短編
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『ありがとう!ミリアちゃん大好き!』
あぁ…、またなのね。
無邪気に愛の言葉を放つ彼女に、私は些か冷ややかな視線を向けてしまう。
苗字名前ちゃん。彼女はすぐに愛の言葉を口にする。わかってる。名前ちゃんの言う好きはお礼や挨拶みたいなもので、私が思っているものではないことは、わかっているはずなのに…。
まるで、モヤモヤと黒い霧のような嫌なものに胸の奥が侵食されていくような…、そんな不快さから逃れようと私は踵を返したけれど、それはどうやら一歩遅かったようで――
『あ、マーゴちゃん!』
こちらに気づいた名前ちゃんが私に向かって軽く手を振っている。ふんわりと人好きされそうな可愛らしい笑顔を携えた彼女に、私の身体は無意識に警戒心で固まってしまう。……けれど、それもほんの数秒のことで、私はゆっくりと名前ちゃんの側まで近寄って首を傾げた。
「ふふっ。何かしら?」
『マーゴちゃんこれ必要かなって思って…』
そう言って少し自信なさげに彼女が差し出してきた本は、絵本のようだった。
それは幼い子供が読むような、そんなありふれた御伽噺。ただ普通とは違っていることがある。シンデレラ、白雪姫、桃太郎……のような一度は見た事ある話しではなかった。魔女が主人公の手書きの絵本。誰かが小さい子の為に作ったような手作り感溢れる物だった。
捲ってみると何処か拙い日本語で様々な魔法が描かれている。
「これは…、もしかしたら魔女の本の解読にも役立つかも。ありがとう。名前ちゃん」
『ううん。役に立ちそうなら良かった』
「何かお礼しなくちゃ。……そうねぇ。一緒にシャワーを浴びて私が名前ちゃんの背中を流したりだとか?もちろん、全身隈なく洗ってあげるのでもいいけれど」
『っ!い、いい!大丈夫…!』
「あら、そう?残念」
恥じらう名前ちゃんにクスクス笑えば、真っ赤な顔で「じゃ、じゃあ…!」って逃げて行ってしまった。
私は彼女に苦手意識がある。けれど何故か、からかいたくなってしまうし、反応を見て可愛いとも思ってしまう。
それは一体何故?――自分でも分からない矛盾した感情に戸惑った。
**********
「マーゴくんは、名前くんのことが好きなのか?」
「……何故そう思ったのか聞かせてもらってもいいかしら?」
「もちろんだとも!目は口ほどに物を言うとはよく言うだろう?……私は職業柄、人の視線には敏感でね。マーゴくんはいつもよく名前くんを見つめているからそうなんじゃないかと思ったんだ」
「……そう。けど、それは間違いね。たまたま名前ちゃんを見てる時にレイアちゃんが私を見ただけにすぎないわ。だって、レイアちゃんはずっと私を見ている訳じゃないでしょう?」
「それはそうだが、」
「それにそんなことを言ってしまったら、レイアちゃんがよく見ている私を好きだということになるんじゃないかしら?」
そう。こんなものは恋じゃない。
恋はもっとキラキラして綺麗で素敵なものなはずだもの。
だからこれは、きっと違う。
私がメルルちゃんに抱いている感情こそが、正しいはずだもの。
**********
処刑台の上で私は私の愛を否定された。
どうやら私の愛は正しくなかったみたい。私は本当の愛とやらをわかっていなかった。
……そうね、たしかに。わからない。わかりたくもないし、愛して欲しくなんかない。
だから私は誰にでも簡単に好きだという名前ちゃんのことが嫌い。ずっと気に食わなくて仕方がなかった。目障りだった。……けど、それなら何故私は名前ちゃんを殺そうと思わなかったのかしら?
――そうか、そう、だったのね…。
「名前ちゃん。何故、私には一度も好きだと言わなかったの?」
その問いかけは、小さすぎて届かない。
彼女は私にだけ好きだとは一度も口にしなかった。ぐしゃぐしゃに泣きながら悲痛な面持ちで私を見つめている名前ちゃんを見たのを最後に私の意識は暗闇へと堕ちていく。
――私は気づくのが遅すぎたのね。自分の気持ちも、あなたの気持ちにも。
あぁ…、またなのね。
無邪気に愛の言葉を放つ彼女に、私は些か冷ややかな視線を向けてしまう。
苗字名前ちゃん。彼女はすぐに愛の言葉を口にする。わかってる。名前ちゃんの言う好きはお礼や挨拶みたいなもので、私が思っているものではないことは、わかっているはずなのに…。
まるで、モヤモヤと黒い霧のような嫌なものに胸の奥が侵食されていくような…、そんな不快さから逃れようと私は踵を返したけれど、それはどうやら一歩遅かったようで――
『あ、マーゴちゃん!』
こちらに気づいた名前ちゃんが私に向かって軽く手を振っている。ふんわりと人好きされそうな可愛らしい笑顔を携えた彼女に、私の身体は無意識に警戒心で固まってしまう。……けれど、それもほんの数秒のことで、私はゆっくりと名前ちゃんの側まで近寄って首を傾げた。
「ふふっ。何かしら?」
『マーゴちゃんこれ必要かなって思って…』
そう言って少し自信なさげに彼女が差し出してきた本は、絵本のようだった。
それは幼い子供が読むような、そんなありふれた御伽噺。ただ普通とは違っていることがある。シンデレラ、白雪姫、桃太郎……のような一度は見た事ある話しではなかった。魔女が主人公の手書きの絵本。誰かが小さい子の為に作ったような手作り感溢れる物だった。
捲ってみると何処か拙い日本語で様々な魔法が描かれている。
「これは…、もしかしたら魔女の本の解読にも役立つかも。ありがとう。名前ちゃん」
『ううん。役に立ちそうなら良かった』
「何かお礼しなくちゃ。……そうねぇ。一緒にシャワーを浴びて私が名前ちゃんの背中を流したりだとか?もちろん、全身隈なく洗ってあげるのでもいいけれど」
『っ!い、いい!大丈夫…!』
「あら、そう?残念」
恥じらう名前ちゃんにクスクス笑えば、真っ赤な顔で「じゃ、じゃあ…!」って逃げて行ってしまった。
私は彼女に苦手意識がある。けれど何故か、からかいたくなってしまうし、反応を見て可愛いとも思ってしまう。
それは一体何故?――自分でも分からない矛盾した感情に戸惑った。
**********
「マーゴくんは、名前くんのことが好きなのか?」
「……何故そう思ったのか聞かせてもらってもいいかしら?」
「もちろんだとも!目は口ほどに物を言うとはよく言うだろう?……私は職業柄、人の視線には敏感でね。マーゴくんはいつもよく名前くんを見つめているからそうなんじゃないかと思ったんだ」
「……そう。けど、それは間違いね。たまたま名前ちゃんを見てる時にレイアちゃんが私を見ただけにすぎないわ。だって、レイアちゃんはずっと私を見ている訳じゃないでしょう?」
「それはそうだが、」
「それにそんなことを言ってしまったら、レイアちゃんがよく見ている私を好きだということになるんじゃないかしら?」
そう。こんなものは恋じゃない。
恋はもっとキラキラして綺麗で素敵なものなはずだもの。
だからこれは、きっと違う。
私がメルルちゃんに抱いている感情こそが、正しいはずだもの。
**********
処刑台の上で私は私の愛を否定された。
どうやら私の愛は正しくなかったみたい。私は本当の愛とやらをわかっていなかった。
……そうね、たしかに。わからない。わかりたくもないし、愛して欲しくなんかない。
だから私は誰にでも簡単に好きだという名前ちゃんのことが嫌い。ずっと気に食わなくて仕方がなかった。目障りだった。……けど、それなら何故私は名前ちゃんを殺そうと思わなかったのかしら?
――そうか、そう、だったのね…。
「名前ちゃん。何故、私には一度も好きだと言わなかったの?」
その問いかけは、小さすぎて届かない。
彼女は私にだけ好きだとは一度も口にしなかった。ぐしゃぐしゃに泣きながら悲痛な面持ちで私を見つめている名前ちゃんを見たのを最後に私の意識は暗闇へと堕ちていく。
――私は気づくのが遅すぎたのね。自分の気持ちも、あなたの気持ちにも。
