雲雀さんと私のバレンタインデー事変


傍若無人(ぼうじゃくぶじん)は、人のことなどまるで気にかけず、遊び、騒いで勝手に振る舞うこと。また、そのさま。

某サイトより参照、雲雀さんにぴったりな言葉だと思う。

授業が終わり、グラウンドからは部活動に励む生徒の声が聞こえてくる。
あ~、雲雀さんの機嫌が悪くないといいなぁなんて思いながら応接室へと足を運んでいる時のことだった。
雲雀さんは機嫌の良い日と悪い日の差が激しい、とても激しい。
何がトリガーになっているのかは良く分からないが、機嫌が悪い時はとにかく悪い。
じゃあ機嫌が良い時はとにかく良いのかと言われたら、それはちょっとうーん、、、となってしまうが。
そんなことを考えながら歩いていたら名前を呼ばれ、後ろを振り返る。

「よっ、久しぶりだな」
「ディーノさん!」

雲雀さんの自称師匠、キャバッローネファミリーのボスでもあるディーノさんがそこにはいた。

「お久しぶりです、お一人ですか?」
「おう、ロマーリオ達は留守番してるぜ」

よく一人でこれたなぁと口には出さないでおくが、ディーノさんの頭にはところどころ葉っぱがついている。

「今日はどうしたんですか?三人ならもう帰っちゃいましたよ?」
「いや、今日は恭弥に会いに来たんだ」
「雲雀さんに?」

おやまぁと驚いてしまう。
あの雲雀さんに積極的に会いに来る人はそんなにいないからだ。

「恭弥がどこにいるか分かるか?」
「雲雀さんなら応接室じゃないですかね?」

そうか、サンキューなと言われ、ディーノさんがいるなら今日は帰ろうかなぁ、なんて思っていたらなぜか応接室と真逆の方へディーノさんは進んでいた。

「ちょ、ディーノさん!そっちじゃないです!逆です逆!」
「そうだったか?」

そうだ、部下がいないとこの人ダメだったんだと思いだし、ディーノさんを応接室へと案内する。

「恭弥は元気か?」
「雲雀さん?元気なんじゃないですか?」
「ん?最近恭弥と会ってないのか?」
「毎日会ってますけど、雲雀さんのことはよく分かんないですからね」
「そうか、これは強敵だな、、、」

ディーノさんが少しだけ顔をひきつらせながら笑い、強敵とは何のことだと思ったがあまり深く考えずに横を歩く。

応接室の前へ到着し、じゃあ私はこれでと帰ろうとしたらディーノさんに引き留められる。

「どうしたんだよ?お前も恭弥に用があるんじゃないのか?」
「いや、特にないから大丈夫ですよ。それに私は明日も雲雀さんと会えますから」
「分かんねーぞ?恭弥と俺は三日三晩山の中で修行してたからな、今回ももしかしたら、、、」

フッフッフっと笑うディーノさんは得意気な顔をしていた。
私としてはそれもありかな、そしたら応接室に寄らず京子ちゃん達と遊べるし、本屋にだって行ける。

「まぁまぁ、後は若い二人でどうぞどうぞ」
「なに言ってるんだよ?ほら、行くぞ」
「いや、本当に大丈夫です!」
「強情なヤツだなー、ほら!」
「いやいや!ほんとに!ディーノさん久しぶりに雲雀さんに会えるんですから!今日は譲りますよ!」

ディーノさんは私の腕を引っ張り、私は近くにあった校舎の柱を掴む。
私達の攻防戦は中々に白熱したものなった。

「お前、意外と、力強い、な!」
「そう言う、ディーノさん、こそ!しつこい男は!嫌われ、ますよ!」

グギギギと力比べをしている私達は端からみたらどう映るのか。
放課後だし人通りもない、思う存分にやらせてもらうことにした。

「ねぇ、なに騒いでるの?」
「恭弥!」
「雲雀さん!」

ガラガラと応接室の扉が開き、私は思わず柱から手を離してしまい、その反動なのかディーノさんの胸へ思いっきり飛び込んでしまった。

「いたた、ディーノさんすみません!」
「俺は大丈夫だけど、、、」

私の下敷きになっているディーノさんの口元がひくひく動いており、何を見ているんだろうと視線の先を追うとそこには、

「なにしてるの」

ズモモモと真っ黒なオーラを出した雲雀さんがいて、次の瞬間にはゴチン!と頭の中で星が飛び散る。

「それで?何しにきたの?」
「久しぶりに会ったのにその言い方はないだろ」

今一番被害を被ってるのは私だ。
ぷくうと膨れたたんこぶを撫でながら、お茶の用意をする。
雲雀さんから殴られたあと、丁度良い、お茶いれてと言われ急須と湯呑みを温めている最中だった。

「久しぶりに会った師匠との再会だろーが、もう少し喜べよな」
「僕にそんなものはいない」
「チェッ、連れねーなぁ」

ディーノさんは本当に何しにきたんだろう、まあ良い。早くお茶を出して帰ろう。

「はーい、お茶ですよ~」

お盆に湯呑みとどら焼きを載せ、二人の前へスッスッと置く。
ディーノさんがどら焼きを好きかどうか分からなかったから一応袋にはいったものを持っていった。

「サンキュー、おっ、どら焼きじゃねーか」
「どら焼き、食べれますか?」
「おう、大好きだぜ!」

そうか、杞憂だったなと思いながらも胸を撫で下ろす。

「なに跳ね馬の分まで用意してるの?」
「だって雲雀さんがお茶用意しろって言ったんじゃないですか」
「僕の分だけに決まってるでしょ、こんなのに気を遣うことないよ」
「こんなのって、、、」

ディーノさんがいじけた子供のような顔をするものだから少しだけ笑ってしまう。
そんな私の様子を見た雲雀さんからトンファーでコツコツと頭をつつかれる。

「ニヤニヤするな、間抜け顔」
「間抜け顔って、、、。はいはい、もう帰りますよ、後はお二人でどうぞ!」

今日はいつもより早く帰れてラッキーなんて思いながら自然にカバンを掴む。
ディーノさん、しばらく雲雀さんのこと連れ出してくれないかなぁなんて不謹慎なことを考えてしまう。

「あ、おい!ちょっと待てよ!恭弥も意地悪なこと言うなって」
「帰って良いなんて言ってないよ、明日使う資料をまとめてほしいし、次の見回りのスケジュールも決めてないだろう」

、、、へーい、じゃあお二人の話が終わるまで待つことにしますよとソファに腰を下ろそうとする、が。
どうしよう、どっちに座ろうか。
雲雀さんとディーノさんはソファに向かい合って座っていた。

「こっち座るか?」

ディーノさんは少しだけ横にずれるとポンポンとソファを叩く。

「じゃあ失礼して、、、」

ディーノさんの横に座ろうとしたその瞬間、ガンっと勢いよく顔すれすれに何かが飛んできた。
パラパラと壁の粉が落ちる音がし、見るとトンファーがぶっ刺さっている。
トンファーが飛んできた方向、つまりは雲雀さんの方を見ると先程よりもズモモモと真っ黒なオーラを出した雲雀さんがいた。

「目の前で群れるな」

今日の雲雀さんの機嫌の悪さはマックスだ、怒髪天だ。
ディーノさんは若干引いていた。

「ハハハ、じゃあ私は二人のお話しが終わるまでどっか行ってますよ、、、」

そう言ってこそこそと応接室の扉の前へ移動し、引き戸へ手をのばそうとした、ら。
ガンっと勢いよく顔すれすれに、またまた何かが飛んできた。
トンファーだ、トンファーである。
そうだ、トンファーは二つで一つですもんねと呑気なことを考えてしまう。

「なに勝手に出ていこうとしてるんだい?」
「アハ、ハハハ、、、。デスヨネー、、、」

そんなわけで、私は雲雀さんの横に腰を下ろしていた。
目の前にいるディーノさんは先程からひきつった笑みを浮かべている。
ディーノさん、雲雀さんはいつもこんなに機嫌が悪い訳じゃないんですよ、今日はたまたま、何故だが分からないけどこんなに機嫌が悪いんですよと心の中で訴える。

「そう言えば、ディーノさんは何でこっちに?雲雀さんに用事があったんですよね?」

よくぞ聞いてくれました!みたいな感じでディーノさんは膝をパンと叩いた。

「そうそう!今日はな、相談をしに来たんだ!」
「相談?雲雀さんに?」

雲雀さんに相談とはどういうことなんだろうかと先を促す。
ディーノさんは少しだけニヤニヤ笑いながら、おうと頷く。

「恭弥に、というか是非お前にも聞きたいことがあるんだ」
「私にも?なんですか?」

先程自分でいれたお茶を飲み、口の中の渇きを潤す。

「ズバリ、今俺には好きなヤツがいる!」
「お、おお?そうなんですか、おめでとうございます?」

突飛もない会話の始まりかたにまごまごとしてしまう。

「ただな、恋愛なんて随分久しぶりのことだからどうしたら良いのか分からねぇんだ」

なんだか芝居がかった言い方だなぁと私はどら焼きを食べる。

「へぇ、そうなんですか。イタリア人は恋多き人種だと思ってましたよ」
「俺はボスとして忙しいんだよ!なんだその偏見は!」
「それで、私達に聞きたいことって言うのはなんですか?」

このままでは話がすすまないと軌道修正をかける。ディーノさんはコホンと咳払いをし、話を続けた。

「ズバリ、お前の好きなタイプはどんなヤツだ?」
「え、私ですか?というかディーノさん、まさか、、、」

雲雀さんが少しだけピクッて動いた気がするが今はそれどころではない。もしかして、もしかしてディーノさんは、

「ロリコンさんなんですか?」
「バッ!バカ!そんな訳ねぇだろ!」
「だってわざわざ雲雀さんと私に相談しきにきたって言ったから、中学生ぐらいの子を好きになったのかなって、、、」

未成年はダメですよ、未成年は、と言うと、ディーノさんから少しだけ怒られてしまった。
まぁ雲雀さんの年齢は分からないが私は正真正銘中学生だ。

話を聞いた限りだとどうやら恋愛話をしたいだけのようで取り敢えずそのまま話を聞くことにする。

「そんで、お前はどういうタイプが好きなんだ?」
「私は、そうですねぇ、、、」

うーんと考えてみるがパッとは思い付かない。
私があまりにも唸っていたからか、ディーノさんから好きな人はいないのかと尋ねられる。

「好きな人、好きな人、、、。いや、いないんでしょうね、こんなに考えてるのに思いつかないですよ」
「そ、そうか。でもほら!好きなタイプぐらいはいるだろう?」
「そうですねぇ、傍若無人じゃない、暴力を振るわない、笑顔が素敵な優しい人が好きですかね?」

言ってて、傍若無人、暴力を振るう、笑顔が怖い人って雲雀さんのことか!と心の中でアッハッハと笑う。

「そ、そうか、、、」
「優しさって大切ですよね」
「お、おう、そうだな、、、。そうだ!恭弥はどうなんだ!?」

わぉ、まさか雲雀さんにも聞くなんて。
思わず雲雀さんの口癖を真似てしまう、もちろん心の中でだが。

「ちょ、ディーノさん、雲雀さんになに聞いてるんですか。雲雀さんが教えてくれるわけ、」
「いるよ」

間髪いれずに答える雲雀さんに驚く、まぁ私はバレンタインデーの時に立ち聞きをしていたから知っていたが。
雲雀さんも人間だ。
好きな人の一人や二人はいるだろう、でもまさかここで答えてくれるとは思わなかった。

「そうなんですか、へぇ、そうなんですか、、、」
「なに?なにか文句でもあるのかい?」
「いや、そうじゃなくて、雲雀さんの好きな人ってどんな人なのかなって思って」
「お、良いじゃねーか良いじゃねーか!恭弥も話してみろよ!」

ディーノさんがにこにこ楽しそうに笑う。
まるでディーノさんは雲雀さんの好きな人を知っているみたいな口調だ。

「馬鹿で間抜けでお人好し、僕が必死に気持ちを伝えてるのに少しも気づかない。とんでもなく鈍くて、この先一人で生きていけるか心配になる」
「お、おん、そうなんですか、、、」

それは好きな人というのだろうか?
まぁお人好しと言うぐらいだから優しい人なのだろうと勝手に答えを出す。

「というか、雲雀さんもアプローチしてるんですね」
「まぁね」
「雲雀さんがアプローチしてるのに気づいてないってことは、その人はとんでもなく鈍感な人なんですねぇ」

シーンと応接室が静まり返る。
あれ?変なこと言ったかなとディーノさんの方を見ると顔を隠して少しだけ震えていた。
ディーノさんと呼び掛けてみると、ばっと顔を上げて慌てて咳払いをする。

「恭弥の場合はアプローチの掛け方が問題だと思うんだけどな、、、」
「ディーノさん?なにか言いましたか?」
「いや、なんでもねぇよ。まぁ、そう言うことだ。世の中には自分が好かれていることに気づかないヤツもいる、そこでだ!お前だったらどんなアプローチをしたら良いと思う?」

ディーノさんで名指し、というか指をビッと向けられ素っ頓狂な声が出てしまう。

「私ですか?」
「おう!女だったらどんなアプローチをされたら嬉しいかなーと思って!」
「そうですねぇ、、、。私の意見聞いて参考になります?やっぱりディーノさんはロリコン、、、」
「違うっつーの!いろんなヤツの意見を参考にしてるんだって!」

ワタワタと慌てるディーノさんを横目に、顎に手を置いて考える。
アプローチ、アプローチねぇ、自分が人を好きになったことがないから考えたこともない。

「うーん、そうですね。私だったら素直に言われた方が嬉しいかもしれません」
「素直に?」

ディーノさんがきょとんとした顔をして私の顔を見る。
恋愛経験皆無の私が言ったところで説得力はないだろうが、まぁ多分一般的な、一般論として答えよう。

「いや、お相手の方が鈍いならもう素直に言っちゃった方が良いんじゃないかなって。アイラブユーって。あ、イタリア語だとなんて言うんですかね?ジュテーム?」
「Ti amo」
「あ、そっか、ティアモでしたねティアモティアモ。雲雀さんめちゃくちゃ発音綺麗ですね」

雲雀さんに訂正され、そっかそっかと思い出す。
少しばかり温くなったお茶を飲み、雲雀さんは何でも知ってるなぁと感心する。

「I love you」
「英語だとそうなりますね」
「我愛你」
「あ、それなら知ってますよ!中国語ですよね?」
「Ich Liebe Dich」
「イッヒ、ブー、、、?え、どこの国ですか?」

雲雀さんは碩学であられる、最後の言葉は全く聞き取れなかった。

「雲雀さん、でもそれ私に言っても意味ないですよ。好きな人に言わないと、それに私達は日本人ですからね。ここはいっちょ、月が綺麗ですねって言ってみたらどうです?」
「月が綺麗ですね?」

ディーノさんが不思議そうな顔をしてこちらを見ているため、私は昔聞いたことのある話をかいつまんで説明する。

「かの有名な夏目漱石さんの言葉ですよ。アイラブユーを月が綺麗ですねって訳したんだとか」
「それ、俗説で信憑性低いけどね」
「え、そうなんですか?」
「大体、月が綺麗ですねって言って君わかる?」

まぁ確かに。
月が綺麗ですねとアイラブユーが同じ意味で伝わるのは中々難しそうだ。

「そうですねぇ、やっぱりズバっと言うのが一番かもしれませんね。君のことが好きだ!アイラブユー!って」

自分で言ってて笑ってしまいそうになる。
雲雀さんがアイラブユーって!君のことが好きだ!なんて、ちょっと想像できない。

一通り私達三人(といっても雲雀さんはほとんど会話に参加しなかったけど)は話をし、ディーノさんがそろそろ帰るなと腰を上げた。
一人で帰れますかと聞くと、子供じゃないんだからと言われディーノさんは応接室を出ていく。

「ディーノさん!逆です!逆!」

早速逆方向に進んでいるディーノさんを見て、大丈夫ですかねと不機嫌な顔をした雲雀さんへ話しかける。

「興味ない」
「さいですか、、、。雲雀さん、お茶おかわりします?」

雲雀さんが頷いたため、一度湯呑みを回収しお湯を沸かす。
そうか、あの雲雀さんに好きな人かぁと思いながらいつもの要領でお茶を入れ、雲雀さんの前へ置く。
雲雀さんはソファに座ったままだった。
別に横に座ることはないだろうと、ディーノさんが座っていた方へ腰を下ろす。

少しだけ熱いお茶は雲雀さんの好みで、前まで散々だった。
ぬるいと言われ気をつければ今度は熱すぎると。
熱すぎると言われ気をつければ今度は温すぎると。
もうそんなこと言うなら自分でいれてくださいよ!と言いたくなるが、言ったら最後。
ボコボコのタコ殴りにされるだろう、雲雀さんには恐怖政治がよく似合う。

「確か資料のまとめと見回りのことでしたっけ?」

早く終わらせて帰ろうと雲雀さんへ確認をとる。
資料のまとめと言っても私がすることはホッチキスで留めるくらいだ。
見回りについては私なんかより草壁さんとした方がいいのだが、基本的に出来上がっているスケジュールに対して、良いんじゃないでしょうか、これで行きましょうかと言って終わり。
一応風紀委員ではあるが私のしている仕事は大したことではない。

これお願いねと言われドサッと机の上に紙の束が置かれる。
毎回思うがこんなにたくさんの量が必要なのだろうか、でも雲雀さんが無意味なことをするわけがないだろうから、言われるままホッチキスで留めていく。
雲雀さんはと言うと、お茶を飲みながら私の作業をジーと観察、いや監視といった方が良いだろう。
監視していた。

「あの、雲雀さん」
「なに?」
「そんな見られたら緊張します、大丈夫ですよ。ちゃんとやってますから、他の仕事進めておいてください」
「もう終わってる」
「それだったら、たまには早めにお帰りになられたらどうですか?まだ時間かかると思いますよ」
「僕に意見するなんて生意気だね」
「意見て、、、。じゃあ良いですよ、早めに終わらせるように努力しますから」

パチンパチンとホッチキスの音が静かな応接室に響く。
雲雀さんが目の前にいるとなんだか呼吸がしづらい、そう思うのは何故なのだろうか。

「そう言えば、見回りの組み合わせはどうするんですか?」
「あぁ、そのことなら、、、」

雲雀さんが見回りの組み合わせとスケジュールをつらつらとのべる。
前回とほぼ同じだ、私に相談する意味はあるのだろうか。

「雲雀さんが決めたなら間違いないですよ、それで良いと思います」
「そう、じゃあ14日は空けておいてね」
「え?14日?その日って、」

土曜日である、学校は休みだ。
しかも空けておいて?どういうことだ。

「その日は僕と君で見回るよ、休みだろうが関係ないから」
「え、えぇー、、、。そんなぁ」
「なに?文句でもあるの?」
「ないですけど、分かりました。空けておきます」

どうせ休みの日の見回りなんてすぐ終わるだろうとたかを括っていた、ら。

「1日かけてやるからね、10時に並中集合。遅れたら噛み殺す」
「、、、へーい、分かりましたよ」

やはり雲雀さんには恐怖政治がよく似合う。
この人には何を言っても無駄だ、人生諦めが肝心だ。
ちらりと雲雀さんを見ると先程よりも表示が柔らかい。
なにか良いことでもあったのかなぁと思いながら手を止める。

「そう言えば雲雀さんの好きな人って、並中の人なんですか?」
「なに、急に」
「いや、私は雲雀さんに好きな人がいることも、その人にアプローチしているのも知らなかったので」

嘘である、アプローチをかけていたのは初耳だが好きな人がいることは知っている。
どうせ、君には関係ないだろと言われ終わるかな、なんて思っていたら雲雀さんは答えてくれた。

「そうだよ」
「あ、そうなんですか?年上の方ですか?」
「違う」
「はぁ、そうなんですか。え、もしかして京子ちゃんですか?」
「違う」
「じゃあ、花ちゃん?」
「違う」
「えーと、じゃあ、もしかしてクロームちゃん?それともハルちゃんですか?」
「違う、並盛生ってさっき言っただろう」

そっか、それもそうだと思い直す。
もし私達より下の世代だったらお手上げだ、いや、もしかして、雲雀さんの好きな人が男の子の可能性もある。
大体、好きな人を聞いて当てようとするなんて、なんて不躾だったのか。
大人しく作業を進めることにする。

「他には」
「なんですか?」
「他に思いつく子はいないのかい?」
「うーん、そうですね、、、。草壁さん、ですか?」

ゴッと再び頭の中に星が飛び回り、思わず頭をおさえる。

「いたい!そんな、殴らなくても!」
「君が気色悪いこと言うからでしょ」

雲雀さんからの鉄拳を受け、どうしよう、また頭がバカになっちゃうよと心の中で嘆く。
なんなんだこの人は、まるで雲雀さんは私に好きな人を当ててもらいたいみたいだ。
もしかしてそうなのかもしれない、雲雀さんは案外シャイな人だからアプローチも上手くいっていないのかもしれない。
なんだなんだ、それならそうと言ってくれれば良いのに。

「仲を取り持ってほしいなら頑張りますよ」
「は?」
「いや、確かに雲雀さんは格好いいですけど、少しだけ、少しだけ近寄りがたい雰囲気があるじゃないですか。私が上手く取り持ちますよ」

私がそう言うと雲雀さんは一気に不機嫌な顔になってしまった。
少し上から目線だったかな?

「君、僕のこと格好いいって思ってるんだ」
「そりゃ、まぁ。でもどっちかって言うと雲雀さんは綺麗って言葉の方が合ってるかもしれませんね。バレンタインデーのチョコもすごかったって草壁さんに聞きましたよ」

そうなのである。
後から草壁さんに聞いた話だと段ボール4つ分は処分したとのことだった。
まぁもしかしたら大半は雲雀さんに一子報いようと送られた物かもしれないが。

「余計なことを、、、」
「なにか言いましたか?」
「別に」

さいですかさいですかと作業に戻る。
不意に雲雀さんが口を少しだけ開き、僕はと言葉を続けた。
手を止め雲雀さんの言葉の続きを待つ。

「僕は君の分しか貰ってないよ」
「え、それって、」
「意味、分かるよね」

私は少しだけ遅れて、はいとだけ答えた。
そうか、そうだったのか、そう言うことだったのか。
その後は私と雲雀さんの間に会話はなく、作業が終わった私達は帰ることにした。

「じゃあ、私はこれで」
「遅いから送っていくよ」
「雲雀さん、今日はバイクですよね?歩きたい気分なので遠慮しときます」

雲雀さんは少しだけキョトンとした顔をし、不気味な笑顔を浮かべるとバイクの鍵のキーホルダーをくるくると指でまわす。

「そう?分かった、じゃあまた明日ね」

下駄箱で別れ、私は靴を履き歩き始める。
そうか、雲雀さんは、そうだったのかと歩を進めると、少し先にディーノさんがいた。
何故だ、何故私達より先に出たのにこんなところにいるのだと少しだけ頭がいたくなる。

「ディーノさん!」
「お、お前かぁ。今帰りか?恭弥は?」
「雲雀さんはバイクですから、学校で別れましたよ」

話を聞いたところによると今日は幼なじみの家に泊まるんだとか。
もう良い、このまま送って帰ろうと一緒に並んで歩く。

「どこ歩いてたらそうなるんですか」
「いやぁ、ジャッポーネの町には慣れてなくてな、、、。そういやどうだったんだ、あの後」
「あの後?普通に作業終らせて帰りましたよ」
「そ、そうか、、、。やっぱり中々強敵だな、、、」

ディーノさんが先程同様、少しだけ顔をひきつらせながら笑い、強敵とは何のことだと思ったがあまり深く考えないことにした。

幼なじみの家へ到着し、インターフォンを鳴らす。
ドアを開いたのは幼なじみでもある沢田綱吉の家だった。

「ディーノさん!どこ行ってたんですか!?遅いから心配しましたよ、ってアレ?」
「いやぁ、道に迷っちまって」
「じゃあ確かに送り届けたからね、後はよろしく」

私に気づいた幼なじみは、ディーノさんを送り届けてくれたお礼に飲み物ぐらいだすからと言われ、お言葉に甘える。

「あ!どしたの!ランボさんと遊びたいの?」
「ランボダメ!」
「おー、二人ともこんばんは」

わちょわちょと足元をグルグル回っているランボ君とイーピンちゃんに目線を合わせ挨拶をする。

「ちょ、コラ!ランボ!止めろって!」
「遊ぶんだもんね!遊べ遊べ!」
「ランボダメ!コマッテル!」
「大丈夫大丈夫、ほらイーピンちゃんも良かったらおいで」

ランボ君は私の腕にしがみつき、アスレチックの要領で登ってきていた。
イーピンちゃんも嬉しそうに笑い、私の身体をよじ登ってくる。

「あらぁ、久しぶりねぇ!」

奥から幼なじみのお母さんがおたまを持ったまま、騒ぎを聞きつけたフゥ太君も顔を見せに来てくれたため挨拶をする。
ビアンキさんは確か食材探しの旅に出ると言っていたから留守なのだろう。

「元気にしてた?つー君たら全然あなたのこと話してくれないんだもの。お夕飯は?もし良かったら食べていって」
「いや、今日は突然来ちゃったんでまた今度にします。ありがとうございます」
「えー!ママンのご飯いっしょに食べるんだもんね!んで、その後はランボさんと遊ぶんだじょ!」
「そうだよ、せっかくだから一緒に食べようよぉ」
「イッショ!イッショ!」

子供達からうるうるとした瞳で見つめられ、うっとなってしまう。
どうしようかと幼なじみの顔を見る。

「もし大丈夫だったら食べていってよ。母さんもランボ達も喜ぶし、それに山本と獄寺君も食べていくことになってるからさ」
「二人も来てるんだ。そっか、じゃあお言葉に甘えようかなぁ。ディーノさんは今日は泊まっていくんですよね?」
「おうっ!」

大分大所帯だけど良いのだろうか、幼なじみのお母さんはそんなことは気にしていないと笑顔で台所へ戻っていった。

ご飯が出きるまでの間、幼なじみの部屋で待つことになり、階段を上がる。
お母さん似だねと私が言ったら、よく言われると幼なじみからは苦笑いで返された。

「山本、獄寺君、おまたせ」
「お邪魔しまーす」
「ん?なんだ、お前も来たのか?」
「おい、なんでテメェがここにいるんだよ!」

山本君は友好的だが獄寺君は私に対して少しばかり当たりがきつい。
まぁ雲雀さんに比べたらかわいいものである。

「うっさいぞ!アホ寺ぁ!」
「ゴクデラサン!ソンナイイカタ、ダメ!」
「おーおー、二人は優しいねぇ」
「獄寺叱られてるのな」

小脇に抱えられたまま二人は獄寺君に抗議してくれた。山本君はそんな様子を見て楽しそうに笑う。

「ディーノさんを送ってきたんですよ」
「よ!お前ら久しぶり!」
「跳ね馬!なんでテメェまでここに、、、!」
「いや、雲雀さんに用事があったみたいですよ。ね、ディーノさん」
「ヒバリさんに?」

幼なじみから立ち話もなんだからと座布団を渡され、折り畳み式机の前へ座る。
ディーノさんは持参してきたのであろう、ばかでかい、重厚感のある椅子に座っていた。

「跳ね馬がヒバリに用事ってことはもしかして、マフィア関係のことか?」

獄寺君が鋭い眼差しでディーノさんを睨む。
尖ってる尖ってると思いながらストローを加えジュースを飲む。

「違う違う、俺達が話してたのはズバリ!恋バナだよ、恋バナ!」

ディーノさんから、ねーそうだよねーと言う風に声をかけられ、そうですねと頷く。
幼なじみは、三人が恋バナしてるとことか想像できないんだけどとひきつっていた。

「恭弥の相手は強敵だからな、中々手こずってるみたいなんだ」
「お前も一緒に話し聞いたのか?」

山本君から尋ねられ、うん、まぁそうだねと頷く。
そう言えばとディーノさんの方へ身体を向け、気になっていたことを聞いてみることにした。

「ディーノさんは雲雀さんの好きな人知ってるんですか?」
「え、」
「もしかして三人も知ってるの?」

ユニゾンで驚かれ、三人の顔をまじまじと見る。
三人はなんとも言いがたい、ただ幼なじみだけは顔を青くしていた。

「な、強敵だろ?」
「まぁ、そうですね、、、」

ディーノさんへそう答えた幼なじみは乾いた笑い声をだし、若干引いた顔で私のことを見ている。
なんだなんだ、雲雀さんに好きな人がいることは結構有名なことなのかと納得することにした。

「そっか、皆知ってたのか」
「まぁまぁ!ヒバリさんの話しは置いといて!14日さ、空いてる?」
「14日?多分空いてるけど、あ、」
「どうかしたのか?」

山本君がストローを加えたまま、幼なじみの部屋にあるカレンダーへと視線を送る。

「あー、その日雲雀さんと見回りなんだ」
「はぁ?その日土曜日だろうが、十代目の誘いを断るとは良い度胸してるな」
「ね、休みの日に見回りなんてついてないけど、雲雀さんに元気になってもらいたいし、良いかなって」
「え、それどういうこと?」

私はコップを机の上に置き、芝居がかったように話し始める。

「フフフ、聞いてくれるかい?ツナヨシ君よぉ!」
「え、いや、やめとく、、、」
「ちょ、なんで!聞いてよぉ!」
「なんかとてつもなく面倒なことに巻き込まれそうだから、、、。この間も巻き込まれたし、、、」

ハハハと乾いた笑い声を上げる幼なじみの顔に何かがクリティカルヒットし、ブベッと後ろに倒れる。

「ボスとしてファミリーの話を聞いてやるのも大切な仕事だって言っただろう」
「リボーン君!」
「ちゃおっス、元気してたか?」

姿が見えないと思ったら、幼なじみの倒れた横にすちゃりとリボーン君は立っていた。

「十代目!大丈夫ですか!」
「相変わらず変わってねーなぁ、リボーンは」
「お、小僧じゃねーか。どこ行ってたんだ?」
「野暮用があってな。ヒバリ達が面白いことになってるみたいだから話を聞きにきたんだ」

ん?雲雀達って?と思いながらもリボーン君に視線を向ける。

「やめとけリボーン!この二人に関わったらろくなことに、この間だって散々な目に、ぷぎゃ!」
「十代目ぇ!」

リボーン君に今度は後ろから頭を蹴られ、前のめりに倒れるツナに少しだけ同情した。
あれ、前にもこの光景見たな。そうだ、バレンタインの時だと思い出す。

「それで、ヒバリがどうしたんだ?」

言おうか言うまいか悩んだが、私の胸だけに留まらせておくのにはあまりにも荷が重い。
ランボ君とイーピンちゃんは聞いていないみたいだし、話してしまおう。
なにか打開策が思いつくかもしれない。

「雲雀さん、私のチョコしか受け取ってないんだって」
「え、うん、そうなんだ?」
「そうなんだって、、、。ひどい男ですね、そりゃあなたは京子ちゃんから貰えて嬉しかったでしょうよ。でもね、雲雀さんは本命の子から義理チョコすら貰えなかったってことなんだよ!わざわざ私にまで話してさ、普通にしてるけど大分ショックを受けてるみたい、で、、、?」

シーンとした沈黙、ランボ君とイーピンちゃんのはしゃぐ声がやけに響いて聞こえた。

「え、なにこの空気、天使でも通ったの?」

私が滑ったみたいで恥ずかしい、なにか言ってくれよ!と思わず怒りそうになる。

「いや、雲雀さんに同情するというかなんていうか、、、」
「鈍いのもここまで来ると才能だな」
「まぁ、しょうがねぇよ。俺はヒバリの態度にも問題があると思うぜ?」
「な、だから言っただろう。強敵だって」
「お前ら、やっぱり見てて飽きないな」

頭の中がハテナマークで埋め尽くされるが、幼なじみのお母さんから呼ばれ一同皆下へ降りる。

帰ってきていたビアンキさんの顔を見て獄寺君が倒れたり、ランボ君とリボーン君がおかずの奪い合いの白熱としたバトルを繰り広げたり、食後に王様ゲームをした話しは今回は割愛させていただこう。

幼なじみの家から帰る途中、空には星が光っていた。
流れ星が流れたら雲雀さんの恋が成就するように祈っておこうと、私は道路を見ながら歩いた。
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