私と雲雀さんの潜入捜査事件簿
ドッペルゲンガー(独: Doppelgänger)とは、自分自身の姿を自分で見る幻覚の一種で、「自己像幻視」とも呼ばれる現象である。自分とそっくりの姿をした分身。第2の自我、生霊の類。同じ人物が同時に別の場所(複数の場合もある)に姿を現す現象を指すこともある(第三者が目撃するのも含む)。超常現象事典などでは超常現象のひとつとして扱われる。
某サイトより参照、自分にそっくりな人は世界に三人はいると言われている、らしい。
とある日の昼下がり、私はボンゴレアジトの長い廊下を歩いていた。
ファミリーのボスであり、私の幼なじみでもある沢田綱吉に呼び出されていたからだ。
普段私は雲雀さんの設立した風紀財団にいることが多く、この廊下を歩くのも久しぶりのことだった。
コンコンと少しだけ分厚い扉を叩き、失礼しますと挨拶をすると部屋の中へ案内される。
部屋へ入るとまず目に飛び込んできたのは机の上に山積みにされている書類だった。
「時間作ってくれてありがとう、二人とも揃ったし始めようか」
書類の山に隠れてしまっているのだろう、姿は見えないが幼なじみの声が聞こえてくる。
二人揃ったというのは勿論、私と幼なじみのことではない。
「お久しぶりです」
袖余りの赤いカンフー服、私の目の前には元アルコバレーノの一人でもある風さんがいた。
代理戦争後、ラルさんとユニちゃん以外のアルコバレーノの皆は赤ん坊のままだったが、呪いを受けた影響なのか。
彼らは通常とは異なるスピードで成長していき、目の前にいる風さんと私達の年齢はそこまで変わらないような気がする。ヴェルデさんの予想は少しだけ外れて少しだけ当たっていたと言うことになる。
「じゃあ、この内容で問題ないかな?」
来客用のソファへと案内され、風さんと一緒に次の任務先について幼なじみから説明を受ける。
幼なじみの目の下の隈は相変わらずだった。
「はい、私の方は問題ありません」
風さんがふわりと笑みを浮かべ答え、私も特に異議を唱えることなく了承する。
仕事の話を終えた私達三人は雑談を始め、幼なじみはやっぱり似てるなと、どこか感心した声を出す。
「風ってヒバリさんそっくりだよね」
「えぇ、よく言われます」
風さんは少しだけ苦笑いを浮かべ、紅茶を一口飲む。その仕草はどこか気品に満ち溢れており、私は思わず言ってしまったのだ。
「いや、雲雀さんと風さんは似てないですよ!」
風さんが私の方に顔を向けたため、うん、やっぱり似てないなと私は再認識する。
幼なじみは少しだけ抗議の声をあげた。
「そうかなぁ?似てない?」
「似てない似てない!だって雲雀さんはこーんな風に目を吊り上げて、眉間もぎゅってなってるしさぁ」
「あ、おい、ちょっと、」
幼なじみがなにか言いたそうに口を挟んでくるが私は気にせず続ける。
「人使いも荒いし、暴力的だし!似合う言葉は恐怖政治!雲雀さんと風さんは似ても似つかないですよ」
幼なじみが私の後ろを見て少しだけ青ざめた顔をしていた。
なんだ、何かあるのかと後ろを振り返った瞬間、ゴチン!と頭の中で星が飛び散る。
「財団の仕事が終ってないのになに遊んでるの?戻るよ」
「はぁい、、、」
雲雀さんにスーツの襟首を掴まれ、そのままずりずりと引きずられる。
なんてタイミングが悪いんだと私は己の不幸を呪った。
「ちょっと待ってください」
風さんから呼び止められ、雲雀さんは歩みを止める。
雲雀さんに引きずられている私も当然のごとく、その場で動きが止まった。
なんだか自分がごみ袋にでもなったような気分だ。
「女性にそんな乱暴をしてはいけませんよ。離してあげてください」
「うるさいな、君には関係ないだろう」
頭の上から雲雀さんの不機嫌な声が聞こえてきた。風さんは気にしていないのだろう、そのまま話を続けている。
「関係あります。だって彼女は」
「ちょ、風!ヒバリさんには、」
幼なじみが慌てた顔をし風さんの言葉を止めようとするが時既に遅し。
「私の妻になる人ですから」
風さんは先ほど同様柔らかい笑みを浮かべており、幼なじみは頭を抱えていた。
「寝言は寝ながら言ったら?まぁ寝言なんて言えないほどぐちゃぐちゃにしてあげるよ」
ズモモモと真っ黒なオーラを出している雲雀さん。
雲雀さんがトンファーを構えてくれたおかげで私は床にどちゃりと落とされ、解放される。
「いた!ちょ、雲雀さん!違いますよ!」
「違う?なに言ってるの、下品な間男は殺さないと」
「ま、まおとこ?って、そうじゃなくて!風さんが言ってるのは次の任務の話ですよ!」
風さんの妻、妻といっても正式なものではない。
次の任務先は富豪達が集まるパーティーでの潜入捜査だった。
パーティーで薬物の売買が行われている、そんな噂は私も雲雀さんも確かに聞いていた。
幼なじみ、つまりはボンゴレボスから言い渡された任務と言うのは、風さんと私が夫婦と言う設定でパーティーに潜入し、本当に薬物の売買が行われているか、そして行われていた場合、首謀者は誰なのかを突き止めることだ。
「駄目に決まってるだろう」
ソファへ座り直し、説明を受けた雲雀さんは長い足を組みながらふんぞり返っていた。
「言うと思った、、、。だから隠密に進めたかったのに」
「大体この子はウチの所属だ。僕の許可なく勝手に連れ出さないで、まぁ許可なんて出さないけどね」
幼なじみは少しだけ黙り、私と風さんはソファへ座りながら二人のやり取りを見ていた。
「じゃあ、ヒバリさんの許可が出れば良いんですね?」
「良いよ。僕が、許可、したらね」
雲雀さんは幼なじみに対して鼻で笑い、一語一句言葉を区切り、力を込めながら話す。
幼なじみはプルプルと震えながら膝を掴んでいた。
その様子に満足したのだろう、雲雀さんは私の腕を掴み、そのまま引っ張られる。
雲雀さんはどこか嬉しそうだった。
「ほらもう行くよ、やって貰わなくちゃいけない仕事が山程あるんだから」
「あ、でも、」
「ヒバリさん、言質は取りましたからね?」
幼なじみは立ち上がり、裁判の結果を見せる時かのように一枚の書類を広げていた。
私と雲雀さんは書類を読むために顔を近づける。
今回の任務内容と作戦、同行者である風さんのことが書かれていた。
そして右下、署名の欄。
そこには、確かに雲雀さんの名前と風紀財団の印鑑が押されていた。
「ほら!これなら文句ないですよね!?ヒバリさんの名前と風紀財団の印鑑!ヒバリさんは今回の任務について承諾したと言うことですよね!?」
「これって、」
私の声で雲雀さんも思い出したのだろう、少しだけ記憶を巻き戻す。
その日、風紀財団の執務室へ戻ってきた雲雀さんは大分お疲れのご様子だった。
「あぁ雲雀さん、お疲れ様です」
「お疲れ、僕は少し寝るから」
「分かりました。書類はどうしますか?起きたら手分けしてやりますか?」
私は雲雀さんの机の上に置いてある書類の束へ視線を向ける。
幼なじみに負けず劣らずすごい量だ。
「いや、そっちのはもう目を通してある。たいした内容じゃないのにこんな格式ばった書類を寄越してきて、資源の無駄だよ」
「いつものように、やっておきますか?」
「そうだね、いつものようにお願いね。一時間したら起こして」
いつものように。
勘の良いかたならお気づきかもしれない。
そう、私が雲雀さんの書類を代筆していたのだ。
余り大きな声では言えないし、バレてしまったら懲罰ものである。
雲雀さんの自署を真似し、本来であれば雲雀さんしか開けられない金庫を開け、風紀財団の印鑑を拝借し代筆作業を進める。
最初の頃はバレたらどうしようと不安だったが、何回か続けていくうちに気にしなくなっていた。
一度は雲雀さんが目を通しているのだから問題ないだろう、私はただ雲雀さんの代わりに名前を書いて印鑑を押しているだけだと。
人の慣れとは怖いものである。
「確かに書いてありますね」
風さんも覗き込むように書類を見ていて、いつの間にか私の顔のすぐそばに風さんの顔がある。
「アハハ、ソウデスネー、、、」
私は乾いた声で笑い、雲雀さんは黙ったままだ。
確かに書類の代筆をしている時に不思議には思った。
雲雀さんが幼なじみの仕事を手伝うなんて、槍が降ってくるのではないかと思いながらサインと印鑑を押したのは記憶に新しい。
でも雲雀さんは書類は確認したと言っていたし、パーティーの噂が本当で、薬物が広がり風紀が汚されるのが嫌なのだろうと理由をつけ、いつものように代筆をした。
雲雀さんがなにか言おうと口を少しだけ開こうとした、が、幼なじみの方が早かった。
「まさか書いてないなんて言わないですよね?サインは知りませんけど、印鑑はヒバリさんしか開けれない金庫に入ってるんですから。そもそも秩序を重んじるヒバリさんが、代筆なんてことさせませんよね?」
図星をつかれたのか雲雀さんは黙ったまま、どうしようと悩んでいたら風さんに手を握られ引き寄せられる。
「良かったです、どうやら彼の勘違いだったようですね」
「触るな」
「そう怒らないで、私が彼女をサポートしますから。さっき叩かれたせいで赤くなってしまって、、、」
風さんが私の前髪を横に流し、おでこを優しく撫でる。
その距離の近さに私は少しだけ驚いてしまう。
「いや、いつものことなので、、、」
「いつもこんな風に乱暴されてるんですか?可哀想に、、、」
風さんが辛そうに眉をひそめる。
ぎゅっと軽く抱き締められたかと思ったらビュッとトンファーが私の頭上を掠めた。
「触るなって言ってるだろう、離せ」
「何故です?もしかして貴方と彼女は恋仲なのですか?」
「そんな、滅相もない!私と雲雀さんはそんなんじゃないですよ!」
慌てて訂正をする。
何て言うことを、何て言うことを!
雲雀さんは私と恋人だと思われたのが嫌だったのだろう、とても機嫌が悪そうな、嫌そうな顔をしている。
「下々の者が雲雀さんとお付き合いできるわけないじゃないですか、ね、雲雀さん」
取り敢えずは落ち着いてくれたのか、静かになった雲雀さん。
良かった良かった、雲雀さんと私がお付き合いしているなんて天と地がひっくり返ってもあり得ないことだろうし、なにより雲雀さんが可哀想だ。
「そうでしたか。貴方達は昔から一緒にいることが多いからてっきりそうなのかと」
「まさかぁ!私はただの雲雀さんの部下ですよ!部下!ね、雲雀さん!」
雲雀さんは相変わらず黙ったまま、あれ、私は雲雀さんの部下と言うのもおこまがしいということかと不安になる。
「潜入捜査なら僕がこの子に同行する、それで問題ないだろう」
「ダメですよ、ヒバリさん」
珍しく幼なじみが反対の異を唱える。
私と雲雀さん、そして風さんの視線が幼なじみへと一斉に向かう。
「ヒバリさんに潜入捜査が務まるとは思えません」
「沢田、僕に向かってそんな口を聞けるなんて随分と偉くなったものだね」
「一応ボスですからね。ヒバリさん、俺の仕事は少しでも被害を少なくするために、一人一人の適正を考え、適材適所仕事を割り振ることです」
「彼に出来て僕には出来ないと?」
「風は潜入捜査のプロです、だから頼んだんです。もし慣れてない二人が任務について何かあったらどうするんですか?」
「大体潜入捜査なんてまどろっこしいことしないで、諸悪の根元を潰してくれば問題ないだろう」
踵を返し扉へと向かう雲雀さんに、幼なじみは慌てて止めに入る。
「ちょっと待ってください!まだ噂の段階なんですから、今ヒバリさんに暴れられたら困ります!」
「うるさいな、、、」
雲雀さんが目を細め、トンファーを構え始めた。
まずいまずいと私は止めに入る。
「ちょ、雲雀さん、ダメですよ!ここじゃ狭すぎますから!家具が壊れますよ!?」
「あ、そこなんだ、オレの心配とかじゃなく家具の心配なの?」
あれ、そっちなのと幼なじみの不服そうな声を出すが敢えて気にしないでおくことにした。
「大丈夫ですよ!風紀財団の名に恥じぬよう!しっかりとやってきます!」
ピシッと敬礼をして、任せておいてくださいと宣言するも雲雀さんは黙ったまま、私を見ている。
あれ、そんなに信用ないかなと不安に思っていると風さんが私の肩を掴み、柔らかい声で雲雀さんへ話しかけていた。
「彼女もこう言っているんですから、任せてみたらどうですか?上司として部下のことが心配なのは分かりますが、それでは何時まで経っても彼女の成長に繋がりませんよ」
風さんはなぜか、上司と部下と言うところで力を込め雲雀さんの説得をしてくれている。
お香なのか、なんの匂いかは分からないが良い香りが鼻をくすぐった。
見かねた幼なじみは手のひらを叩き、今回の話し合いについての総括に入ろうとしているところだった。
「はい!取り敢えず今日のところは解散で!詳しい打ち合わせは風から連絡が入るから!それで良いかな?」
「はい。会場の確認が出来たらまたご連絡します」
「分かりました。風さん、足手まといにならないように頑張りますね!」
「足手まといなんて考えないでください。一緒に頑張りましょう」
風さんから右手を差し出され、あぁ握手かと私も
右手を出そうとした、ら。
ビュンとトンファーが私と風さんの間を掠める、というよりも私は少しだけ反応が遅く当たったトンファーで指先がチリチリと痛む。
「触るなって言っただろう」
「アハ、ハハハ、、、。スミマセーン、、、」
「可哀想に、指先が赤くなってるじゃないですか。貴方、寸土めも出来ないんですか?」
ひきつった顔で笑っている私の手を掴み、指先を痛々しそうに見つめる風さん。
「貴女はこんな風に扱われて良い存在ではないはずです」
「え、えっと、どういう、、、」
「ほら、行くよ。何時までも群れるな」
雲雀さんにスーツの襟首を掴まれそのまま引きずられるようにその場を後にする。
「再见」
「ザイジア?えーと、それじゃ、風さんまた打ち合わせの時に!」
幼なじみは頭を項垂れ、風さんは小さく手を振っていた。
バタンと扉が閉まり、私はしばらくの間雲雀さんに引きずられながら廊下を移動し、頭をスパンと叩かれる。
「いでっ」
「君、分かってるの?」
あと少しで風紀財団の執務室というところで私と雲雀さんは立ち話を始めた。
「分かってるって、、、どういう意味ですか?」
「あの似非中国人はどう見ても君に気があるようにしか見えないんだけど」
「似非中国人って、多分風さんは本物の中国人だと思いますよ?」
「そんなことはどうでもいい。サインの件についても僕は聞いてないよ」
「雲雀さんが除けておいた書類をやったんですよ、左側の」
書類の件についてはお互い小声で話す。
雲雀さんは首をかしげ、私も首をかしげるしかない。
そういえば、と思い出す。
幼なじみの書類は糊付けでもされているかのごとく、上の書類の角と下の書類の角がやけにくっついていた。
不思議に思い隙間に指を通すと思った通り、ぴりぴりぴりと書類は剥がれ落ちる。
不思議な書類だなぁとと思いながら記載内容を見ると、今回の風さんとの潜入捜査について書かれていたのだ。
言おうか言うまいか悩んだが今の雲雀さんは機嫌が良くない。黙っておこう。
雄弁は銀、沈黙は金だ。
「今後、書類のサインについては僕の方でやるから。君は一切触らないで」
「、、、分かりました」
そんな言い方ないじゃないかと口を尖らせる。
そもそも雲雀さんがいつものように、やっておいて、と言うから私は言われた通りにやっただけなのに。
「何か言いたいことがあるなら聞くよ」
「いへ、ふぁんでもありまふぇん、、、」
雲雀さんへ両頬を摘ままれ横に伸ばされる。
言ったら最後、トンファーでタコ殴りの刑にされるだけだ。
風さんが訪ねてきたのはそんなやり取りの三日後だった。
雲雀さんからお茶をいれて欲しいと言われ、準備をしていると執務室の扉がこんこんとノックされる。
雲雀さんと顔を見合わせ、どちら様ですかと私が扉を開けたら風さんがニコニコと笑いながら立っていた。
「你好」
「風さん!ニーハオ、です」
ニーハオなら分かると、私も同じように挨拶を返す。風さんに気づいた雲雀さんは不機嫌な顔をしていた。
「部外者は立ち入り禁止なんだけど」
「申し訳ありません。彼女と潜入捜査のことで話があって。お時間、大丈夫ですか?」
風さんはそんな雲雀さんの態度を気にせず、話を進めている。
「私は大丈夫ですけど、、、」
「駄目。君、書類終ってないだろう」
「、、、だそうです。どうしましょうか、でも潜入捜査まであと少しですもんね」
仕事の遅いやつだと思われてるだろうなぁと、風さんへ苦笑いを浮かべる。
「そうでしたか。それでしたら、今夜空いてますか?」
「夜ですか?夜は別に、」
「美味しい飲茶のお店があるんです。そこで打ち合わせをしましょう」
「ヤムチャ?えっと、分かり」
「駄目」
またもや雲雀さんだ。
今日の夜は予定はないはずだ、どうしてだめなのかと不思議に思う。
「どうして貴方が口を挟むのですか?」
「僕はホワイト企業の考え方に賛成派でね。時間外の仕事はさせないことにしてるんだ。まぁ、どこぞの沢田のところは知らないけど」
沢田って言っちゃったよ、と心の中でツッコミを入れる。
大体、ホワイト企業の考え方に賛成してるならこの間の泊まり込みの残業はなんだったのだと抗議をしたくなる、がここはぐっと堪えよう。
「全く、子供のような人ですね」
「少し前まで赤ん坊だった君に言われたくないね」
風さんの背中には龍が、雲雀さんの背中には虎が見える、気がした。
このままでは不味いと、雲雀さんにも打ち合わせに参加して貰うと言う体で風さんを執務室へ通す。
雲雀さんと風さん、そして自分の分のお茶を用意し席に着く。
風さんからはシェイシェイと言われ、雲雀さんは何時ものように黙ったままお茶を飲む。
「潜入捜査って初めてなんですけど、具体的に気を付けた方がいいところってなんでしょうか?」
「そうですね。気を付けていただきたい点は三つほどあります。まず一つ目、出された飲み物食べ物は口にしないこと。何が入ってるか分かりませんからね」
「なるほどなるほど、、、」
「二つ目、周りをキョロキョロと見ないこと。挙動不審は怪しまれます」
「ほうほう、、、」
「そして三つ目、これが一番重要です。役になりきること」
「役になりきる?」
「はい、二つ目に通じるものでもあります。私達の任務はあくまでも潜入捜査、与えられた役割になりきることが重要なんですよ」
へー、そういうことなのかとメモを書き留める。
風さんは私がメモを取っている姿を見て、ニコニコと嬉しそうだった。
不思議に思った私は風さんへ眉を潜めながら話しかける。
「あの、なにか?」
「いえ、一生懸命だなと思いまして」
「あ、すみません。書いておかなくちゃ忘れちゃいそうで、、、。当日は勿論持っていかないので!」
「貴女の真面目で、何事にも頑張ろうとしている姿はとても魅力的です。大丈夫、当日は私もフォローしますから」
「アハ、ハハ、そうですかねぇ?」
慣れない、とても慣れないな。
普段ぞんざいな扱いを受けている(主に雲雀さん、と言うか雲雀さん以外いないけど)せいか風さんの優しさに少しだけ違和感を覚えてしまう。
そんな私達の様子を見て雲雀さんがバカにしたように鼻で笑ってきた。
「僕はどう考えても彼女にはこなせないと思うけど?」
「何故そう思うのですか?」
「まず第一に、この子は美味しいものに目がない。この間だってつまみ食いして怒られていただろう」
うっと言葉に詰まる。
風紀財団には食堂もあり、そこでデザートとしていた出てきた苺を一つ拝借したことを言っているのだろう。現場を見られた食堂のおばちゃんからは、しょうがない子だねと飴玉を貰った記憶がある。
「二つ目、この子は初めての場所に行ったら必ずキョロキョロする。この間、任務先に向かう途中でも注意されていただろう」
ううっと言葉に詰まる。
と言うかどうしてその事を知っているのだと声を出したくなる。
「哲から聞いたんだよ、なにやってるの君?」
「スミマセンデシタ、、、」
「三つ目、大根役者のこの子がボロを出さずに任務を遂行出来るとは思えない」
「だ、大根役者、、、」
言ってて少しだけ悲しくなる。
雲雀さんにこうもツラツラと根拠をもとに並べられ、やはり自分には出来ないんじゃないか、迷惑になる前に降りた方がいいのではないかという気持ちになってくる。
「風さん、確かに私には出来ないかもしれないです。私が着いていったことで成功できる任務も失敗に終わったら本末転倒ですもんね」
言ってて顔がきゅーと赤くなってしまう。
恥ずかしいからなのか、情けないかなのか、恐らく両方だろう。
「決まりだ。沢田には僕から言っておくから、ほら早く出ていって」
雲雀さんがシッシッと虫を追い払うような仕草をし、その顔は何故だか分からないが満足そうだった。
「ちょっと待ってください」
「なに?」
「いつもそうしているのですか?」
「意味が分からないんだけど?」
風さんが立ち上がり、ツカツカと雲雀さんの元へ歩いていく。
ピタリと足を止め、椅子に座っている雲雀さんは必然的に風さんのことを見上げ、風さんは雲雀さんのことを見下ろしていた。
「いつもそうやって彼女の自尊心を削っているのかと聞いているんです」
「自尊心?そんな大仰なものじゃない、僕はこの子の上司として心配しているだけだ」
「果たして本当にそれだけでしょうか」
「何が言いたい」
ピリピリピリ、二人の苛立ちが肌に伝わってきて思わず冷や汗をかいてしまう。
どうしようどうしようとウロウロしたい気持ちを抑え、黙ったまま様子を見る。
「貴方が一番恐れているのは、彼女が自分の手から離れていってしまうことではないのですか?
だから彼女の自尊心を傷つけ、自分のもとにいれば安心だ、間違いないと思わせて側に置いておきたいのではないですか?」
雲雀さんは黙ったままだ。
そんなわけはないだろうと思わず口を挟みたかったが、この重苦しい空気のなかで声を出すことが正解だとは思えなかった。
「僕は、」
「恭さん!今お時間大丈夫ですか!?」
雲雀さんが口を少しだけ動かした瞬間、執務室の扉が乱暴に開く。
執務室へ駆け込んできたのは草壁さんだった。
雲雀さんと風さんが睨み合っているのを見て、しまったという顔をする草壁さん。
「す、すみません!」
雲雀さんはふぅと溜め息をつき、なんの用事だと草壁さんに尋ねる。
「恭さんに言われていたあの件についてですが、、、」
ちらりと私と風さんを見る草壁さん。
私達がいない方が都合が良いのか、雲雀さんは草壁さんは外に出ていってしまった。
「あの、風さん」
「どうしましたか?」
「私が言えたことじゃないんですけど、あんまり雲雀さんを刺激しない方が、、、」
「大丈夫ですよ。彼にはこのぐらいでも足りないぐらいです」
はぁ、そうですかと私が答えると風さんにじっと見つめられる。
なんだかそわそわと落ち着かず、思わず視線を下に落とすと風さんの笑う声が聞こえてきた。
「今日の夜はお暇ですか?」
「え、まぁ、予定は何もないですけど」
「そうですか」
にこりと微笑まれ、私もぎこちなくヘヘヘと笑う。
その日の夜、私と風さんはなぜか中華料理屋さんにいた。
「ここ、私が贔屓にしている店なんですよ」
「そうなんですか」
お店の中はガヤガヤとしており、香辛料の焼ける匂いや音が響き、確かに繁盛しているみたいだ。
お品書きを開くと中国語で書いてあり読むことができず、風さんの方を見る。
嫌いな食べ物はあるかと聞かれ、首を横に振ると慣れた様子で風さんは注文をしていた。
料理を待つ間、飲み物をちびちび飲みながら風さんを見るが何を考えているか全く分からない。
「あの、打ち合わせの続きですよね」
「打ち合わせ?」
「はい、あの件の」
流石に潜入捜査と言うわけにはいかず、言葉を濁す。
「私、今回は断ろうかと思っていて」
「どうしてです?」
「雲雀さんの言っていた通り、私には出来なそうだし風さんの足を引っ張りたくないんです」
目線を下に向け、膝の上で手を握る。
なぜだか分からないが風さんの顔が見れないでいた。
「沢田綱吉の言葉を覚えていますか?」
不意に幼なじみの名前が出てきて思わず風さんの方へ顔を向けると、口角をきゅっとあげ、優しく微笑んでいた。
「彼はファミリーの適正を考え、適材適所仕事を割り振っていると言いました。貴女なら出来ると分かって仕事を依頼したのです」
「でも、私の上司は雲雀さんです。雲雀さんの指示には従わないと」
「なら尚更受けるべきです。彼は依頼書に自身のサインと印鑑を押したのですから」
「それは、、、」
どうしよう、風さんだけにはサインのことを言ってしまおうかと悩んでいたら料理が届き、机の上に並べられる。
「食べましょうか、冷めてしまったら勿体ないですから」
「で、でも!」
「はい、どうぞ」
風さんからお皿とお箸を渡され、なんだか少し強引だなと思いながらもお礼を言い、ひとまず受け取る。
ご飯を食べている時に断ろうと思ったのだが、風さんの機嫌を損ねてしまう気がして言えずじまいだ。
料理を一通り食べ終え、デザートの杏仁豆腐を食べている最中に話を切り出したのは風さんからだった。
「貴女はお付き合いされている方はいないのですか?」
「お、お付き合い?いないですよ!私のこと好きになる人なんて、、、」
「それでしたら私が立候補しても?」
「アハ、ハハハ、、、。風さんも面白い冗談言うんですね」
杏仁豆腐を食べていたスプーンをお皿の上に置き、頼んでいた烏龍茶をごくごくと飲む。
やけに喉が乾く。
「心外ですね、人の一世一代の告白を冗談だなんて」
「いや、だって!私と風さんって接点ないじゃないですか!好きになってもらえる要素なんてないですよ!」
風さんは子供のような、少しだけ不機嫌な顔をしていたが怒っているわけではなさそうだ。
でも確かに、私と風さんはあまり会う機会もなく、実際今回の顔合わせも大分久しぶりのことだった。
「私はずっと前から貴女のことが好きだったんですよ」
「ずっと前って?」
「代理戦争の時からです」
どうせ口から出任せを言うのだろうと軽い気持ちで話を聞いていたが、十年以上前の話を持ち出され思わず驚いてしまう。
「私の代理で闘っていた彼がボスウォッチを壊してしまった時、貴女は本気で怒ってくれましたね」
そうだ、そうだと記憶を思い返す。
雲雀さんは風さんの代理としてボスウォッチを、私はバトラーウォッチをつけていた。
幼なじみ達からは色々と言われたが、雲雀さんから着けろと言われ致し方なくバトラーウォッチを手首に巻いていた。
私は雲雀さんと風さんが向かったホテルへ遅れて到着したのだが、既に雲雀さんのボスウォッチは粉々に砕けていたのだ。
「雲雀さん!やっぱり雲雀さんでもヴァリアーの皆さん相手にはきつかったですか、、、!誰ですか!誰にやられたんですか!」
屋根がなくなったホテルの上で私が騒いでいるとスクアーロさんが言いにくそうに口を開く。
「ヒバリは自分でボスウォッチを壊しやがったんだァ」
「え、そんなまさか、流石の雲雀さんもそんなこと、、、」
その場にいる全員が黙り、まさか本当に自分で壊したのかと雲雀さんへ確認する。
「僕は戦いたい時に戦う」
「な、なに言ってるんですか!代理戦争でボスウォッチを壊すってことは、風さんが元の姿に戻れなくなるってことなんですよ!?」
「僕には関係ない」
「関係ないって、一度引き受けたことを反故にするんですか!?」
「煩いな、僕に意見するなんて生意気だよ」
「生意気かどうかなんて関係ありません!見損ないました、こんなことになるなら私がボスウォッチを着けていた方が良かったですよ、、、!風さん、行きましょう」
「待ちなよ」
雲雀さんから肩を掴まれるが、そのまま勢いよく振り返って雲雀さんの顎目掛けて頭突きをする。
痛そと笑いながら言うベルさんの声が聞こえてきたが気にしないことにした。
私の渾身の頭突きをくらった雲雀さんは、先程の戦闘のせいもあるだろうがよろよろと後ろへ後ずさる。
「好きな時に戦えば良いじゃないですか!雲雀さんなんてもう、知りません!」
私は風さんを抱っこしたまま、そのままホテルから出ていった。
「あー、そんなことありましたねぇ」
「貴女は泣きながら私に謝ってくれましたね」
あぁそうだった、悔し泣きなのか申し訳ないからなのかは覚えていないが、泣いてしまったんだよなと苦笑いをする。
「あの時から、私は貴女のことが好きだったんです」
「そ、そうでしたか」
沈黙が苦しくなり、私はまた烏龍茶をごくごくと飲む。
そろそろお開きの時間だろう、次の烏龍茶を頼むのは遠慮しておこう。
「彼と貴女が付き合っていないと知って安心しました」
「彼?」
「雲雀恭弥のことですよ」
雲雀さんの名前が出てきて思わず烏龍茶を吐き出してしまいそうになる、が、すんでのところで思いとどまる。
逃げ場を失った烏龍茶が気管に入りむせてしまう。
「な、なんで、私と、雲雀さんが?」
「貴女達は学生の頃からいつも一緒にいましたし、今も仕事上のパートナーですからてっきりそういう関係なのかと」
椅子から立ち上がり風さんが私の背中を擦ってくれている。
優しいな、まるで介護されているようだと少しだけ嫌な気持ちになった。
「学生の頃は私も風紀委員でしたし、今もこき使われてるだけですよ」
「そうでしたか」
風さんは確かに笑ってはいたが、なんだか少しだけ冷や汗をかいてしまう。
おしぼりで口の回りをごしごしと拭き、ふぅと人心地つく。
風さんにはもう大丈夫ですと伝えるが一向に席に戻らないでいた。
「あの、風さん?」
風さんから手をきゅっと握られ、思わずぎょっとしてしまう。
「返事はこの仕事が終ってからで構いません。公私ともに私のパートナーになってください」
「へ?」
「你是我最爱的人」
「ニーシー、ズイ?え、え?」
突然の流暢な中国語(多分中国語であってるはず)を私は聞き取ることができずヘラヘラと笑うしかない。
そろそろ出ましょうかと風さんが私の手を軽く引っ張り、その勢いで椅子から立ち上がる。
会計をする時に慌てて財布を取り出すも風さんに止められ、結局奢ってもらってしまった。
「あの、すみません。ありがとうございます」
「気にしないでください、私から誘ったんですから」
「あ、それじゃあ次は私が出しますよ!」
軽い気持ちで出た言葉だったが、風さんは少しだけ気抜けした顔をし悪戯をする子供みたいな顔で笑う。
「それは次のデートのお誘いと思って良いんでしょうか?」
「で、でーとって!違いますよ!そういうつもりじゃなくて!」
「やはり可愛らしい人ですね、貴女は」
クスクスと笑いながら、風さんは私の髪の毛先を楽しそうに弄っていた。
「あの、からかわないでください!」
「からかってなんていませんよ、どうしたら信じていただけるんですか?」
「知りませんよ、もう、、、」
ふと、風さんとの距離がまた近づいていることに気付き慌てて離れようする、が、風さんが両手で私の頬を挟み身動きがとれなくなってしまう。
「駄目ですよ、もっと良く顔を見せてください」
「あ、あの、風さん?」
「あぁ、可愛らしい、、、。早く、早く私のものになって?」
うっとりとした、なんだか少しだけ艶かしい顔で私を見つめる風さん。
少しずつ、少しずつ、でも確実に、私達の距離は縮まっていく。
これは、もしかして、まずいんじゃないかと脳が危険信号をだすが私の体はいっこうに動けないでいた。
-中編へ続く
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