短編
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※スーダン一章後。
「やぁ。ボクなんかの為にキミが来てくれるなんて嬉しいよ。苗字さん」
吐き気がするような学級裁判が終幕してすぐ、目の前の彼──狛枝凪斗は、手足を拘束され床に転がされて閉じ込められている。
狛枝くんは花村くんを唆し、その本性を現して裁判をめちゃくちゃに掻き乱したので、みんなに危険人物扱いされている。それはもちろん私も例外ではなく、正直彼との接触は避けたいんだけど、放っておけずに様子を見に来た。
今朝、小泉さんに押し付けられた食事を日向くんが狛枝くんの元に運んだ後、怒りを滲ませた表情で戻ってきたのが気になったのもあるし、何かしでかさないか監視するつもりで来たのもある。
「まるで道端のゴミでも見るような目だね。でも苗字さんみたいな素晴らしい人がボクを視界に入れてくれることが奇跡に等しい幸運だから、それで構わないよ。キミと出会えてこうして同じ空間にいられるだけでも充分幸せだ。
……あぁ、ボクはなんて幸運なんだろう。まぁ、それぐらいしか取り柄がないんだけど。
でも、ボクはボクの才能に感謝してるんだ。ボクが今、希望溢れる素晴らしい才能を持つみんなとこうして同じ場所に存在していられるのも、全てこの運のおかげだからね。この才能がなければ、苗字さんに出会えなかったかもしれないと思うと、想像すらしたくないよ!
……あはは。引いた顔すらもキミは素敵だね。ボクみたいな生きてる価値もないような人間と向き合ってるんだから仕方ないよね。
でも、そんな才能以外は無価値なボクの様子を見に来てくれるなんて、やっぱり苗字さんは底なしに優しいね。きっと、もう被害を出さないようにボクが何かをしでかさないか見張りに来たんだよね?
……安心していいよ。こんな状態じゃさすがにボクも何もできっこないんだからさ。って、口で言ってもボクなんかを信用するなんて出来ないだろうけどね。この有様じゃみんなの希望の踏み台にもなれないんだ……それが悔しくて仕方ないよ。
今のボクはいつにも増して何も出来ない役たたずなんだからさ…」
息継ぎなしに喋りきった狛枝くんに私は完全に圧倒されてしまっていた。
彼の言動や瞳を見て、暗がりの底なし沼の下からめいいっぱい光に向かって手を伸ばしているような……そんな薄暗い必死ささえ感じた。彼は何故そこまで希望にご執心なんだろう?と、気になってしまうほどの熱量だった。
心の内側から表に溢れて滲むような熱をジリジリ感じて、私は思わず問いかけてしまった。
「どうしてそんなに私たちのこと持ち上げるの?確かに私たちは、超高校級の才能を持っていて希望ヶ峰学園にスカウトされたけど、ちょっと凄いだけの普通の高校生でしょ?」
「……キミは謙虚だね。キミたちが普通なら幸運なだけのボクや、なんの才能も持たないそこら辺にいる有象無象はやっぱりゴミ以下だよ」
「そんなつもりじゃ…っ」
「なかったんだよね?わかってるよ。苗字さんは優しいから、人を落とすような発言はしないって。ただ、ボクがそう思うってだけなんだ。ボクはボクや、才能を持たない凡人たちに価値を見いだせないってだけだよ」
ニッコリあっけらかんと言い放った彼の底知れなさに、私は思わず一歩後ずさる。
拘束されている狛枝くんに何かされるなんて有り得ないと頭では理解しつつも、本能的に身体が動いてしまった。そのことに驚きつつも、視線は狛枝くんから逸らさず全身が彼への警戒心で強ばっていた。
「キミたちは特別だ。特に苗字さん。キミを一目見たその瞬間わかったよ。キミは特別な人の中でもより一層特別だって。
数日前、初めてキミに会った時、その時に確信した。苗字さんは特別だ。理由なんてボクの貧弱な語彙じゃ説明できないし、説明するのもおこがましいけれど、キミを特別だって思ったんだ。
初めて会ったはずなのに、初めて会った気がしない。まるで、ボクらが巡り会ったのは偶然じゃなくて必然だったかのような、運命的な何かを感じたんだよ。
もしかしたら、素晴らしい才能を持つキミをテレビや雑誌で見かけていたのかもしれない。けど、だとしたらその時に苗字さんに注目していないわけがない。
そう思うほどに眩しいキミをボクは見つけてしまった。そうしたらもう、苗字さんを知らなかった頃の今よりもっと愚かだったボクには戻れないんだ」
「それって、つまり、狛枝くんは私のこと──」
その先の言葉は口にしなかった。してしまったら、最期な気がしたから。
なんだか物事を壮大に長々と語っているけれど、狛枝くんの話しを要約すると、彼は私に一目惚れをしたようだった。……じわじわ恥ずかしくなってきた私は、狛枝くんからさり気なく視線を逸らした。
正直、今すぐにでもこの場から立ち去りたいけどなんだか今立ち去るのは感じが悪い気がして……、いや、別に狛枝くん相手だしいいのでは?コロシアイがはじまってしまったトリガーみたいなものだし…。と、そんなことを考えていたせいで私は反応に遅れてしまった。
「──えっ?」
いつの間にか狛枝くんがすぐ目の前に立っている。彼の手足を拘束していたはずのロープは、何故か床に落ちてしまっている。
「あはっ。不思議そうな顔をしてるね?ボクは常々運が良いとは思ってたけど、まさか好きな子と二人っきりっていう幸運に更に幸運が重なってロープが解けるなんて思ってもみなかったよ…」
「っ……」
さらりと好きな子と言われてしまって身構える私に狛枝くんは何もしないと言うように軽く両手を上げてみせた。
「これ以上は後から来る不運が恐いからね。何もしないよ」
「……」
「ホントに安心していいよ。とりあえず、今日のところはね」
その言葉にさすがに限界がきて、私は何も言わずに全力ダッシュでその場を去った。
あともう少しでもあの場にいたら、気が可笑しくなりそうだったし、何が起こっても不思議じゃない気がしたから……。
「またあとでね。苗字さん」
出て行く寸前、そう言っていた狛枝くんの声がやけに耳にこびり付いて消えなかった。
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