短編
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恋愛は先に好きになった方が負けである。なんて、誰が言ったんだろう。
人を好きになることが何故負けなのか、恋愛の何たるかが私にはまだわからない。
「そっか。苗字さんはまだ恋をしたことがないんだね」
それをクラスメイトの最原終一くんに話したら、読んでいた推理小説から顔を上げて彼はそう言った。
「……そうなのかな」
「うん。恋をしたら意味が分かるようになるんじゃないかな?」
「最原くんはわかるの?」
私の問いの後、僅かな沈黙。
最原くんは本を閉じて席から立ち上がった。
近くの時計を確認すると下校時刻が迫っていた。
「うん。だって僕は今恋してるから」
そう言った最原くんの表情は何処か大人びて見えた。
テレた様に僅かに微笑んだ彼は鞄を手にして「そろそろ帰ろうか」と私に言った。
「苗字さん?どうかしたの?」
「う、ううん。今、胸がぎゅっとなった気がしたんだけど、大丈夫」
私は荷物を持って立ち上がり、心配そうな最原くんに平気だと笑った。
「苗字。最原と付き合ってるの?」
そう春川さんに聞かれたのは今日の朝、たまたま会った最原くんと一緒に登校しているところを見られたからだ。
「どうして?」
「いや、だってアンタ達最近良く二人でいるじゃん」
「付き合ってなきゃ二人でいちゃダメなの?」
「…………はぁ。最原も苦労するね」
春川さんの言葉に何故か胸が締め付けられたように苦しくなる。それを不思議に思っていると、春川さんが私の肩を軽く叩いた。
「とにかく、なんで最原と二人でいることが多いのか考えてみなよ」
そう言ってツインテールの赤い髪を翻して春川さんは行ってしまった。
――今朝、春川さんに言われた言葉の意味をずっと考えていた。
昼休み。
いつもなら最原くんと過ごすけれど、そんな気分になれずに私は一人で校舎内をフラフラ歩いていた。
私と最原くんが二人でいる意味かぁ……。
わからない。気づけば二人でいたから。
友達だから?それはそうかもしれない。
誰かが男女に友情なんてものは芽生えないと言ったけど、それは私はそんなことはないと思う。
ふと、目の前に最原くんがいるのが見えた。
けれど最原くんは一人ではなく、誰か女の子と二人で楽しそうに話している。
「最原くん!」
最原くんが行ってしまう。
私以外の女の子と。
途端にそんな不安に駆られた私の身体は弾かれたように走り出していた。
最原くんが私以外の女の子といるのを久しぶりに見たからかもしれない。
なんで?……わからない。
でも、ハッキリと嫌だと思った。
どうして?……わからない。
でも、引き止めたいと思ってしまった。
こっちを見て。私だけを見てほしいと、昨日の放課後見た最原くんのテレた様な微笑みを見るのは私だけでいいと醜い独占欲も湧いた。
もしかしたら、これが――
私の呼ぶ声に振り返った彼の姿を見て、なんだか無性に泣きたくなる。
「どうしたの!?」
驚いた様子で女の子と話すのをやめて私の所に駆け寄ってきた最原くんの両腕を私は無我夢中で掴んだ。
「私、恋をしたかもしれないの!」
「そ、そうなんだ……」
「なんで、悲しそうな顔をするの?今、泣きたいのは私なのに」
「……え?」
「最原くんが知らない女の子と二人でいるから……。最原くんの恋してる人ってその子なの……?」
涙を堪えて見上げた最原くんは何故か酷く嬉しそうな顔をしていて、私は目を瞬かせた。
その拍子に流れた涙は最原くんの指にそっと拭われた。
「僕が恋してる女の子は君だよ。苗字さんだよ」
優しい声音で幸せそうな顔でそう告げて、最原くんは私を抱きしめた。
あぁ。何が恋愛は先に好きになった方が負けだ。
後から好きになったってこんなの負けみたいなものだ。
「ありがとう。……私も、最原くんが好き……っ」
そう震える声で言えば彼の私を抱きしめる腕に力が籠った。
「嬉しい。苗字さんが僕を好きだなんて夢みたいだ」
「……大袈裟だよ」
なんて、満更でもない癖に言って、女の子に見せつけるように私は彼の背に腕をまわした。
後から聞いたらあの女の子は最原くんと同じ図書委員の後輩で、次の委員会の話をしていただけらしい。
「僕がずっと好きなのは苗字さんだけだよ」
勘違いして申し訳ないのと恥ずかしいやら嬉しいやらで私は項垂れた。
