このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

蜘蛛ですがpixiv削除済SS

痛い。
苦しい。
息をするのすら苦しい。
このまま終わるのかしら。
せっかく転生して晴れて新しい人生を始められるって楽しみにしていたのに。

両親に連れられて馬車で隣町まで移動している時にその事件は起こった。
突然茂みから盗賊たちが飛び出してきて私たちの乗っていた馬車を襲った。
護衛の必死の抵抗虚しく私の両親は息絶えた。
赤ん坊である私のことはどうでも良かったのかそれとも放っておいてもこのまま死ぬと思ったのか最後は私だけ見逃された。
勿論私にできることなど何もなくただただ時間が過ぎていった。

体のひどい痛みに耐え続けること数日。
あたりは暗くなり私もうとうとと寝かかっていた頃

ガタッ……ゴトッ……。

体が揺れる。
何かに持ち上げられている感覚。
っ!?
ハッとして目線を上に上げると、そこには牙を剥き出しにして私を咥える魔物の姿が。
やばい…食べられる……!
血の気が引いてドバッと冷や汗が出た。
怖い。
死にたくない。
私の非力な体では抵抗することもできず、されるがままに咥えられ吊り下げられる。

そして魔物はくるっと向きを変え歩き出す。
……もしかして食べるわけじゃないのかしら?
緊張していたからだから力が抜ける。
少し安心すると幼い私の体は正直ですぐに眠くなってきた。
現在進行形で魔物に咥えられているというのにあっという間に眠りに落ちる。





剣が肉を断つ音。
濃厚な血の匂い。
ガバッと体を起こす。
なに……これ。

そこら中に真っ赤な血が張り付いている。
目の前には血だらけになった魔物の姿が。
あいつ、私を咥えて攫ったやつだ。
魔物が死んでいるということは魔物を倒した誰かがいるということ。
やった、人だわ。希望が見えた…
期待を胸に辺りを見渡すとそこには血がついた剣を持ったあの魔物を倒したと思われる者の姿が。
その人は体長が1mもない子供のような体型をして、ボロボロの服を纏い、緑色の肌をしていて……

……は?

……ゲームや漫画などに疎い私でも知っている。
汚くて醜い、ファンタジーの定番雑魚モンスター、ゴブリンだ。

そのゴブリンが私にゆっくりと近づいてくる。
いや雑魚なんかじゃなかった、ろくに戦えない私にとってこのゴブリンは強敵。
敵と言ったって私に戦う力はない。
体もボロボロでろくに抵抗する力も残っていない。
死を覚悟したその時。

そのゴブリンは優しく手を伸ばし私を抱き抱える。

今度は信じないわ。
私を攫った魔物は私を咥えてそのまま巣へ持ち帰って私を食べようとしていた。
体のあちこちに噛み跡がつけられているのがその証拠だ。
巣に持ち帰ってなにかするつもりなんでしょう!
嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない!!
残った力を振り絞ってジタバタと暴れる。
勿論それでどうにかなるわけがなくお持ち帰りされる私。

それでも今度は寝まいと目を擦る。


小一時間程抱えられゴブリンの村らしきところについた。
辺りには掘建小屋のような建物が乱立している。
建物は傾き正直言って綺麗とは言えない、所詮魔物の村ね。

そんなことを考えている間にわらわらと家の中にいたゴブリンたちが集まってくる。
群れのリーダーらしき大きな個体を中心に何やら話している。
十中八九私の扱いをどうするかについてでしょうね。

ゴブリンたちが話し合っている横では持ち帰ってきたらしい魔物の肉の解体が行われている。
もしかして私もこんなふうになるんじゃないかと想像しゾワっとする。
リーダーの個体が懐から光り輝く丸い石を取り出す。
その瞬間またもや強い悪寒が走った。
嫌、やめて。
私今から何をされるの!?



私の心配を他所にあっさりと話し合いは終了する。
近くの家の中に連れて行かれる。

入り口から入ってすぐに置かれた木のテーブルの上に食器が並べられ、先ほど解体された肉が盛り付けられていく。
私の前にも分厚い肉が乗った皿が置かれた。
……食べろっていうの?
この硬くて不味そうな肉を?
赤ん坊に?
やっぱり殺す気じゃないのかしら。

私の何かを訴えかけるような目線に気づいたのか横にいたゴブリンがハッとしたような顔をする。
いや、ゴブリンの顔とかわかんないからそんな気がするってだけなのだけど。
するとそのゴブリンの手元がパアッと光る。
いつのまにかその手には立派なナイフが握られていた。
ま、魔法!?
物質創造的な魔法かしら。
この世界にもやっぱり魔法って存在したのね。
虚空から突然現れたそのナイフによって私の前にある硬そうな肉はサクサクと切り分けられていった。
これで安心して食べられるわね。
ぱくっ。
もぐもぐ。
前言撤回。
切り分けたとしても硬いものは硬いわ。




どうやらゴブリンたちに私は受け入れられている様子。
さっき食べた肉も予想通り噛み切れないくらい硬かったけどなにか毒のようなものが入っているというわけでもなかった。
亜人とは言えゴブリンは人間とは敵対しているイメージだったのだけれど、この世界では違ったのかしら。
スキルがあったりステータスがあったり私の知っている異世界のイメージとは一風変わった世界だから、こういうことがあってもおかしくないのかも。

その後ゴブリンたちが畑仕事をしているのをぼーっと眺めたり、幼い子供ゴブリンに遊ばれたり色々あってあっという間に時間が過ぎていった。
日も暮れてきた頃、ふと思う。
私、このままここで暮らすのかしら。
受け入れられているのは確かなのだけど、とはいえここにいるのは魔物。
魔物の村で一生暮らすのだと思うと恐ろしい。
生まれた屋敷に戻りたい。
こんなところで死ぬまで暮らすなんて嫌だ。
ぽろぽろと涙が溢れる。
どうしたらいいの?
止まらない涙と格闘していると突然頭をわしゃわしゃと撫でられる。
ふと横を見るといつのまにか一匹のゴブリンが隣に座っていた。

「******」

何を言ってるのか分からない。
でも励ましてくれているというのは理解できる。
外見も全く違う言葉も通じない魔物なんかに励まされたところで何になるっていうのよ。
けど私の意思に反して大粒の涙が零れる。
これまで抑えてきた辛さがドバッと溢れてくる。
ああ。
私、ここで生きていくのか。












夜も遅くなりベビーベッドらしきものに乗せられた私はなかなか寝付けずにいた。
すると先ほど私を撫でてくれたゴブリンと思われる子がベッドを抜け出しこちらに歩いてくる。
そして呟く。


「今日は討伐隊が帰ってきたんだ」

え?

「今回も生きて帰ってきてくれる人たちが増えて本当に良かった」

待って。
どういうこと?
これは、日本語……?
私が元日本人だってことがバレたっていうの!?

「君を襲ってたウルフも武器がなければ倒せなかっただろう。自分のやったことで誰かを助けられるっていうのはこんなに幸せなことなんだね……」

完全に独り言ね。
良かったわ。
じゃなくて!!
なんでゴブリンが日本語を喋ってるのよ!
意味わかんない!

……もしかしてこのゴブリンも私と同じで元日本人だったりなんて。
そんなわけ……

「日本にいた頃はこんなこと考えもしなかったよ」

……あったわ。
何かの原因で死んでこの世界に生まれ変わった転生者がる私以外にもいたなんて!
とりあえずこの状況を打破するためにここはなんとか意思疎通を図らないと!

「あ、あの……私……」
「!?」
「私も転生者なの!」
「え!?」




「えっと、つまりあなたは地球からの転生者で魔物に連れ去られてここまできたってことですね」
「ええ」

な、なんて言うか……人と話すのが久しぶりすぎてどう話せばいいのか忘れちゃったわ……!
まあ前世でもほとんど人と話す機会はなかったのだけど。

「ところであなた、前世の名前はなんて言うの?」

名前の話題を切り出すとどうしても私自身も名乗る流れになってしまう。
けどもしこの転生者が私の知り合いだった場合を考えると名前を聞かないわけにはいかない。

「僕の名前ですか?前世では笹島京也という名前でした」
 
笹島……京也……どこかで聞いたことある名前ね。
いや、気のせいね、私には大した知り合いなんていないし。
日本によくある名前だから聞き覚えがあるだけでしょう。
だって普段話す相手は家族ぐらいしかいなかったもの。
学校ではいつも1人で話し相手もいないどころか陰口を叩かれていた。
嫌なことを思い出したわ。

「あなたは?」

本当は前世の名前なんて言いたくない。
けど言うしかないわね。

「根岸障子よ」

私が名前を言った瞬間笹島京也さんの顔色が変わる。

「ね、根岸さん……!?」
「そうよ。どうかしたの?」
「……ということは僕以外にもクラスメイトは全員転生しているのか……?いや、

でも僕の名前を聞いても気づかないってことは同姓同名の別人っていう説も、、」

なにやらボソボソと喋ってるわね。
もっと大きな声で喋ってくれないかしら、ほとんど聞こえないわよ。

「平進高校って単語に覚えは?」

!?
大有りよ。
私が通ってた学校名だもの。
なんでこいつが私の通ってる学校を知ってるのよ!?

「2年3組の根岸障子さんであってる?」
「!?ええ、そうだけど」

まさかこいつ私と同じ学校に通ってたっていうの!?
いや、ちょっと待ちなさい私。
こいつの名前に聞き覚えがある気がしなくもないのよ。
名前でわかるってことは同じクラスのクラスメイトだったのかしら。
……だとしたら最悪ね。
ひとりぼっちだと思ったら知り合いがという安心感なんてあるわけがない。
私からしたら所詮顔も名前も知らない他人。
前世のことなんて捨ててしまおうと思っていた最中前世のクラスメイトに会ってしまった。
なんて最悪な事態よ。

「大丈夫、僕も前世に固執するつもりはないから」

私に内心を読み取ったのか苦笑しつつ言う。
あら、それなら好都合ね。
ところで、クラスメイトと分かった途端急にためになるのやめてくれないかしら。
私からしたら他人にいきなりタメ口で話しかけられて不快なのだけど。
いや、他人じゃないわ。
こいつもきっと裏で私のことを〇〇子とかなんとか呼んでたんでしょう。
ますます不快になってきたわ。
散々私を揶揄っておいて前世に固執しないだのなんだのふざけてるのかしら。

「じゃあ改めてよろしく、根岸さん」

はっきり肯定しないように微笑みで返す。
よろしくなんて言うわけがないわ。
5/6ページ
スキ