夢主喋ります!苦手な方は注意してください
ダンロン夢(シリーズごっちゃ)
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何故こんなことになってしまったのか
周りからは”若いのに可哀想”とか、”もう為す術がない”とか そんなことばかり言われた
特にショックでもなかったけれど、最後なんだとしたら一応伝えておこうと思い 今ここにいる。
「癌…ですか?」
あの子には報告しておきたかった。
「そ、そんな…進行度はどのくらいなんですか?まだ治療できる段階かもしれません!」
治療できるなら既にしている 見つかるのが遅く、ただ死を待つだけという旨を簡潔に伝える。
それを聞くと彼は悲哀の表情を浮かべた
……そんな顔をされるとなんだか変な気持ちになる
まだ生きるべきだろうか?本当にどうにもならないんだろうか?
そんな考えが頭を過ぎる
「嫌です…ボク、キミと生きる未来を見てみたいと思ってたんですよ そ、それなのに………」
ロボでも言葉に詰まることがあるのかと、この期に及んで感心してしまった
一瞬の静寂の後、彼が口を開いた
「…ボク、博士に相談してみます。」
「この間博士の部屋で冷凍保存に関する書類を見かけたんです!もしかしたら100年後には進行性の癌を直せる技術が発見されているかもしれません」
しかし、冷凍保存の技術を持った機械を作るのにどれだけの時間を要するのだろうか?
そもそも気軽な気持ちで話すんじゃなかったと少し後悔している。
話の規模が大きくなりすぎているのだ
100年後?冷凍保存?治療法の発見?あまりにも話が飛躍している
「…なんとか言ってくださいよ、キミが何を考えているのかボクにはわかりません」
「……絶対にキミを助けたいんです その…〇〇さんは…ボ、ボクに特別な感情を教えてくれた人ですし……」
キーボは両手の人差し指をツンと合わせながらそう呟く
「人間の寿命は永久ではない、そんなことくらいボクだって分かります。けれど…こんな終わり方じゃなくたっていいと思うんです」
「…それともキミは自然の摂理として自分の運命を受け入れるんですか?」
どうすればいいのか もはや私にはわからない
……ついさっき
”まだ生きるべきだろうか?本当にどうにもならないんだろうか?”
こんなことを思ってしまった人が考えることは一つで──
…超高校級のロボットと生きる未来を歩んでみたくなった
そう言えば本音になるだろうか────
考えすぎか、または病気のせいか 雷のような痛みが頭を駆け巡る
あぁ…もしここで自分が倒れても、彼は受け止めきれずに一緒になだれ込んでしまうんだろうなぁ……
なんてことを考えていると、いつの間にか膝は地面についていた 意識ごと持っていかれるような感覚に見舞われ そこで視界は暗転する。
1週間後─────────────────
『試作品?』
「はい!新しい装置を作るには数年掛かるらしく…今、手元にあるものが試作品の冷凍保存装置しかないんです。」
『そんなので大丈夫なの…?』
「大丈夫ですよ!…………多分」
1週間後、私は研究所に呼び出された
どうやらコールドスリープの準備が整ったらしい
研究をしているうちに病気で死ぬ……なんてことも予想していたのだが、思ったよりも早く呼び出された。
…試作品という段階を除いては嬉しい出来事なはず
『本当に成功するの?』
「そ、それは…正直わかりません…飯田橋博士が研究に携わっているものなのでボクとしては信用しているのですが……」
『それにしては不安そうだね』
「心配くらいは、しますよ…それともボクがロボットだから不安の感情すら持っていないと思いましたか!?心外ですよ!」
『そこまで言ってないよ…ていうか、この間私が倒れた時に支えてくれなかったのちょっと恨んでるんだからね!』
「そ、そんなぁ…!急な動作には対応しきれませんよ……」
言いたいことを全て曝け出せた私は彼に従い冷凍保存装置に入った
”冷凍”だなんて言うから中は冷たいのかと思ったけれど、どうやら人が入って数分経たないとシステムが起動しない仕組みらしい。
「寝心地はどうですか?」
寝っ転がって天井を見上げてみたが意外と快適だ
これは100年間この体勢でも疲れなさそうで…いや、システムが起動した時点で眠りにつくんだから細部まで気にする必要はないか、と少しお気楽な自分がそこにいた
「じゃあ、もう少しでシステムが起動するのでボクは博士に伝え……」
『待って』
「え?なんですか?」
『100年後に起きたらキーボくんが居なくなってたとか、そういうオチはやめてよね』
「ボクはメンテナンスさえすれば半永久的に生きれますが」
『遠い未来の話、そんなの…メンテナンスしてくれる人達は居なくなってるでしょ』
「…わかってますよ……」
「話したいことはそれだけですか?それじゃあボクはもう行きます」
『なんかドライだなぁ…』
「…っ…!ボクだって色々考えているんです!このまま……」
『?』
「…話の続きは〇〇さんが起きた時にしましょう」
『え〜気になる』
「また、今度です」
”おやすみなさい”という言葉を最後に、私の意識は途切れた─────
─────────────────────
眩しい─
というよりも……
埃っぽい…
装置の上部に埃が溜まっているのがわかる その隙間から明るい貫くような光が差し込んでいて……
どうやら、装置の役目が終わったみたいだ
私は久しぶりに日の光を浴びた。
『確か…ん”んっ……ここを押したら開くはず…』
100年振りの発声で上手く声が出ない
こんな弊害があったなんて よく考えておくべきだったな…
”プシュー”という機械音と共に上部の扉がスライドして開く
鉛のような身体を起こし、周りを見渡してみると
『……こ、これは…』
どっしりとした重い空気を感じる。
かなり酷い いや、整理されたような跡はあるがそれにしても散らかっている
ここは廃墟…だろうか 眠りにつく前、私は研究所にいたはずで……
もしかして、これがその残骸なんだろうか?と思考を巡らせていると
ゆらりと黒い影が遠方に見えた
目覚めたばかりで視界がかすみ上手く確認できないが、意識を取り戻してから初めて見る人型に戦慄する。
『なんだ…ろう』
息を絞り出し、微かな恐怖と共にか細い声で呟くと黒い影がこちらに向かってきた
それもものすごいスピードで
一体何かと体を強ばらせて身構えると────
「〇〇、さんっ!」
聞き覚えのある声と共に体に衝撃を感じた
『うわっ…!あれ…キーボくん?』
「そうです!やっと起きたんですね!」
どうやら勢いよく抱きつかれてしまったようだ
『びっくりした…何その格好?』
「あ…!驚かせてしまってすみません 見た目に関しては話すと長くなるのですが……」
存在感のある装甲を身体中に着けていて、腕にはメカメカしい砲…?のようなものを装着している、しかも羽のような部品まで付属していて……まるで”武装”という言葉が似合うような、そんな見た目だ。
「実は…キミが眠っている間、紛争が世界各地で起きてしまって…100年間程は平和な日常が続いていたんですが、それ以降は争いが絶えない世の中になってしまったんです。」
『ふーん…って、あれ?その言い方だとまるで私が100年以上眠ってたみたいな……』
「いえ、間違いではありませんよ。キミは確かに100年以上この装置に入っていました」
驚愕した そんな…まさか……
『じゃ、じゃあ私は何年間ここにいたの?』
「そうですね…ざっと、200年程でしょうか」
『……』
「……」
『ごめん…寝過ごしたね』
「お寝坊さんなのは昔から変わってませんね……」
キーボはため息をひとつ その行為に愛情を感じる
「けれど、本当にキミのミスで200年間眠っていたわけじゃないんですよ?」
『…というと?』
「確か、キミが装置に入って98年経った時の話です その頃には既に進行性の癌に対する治療薬が発明されていたんです」
『じゃあ…私の病気は治るってこと?』
「そういうことになります というか、既に投与されてるんですよ」
『く、薬を?』
「はい」
知らなかった まさか眠っている間に治療が完了していただなんて……
「けれど…この治療薬には重大な欠点があったんです」
『欠点?』
「それは、完全な治療には100年掛かる という点です」
『ひゃ…100年……!?』
「それを聞いた人々は手のひら返しでその治療薬を猛烈に批判し始めました しかし、200年経った今でも、完璧に跡形もなく病気を無くせる万能な治療薬なんて発明されていないんですよ。」
「でもキミだけは投与にピッタリの患者だったんです」
『それは私が冷凍保存装置に入ってるから…ってこと?』
「そういうことです!その方法を思いついた富豪たちはすぐにでも実践しようと試みましたが…なんせ紛争で支配されている世の中です 装置ごと壊されてそのまま…なんてことばかりでした」
眠っていた頃の話を聞いて色々考えてしまった。
自分だけが助かってしまったという気持ちと、人の愚かさを痛感する気持ち。
複雑な感情を抱くのもまた人間らしくて彼は羨ましがるのだろうか
「気落ちしないでください 確かに悲しくて辛いことばかりでした…それでも、ボクはキミが無事に目覚めてくれたことが嬉しいんです」
『…武装してるってことはキーボくんも紛争に加担してたの?』
「なっ、まさか!そんなわけないです!確かに政府の権力者から誘われもしましたが…ボクには守らなければいけない人がいるでしょう?」
「キミのことですよ、〇〇さん。」
思わず黙ってしまう
こんなにも長くて気が遠くなりそうな期間を一人ぼっちで過ごさせてしまった、そんな申し訳ない感情が身体をせり上がる。
しかしその一方で”守らなければいけない人”が自分だという事実に頬を赤らめる
彼はまるで盾のような存在で、その言葉一つで彼を頼ってしまう。
「メカメカしい見た目は苦手なんですが…キミを守るためですから、手段は選びません!あ、でも本当に人は傷つけたりしてませんからね!」
『でもどうやって私を守り続けてたの?』
「そうですね………」
『……』
「……」
『…本当に人は傷つけてないんだよね?』
「え?はい もちろんですよ」
『ちょ、ちょっとなんで目逸らすの』
心に雲がかかる
思い出そうとして考え込んでいるだけなのか、もしくは………
彼なりの事情があったのだろうと考え、とりあえずその場は流すことにした。今回だけだよ。
『あ、そういえば』
脳裏に浮かぶあの頃の記憶。
私が装置に入って眠りにつく直前、彼が何か言いかけていた事を、次こそは勿体ぶらずに教えて欲しい。
「えっ…と……その時の…話ですか……?」
『ちゃんと教えてよ』
「わ…忘れました」
『へ〜200年の間に嘘をつくことまで出来るようになるとは 下手だけどね』
「す、すみませんっ!正直に言います…」
「あの…とても恥ずかしいのですが…”このままボクを一人ぼっちにするつもりなんですか?”と、言いたかったんです うう…忘れてください!」
見た目とは裏腹に、脇を締めてモジモジとしながらキーボは話し続ける
「あの時、本当は色んな話をしてしんみりとした雰囲気で別れたかったんです」
『しんみり…』
「でも、ボクが幼稚だったんです!わざと冷たくあしらって自分の寂しさを隠そうとして…あんなことに…」
『200年越しにスッキリした 私もキーボくんを一人ぼっちにさせちゃって申し訳ないなと思ってたの』
「そう…ですか」
キーボは恥ずかしそうに少しの笑みを浮かべながら答えた まるで、自分と同じことを思い続けてくれたのが嬉しいと言わんばかりの表情だ
「〇〇さんが望むなら、今の世界の現状を見せに行くことができますが…どうしますか?ボクが思うにこの廃墟でキミの命が尽きるまで一緒に過ごしてもいいと考えているんです」
『それは、現実を見ないで一生ここで暮らすってこと?』
「…そういうことになりますね。200年前とは随分見違えた世界になってしまいましたし……もちろん、悪い意味で。」
「食料はボクが調達しに行きますし、生活必需品だって尽きることなくキミに提供します!…正直、ここから出る行為はあまりおすすめしません」
きっと、それくらい凄惨な世界になったんだと直感する。
でも…彼が歩んできた世界を見てみたい 率直に言うと、好奇心が恐怖心より勝つのだ。
……何より、こんな武装状態のロボットを見て 自分の身に危険が迫っても絶対に大丈夫という安心感が芽生えた
「なに見つめてるんですか」
『いや、別に 外に出る決心を固めただけだよ』
「……わかりました」
この目で人が倒れていく様を幾度となく見てきたんだろう 彼の返答はたどたどしかった
「安心してください!何があってもキミを護ることを誓いますよ!」
無理しなくてもいいのに、なんてことを思う。
『それはプロポーズとして受け取ってもいいのかな?』
「なっ…!?」
顔の下半分が覆われていて表情が上手く読み取れないが これは絶対に照れている
私はキーボの口元を指さした
『それ、外せないの?』
「可能ですが…何故そんなことを?」
『外した方が表情よく見えていいな〜って』
「っ〜…///キミにからかわれるのも久しぶりで嬉しいですね…!」
『皮肉だなんてらしくない』
「と、とにかく!装置から起き上がってください 一緒に行くんでしょう?」
私はキーボに手を引かれ廃墟を後にした
ザクザク、と破片を踏みしめて歩く
世界は思っていた通り惨い状態になってしまっている
人影はもちろん見当たらず、植物がこの世界に根を張っていたことが嘘のようだ。
悲しいことに私たちが過ごしてきた街は跡形もなく崩れ落ちていた
ここには私の呼吸音と隣から静かに響く機械の稼働音だけが空間を支配する
「…こんな感じです それでもまだ歩き続けるんですか?」
私は言葉を返さずに無言で過去の惨状を踏みしめていった
何かが落ちてくる音を気にも留めずに────
すると大きな影が頭上を覆った。
衝撃の予感が脳に伝わる、何が起こったのかも分からず反射的に目を瞑ると──
「も、もう…!だから言ったじゃないですか、外に出るのはやめた方がいいと…!」
機械的な銃声音が聞こえた後に、キーボは少し焦ったような口調で喋る。
どうやら知らない間に上から大きなコンクリートの塊が落下してきたようで、
好奇心に支配されていた心が一瞬で恐怖心に覆された。
『ご、ごめん』
無意識なのかどうかは分からないが、私の体を自身の体に寄せて護ってくれた彼には感謝しなければならないなとも思った
「あ…!す、すみませんっ!キミを守ることに必死で抱きつくような形になってしまって……」
先程と違い顔の下半分が確認できる状態なので、赤面している顔が簡単に確認できる。
「これに懲りたら危ない行動は控えることですね!」
ふたりの体が離れた後に彼はそう続ける
地面と一生キスをする羽目になるところだったのだ それくらい言われても当然だなと意気消沈する
ふと疑問が浮かんだ
『…ちなみに、聞いてなかったんだけど今の世界って人間はいるの?』
「いますよ けれど皆さん別の区域に避難しています、それもここからかなり遠い場所に。ボク達がいる地区は人が住めないと判断された場所なのでこのように廃墟と化しているんです」
まさか自分以外にも生きている人間がいるとは
少しだけ頬が緩んだ
その表情を見たからなのか、彼はこんな提案をしてきた
「……あの、もしキミが移住可能区域に行きたいのであればボクは止めません」
『えっ、』
「もちろんその場所までしっかり安全に連れていきますし、キミの考えは尊重したいんです!」
『なんでそんなこと……』
「そ、それはこっちのセリフです!人間が生きているかの有無を聞くということは、これからは他の人間と過ごしていきたい…ということですよね?……違うんですか?」
キーボはつま先に顔を向け 言葉を発する
感情の奥に水が溜まっているような、それを抑え込むのに必死なのだと察した。
そのダムが決壊したらもう元の関係には戻れないと考えてしまうほどに、200年という期間は私たちには繊細すぎたのかもしれない。
『行って欲しくないの?』
「もちろんです!しかし、〇〇さんの歩む人生です。ボクと一緒にいることは強制できません…」
あーあ と、しかめていた眉が緩む
『キーボくんの所以外に行く場所なんてないよ』
「えっ、そう…なんですか?」
『200年間も眠り続けてたんだもん どんな人がいるかも分からないし、何よりキーボくんと一緒に過ごしていきたいんだ』
「〇〇さん……」
すると彼は思い立ったかのようにバッと勢いよく私の両手を取り
「ボクと結婚しましょう!」
その発言は脳に直接届けられた 言葉の直送便だ。
私の思考はハッキングされたのか、頭の中はハテナで溢れている。
そもそもロボットと結婚できる法律なんか…いや、こんな世界じゃ法律なんて無いも同じだろうけど
『何を言い出すのかと思ったら…どういうこと…?』
「ボクのお嫁さんになって欲しいという意味です!ボクが夫でキミが妻、なんですよ!」
目を輝かせて話を続けているが、ただでさえこんな世界になってしまったことすら把握しきれていないのに 唐突の求婚に混乱する
『え、えっと……』
「ダメ…ですか?」
『ダメじゃ…ない、けど 急だなって』
「…!では今すぐ式を挙げましょう!」
いそいそと片腕に着けていたメカメカしい砲を取り外し、見慣れた腕になったと思ったらいつの間にか彼の手には立派な指輪が握られていた
「本当は正式な場所で式を挙げたいところですが…」
『そ、そんなことより何その指輪…!?』
「キミが目覚める前に近くの廃墟で見つけた代物です しっかりとした素材で作られているんですよ!こんなにも素敵な指輪を見つけることが出来たなんて……褒めてもらっても構わないんですよ?」
『自信満々に胸を張って答えてるけど、要するに盗みを働いたっていう…』
「なっ…!確かにそう見えるかもしれませんが、持ち主不明となった今、有効活用しないとこの指輪にも失礼ですよね?」
多分そういうことでは無いと思う
複雑だが、心は正直で私の行く先は彼に矢印が向いていた。
『……』
「あの…帰ってから指輪を渡しましょうか…?」
『懸念点はそこじゃないって』
朽ちたコンクリートと剥き出しの鉄骨が立ち並んでいるこんな世界でも愛を誓い合える場を作れるなんて 起きてすぐは考えもしなかった
「少し…後悔があるとすれば、キミのウェディングドレス姿を見てみたかったんですが…こんな環境ですし…結婚式の文化自体廃れてきているんですよ 生きるのに必死で、ゆっくりとした時間すら過ごせないんです」
『じゃあ 今誓い合おうとしているこの時間は貴重、ってこと?』
「そうです!ボクたちは世界中の誰よりも幸せなんですよ」
幸せの基準なんて人それぞれだろう
…けど、胸の内が熱くなっているのは確かだ。
これが”幸せ”なんだとしたら、案外この世界で過ごす生活も悪くないんじゃないかと錯覚してしまう。
『部品が故障したりして、私より先にキーボくんが居なくなっちゃうのは嫌なんだけど』
「そこは安心してもらって大丈夫です!自らメンテナンスする技術を200年の間に身につけたので」
『へぇ……』
「ボクだって、キミが居なくなる時を想像したくありません。寿命で言えばキミの方が先に亡くなってしまうんですから」
つい自身の唇を噛み締めてしまう 喉の奥でつっかえている感情は既に迷子だ
「…もし、その時が来たらボクの全機能を停止させようと思っているんです」
瞬きを三回ほどする その言の葉が呪いのように感じて
「この世界は再起不能な所まで来てしまいました このまま行くと人類は絶滅し、果てしなく長い年月をかけて地球が破壊されることを待つしかないんです」
「人間が始めた紛争で絶滅の一歩を辿ることになるなんて…」
苦笑を浮かべながら彼は言葉を紡ぐ
たった200年、されど200年で、人類の歴史が終わろうとしているのだ。
残された選択は”私と生きて共に尽きる”これだけなのだと、理解した。
「……あの時、ボクが勢力に加勢していればこんなことはならなかったんでしょうか もしかして、紛争はボクの手で止めるべきだったんでしょうか?」
私の瞳には苦悩の表情を浮かべる超高校級のロボットが映っていた
轟音をこの体で感じ、争いをこの腕で経験して、そしてまた悩む。
「でも…でも、ボクはこんな世界でもキミと生きていきたいんです!混沌とした世の中でも〇〇さんとなら…ボクは……!」
私の両手をギュッと握り一生懸命に言葉を伝える こんなにもロマンチックなロボがかつて存在しただろうか?
彼の顔の熱が手から伝わってくるような、そんな気がする。
「だから…ボクと け、結婚…して……ください!」
心はとっくのとうに頷いている あとはそれを口に出すだけ
『 』
「…〇〇さん…今、確かに……」
200年という長い沈黙に終止符を打った
「〇〇さん…!〇〇さん…っ!ありがとうございます!」
喜びの声をあげたと同時に私の左手を取り指輪をはめ、所謂恋人繋ぎという状態にされた。
こちらの恥じらいもお構い無しに、という感じで
「もうボクから離れたりしないでくださいね もう、一人にしないでください…」
手に掛かる圧が増す
感極まった声で呟いた姿を見て私は思わず彼を抱きしめた
…装甲が硬い けれどこの不快感を体感できること自体幸せなことなのだとすぐに気がついた
「ボクに涙腺が存在したら、今頃涙が止まらなかったでしょうね 嬉し泣きすら出来ないのは少々寂しいですが…」
『自分でメンテナンス出来るのに涙を流す機能は追加しなかったんだ?』
「それはメンテナンス…というより、改造にあたりますし……」
「それに、ボクが泣いていたらいけないんです。キミの涙はボクが拭うべきですから」
辛くて惨いこんな世界でも助け合って生きていくことが出来る 二人で証明すると心に誓った
自分たちだけの希望を見つけ出して───
END
周りからは”若いのに可哀想”とか、”もう為す術がない”とか そんなことばかり言われた
特にショックでもなかったけれど、最後なんだとしたら一応伝えておこうと思い 今ここにいる。
「癌…ですか?」
あの子には報告しておきたかった。
「そ、そんな…進行度はどのくらいなんですか?まだ治療できる段階かもしれません!」
治療できるなら既にしている 見つかるのが遅く、ただ死を待つだけという旨を簡潔に伝える。
それを聞くと彼は悲哀の表情を浮かべた
……そんな顔をされるとなんだか変な気持ちになる
まだ生きるべきだろうか?本当にどうにもならないんだろうか?
そんな考えが頭を過ぎる
「嫌です…ボク、キミと生きる未来を見てみたいと思ってたんですよ そ、それなのに………」
ロボでも言葉に詰まることがあるのかと、この期に及んで感心してしまった
一瞬の静寂の後、彼が口を開いた
「…ボク、博士に相談してみます。」
「この間博士の部屋で冷凍保存に関する書類を見かけたんです!もしかしたら100年後には進行性の癌を直せる技術が発見されているかもしれません」
しかし、冷凍保存の技術を持った機械を作るのにどれだけの時間を要するのだろうか?
そもそも気軽な気持ちで話すんじゃなかったと少し後悔している。
話の規模が大きくなりすぎているのだ
100年後?冷凍保存?治療法の発見?あまりにも話が飛躍している
「…なんとか言ってくださいよ、キミが何を考えているのかボクにはわかりません」
「……絶対にキミを助けたいんです その…〇〇さんは…ボ、ボクに特別な感情を教えてくれた人ですし……」
キーボは両手の人差し指をツンと合わせながらそう呟く
「人間の寿命は永久ではない、そんなことくらいボクだって分かります。けれど…こんな終わり方じゃなくたっていいと思うんです」
「…それともキミは自然の摂理として自分の運命を受け入れるんですか?」
どうすればいいのか もはや私にはわからない
……ついさっき
”まだ生きるべきだろうか?本当にどうにもならないんだろうか?”
こんなことを思ってしまった人が考えることは一つで──
…超高校級のロボットと生きる未来を歩んでみたくなった
そう言えば本音になるだろうか────
考えすぎか、または病気のせいか 雷のような痛みが頭を駆け巡る
あぁ…もしここで自分が倒れても、彼は受け止めきれずに一緒になだれ込んでしまうんだろうなぁ……
なんてことを考えていると、いつの間にか膝は地面についていた 意識ごと持っていかれるような感覚に見舞われ そこで視界は暗転する。
1週間後─────────────────
『試作品?』
「はい!新しい装置を作るには数年掛かるらしく…今、手元にあるものが試作品の冷凍保存装置しかないんです。」
『そんなので大丈夫なの…?』
「大丈夫ですよ!…………多分」
1週間後、私は研究所に呼び出された
どうやらコールドスリープの準備が整ったらしい
研究をしているうちに病気で死ぬ……なんてことも予想していたのだが、思ったよりも早く呼び出された。
…試作品という段階を除いては嬉しい出来事なはず
『本当に成功するの?』
「そ、それは…正直わかりません…飯田橋博士が研究に携わっているものなのでボクとしては信用しているのですが……」
『それにしては不安そうだね』
「心配くらいは、しますよ…それともボクがロボットだから不安の感情すら持っていないと思いましたか!?心外ですよ!」
『そこまで言ってないよ…ていうか、この間私が倒れた時に支えてくれなかったのちょっと恨んでるんだからね!』
「そ、そんなぁ…!急な動作には対応しきれませんよ……」
言いたいことを全て曝け出せた私は彼に従い冷凍保存装置に入った
”冷凍”だなんて言うから中は冷たいのかと思ったけれど、どうやら人が入って数分経たないとシステムが起動しない仕組みらしい。
「寝心地はどうですか?」
寝っ転がって天井を見上げてみたが意外と快適だ
これは100年間この体勢でも疲れなさそうで…いや、システムが起動した時点で眠りにつくんだから細部まで気にする必要はないか、と少しお気楽な自分がそこにいた
「じゃあ、もう少しでシステムが起動するのでボクは博士に伝え……」
『待って』
「え?なんですか?」
『100年後に起きたらキーボくんが居なくなってたとか、そういうオチはやめてよね』
「ボクはメンテナンスさえすれば半永久的に生きれますが」
『遠い未来の話、そんなの…メンテナンスしてくれる人達は居なくなってるでしょ』
「…わかってますよ……」
「話したいことはそれだけですか?それじゃあボクはもう行きます」
『なんかドライだなぁ…』
「…っ…!ボクだって色々考えているんです!このまま……」
『?』
「…話の続きは〇〇さんが起きた時にしましょう」
『え〜気になる』
「また、今度です」
”おやすみなさい”という言葉を最後に、私の意識は途切れた─────
─────────────────────
眩しい─
というよりも……
埃っぽい…
装置の上部に埃が溜まっているのがわかる その隙間から明るい貫くような光が差し込んでいて……
どうやら、装置の役目が終わったみたいだ
私は久しぶりに日の光を浴びた。
『確か…ん”んっ……ここを押したら開くはず…』
100年振りの発声で上手く声が出ない
こんな弊害があったなんて よく考えておくべきだったな…
”プシュー”という機械音と共に上部の扉がスライドして開く
鉛のような身体を起こし、周りを見渡してみると
『……こ、これは…』
どっしりとした重い空気を感じる。
かなり酷い いや、整理されたような跡はあるがそれにしても散らかっている
ここは廃墟…だろうか 眠りにつく前、私は研究所にいたはずで……
もしかして、これがその残骸なんだろうか?と思考を巡らせていると
ゆらりと黒い影が遠方に見えた
目覚めたばかりで視界がかすみ上手く確認できないが、意識を取り戻してから初めて見る人型に戦慄する。
『なんだ…ろう』
息を絞り出し、微かな恐怖と共にか細い声で呟くと黒い影がこちらに向かってきた
それもものすごいスピードで
一体何かと体を強ばらせて身構えると────
「〇〇、さんっ!」
聞き覚えのある声と共に体に衝撃を感じた
『うわっ…!あれ…キーボくん?』
「そうです!やっと起きたんですね!」
どうやら勢いよく抱きつかれてしまったようだ
『びっくりした…何その格好?』
「あ…!驚かせてしまってすみません 見た目に関しては話すと長くなるのですが……」
存在感のある装甲を身体中に着けていて、腕にはメカメカしい砲…?のようなものを装着している、しかも羽のような部品まで付属していて……まるで”武装”という言葉が似合うような、そんな見た目だ。
「実は…キミが眠っている間、紛争が世界各地で起きてしまって…100年間程は平和な日常が続いていたんですが、それ以降は争いが絶えない世の中になってしまったんです。」
『ふーん…って、あれ?その言い方だとまるで私が100年以上眠ってたみたいな……』
「いえ、間違いではありませんよ。キミは確かに100年以上この装置に入っていました」
驚愕した そんな…まさか……
『じゃ、じゃあ私は何年間ここにいたの?』
「そうですね…ざっと、200年程でしょうか」
『……』
「……」
『ごめん…寝過ごしたね』
「お寝坊さんなのは昔から変わってませんね……」
キーボはため息をひとつ その行為に愛情を感じる
「けれど、本当にキミのミスで200年間眠っていたわけじゃないんですよ?」
『…というと?』
「確か、キミが装置に入って98年経った時の話です その頃には既に進行性の癌に対する治療薬が発明されていたんです」
『じゃあ…私の病気は治るってこと?』
「そういうことになります というか、既に投与されてるんですよ」
『く、薬を?』
「はい」
知らなかった まさか眠っている間に治療が完了していただなんて……
「けれど…この治療薬には重大な欠点があったんです」
『欠点?』
「それは、完全な治療には100年掛かる という点です」
『ひゃ…100年……!?』
「それを聞いた人々は手のひら返しでその治療薬を猛烈に批判し始めました しかし、200年経った今でも、完璧に跡形もなく病気を無くせる万能な治療薬なんて発明されていないんですよ。」
「でもキミだけは投与にピッタリの患者だったんです」
『それは私が冷凍保存装置に入ってるから…ってこと?』
「そういうことです!その方法を思いついた富豪たちはすぐにでも実践しようと試みましたが…なんせ紛争で支配されている世の中です 装置ごと壊されてそのまま…なんてことばかりでした」
眠っていた頃の話を聞いて色々考えてしまった。
自分だけが助かってしまったという気持ちと、人の愚かさを痛感する気持ち。
複雑な感情を抱くのもまた人間らしくて彼は羨ましがるのだろうか
「気落ちしないでください 確かに悲しくて辛いことばかりでした…それでも、ボクはキミが無事に目覚めてくれたことが嬉しいんです」
『…武装してるってことはキーボくんも紛争に加担してたの?』
「なっ、まさか!そんなわけないです!確かに政府の権力者から誘われもしましたが…ボクには守らなければいけない人がいるでしょう?」
「キミのことですよ、〇〇さん。」
思わず黙ってしまう
こんなにも長くて気が遠くなりそうな期間を一人ぼっちで過ごさせてしまった、そんな申し訳ない感情が身体をせり上がる。
しかしその一方で”守らなければいけない人”が自分だという事実に頬を赤らめる
彼はまるで盾のような存在で、その言葉一つで彼を頼ってしまう。
「メカメカしい見た目は苦手なんですが…キミを守るためですから、手段は選びません!あ、でも本当に人は傷つけたりしてませんからね!」
『でもどうやって私を守り続けてたの?』
「そうですね………」
『……』
「……」
『…本当に人は傷つけてないんだよね?』
「え?はい もちろんですよ」
『ちょ、ちょっとなんで目逸らすの』
心に雲がかかる
思い出そうとして考え込んでいるだけなのか、もしくは………
彼なりの事情があったのだろうと考え、とりあえずその場は流すことにした。今回だけだよ。
『あ、そういえば』
脳裏に浮かぶあの頃の記憶。
私が装置に入って眠りにつく直前、彼が何か言いかけていた事を、次こそは勿体ぶらずに教えて欲しい。
「えっ…と……その時の…話ですか……?」
『ちゃんと教えてよ』
「わ…忘れました」
『へ〜200年の間に嘘をつくことまで出来るようになるとは 下手だけどね』
「す、すみませんっ!正直に言います…」
「あの…とても恥ずかしいのですが…”このままボクを一人ぼっちにするつもりなんですか?”と、言いたかったんです うう…忘れてください!」
見た目とは裏腹に、脇を締めてモジモジとしながらキーボは話し続ける
「あの時、本当は色んな話をしてしんみりとした雰囲気で別れたかったんです」
『しんみり…』
「でも、ボクが幼稚だったんです!わざと冷たくあしらって自分の寂しさを隠そうとして…あんなことに…」
『200年越しにスッキリした 私もキーボくんを一人ぼっちにさせちゃって申し訳ないなと思ってたの』
「そう…ですか」
キーボは恥ずかしそうに少しの笑みを浮かべながら答えた まるで、自分と同じことを思い続けてくれたのが嬉しいと言わんばかりの表情だ
「〇〇さんが望むなら、今の世界の現状を見せに行くことができますが…どうしますか?ボクが思うにこの廃墟でキミの命が尽きるまで一緒に過ごしてもいいと考えているんです」
『それは、現実を見ないで一生ここで暮らすってこと?』
「…そういうことになりますね。200年前とは随分見違えた世界になってしまいましたし……もちろん、悪い意味で。」
「食料はボクが調達しに行きますし、生活必需品だって尽きることなくキミに提供します!…正直、ここから出る行為はあまりおすすめしません」
きっと、それくらい凄惨な世界になったんだと直感する。
でも…彼が歩んできた世界を見てみたい 率直に言うと、好奇心が恐怖心より勝つのだ。
……何より、こんな武装状態のロボットを見て 自分の身に危険が迫っても絶対に大丈夫という安心感が芽生えた
「なに見つめてるんですか」
『いや、別に 外に出る決心を固めただけだよ』
「……わかりました」
この目で人が倒れていく様を幾度となく見てきたんだろう 彼の返答はたどたどしかった
「安心してください!何があってもキミを護ることを誓いますよ!」
無理しなくてもいいのに、なんてことを思う。
『それはプロポーズとして受け取ってもいいのかな?』
「なっ…!?」
顔の下半分が覆われていて表情が上手く読み取れないが これは絶対に照れている
私はキーボの口元を指さした
『それ、外せないの?』
「可能ですが…何故そんなことを?」
『外した方が表情よく見えていいな〜って』
「っ〜…///キミにからかわれるのも久しぶりで嬉しいですね…!」
『皮肉だなんてらしくない』
「と、とにかく!装置から起き上がってください 一緒に行くんでしょう?」
私はキーボに手を引かれ廃墟を後にした
ザクザク、と破片を踏みしめて歩く
世界は思っていた通り惨い状態になってしまっている
人影はもちろん見当たらず、植物がこの世界に根を張っていたことが嘘のようだ。
悲しいことに私たちが過ごしてきた街は跡形もなく崩れ落ちていた
ここには私の呼吸音と隣から静かに響く機械の稼働音だけが空間を支配する
「…こんな感じです それでもまだ歩き続けるんですか?」
私は言葉を返さずに無言で過去の惨状を踏みしめていった
何かが落ちてくる音を気にも留めずに────
すると大きな影が頭上を覆った。
衝撃の予感が脳に伝わる、何が起こったのかも分からず反射的に目を瞑ると──
「も、もう…!だから言ったじゃないですか、外に出るのはやめた方がいいと…!」
機械的な銃声音が聞こえた後に、キーボは少し焦ったような口調で喋る。
どうやら知らない間に上から大きなコンクリートの塊が落下してきたようで、
好奇心に支配されていた心が一瞬で恐怖心に覆された。
『ご、ごめん』
無意識なのかどうかは分からないが、私の体を自身の体に寄せて護ってくれた彼には感謝しなければならないなとも思った
「あ…!す、すみませんっ!キミを守ることに必死で抱きつくような形になってしまって……」
先程と違い顔の下半分が確認できる状態なので、赤面している顔が簡単に確認できる。
「これに懲りたら危ない行動は控えることですね!」
ふたりの体が離れた後に彼はそう続ける
地面と一生キスをする羽目になるところだったのだ それくらい言われても当然だなと意気消沈する
ふと疑問が浮かんだ
『…ちなみに、聞いてなかったんだけど今の世界って人間はいるの?』
「いますよ けれど皆さん別の区域に避難しています、それもここからかなり遠い場所に。ボク達がいる地区は人が住めないと判断された場所なのでこのように廃墟と化しているんです」
まさか自分以外にも生きている人間がいるとは
少しだけ頬が緩んだ
その表情を見たからなのか、彼はこんな提案をしてきた
「……あの、もしキミが移住可能区域に行きたいのであればボクは止めません」
『えっ、』
「もちろんその場所までしっかり安全に連れていきますし、キミの考えは尊重したいんです!」
『なんでそんなこと……』
「そ、それはこっちのセリフです!人間が生きているかの有無を聞くということは、これからは他の人間と過ごしていきたい…ということですよね?……違うんですか?」
キーボはつま先に顔を向け 言葉を発する
感情の奥に水が溜まっているような、それを抑え込むのに必死なのだと察した。
そのダムが決壊したらもう元の関係には戻れないと考えてしまうほどに、200年という期間は私たちには繊細すぎたのかもしれない。
『行って欲しくないの?』
「もちろんです!しかし、〇〇さんの歩む人生です。ボクと一緒にいることは強制できません…」
あーあ と、しかめていた眉が緩む
『キーボくんの所以外に行く場所なんてないよ』
「えっ、そう…なんですか?」
『200年間も眠り続けてたんだもん どんな人がいるかも分からないし、何よりキーボくんと一緒に過ごしていきたいんだ』
「〇〇さん……」
すると彼は思い立ったかのようにバッと勢いよく私の両手を取り
「ボクと結婚しましょう!」
その発言は脳に直接届けられた 言葉の直送便だ。
私の思考はハッキングされたのか、頭の中はハテナで溢れている。
そもそもロボットと結婚できる法律なんか…いや、こんな世界じゃ法律なんて無いも同じだろうけど
『何を言い出すのかと思ったら…どういうこと…?』
「ボクのお嫁さんになって欲しいという意味です!ボクが夫でキミが妻、なんですよ!」
目を輝かせて話を続けているが、ただでさえこんな世界になってしまったことすら把握しきれていないのに 唐突の求婚に混乱する
『え、えっと……』
「ダメ…ですか?」
『ダメじゃ…ない、けど 急だなって』
「…!では今すぐ式を挙げましょう!」
いそいそと片腕に着けていたメカメカしい砲を取り外し、見慣れた腕になったと思ったらいつの間にか彼の手には立派な指輪が握られていた
「本当は正式な場所で式を挙げたいところですが…」
『そ、そんなことより何その指輪…!?』
「キミが目覚める前に近くの廃墟で見つけた代物です しっかりとした素材で作られているんですよ!こんなにも素敵な指輪を見つけることが出来たなんて……褒めてもらっても構わないんですよ?」
『自信満々に胸を張って答えてるけど、要するに盗みを働いたっていう…』
「なっ…!確かにそう見えるかもしれませんが、持ち主不明となった今、有効活用しないとこの指輪にも失礼ですよね?」
多分そういうことでは無いと思う
複雑だが、心は正直で私の行く先は彼に矢印が向いていた。
『……』
「あの…帰ってから指輪を渡しましょうか…?」
『懸念点はそこじゃないって』
朽ちたコンクリートと剥き出しの鉄骨が立ち並んでいるこんな世界でも愛を誓い合える場を作れるなんて 起きてすぐは考えもしなかった
「少し…後悔があるとすれば、キミのウェディングドレス姿を見てみたかったんですが…こんな環境ですし…結婚式の文化自体廃れてきているんですよ 生きるのに必死で、ゆっくりとした時間すら過ごせないんです」
『じゃあ 今誓い合おうとしているこの時間は貴重、ってこと?』
「そうです!ボクたちは世界中の誰よりも幸せなんですよ」
幸せの基準なんて人それぞれだろう
…けど、胸の内が熱くなっているのは確かだ。
これが”幸せ”なんだとしたら、案外この世界で過ごす生活も悪くないんじゃないかと錯覚してしまう。
『部品が故障したりして、私より先にキーボくんが居なくなっちゃうのは嫌なんだけど』
「そこは安心してもらって大丈夫です!自らメンテナンスする技術を200年の間に身につけたので」
『へぇ……』
「ボクだって、キミが居なくなる時を想像したくありません。寿命で言えばキミの方が先に亡くなってしまうんですから」
つい自身の唇を噛み締めてしまう 喉の奥でつっかえている感情は既に迷子だ
「…もし、その時が来たらボクの全機能を停止させようと思っているんです」
瞬きを三回ほどする その言の葉が呪いのように感じて
「この世界は再起不能な所まで来てしまいました このまま行くと人類は絶滅し、果てしなく長い年月をかけて地球が破壊されることを待つしかないんです」
「人間が始めた紛争で絶滅の一歩を辿ることになるなんて…」
苦笑を浮かべながら彼は言葉を紡ぐ
たった200年、されど200年で、人類の歴史が終わろうとしているのだ。
残された選択は”私と生きて共に尽きる”これだけなのだと、理解した。
「……あの時、ボクが勢力に加勢していればこんなことはならなかったんでしょうか もしかして、紛争はボクの手で止めるべきだったんでしょうか?」
私の瞳には苦悩の表情を浮かべる超高校級のロボットが映っていた
轟音をこの体で感じ、争いをこの腕で経験して、そしてまた悩む。
「でも…でも、ボクはこんな世界でもキミと生きていきたいんです!混沌とした世の中でも〇〇さんとなら…ボクは……!」
私の両手をギュッと握り一生懸命に言葉を伝える こんなにもロマンチックなロボがかつて存在しただろうか?
彼の顔の熱が手から伝わってくるような、そんな気がする。
「だから…ボクと け、結婚…して……ください!」
心はとっくのとうに頷いている あとはそれを口に出すだけ
『 』
「…〇〇さん…今、確かに……」
200年という長い沈黙に終止符を打った
「〇〇さん…!〇〇さん…っ!ありがとうございます!」
喜びの声をあげたと同時に私の左手を取り指輪をはめ、所謂恋人繋ぎという状態にされた。
こちらの恥じらいもお構い無しに、という感じで
「もうボクから離れたりしないでくださいね もう、一人にしないでください…」
手に掛かる圧が増す
感極まった声で呟いた姿を見て私は思わず彼を抱きしめた
…装甲が硬い けれどこの不快感を体感できること自体幸せなことなのだとすぐに気がついた
「ボクに涙腺が存在したら、今頃涙が止まらなかったでしょうね 嬉し泣きすら出来ないのは少々寂しいですが…」
『自分でメンテナンス出来るのに涙を流す機能は追加しなかったんだ?』
「それはメンテナンス…というより、改造にあたりますし……」
「それに、ボクが泣いていたらいけないんです。キミの涙はボクが拭うべきですから」
辛くて惨いこんな世界でも助け合って生きていくことが出来る 二人で証明すると心に誓った
自分たちだけの希望を見つけ出して───
END
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