短編
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※吟くん視点。
「能登くん。おはようございます」
「おはよう。茉莉絵ちゃん」
みんなに接するのと同様、僕にも柔らかい声音と人好きされる笑みを浮かべる茉莉絵ちゃん。クラスメイトで同じ帰宅部の仲間。茉莉絵ちゃんのことを僕だって大事な友達だと思ってる。けど、だからこそだ──。
僕には、みんなと同じように茉莉絵ちゃんに大事にしてもらえる資格なんてない。
「名前さんも、おはようございます」
『茉莉絵ちゃん。おはよう!』
「お二人とも今日は部長と一緒じゃないんですね?」
「部長は寝坊して遅れるみたい。昨日キィと遅くまでゲームしてたみたいで…」
「ふふっ。楽しそう。って、生徒会長としては怒らなくちゃならない場面ですね…。夜更かししてゲームしたせいで遅刻だなんていけません!先生方に報告しちゃいますからね。……なんて!」
『ふふふ。茉莉絵ちゃんったら見逃しちゃうなんて生徒会長失格だよ〜』
「クラスメイトのよしみで大目にみてあげるだけですよ!」
『茉莉絵ちゃん優しい〜!!』
「そ、そうでしょうか?」
「…………」
……知ってるんだ。
茉莉絵ちゃんも彼女が好きなこと。
そして、彼女もまた茉莉絵ちゃんを好きなこと。
それなのに、ずるい僕は知らないフリをして今日もふたりのそばに居る。
友達だ。仲間だ。って口にして、巧妙にカモフラージュしてはいても、確かに下心があることは変わらない。
だけど、何も知らない優しい彼女たちは僕に笑顔を向けてくれるんだ。
僕が必要以上に彼女に近づいても、放課後に二人で出掛けても、おそろいのキーホルダーを鞄に付けても、誰も咎めはしない。
誰も、僕にやましい気持ちがあることを疑いもしない。
それをいいことに僕は想いを募らせて、勝手に期待してしまう。
いつか、茉莉絵ちゃんじゃなくて、僕を好きになってくれるんじゃないか。なんて思ってしまっている。
茉莉絵ちゃんは女の子。
でも僕は、この世界では男だ。
愛に性別は関係ない。
それは僕だってそう思う。きっと他の誰よりも強く。
けれど、障害は避けられない。
誰かの心無い言葉に傷つけられるかもしれない。
変だ。おかしいと後ろ指をさされ笑われるかもしれない。
理解してくれない周りに苦しむかもしれない。
そうして、疲れてしまったら最終的にずっと近くにいた『異性の僕』のことを──
「最低だ」
こんなこと考える自分は最悪で、現実の自分のことだって否定してしまっているに等しいだろう。
それなのに、この最悪な考えは消えてなくならない。
それでも、今日も僕は彼女の隣にいる。
相も変わらずに、彼女に恋をしている。
「能登くん?」
茉莉絵ちゃんの声で我に返る。
彼女たちが仲良くお喋りしている間に随分と思考の海を泳いでしまっていたようだった。
そのせいでこぼした言葉に彼女たちは不思議そうな顔をしている。
『何が最低なの?』
僕を見つめる彼女の瞳いっぱいに映る自分を見つけて、優越感と罪悪感。
「えーっと、あ、ほら、この芸能人。美人な女優の彼女がいるのに浮気したやつ。ありえないよなと思って」
手にしていたスマホを慌てて見て、たまたま目にしたトップニュースの記事を開いて彼女に見せればそういうのが嫌いな彼女はムッとした顔で「確かに、これは最低だね」と先程の僕の言葉に同調した。
彼女にそんなつもりはなくても、僕が自分に向けた言葉を肯定された気がして苦しくなる。
優しくされるのは嬉しいけれどつらいから、いっそ責めてくれれば楽になるかもなんて思っていた。けれど、どうやらそういうわけでもなさそうだ。
なんだかもう自分で自分がよくわからなくなる。
……僕はこんなことばっかりだ。
『吟くんは、優しいね』
「……えっ?」
自然と俯きがちになっていた視線を上げると、優しい笑みを浮かべた彼女と目が合った。
「な、何?いきなり…」
自分が優しさとは無縁とは思ってない。
けど、彼女たちに対しての僕が優しいかどうかと言われれば肯定しがたいし、むしろ酷いの部類に入ると思う。
なんて、正直に言えるわけも、言うわけもなく、僕は気を抜いたら変な顔をしてしまいそうなのを必死に堪えることしかできなかった。
『誰かのために怒れる人は、優しいよ。それに、芸能人とはいえ他人のために……。私は自分の周りのことだけで手一杯だから』
「っ……そんなこと、ないよ」
泣きそうだ。
僕はそんな聖人じゃない。そんな彼女が思っているような出来た人間なんかじゃない。
でも、そんなふうに取り繕って良いように見られるように振舞ったのは自分じゃないか。
そんな僕に泣く資格はない。
「僕よりも名前ちゃんのほうがよっぽど優しいと思うけどな」
そう言って頭を少し乱雑に撫でれば彼女は「わっ、やめてよ〜」と楽しそうに笑った。
それを見て酷く安堵した後、何気なく彼女の隣に居た茉莉絵ちゃんを見て僕はぎょっとして、ぱっと彼女を撫でる手を離した。
「…茉莉絵ちゃん」
「はい。なんでしょう?」
「……」
傷ついたような、泣きそうなような、羨むような、焦がれるような、それら全てを合わせた複雑な表情で、頭を撫でられて笑う彼女を見つめる茉莉絵ちゃんは、ヤキモチを妬いている可愛い恋するひとりの少女だった。
それを伝えるのは、茉莉絵ちゃんが彼女のことを好きだと指摘するようなものだろう。
「えっと、ごめん。やっぱなんでもないや」
「そうですか…?」
「うん。ほんとにごめん。大したことじゃないから気にしないで」
そう言われて気にならない人類は8割の確率で居ないと思うし、僕自身めちゃくちゃ気になってしまうタイプだから、この言い方はずるいと思ったけど、ここでこれ以上、踏み込めるか踏み込めないかで言ったら、茉莉絵ちゃんは踏み込めないタイプ……いや、踏み込まないタイプだと思ったからこその発言だった。
それに、この先は僕も踏み込んで欲しくなかった。これ以上は、きっとボロが出るから。
「それにしても部長遅いなぁ。僕らも遅刻する前にそろそろ教室行こうか」
『あ、そうだね。行こ、吟くん。茉莉絵ちゃん、お仕事頑張ってね、またあとで!』
「はい!またあとで教室で」
生徒たちに挨拶と風紀チェックを行う為、まだ下駄箱近くに居なくちゃならない茉莉絵ちゃんと別れる。
手を振り合う傍から見たら仲良しの友達に見えるふたりは、僕にとっては相思相愛の恋人同士にしか見えなくて、胸が痛い。
諦められるまでずっとこの痛みと向き合っていかないといけないのだろう。
そうはわかっていても、諦められないし、痛みに慣れそうもなかった。
この僕のどうしようもない片想いが終わるのと、現実に帰る日はどちらが早いだろう?
きっとどちらもそう遠くない未来だと思うと、複雑だった。
『吟くん。はやく行こう!』
時計を見て急ぐ彼女の手を思わず掴む。
「……ねぇ、サボっちゃわない?」
『えっ!?』
「こんな世界でも楽しまなきゃ損だし、それに、小鳩先輩じゃないけど、女の子とサボってデートって青春っぽいというか…。男の子としちゃやっぱ憧れるし!」
僕らしい理由を口にして彼女を誘う。
本音はそりゃ、好きな子とデートしたいってだけですけど。
『うーん。でも、さっき茉莉絵ちゃんにあとでねって言ったのにサボるのはなぁ…』
「そこをなんとか!この前名前ちゃんが行きたがってたカフェにも付き合うし、なんなら奢る!」
『ぐっ……物でつるなんて卑怯だよ…』
「……欲しがってたゲーセンのぬいぐるみ」
『!!!!』
「よし、取引成立!取れるかは保証できないけど、出来る限りチャレンジするから、まぁ期待しないで見ててよ」
『うん!楽しみ!!』
茉莉絵ちゃん。ごめん。
君はきっと教室に入って僕らの姿がないことに、悲しくもなるし、嫉妬するし、苦しくなるだろうけれど、僕はそうわかっていても引き下がれないんだ。
だって僕も、名前ちゃんのことが好きだから。
だから遠慮しない。
望みが薄くても、僕は最後まで足掻いてみせるから。
「能登くん。おはようございます」
「おはよう。茉莉絵ちゃん」
みんなに接するのと同様、僕にも柔らかい声音と人好きされる笑みを浮かべる茉莉絵ちゃん。クラスメイトで同じ帰宅部の仲間。茉莉絵ちゃんのことを僕だって大事な友達だと思ってる。けど、だからこそだ──。
僕には、みんなと同じように茉莉絵ちゃんに大事にしてもらえる資格なんてない。
「名前さんも、おはようございます」
『茉莉絵ちゃん。おはよう!』
「お二人とも今日は部長と一緒じゃないんですね?」
「部長は寝坊して遅れるみたい。昨日キィと遅くまでゲームしてたみたいで…」
「ふふっ。楽しそう。って、生徒会長としては怒らなくちゃならない場面ですね…。夜更かししてゲームしたせいで遅刻だなんていけません!先生方に報告しちゃいますからね。……なんて!」
『ふふふ。茉莉絵ちゃんったら見逃しちゃうなんて生徒会長失格だよ〜』
「クラスメイトのよしみで大目にみてあげるだけですよ!」
『茉莉絵ちゃん優しい〜!!』
「そ、そうでしょうか?」
「…………」
……知ってるんだ。
茉莉絵ちゃんも彼女が好きなこと。
そして、彼女もまた茉莉絵ちゃんを好きなこと。
それなのに、ずるい僕は知らないフリをして今日もふたりのそばに居る。
友達だ。仲間だ。って口にして、巧妙にカモフラージュしてはいても、確かに下心があることは変わらない。
だけど、何も知らない優しい彼女たちは僕に笑顔を向けてくれるんだ。
僕が必要以上に彼女に近づいても、放課後に二人で出掛けても、おそろいのキーホルダーを鞄に付けても、誰も咎めはしない。
誰も、僕にやましい気持ちがあることを疑いもしない。
それをいいことに僕は想いを募らせて、勝手に期待してしまう。
いつか、茉莉絵ちゃんじゃなくて、僕を好きになってくれるんじゃないか。なんて思ってしまっている。
茉莉絵ちゃんは女の子。
でも僕は、この世界では男だ。
愛に性別は関係ない。
それは僕だってそう思う。きっと他の誰よりも強く。
けれど、障害は避けられない。
誰かの心無い言葉に傷つけられるかもしれない。
変だ。おかしいと後ろ指をさされ笑われるかもしれない。
理解してくれない周りに苦しむかもしれない。
そうして、疲れてしまったら最終的にずっと近くにいた『異性の僕』のことを──
「最低だ」
こんなこと考える自分は最悪で、現実の自分のことだって否定してしまっているに等しいだろう。
それなのに、この最悪な考えは消えてなくならない。
それでも、今日も僕は彼女の隣にいる。
相も変わらずに、彼女に恋をしている。
「能登くん?」
茉莉絵ちゃんの声で我に返る。
彼女たちが仲良くお喋りしている間に随分と思考の海を泳いでしまっていたようだった。
そのせいでこぼした言葉に彼女たちは不思議そうな顔をしている。
『何が最低なの?』
僕を見つめる彼女の瞳いっぱいに映る自分を見つけて、優越感と罪悪感。
「えーっと、あ、ほら、この芸能人。美人な女優の彼女がいるのに浮気したやつ。ありえないよなと思って」
手にしていたスマホを慌てて見て、たまたま目にしたトップニュースの記事を開いて彼女に見せればそういうのが嫌いな彼女はムッとした顔で「確かに、これは最低だね」と先程の僕の言葉に同調した。
彼女にそんなつもりはなくても、僕が自分に向けた言葉を肯定された気がして苦しくなる。
優しくされるのは嬉しいけれどつらいから、いっそ責めてくれれば楽になるかもなんて思っていた。けれど、どうやらそういうわけでもなさそうだ。
なんだかもう自分で自分がよくわからなくなる。
……僕はこんなことばっかりだ。
『吟くんは、優しいね』
「……えっ?」
自然と俯きがちになっていた視線を上げると、優しい笑みを浮かべた彼女と目が合った。
「な、何?いきなり…」
自分が優しさとは無縁とは思ってない。
けど、彼女たちに対しての僕が優しいかどうかと言われれば肯定しがたいし、むしろ酷いの部類に入ると思う。
なんて、正直に言えるわけも、言うわけもなく、僕は気を抜いたら変な顔をしてしまいそうなのを必死に堪えることしかできなかった。
『誰かのために怒れる人は、優しいよ。それに、芸能人とはいえ他人のために……。私は自分の周りのことだけで手一杯だから』
「っ……そんなこと、ないよ」
泣きそうだ。
僕はそんな聖人じゃない。そんな彼女が思っているような出来た人間なんかじゃない。
でも、そんなふうに取り繕って良いように見られるように振舞ったのは自分じゃないか。
そんな僕に泣く資格はない。
「僕よりも名前ちゃんのほうがよっぽど優しいと思うけどな」
そう言って頭を少し乱雑に撫でれば彼女は「わっ、やめてよ〜」と楽しそうに笑った。
それを見て酷く安堵した後、何気なく彼女の隣に居た茉莉絵ちゃんを見て僕はぎょっとして、ぱっと彼女を撫でる手を離した。
「…茉莉絵ちゃん」
「はい。なんでしょう?」
「……」
傷ついたような、泣きそうなような、羨むような、焦がれるような、それら全てを合わせた複雑な表情で、頭を撫でられて笑う彼女を見つめる茉莉絵ちゃんは、ヤキモチを妬いている可愛い恋するひとりの少女だった。
それを伝えるのは、茉莉絵ちゃんが彼女のことを好きだと指摘するようなものだろう。
「えっと、ごめん。やっぱなんでもないや」
「そうですか…?」
「うん。ほんとにごめん。大したことじゃないから気にしないで」
そう言われて気にならない人類は8割の確率で居ないと思うし、僕自身めちゃくちゃ気になってしまうタイプだから、この言い方はずるいと思ったけど、ここでこれ以上、踏み込めるか踏み込めないかで言ったら、茉莉絵ちゃんは踏み込めないタイプ……いや、踏み込まないタイプだと思ったからこその発言だった。
それに、この先は僕も踏み込んで欲しくなかった。これ以上は、きっとボロが出るから。
「それにしても部長遅いなぁ。僕らも遅刻する前にそろそろ教室行こうか」
『あ、そうだね。行こ、吟くん。茉莉絵ちゃん、お仕事頑張ってね、またあとで!』
「はい!またあとで教室で」
生徒たちに挨拶と風紀チェックを行う為、まだ下駄箱近くに居なくちゃならない茉莉絵ちゃんと別れる。
手を振り合う傍から見たら仲良しの友達に見えるふたりは、僕にとっては相思相愛の恋人同士にしか見えなくて、胸が痛い。
諦められるまでずっとこの痛みと向き合っていかないといけないのだろう。
そうはわかっていても、諦められないし、痛みに慣れそうもなかった。
この僕のどうしようもない片想いが終わるのと、現実に帰る日はどちらが早いだろう?
きっとどちらもそう遠くない未来だと思うと、複雑だった。
『吟くん。はやく行こう!』
時計を見て急ぐ彼女の手を思わず掴む。
「……ねぇ、サボっちゃわない?」
『えっ!?』
「こんな世界でも楽しまなきゃ損だし、それに、小鳩先輩じゃないけど、女の子とサボってデートって青春っぽいというか…。男の子としちゃやっぱ憧れるし!」
僕らしい理由を口にして彼女を誘う。
本音はそりゃ、好きな子とデートしたいってだけですけど。
『うーん。でも、さっき茉莉絵ちゃんにあとでねって言ったのにサボるのはなぁ…』
「そこをなんとか!この前名前ちゃんが行きたがってたカフェにも付き合うし、なんなら奢る!」
『ぐっ……物でつるなんて卑怯だよ…』
「……欲しがってたゲーセンのぬいぐるみ」
『!!!!』
「よし、取引成立!取れるかは保証できないけど、出来る限りチャレンジするから、まぁ期待しないで見ててよ」
『うん!楽しみ!!』
茉莉絵ちゃん。ごめん。
君はきっと教室に入って僕らの姿がないことに、悲しくもなるし、嫉妬するし、苦しくなるだろうけれど、僕はそうわかっていても引き下がれないんだ。
だって僕も、名前ちゃんのことが好きだから。
だから遠慮しない。
望みが薄くても、僕は最後まで足掻いてみせるから。