそうだな」
そう、喜ばしい様に笑う。
良く、見覚えは、ある。
そう、ある。
────ああ、そうだ。
朦朧としていた意識は次第にハッキリしていく。
「え……っと、先輩……?」
「ああ。どうした?」
「あ、いや……ちょっと、まだ意識がハッキリしないみたいで」
そこまで言うと、「よし、ちょっと待ってろ」と先輩は
席を立ち上がりコップに一杯の水を持ってきてくれた。
「すんません……」
「気にすんな。ゆっくり、な」
起き上がろうとするのを補助し、コップを差し出し、
念を押す様に言う。
受け取り、それをゆっくり飲み干す。
そうして深呼吸すればもう意識は元通り。
「ありがとうございます、先輩」
「だいぶ良くなった様で俺も安心した」
コップを受け取り、先輩──もとい、クローバー先輩は
何時もの様に笑みを浮かべ、片付けてくれる。
「俺……いや、私ってどうして……?」
「ん?急に改まってどうした?まあ、そんな事はどうでも良いか。
覚えてないか?ほら、パーティー中暴れたグリムを頭に──」
先輩が軽い経緯を話してくれるうちに、その時の状況が
鮮明に蘇る。
「──あぁ~~~~~、そうでした、そうでしたね……」
「思い出した様で何よりだ」
そうだ、そう。「何でもない」パーティー中に
エースと喧嘩になったグリムが暴れ、私の頭に直撃したんだった。
「えっと……今何時です?」
「丁度16時になる所だ」
意識を失って大分時間が経っている。
聞いた所によると、あの後私が倒れた事によって
パーティーは中止に至った様だ。
招待されていたユウに申し訳ない。
「じゃ、俺はリドル達に伝えてくる。
しばらく休んどけよ?」
クローバー先輩はそれだけ言い残すと保健室を出る。
(あぁ~、最初、絶対寮長が看護してくれてたじゃん)
静まりかえった部屋で最初に目覚めた時のことを思い出し、
頭を抱える。
残念ながら、目を覚ました時の事はあまりハッキリ
覚えていないので何か変なことを言わなかったかが
ものすごい不安で仕方ない。
──前世の話、とか。
私のことだ、言っていないと信じてはいるが不安は不安だ。
「ごめんねレヴン────っ!!!!!!」
バンっと勢いよく開けられた扉を見れば涙目っぽい
ユウが立っていて、私を見るやいなやタックルしてくる。
痛い。
グリムはウニャウニャ言いながら目を回して居る。
どうしたらそうなる。
「ぐえ”っ」
たまらず汚い声が喉の奥から飛び出すが、
ユウに届いて居る気配はなかった。
「ユウ、一応保健室だからな?」
続いて、デュース、エース、寮長、副寮長が揃って戻ってきた。
ダイヤモンド先輩もやってきた。
なんか重病人みたいになって居るが、一切そんな事はない。
「やほやほ~!お目覚め記念に、一枚!」
返事など聞く気がない様でスマホを構え、「はい、チーズ」と
瞬く間に写真を撮る先輩。
「怪我人に何をさせて居るんだい君達。
……もう意識は”ハッキリ”したのかい?」
ため息一つ吐いて、それから私の方を向き寮長は強調して尋ねる。
「はい、もうすっかり大丈夫です寮長!」
「? 元気な様で良かったよ」
「ところで、さっき何か変な事言いませんでした?」
皆んなが首を捻る中、寮長は少し思い出す素振りをした後、
「いや、特には」と言い、なぜかと尋ねる。
「いえ……なんか変な夢みてたんでそれでなんか
変な事言わなかったか心配になりまして」
「へぇ~、どんな夢?」
訳を寮長に話すと、エースが気になった様で私に尋ねる。
「卵から無限にグリムが湧く夢」
「絶ッてぇ〜〜に観たくねー」
うげぇ、ととてつも無く嫌そうな顔で言うので「せやろも」と
返せば「お前口調どうした???」と変な顔で観られたが
無視する。
「よっしゃ、もう体調もバッチリ何で自分帰りますねー」
そう言って、ベットから出ようとすると皆んなから全力で
止められた。
「何故?」と口から出た言葉にダイヤモンド先輩が
驚愕の表情で「ホントにレヴンちゃん大丈夫????」と言う。
「仮にも頭を打ったんだ。もう少し休むんだね」
「そう言う事だ。また迎えに来るから安心して休むんだ」
「……はーい」
寮長と副寮長に窘められ、渋々おとなしくする。
「うーん、レヴンらしくないな」
「あ、それ俺も思った。何時もなら『はい、寮長!』って
感じなのにな~」
ボソボソと話す2人はあえて無視。
「さて、そろそろ行こう。何時までも居たら
怪我人が休めないだろう。レヴン、休まずに戻って来たり
したら……お分かりだね?」
「ハイ、寮長!!」
「よろしい」
ぞろぞろ、と皆んなが保健室を出る中、副寮長が
「十分休んだら俺に連絡をくれ、迎えに来る」と
にこやかに告げて退出していった。
ユウは「また明日グリムにも謝らせる」と告げて出ていった。
まあ、私としてはどっちでも良いんだけど。
誰もいなくなった保健室でふぅ、とため息を吐く。
今でも、あの光景がまぶたの裏に焼き付いて居る様で
目を瞑れば、懐かしいあの頃を鮮明に思い出せる。
代わりに、今の記憶が朧げになり、
良く覚えていない事の方が多いとさえ思える。
別に、良いか。と思考を投げ出し、
ベットに再び横になる。
もう体調は万全ではあるものの、黙ってベットから
出たりしたら恐らく寮長に首をはねられる。
わかんないけど。
──────
───
─
あれから数十分。
ガチャリ、と再び扉が開く。
「あ、ホントに倒れたんだ」
「体激弱マン」
軽口を叩きながら入ってきたのは同じクラスの
すごい仲良い友達。
────ずうっと昔の記憶の、友達にそっくりな友達。
「シューちゃ〜〜〜んっ!!!!」
「うわっ、きも」
そう言いながら、私に抱きつかれるシューちゃん。
「怪我人は寝んさい!」
スパぁんと、頭を叩かれ、仕方なく離れれば
ジョワちゃんに「飲みかけだけどいる?」と
飲み物を差し出される。
「ちょーだい」といえばはい、と手渡される。
「生き返る~」
「死ぬの???」
「やだ生きる」
シューちゃんとは何時もこんな感じだ。
本当にふざけあえる仲。
「そういえば今度のテストやばいんだけど一緒に勉強しない?」
「おっけ~」
「ん」
ジョワちゃんとも負けずに仲が良くて、
良くお菓子を作ってもらう。
「頭打ったせいでテスト範囲の内容ほとんど吹っ飛んだ可能性」
「バカなの?」
「ちょっとひどない?」
「まあ、レヴンなら大丈夫でしょ」
そんなことを呑気に話しながら、2人を見れば
あの頃の2人の友達が重なって見える。
きっと彼らをちゃんづけで読んでいたのはあの頃の名残なんだと、
今日初めて知った。
「ま、私達は行くわ」
「んじゃーの」
「じゃーねー」
手を振り、2人が帰るのを見送り、時計に目を向ける。
かれこれ2時間が経過して居る。
割と長話をしたな。
タッタッタ、とスマホを操作し副寮長にメッセージを送信する。
十分と断たなううちに、ガチャリとドアを開け、
クローバー先輩がやって来た。
「待たせたな」
「いえ、大丈夫です」
ベットから這い出て、綺麗に整える。
先輩に続く様にして部屋を出る。
向かうはハーツラビュル寮。
「あ、副寮長」
「……どうした?」
一瞬、声色が何時もより低い感じがしたが、気のせいだろうか。
「タルトって残ってます?」
「食べ損ねたやつならあるぞ。それがどうしたんだ?」
「いや、帰ったら食べようと思いまして」
私が訳を言えば、彼はまた驚いた様な顔をする。
「急にどうしたんだ? 珍しいな……」
「そうですか? なんか今そう言う気分なんですよね」
「もちろん良いが……」
「わーい」
喜びの声をあげれば「喜んでるのか?それ」と
笑顔を浮かべるので「もちろん」と私も笑う。
