短編
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「みんな。気をつけて」
普段の声色に少しの緊張を滲ませた部長の一声を合図に、私たちはそれぞれカタルシスエフェクトを発動させ、現れた武器を握る。
胸元に咲くクリスタルの花々や、手にした物騒な武器、所々変化する服装には、いつまで経っても慣れない。けれど、戦闘中にそんなことで悩む暇なんてなく、必死だからそんな話題が私たちの間に出たことはなかった。
部長が先陣を切って敵の懐に駆け出してナイフで切りつける。その後ろから、すかさず吟くんが矢を放ち、茉莉絵ちゃんが追い討ちで投げた爆弾を敵の真上で撃ち抜き爆発させる。
そんないつものクラスメイトコンボが決まって、爆風で靡く彼女の髪にこれまたいつも通り見惚れる。
終わったら先ず私の方を振り向いて安堵したように微笑む茉莉絵ちゃんに私もめいいっぱいの笑みを返した。
その場の全員が、敵はもう倒したと思っていたその時、少し薄れた爆煙の中でキラリと何かが光った気がして目を懲らす。
『ちょっと待って。今、何か──っ!』
気づいた瞬間、後先考えずに足が動き出していた。
目を凝らした先には、何処から現れたのか、さっき対峙していたのとは別の敵。
『茉莉絵ちゃんッ!』
彼女に向かって伸びてきていた敵が放った攻撃から庇う為に、咄嗟に彼女の腕を強く引き、そのまま突き飛ばした。
よろけた茉莉絵ちゃんが呆然とした顔で私を見つめているのを視界に捉えた瞬間、攻撃を直に受けた身体が激痛を訴えてきて地面に崩れ落ちた。
痛い。だなんて表現では言い表せない激痛に意識が飛びかける。
その場は騒然としてみんなが私の名前を叫び混じりに呼ぶ声が聞こえた。
「名前先輩!大丈夫ですか!?」
「今すぐ回復するからあとちょっと痛いの我慢してね…!」
ささらさんと二胡ちゃんが私の元に慌ててやって来て回復スキルを発動させる。
「クッソー!!あの雑魚ヤロー、よくもあだ名ちゃんを!」
「ほんとだよ!不意打ちとか超卑怯じゃん。今すぐ私が──」
「待ちたまえ、風祭に宮迫くん!敵がどんな攻撃をしてくるか分からない以上、こ、ここは冷静に……っ!」
「お前たち落ち着け。あの敵は差程大したことない。不意をつかれただけだ」
今にも飛び出していきそうな小鳩先輩と切子ちゃんと想定外の事態に気が動転している鐘太先輩にすかさず声をかける劉都くんのいつも通り冷静な声が痛みに悶える中で聴こえた。
「敵は一体。落ち着いて対処を──っ!?」
「ちょ、茉莉絵ちゃん!?」
「マリエ?!!!!」
吟くんとキィの声と地面を駆ける足音が聴こえたのはほぼ同時だった。
回復のお陰で癒えてきた身体の上半身を起こして、落ちかけた瞼を開き、そして驚きに目を見開いた。
「よくも苗字さんを……っ!」
バンバンッと感情のままに連射した銃弾は敵の横を掠めただけで通り過ぎていく。
いつもの彼女であれば絶対しない勝手な単独行動に、その場は騒然としている。
「茉莉絵さん!何を……!」
珍しく冷静さを乱している劉都くんの声に、ゆっくりと俯けていた顔を上げた茉莉絵ちゃんは、予想外にも冷静な顔つきをしていて、敵を真っ直ぐに見据えた。
そして、一瞬で素早く背後にまわると敵の足元に銃を発射し、体勢を崩させた後、倒れる敵に向かって爆弾を放りその爆弾を容赦なく連射した。
「さようなら」
氷のように冷たい声と顔で敵が爆散するのを見届けた茉莉絵ちゃんに、さすがの小鳩先輩もヒュッと声じゃなく思わず息を鳴らしている。
茉莉絵ちゃんは、一息つく間もなく足早に私の元へとやって来てその両手を私の背にまわした。
柔らかで温かな温もりに包まれて酷く安堵する。
茉莉絵ちゃんに何も無くて良かった……。
そう強く思う。
「っ…、無事でよかった…」
敬語じゃなく、声も僅かに震わせてそう言った茉莉絵ちゃんをそっと抱きしめ返す。出来るだけ優しく。
「……私のために、ありがとうございます。でも、もうあんな自分を犠牲にするようなことはやめてください。お願いです…」
『茉莉絵ちゃん。ごめんね。でも、茉莉絵ちゃんが危険な目に合うかもしれない時に黙って見ているだけだなんて、私には出来ないよ』
「苗字さん……」
ゆっくりと私から身体を離して茉莉絵ちゃんを私に手を差し出した。
「立てますか?」
心配そうに眉を下げる茉莉絵ちゃんの手を掴むと、引っ張り上げられ私はしっかりと立ち上がった。
「その、まだ無理はしない方が……。私が支えますから!」
『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。さっき回復してもらったし、敵もそんなに強くなかったせいかダメージもそこまでじゃ…っ』
「っ危ない!!」
少しよろけた身体は腰に手を回した茉莉絵ちゃんに抱きとめられてすんでのところで転ばずに済んだ。
けれど、その際に顔が近づいて彼女の髪が私の顔にまるでカーテンのようにかかった。
今まで気づかなかったけれど、さっきの戦闘のせいか、いつも綺麗に結んでいる髪が解けてしまっていたようだった。
彼女の髪に遮断され、茉莉絵ちゃんしか視界に映らないこの状況に私の頬は瞬時に熱を持ち、熱くなる。
そんな私につられてか、目の前の彼女も頬を赤く染めた。
「あ、あの、苗字さん。私、苗字さんが……っ!」
「茉莉絵さん。待った」
劉都くんの声に私たちは我に返ったように離れた。
それでも尚、バクバクと騒がしく鳴り止まない胸の鼓動と引かない頬の熱に思わず顔を隠すように俯いた。
みんながいるのすっかり忘れてた……!すっかり、二人きりの世界にいる気分になってた…!
心なしかみんなの生暖かい視線を感じるような気がするし、茉莉絵ちゃんも恥ずかしそうに肩を竦めて「すみません…」と謝った。
「はぁ……」
と、何やら軽くため息をついた劉都くんはそっと私たちに近づいてくると呟いた。
「……俺は、二人が想い合ってることは知ってるし、こんな世界だ、驚くことも偏見もない。だけど、小鳩とか鐘太くんとか、気づいてないやつらもいるし、そういう告白だとかは、二人の時にしなよ」
そう私たちにしか聞こえない声のボリュームで言った劉都くんは悪戯に笑って、それに私は面食らった。
まさか、誰にも言っていないこの気持ちがバレていただなんて……。
「あ。あと、愛の力って今まで信じてなかったんだけど、さっきの茉莉絵さんを見たら信じざるをえないなと思ったよ」
「その、今後は勝手な行動を慎むのでそれ以上は勘弁してください……」
冷静さを崩された仕返しなのか、それとも彼なりに茉莉絵ちゃんの身を案じているからなのか、そう意地悪く言った劉都くんに困り果てた様子でそう返した茉莉絵ちゃんを私は微笑ましい気持ちで見つめたのだった。