雲雀さんと私のバレンタインデー事変
キリスト教圏の祝いで主に欧米で、毎年2月14日に行われるカップルが愛を祝う日とされている。家族や親友などと祝う人もいる。
この日は、キリスト教圏では一般に恋人や家族など大切な人に贈り物をすることが、習わしとなっている。
某サイトより参照、つまりバレンタインデーのことである。
「と言うわけで、草壁さん!お願いしますよ~、それとなく雲雀さんに聞いてみてくださいよ」
目の前にいる草壁さんに向かって、神社よろしくパンパンと手を叩き拝む。
草壁さんは参ったなぁって顔をしながらポリポリと襟足をかいていた。
「大体、お前は風紀委員だろう。風紀委員が率先して校則を破るのは、、、」
「まぁまぁ、固いことは良いじゃないですか!それに、雲雀さんだって最近お菓子持ち込んでるじゃないですか」
私がそう抗議すると草壁さんは罰の悪そうな顔をして、しかし、でもと歯切れが悪い。
「委員長が菓子を持ち込んでるのは、」
「でも意外ですよね。雲雀さん、甘いもの好きなんですかね?」
そう、そうなのだ。
なぜこんな状況なのか、お伝えするには少しだけ時間を巻き戻す必要がある。
ここ最近、応接室へ行くとおばあちゃんの家に置いてあるような竹籠にドドンとお菓子が盛られているのだ。
チョコ、クッキー、飴玉、一口羊羮や一口栗饅頭、小分けにはいったかりん糖、ハイチュウにキャラメルにガム、、、。
和洋折衷、そのラインナップの多さに見たときは驚いてしまった。
雲雀さんの持ち物かと思い、はじめの頃は手をつけなかったが、減らないことを不思議に思い雲雀さんへ聞いてみたことがある。
「雲雀さんが補充してるんですか?」
「なに?主語がないから意味が分からないんだけど」
「あ、すみません、お菓子のことです。全然減ってないなって思って」
「あぁ、それ食べて良いよ」
「え、良いんですか?」
二回も言わせないで、好きにしたら良い、そう言うと雲雀さんは書類仕事に戻ってしまった。
食べて良いと言われたのだから遠慮なく貰おう、チョコレートとクッキーを拝借し口にいれる。
そのまま自分の分の書類整理に戻ろうとしたら、不意に名前を呼ばれ顔を上げる。
「美味しい?」
「はい、美味しいです」
「そう」
確かに、チョコレートとクッキーはスーパーで大袋に入って売ってるようなものではなく、大分良いところの、つまるところ高級な味がした。
あ、このチョコレート美味しいな、何処のだろうと調べてみたら六個入りでこの値段!?と驚く。
「このお菓子、どうしたんですか?貰い物ですか?」
雲雀さんはこの並盛を牛耳っているのだから貢ぎ物(貢ぎ物って言うと悪代官みたいだけど、まさしく雲雀さんはそうだろう)もくるだろう。
私がそう尋ねると雲雀さんはボールペンを止め、少しだけ沈黙し、ポツリと、買ったと答えてくれた。
「買ったんですか?へぇ」
「なに、なにか文句ある?」
「いや、滅相もないです!」
さぁ早く終わらせましょうね~と慌てて書類仕事に戻る。
そうか、雲雀さんは甘いものが好きだったんだな。
その時はそう思ったのだ、ただ、お菓子の量が減っていない、と言うか、お菓子の位置が全然動いていない。
例えば、チョコレートもクッキーも一口羊羮も、場所を動くことなく前日と同じ位置にあった。
他の風紀委員の人が食べてないとしても、雲雀さん本人も食べていない説が私の中で浮上してきた。
確かに、私と一緒にいる時に雲雀さんがお菓子の竹籠に手を伸ばしているところは見たことがない。
「それ、食べないの?」
「へ?」
応接室で雲雀さんを観察していたら声をかけられ、思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「君、甘いの好きだろう」
「好きですけど、」
「ほら、食べな」
雲雀さんはそう言うと、乱暴に竹籠に手を突っ込み、掴み取ったお菓子を私の手の上にバラバラと落としてきた。
思わず、おぉ、有り難き幸せなんて言葉が出てきてしまいそうになるがグッとこらえる。
「あ、ありがとうございます」
うん、と雲雀さんは頷くとそのまま書類整理に戻ってしまった。
「雲雀さんは食べないんですか?」
「いらない」
買った張本人が食べないことに頭がハテナで埋め尽くされるが取り敢えず渡されたお菓子を頬張る。
高いお菓子はやっぱり美味しいものだな、もしかしたら雲雀さんは誰かにものを食べている姿を見せたくないのかも、そんなことを考えながら口の中でチョコレートを転がした。
そして、冒頭へと戻る。
草壁さんは言うか言うまいか悩んだ様子で、これぐらいだったら良いだろうと言葉をもらした。
「委員長は、甘い菓子類は好まないんだ」
「え、じゃあ何であんな山盛りに好きじゃないものを買ってるんですか?」
「そ、それは、、、」
ムムムっと草壁さんの顔が歪む、草壁さんは雲雀さんの右腕だし付き合いも長い。
何かやんごとなき事情があるのかもしれない、がその時の私はそこまで頭が回らなかった。
「まぁまぁ、そこまで思い詰めなくて大丈夫ですよ!今度、京子ちゃん達とチョコ作る約束したんで、それとなーく、なんとなーく、なに食べれるのか、なに食べたいのか聞いてみてくださいよ」
「お前、そんな簡単に、、、」
草壁さんの声を遮るように予鈴がなる。
あ、次は移動だからもう戻らないと、じゃ、よろしくですと言い残し踵を返し小走で教室へと向かう。
後ろから、おいちょっと待てって声がしたけど、無視してそのまま進む。
草壁さんは情に厚い人間だから頼んでしまえばこっちのものだ。
そして放課後、応接室の近くで草壁さんの声が聞こえ、そのまま聞く耳をたてる。というか草壁さん、言ったその日に聞いてくれるなんてなんて仕事が速いんだろう。
「委員長、そろそろあの時期が近づいてきましたが、、、」
「あぁ、バレンタインのこと」
「はい、今年はどうしますか?」
ん?今年はどうしますか?
草壁さんも雲雀さんにチョコレートを渡しているのか?
「どうするもなにも、全部破棄するに決まってるだろう。差出人不明の食品類なんて食べられるわけがない。名前が書いてあったとしても全部破棄しておいて」
「分かりました」
確かに、雲雀さんはいろんな意味でいろんな人から恨みをかってるだろうから、食べ物はこわいよなぁ。
「あの、委員長はどのような菓子類であれば食べたいと思われますか?」
おお!草壁さんすごい!本当に聞いてくれた!
「なに気持ち悪いこと言ってるの」
「あ、いや、一般論というか、最近菓子類をよく購入しているので、、、」
たじたじしながらも食らいついてくれる草壁さんには頭が上がらない、申し訳ないなと思いながら続きをまつ。
「別に、あれは僕のじゃない。でもそうだね、バレンタインデーなんてものに浮かれて手作りを渡してくるやつの気が知れないよ。素人の作ったものなんて気持ち悪くて食べる気がしないし、既製品の方が美味しいだろうに」
「委員長、、、!」
グワァァンと頭を石で殴られる、と言うのはこういうことなのだろう。
た、確かに、雲雀さんらしいな、、、!!
「なに、本当のことだろう」
「いや、でもそれが好きな相手からのチョコでしたらどうですか!?」
「好きな相手、、、」
少しだけ間を置き、悪くないね、と機嫌の良さそうな雲雀さんの声が聞こえてくる。
え、と言うのか雲雀さん好きな人いるの!?
うそぉ!マジか!全然分からなかった、と言うか誰なんだろう!?
取り敢えず知りたい情報を聞けた私はそのままヒョコヒョコと応接室の前から立ち去る。
そうかそうか、あの雲雀さんに好きな人かぁ。
そうだよな、雲雀さんも人間だもの、好きな人の一人や二人はいるかぁ、なんてことをボケェと考えながらその日は応接室に寄らず帰宅した。
帰宅してからも雲雀さんのことばかり考えてしまい、誰なんだろう雲雀さんの想い人は、というか雲雀さんの周りに女性はいただろうか?
京子ちゃん、ハルちゃん、クロームちゃん、花ちゃん、もしかしてイーピンちゃん?
流石にそれはダメなのでは?犯罪なのでは?
ハッ!もしかして!
女性ではないのでは!?グローバル化を語る世の中でなんて見識の狭いことを考えていたのだろうか。
何はともあれ、雲雀さんの恋が成就しますように。というか、私が応接室に良く行ってるから雲雀さんはアタックが出来ていないのではないか?
雲雀さんはお菓子を食べている姿も見せないくらいだ、好きな人に対してドキドキしている姿はよっぽど見せれないだろう。
そうか、きっとそうだ。
申し訳ないことをした、そうか、私のせいか。
私も一応風紀委員だが、していることなんて書類整理と書類のホッチキス留め、応接室の軽い掃除と最近はお菓子を食べているぐらいだ。
少し、行く頻度を落とそう。
そうすれば雲雀さんもアタックしやすいだろう。
ゴロリとベッドへ転がり、明日からのことを考え眠りについた。
その日はなんだかソワソワ落ち着かず、なかなか寝付けなかったのはここだけの話だ。
そしてしばらくの間、私は応接室に立ち寄ることはなかった。
雲雀さんへは理由をつけて連絡をしているし、問題はないだろう。
そんなことを続けていたら、放課後、幼なじみから最近どうしたんだと声をかけられた。
「どうしたって、なにが?」
「最近、応接室行ってないよな?雲雀さんと何かあった?」
「フフフ、聞いてくれるかい?ツナヨシ君よぉ!」
「え、いや、やめとく、、、」
「ちょ、なんで!聞いてよぉ!」
「なんかとてつもなく面倒なことに巻き込まれそうだから、、、」
ハハハと乾いた笑い声を上げる幼なじみの顔に何かがクリティカルヒットし、ブベッと後ろに倒れる。
「ボスとしてファミリーの話を聞いてやるのも大切な仕事だぞ」
「リボーン!」
「リボーン君!お久しぶりだねぇ」
「ちゃおっス、久しぶりだな、元気してたか?」
彼のトレードマークでもある黒いボルサリーノの帽子は相変わらず手入れが行き届いておりピカピカだった。
「見ない間に綺麗になったな」
「あら、久しぶりっていっても三日前に商店街で合ったじゃない」
「お前が先に久しぶりって言ったんだぞ」
あら、そうだったかな、リボーン君は相変わらずお上手ねぇ、なんて軽口を叩いていると、いつの間にか獄寺君と山本君も集まってきていた。
「十代目!大丈夫ですか!」
「お、小僧もいるじゃねーか。今日はどうした?」
「ヒバリ達が面白いことになってるみたいだからな、話を聞きにきたんだ」
ん?雲雀達って?と思いながらもリボーン君に視線を合わせる。
「やめとけリボーン!この二人に関わったらろくなことに、ぷぎゃ!」
「十代目ぇ!」
リボーン君に今度は後ろから頭を蹴られ、前のめりに倒れる幼なじみには少しだけ同情した。
「それで、お前は何をしてるんだ?」
リボーン君にそう尋ねられ、待ってましたと言わんばかりに私は勿体つけながら話を始めようとした、が、本人がいない前(いても話せないけど)でペラペラと喋るのも如何なものかと思い、かいつまんで話すことにした。
その結果、私の口から出てきたのは、
「キューピッドですよ!恋のキューピッド!」
シーンシーンシーン、、、。
あれ、誰もなにも言わない?聞こえなかったのかな?
「キューピッドですよ!恋の!キュー」
「聞こえてるっつーの!二回も言うんじゃねぇよ!」
獄寺君が声を出してくれたことにより、一先ず私は落ち着いた。幼なじみは状況が分かってないのか顔をしかめながら小さく手を上げる。
「キューピッドって、誰が誰の?」
「私が、雲雀さんの」
また沈黙、なんでだ!なんで黙るんだ!
私にはキューピッドは無理だって言いたいのか!
山本君はいつもニコニコ笑って、なんとかなるだろって言ってくれるのに今回はなにも言ってくれないし、獄寺君は若干引いている。
幼なじみはというと顔がサーと青ざめていて、リボーン君は楽しそうにニヤニヤ笑っていた。
沈黙を破ったのは、私達の教室へ後輩の風紀委員が雪崩れ込んできたからだ。
名前を呼ばれ、少し、いや大分ボロボロになった彼のもとへと駆け寄る。
ご自慢のリーゼントも所々髪の毛がピョンピョンと跳ねてしまっている。
三人も心配そうにその様子を眺めているのがわかった。
「どうしましたか?なにがあったんですか?」
「まさか、敵襲か!?」
「え、うそ!それって、」
「穏やかじゃねーな」
後輩君はプルプルとしながらも声を絞り出していた。
「い、委員長が、、、」
「え、雲雀さん?雲雀さんになにかあったんですか?」
「と、とにかく!応接室に行ってください!!このままでは俺達の身体が!」
そう言うと後輩君はバタリと倒れてしまった。
最後の力を使いきったのだろう、後輩君は満足そうな顔をして気絶していた。
一先ず後輩君を三人に任せ、応接室へ向かう。
途中で草壁さんにも会ったが、何故か後輩君同様ボロボロになっている。
俺に構わず先に行け、なんて某マンガ顔負けの台詞を言われ応接室へと急ぐ。
「雲雀さん!大丈夫ですか!」
ノックもせずに応接室へ駆け込むと雲雀さんは涼しい顔をして椅子に座っていた。
「なに、うるさいよ」
「良かった、って!ちょっと大丈夫ですか!」
私が大丈夫かと聞いたのは勿論雲雀さんではない。応接室の入り口でドォーンっと寝そべっている風紀委員の一人にだった。
「一体何が、、、」
「うぅ、お前か、、、。良かった、このままじゃ俺達の身体が持たないからな、、、」
よっこいしょと私より大分大きい体を起こすと、辛そうな声を出しながら遠くを見ている。
その姿は私が昔に見た、ルーベンスの絵の前で迎えにきた天使達を見つめるアニメの瞳とよく似ていた。
「ちょ、大丈夫、じゃなさそうですよね。取り敢えず保健室に、、、」
「ちょっと、なに触ってるの」
声のする方を見ると雲雀さんが少しだけ赤黒くなっているトンファーを構えているところだった。
もしかして、この人が雲雀さんの想い人なのか!?
慌てて彼の体から手を離すと、受け身を取る力もなかったのだろう。
その衝撃で頭を打ってしまったのか気絶をしてしまった。
「あぁ!ごめんなさい!わざとじゃないです!」
「はぁ、、、。もう良いよ」
そう言うと雲雀さんは電話をし始め、一分もたたないうちに、まだ少しだけ元気のある風紀委員が彼を連れて出ていった。
シーンとした応接室、雲雀さんは椅子に座って書類整理に戻った。
どうしよう、今日は元々来るつもりもなかったからなにも仕事はないだろう。
帰ろうか、どうしようかと悩んでいたら雲雀さんから座ったらと言われソファーに腰を下ろす。
そして沈黙。
なにこの空間、辛すぎる。
雲雀さんから書類の一つでも渡されたら仕事をする気にもなるが、このままでは放置プレイだ。
「それ、食べないの?」
雲雀さんの視線の先にはお菓子が山積みになった竹籠が置いてあった。
「食べても良いんですか?」
「二回も言わせないで、食べるの?食べないの?」
「いただきます、、、」
一瞬、試されてるのではないかと緊張しながらもすぐ近くにあった一口栗まんじゅうを口へと放り投げる。
モグモグと咀嚼し、唾と一緒に飲み込む。
緊張からか少しだけ栗まんじゅうが口の中に残ってしまった。
「それ、美味しいかい?」
「あ、へい、美味しいです」
「そう、良かったね」
私が食べたことに満足?したのか、その後は書類をドサッと渡され、それ今度使うから留めておいてと言われる。
引き出しを開けホッチキスを取り出すとパチンパチンとまとめていく。
「雲雀さんはお菓子好きですか?」
「別に、嫌いじゃないよ」
「あ、そうなんですか。チョコとか食べれますか?」
「そうだね、でも甘過ぎるのは苦手」
はじめから自分で聞けば良かったのかもしれない。
お菓子は嫌いじゃない、でも甘過ぎるのはNG、これだけ分かればバレンタインデーにも備えられると言うものだ。
その日は大分暗くなってからの解散だった。
雲雀さんから送るよと言われ、じゃあそこまでご一緒に、なんて話をしながら帰宅する。
学ランだけで寒くないのかな、雲雀さんは想い人にアタック出来たのかな、でも雲雀さんは意外とシャイな人だからもしかしたらなにも進展してないのかも。
なんて一人で考えながら雲雀さんと歩く道はなんとも形容しがたい気持ちだった。
そしてきたるべきバレンタインデーの放課後、私はチョコレート配りを始めることにした。
今回のバレンタインデーは平日ということもあり女子も男子も色めきだっていて、デフォルトでハートが飛び散っている、ような気がしてならない。
前日に京子ちゃん達と作ったお菓子のなかには風紀委員のメンバーの分も入っていた。
ガサガサと大袋を揺らし、練り歩く姿は行商のようだ。
日頃の感謝の意味を込めどうぞどうぞと手渡していくと、風紀委員のメンバー達は自分が貰えるとは思ってなかったのか驚かれた。
「ありがとうございます!恐縮です!俺達、姉御に一生ついていきます!!」
「あ、姉御?」
見事なまでのお辞儀を見せられ思わず、手作りだから、嫌だったら申し訳ないとこちらも頭を下げる。
自分達のことを気にかけてくれる、そんな気持ちが嬉しいのだと彼らは笑った。
そんなに嬉しかったのか、やっぱり人の喜ぶ顔を見るのは良いものだなと思わずスキップをしてしまいそうになる。
お菓子作りをしている最中、花ちゃんからはまめねぇアンタと呆れられてしまったが、お返しが楽しみだと返すと現金ねと笑われた。
生クリームを泡立てていると服の裾を引っ張られ、見るとクロームちゃんが遠慮がちに話しかけてくる。
「雲の人にもあげるの?」
「あぁ、雲雀さん?うん、一応ね」
「そう、、、」
そう言うとクロームちゃんは少しだけシュンとした、悲しそうな顔をされてしまう。
「ハヒッ!ヒバリさんにもあげるんですか?」
「雲雀さんと仲良しだもんね!」
「仲良しって言うか、ねぇ、、、」
ハルちゃんは少しだけビックリした顔で、京子ちゃんは相変わらずかわいい顔で笑っていた。
花ちゃんは少しだけ苦笑いをしていた。
「雲雀さん、意外と優しいよ?」
「優しいのはアンタにだけでしょ。この間、風紀委員のメンバーがやられたって聞いたわよ」
「あ、そうそう、結局なんでかは分からないんだよね」
「なんでか分からないって、、、。雲雀に少しだけ同情するわ」
花ちゃんはふぅと溜め息をつくと、マドレーヌの型にペタペタと油を塗り始めた。
花ちゃんの様子を不思議に思いながらも、ガショガショと生クリームを泡立てそれ以上は気にしないことにした。
雲雀さんは想い人からチョコレートを貰えるのだろうか、今日は応接室に近寄らない方が良いのではないか。
そんなことを考えていたら、お菓子の入った紙袋はガサガサと少しだけ大きな音を立てて揺れた。
教室へ戻ると、幼なじみと獄寺君に山本君、京子ちゃんと花ちゃんが残っていた。
「遅いわよアンタ、どんだけ配ってんのよ」
「いやぁ、ごめんごめん。あ、二人はもう渡したの?」
「うん!私と花はもうツナくん達に渡したよ!」
ふと、幼なじみの顔を見るとニヤニヤダラダラとした顔をして笑っている。
良かった良かったと思いながら、私は紙袋からお菓子を取り出し三人に渡した。
「はい、ハッピーバレンタイーン」
「お、サンキューな」
「けっ、こんな企業の策略に乗せられやがってよぉ」
「ん?獄寺がいらないなら俺が代わりに貰ってやるけど?」
「誰もいらねーなんて言ってねぇだろうが!野球馬鹿!」
「まぁまぁ、二人ともそのぐらいにして、、、。ありがとう、大切に食べるから」
三者三様、うん良いトリオだなぁなんて考えてしまう。
獄寺君からも小さくお礼を言われ、お返しは三倍返しで良いですよと言うと、馬鹿なことを言うんじゃないと言われてしまった。
「やだな、冗談ですよ冗談」
「テメェのは冗談に聞こえねーんだよ」
「え~、そんな、獄寺君ひどいですね、悲しいですよ私は」
ヨヨヨと嘘泣きをすると、周りからはドッと笑い声がする。
「獄寺、アンタ女子泣かせるなんて最低ね」
「な、コイツが女子ってタマかよ!」
花ちゃんも悪のりして獄寺君を責めたため、思わず私も笑ってしまった。
この後は、このメンバーにプラスアルファ、途中で落ち合う予定のハルちゃんとクロームちゃんと幼なじみの自宅へお邪魔し、リボーン君やランボ君、イーピンちゃん、ビアンキさんにフゥ太君にお菓子を渡すつもりだ。
帰る前にどこかで雲雀さんと草壁さんに会えないかな、なんて思ったその瞬間、ガラガラと教室の扉が開く。
「ねぇ、そこ群れすぎ」
「ヒ、ヒバリさん!」
幼なじみは小さく悲鳴をあげ、少しだけ後退りをする。
すごい偶然だ、私は雲雀さんのいる扉の前へと小走で駆け寄る。
「雲雀さん!帰る前に会えて良かったです、ちょっと待ってくださいね」
ガサガサと紙袋の下の方にあるお菓子を取り出す。
雲雀さんは私が手間取っているのも気にせず、そのまま静かに待っていてくれた。
「はい!いつもお世話になってます!もし良かったら受け取ってください!」
長方形の、綺麗にラッピングされた箱を取り出し雲雀さんの前へ出す。
「これって、」
「あ、大丈夫ですよ!ちゃんと買ってきた、既製品のお菓子ですから!」
長方形の箱は綺麗なラッピングが施されており、やっぱり既製品は違うなぁなんて思いながら渡す。
「彼らのは?」
雲雀さんはお菓子の箱を受け取ると、まじまじと眺め、幼なじみ達の持ってる不格好な袋に詰められたお菓子を見つめていた。
彼らとは幼なじみのことかと合点する。
「だって雲雀さん言ってたじゃないですか」
少しだけ不思議そうな顔をした雲雀さんを余所に、私は言葉を続ける。
事前準備はバッチリ、傾向と対策を練った私には怖いものはないのである。
「手作りを渡してくるやつの気が知れない、素人の作ったものなんて気持ち悪くて食べる気がしない、既製品の方が美味しいだろうって!流石に雲雀さんが買ってるお菓子よりは安いですけど、そこのお菓子もなかなか美味しいですよ!」
フフンと自信満々に告げると、ブフッと誰かの吹き出した笑い声が聞こえてくる。
あれ、と思い振り替えるとそこには堪えきれなかったのだろう、獄寺君が顔を赤くしながら笑っているところだった。
「何がおかしい、獄寺隼人」
「いや、だって、お前も大変だな、、、!」
相変わらず獄寺君はプルプル震えている。
雲雀さんからドス黒いオーラが出ているのは気のせいではないだろう。
と言うか、ちょっと不味いのではないか、そう思った時には遅かった。
雲雀さんはトンファーを取り出し獄寺君へ向かっていたし、獄寺君もダイナマイトを取り出していた。
そんな様子を見た花ちゃんは、付き合ってられないわ、ほら、先行くわよと私と京子ちゃんの肩を抱きそのまま教室を後にする。
幼なじみの悲痛な叫び声が聞こえた気がするが、まぁ致し方ない。
心の中で幸運を祈りながら廊下を歩く。
視線の先に草壁さんがいるのが見え、右に曲がったのを確認すると、私は二人に先に行っててくれと伝え草壁さんの後を追う。
「草壁さーん!」
「お前か、どうした?委員長なら教室に向かったぞ。会えなかったか?」
「雲雀さんには会いましたよ、お菓子も渡せました。草壁さんも、もし良かったら受け取ってください」
紙袋の中からお菓子を取り出すが、先程雲雀さんに渡した綺麗なラッピングを思い出し、素人丸出しの自分のお菓子を渡すことが恥ずかしくなってしまう。
「わざわざ俺にも用意したのか、ありがとな」
「いえいえ!いつもお世話になってます、この間もありがとうございました。風紀委員のメンバーにも渡したんですけど、喜んでもらえましたよ」
「全員にか?大変だっただろう」
「まぁ大変じゃなかったって言ったら嘘になっちゃいますけど、嬉しそうな顔を見たら作って良かったって思いましたので!」
「そうか、俺からも礼を言わせてもらう。ありがとう」
ペコリとやっぱり綺麗なお辞儀を見せられ慌ててこちらも頭を下げる。
ところで、と少しだけ歯切れ悪そうに草壁さんは口を開いた。
「委員長は?渡してみてどうだったんだ?」
「雲雀さんですか?勿論、ちゃんと既製品を渡しておきましたよ」
「な、なんでだ!?」
草壁さんがオロオロと慌てた様子で詰め寄ってきたため、その気迫に圧されてしまう。
「だって、ほら、素人の作ったものは気持ち悪くて食べる気がしないし、既製品の方が美味しいだろうって、、、」
「ば、その後!その後に委員長は何て言ってたか分かるか!?」
「その後、、、。あぁ!好きな子からだったら悪くないって言ってたことですか?そうそう、あれから雲雀さんの恋はどんな感じですか?進展しましたか?」
「なっ、はぁ!?」
「いやぁ、あの日から一応気を使って応接室に立ち寄る回数を減らしてみたんですけどね。どうですか?雲雀さんは本命の子から手作りチョコレート貰えそうですか?」
草壁さんは開いた口が塞がらないと言った様子でこちらを見ていた。
そのままだと本当に顎が外れてしまうのではないかと心配になる。
「まぁ、バレンタインはまだ時間が残ってますもんね。雲雀さんの恋が上手くいくように願っておきますから。そろそろ私行きますね、それじゃ、また明日です」
ペコリとお辞儀をし、踵を返す。
草壁さんがその場から動けず、頭を抱え込んでいた事実を知るのはそれから何年かの月日が経った後の話だ。
「なんてこともあったなぁ」
そして十数年後、私は広いキッチンでやっぱりガショガショと生クリームを泡立てながらしみじみと呟いた。
「君、今は大分ましになったけど本当に鈍感だったよね」
そう言う雲雀さんは、対面キッチンのカウンターの椅子に座りながら私のお菓子作りの様子を見ている。
「いや、だって雲雀さんが私のこと好きなんて思うわけないじゃないですか」
「群れるのを嫌うこの僕が君だけは手元に置いていたのに?」
「いや、まぁそうなんですけど、あの時は猫の手でも借りたいのかなって」
私と雲雀さんが恋人同士になってからそれなりの月日が経った。
雲雀さんは前に、酔った勢いもあったのだろう。
答え合わせをするかのごとく、あの時僕はこうだった、あの時の君はこうだったと話し始めたときには驚いた。
意外とちゃんと好かれていたのね、なんて少しだけ安心したのは私だけの秘密だ。
まぁ、今回はその話はあまり関係がないので割愛させていただこう。
「他の奴らは君の手作りだったのに、僕だけが既製品のお菓子を渡された。その時の僕の気持ちが分かるかい?」
「まだ言いますか、、、」
意外とねちっこい人だ、雲雀さんは。
そりゃあ最初の頃は、申し訳ないことをしたなぁとう気持ちの方が大きかったが、こうも毎年言われ続けると、そんなに悪いことをしたのか?と言う気持ちになるから人間とは不思議な生き物だ。
「当たり前だろ、僕は一生言い続けるつもりだからね」
「さいですか、、、」
今考えると自分はとんでもない人に目をつけられていたのだなと同情したくなる。
でもまぁ、今は一先ず目の前にいる愛しい恋人のためにバレンタインデーチョコレートの準備をしよう。
愛しい恋人は待ちきれない様子でソワソワと椅子を揺らしていて、その姿に堪らなく幸せを感じているのは事実なのだから。
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