短編
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私は感情を正しく理解することができません。
……いえ、正確には頭では理解ができます。そういうものだと形だけでも共感することは可能です。ただ、私自身が同じように感情を抱けるかと言われてしまえば、それは不可能だというだけのことで…。
『シェリーちゃんは優しいね』
「え〜!名前さんっ。いきなりどうしたんですか?」
急に褒められて悪い気はしないけど、少し驚いてしまう。ズイっと真意を確かめるように名前さんに接近すると両手で顔を押さえられてしまいました。
「おやおや〜?この手はなんですか?」
『……近いっ』
「さては名前さんテレてますねっ!テレちゃってますよね?」
力を込めすぎないように精一杯加減して名前さんの手を顔から剥がし、シェリーちゃんは逃げられないように名前さんの手を掴んだまま、顔を急接近させました。
……それは、名前さんの顔があまりにも紅かったので、ほとんど無意識でしたが。
『っ、シェリーちゃん。痛い…』
「あ。すみません!」
またまた無意識で握る力が入っていたらしい手を勢い良く私は離しました。
怪力の魔法は、人ひとり壊すぐらいなんでもないので、誰かに触る時は細心の注意を払わなきゃいけなくて、シェリーちゃんも結構苦労しているのです。
「怪我はありませんか?」
『うん。ちょっと痛んだぐらいだから大丈夫だよ』
私を安心させようと微笑む名前さんに、私は明るく笑みを返しました。
「そうですか。良かったです!今回は失敗しちゃいましたけど、次は失敗しないように頑張るので、これに懲りずに仲良くしてくださいねっ」
『当然だよ!これぐらいでシェリーちゃんのこと嫌になったりしないし、私シェリーちゃんのこと大好き…だ、から…っ』
「……大好き?私を?」
うーんと首を捻る。そんな好きだと思ってもらえることをした記憶がなかったから、シェリーちゃんは不思議で仕方なくて考え込んでしまいました。
探究心、興味が擽られてまた名前さんの顔を覗き込むみたいに近づきました。
今度は無意識ではなく、私自身の意思で。
「……それは、友だちだからでしょうか?短期間の間に好きになってもらえたんだとしたら、シェリーちゃんも嬉しいんですけど〜…」
名前さんの私に対する態度は、エマさんやハンナさんとも違っていて、正直あまり好かれていないとさえ思っていたから腑に落ちません。
好きだといってもらえるのは嬉しいですが、友だちにそんな嘘をつかれていたらと思うと、ついつい疑いの目で見てしまいました。
そんなシェリーちゃんに気づかれてしまったのか名前さんは少しつらそうに顔を歪ませてしまいました。
『シェリーちゃんは明るくて真っ直ぐで優しくて、でも隠すのはちょっと下手だよね…』
「えへへ〜。たしかにそうかもしれませんね!……でも、名前さんは私のことを少し買いかぶりすぎじゃないですか?まぁ、好かれるのも褒められるのも嬉しいので、別にいいんですけどねっ!」
シェリーちゃんの言葉に何やらスイッチが入ってしまったらしい名前さんが、私の手を両手でぎゅっと掴んできました。
さすがに驚いて、わっ!と声を上げたのもおかまいなしに名前さんの綺麗な瞳が私を見つめて、それから顔が近づいてきました。
『そんなことない!私ホントの本当にシェリーちゃんのこと好きで、見てたからわかるよ』
「そ、そうなんですね!」
『嘘なんかじゃないからね!』
「……」
さすがにもう疑う気はなくなっていました。
少しの間、無言で見つめあっていた名前さんが近い距離に耐えられなくなったのか、そろそろと急に勢いを失って私から手を離し、離れていくのを見て、少し残念に思ってしまいました。……残念に?どうして?
「名前さんは私のことが好きなんですよね?じゃあ、ハンナさんやエマさんにメルルさんのことは?」
『もちろんみんなのことも好きだよ。でも、シェリーちゃんは特別』
「……それがわからないんです!みんな好きなら、そこからどう違って何をどう思って私のことが特別だと感じたんですか?教えてくださいよ〜!」
どうしてもわからない。なんで私なのか。
名前さんが何故、私を特別だと思ったのか。
それを私はどうしても知りたいと思いました。
「名前さんっ」
ずいっと名前さんが離れた距離分を埋めるように近づきました。
「もう一度、シェリーちゃん好き大好き愛してるって言ってくれませんか?」
『あ、愛してるはまだ言ったことないよね!?』
「え〜。そうでしたっけ?……あ!でも、まだってことはいずれは言ってくれるんですよね?」
一度も言われたことがない言葉を聞きたくて、期待の眼差しで名前さんを見つめれば、名前さんは真っ赤な顔で『シェリーちゃんのバカ〜!』なんて言いながら、顔を隠して走って行ってしまいました。
それをキョトンと見送ってしばらく、私は我に返って名前さんのことを追いかけることに決めて走り出しました。
「もう〜、バカじゃなくて愛してるって言ってくださ〜い!」
こうして、パタパタ追いかける私と、そんな私から逃げる名前さんの攻防戦は夕食の時間まで続いたのでした。
