打倒!キュートアグレッション!


キュートアグレッション(英: cute aggression)とは、可愛いと思った対象を見た際に実際に害を及ぼすことを意図することもなく、自分の歯を食いしばったり、拳を握り締めたり、かわいいと思った対象を噛んだり、つまんだり、きつく抱きしめたいという衝動を感じることがあるとされる。

某サイトより参照、人間の赤ちゃんや幼い動物など、かわいいものを見ることによって引き起こされる皮相的な攻撃的行動・衝動である。

並盛の風紀委員長でもあり、不良の頂点に君臨する雲雀さんからお付き合いの申し出を受け数ヶ月がたった。
はじめの頃は呼び出されるだけでも足をガクガクと震わせていたが、意外にも雲雀さんは優しくて、私達は順調にお付き合いを続けている。

お付き合いとは言っても、お昼休みを一緒に過ごしたり一緒に登下校したりするぐらいだ。
花ちゃんからは、それは付き合っていると言うのかと呆れた顔で言われたが、学生同士のお付き合いなんてそんなものであろう。

「というか、未だに雲雀さんと付き合ってる気がしないんだよね」
「そりゃそうでしょ、恋人らしいことしてないんだから。ほら、できたわよ」

私の髪の毛をアイロンで巻き終わった花ちゃんから手鏡を手渡される。
鏡には何時もより可愛くなった自分が映っており、顔を横にずらしながら感嘆の声をもらす。

「わぁ、上手だねぇ」
「昨日テレビで見てね、試してみたかったのよ。ヒバリに見せてあげたら?」
「えぇ?雲雀さんに?良いよぉ、なんか気合いいれてると思われたら恥ずかしいし、、、」
「というか、アンタはヒバリのどこが良くて付き合ってるの?」
「雲雀さんのどこが良くてって、、、」

アイロンを片付けた花ちゃんは私の前の椅子に座りニヤニヤと笑っていた。
腕を組みながら考え、うーんうーんと唸り声をあげる。

「雲雀さんの良いところかぁ、、、」
「アンタ、ヒバリの前では言えるようにしておきなさいよ、、、」

花ちゃんは少しだけ顔をひきつらせながら笑っていた。

その日の放課後、さぁ帰るかと腰を上げると教室内が少しだけざわついていることに気づく。
教室の入り口に目を向けると雲雀さんがいて、名前を呼ばれる。

「雲雀さん、お疲れ様です」

たったかと雲雀さんのもとへ駆け寄ると、同級生達は小さく悲鳴を上げ私達を視界にいれないよう慌てて視線を反らされた。

「お疲れ、時間ある?」

腕時計を確認し時間があることを告げると、雲雀さんからじゃあ付き合ってと言われる。
花ちゃんと京子ちゃんからはまた明日と挨拶をされ、幼なじみでもある沢田綱吉は青白い顔で私と雲雀さんのことを見ていた。
その横にいる山本君はにこにこと笑って手を振っていたが、獄寺君は何時も通り不機嫌そうな顔をしていた。
同級生達に短く挨拶をし、廊下を歩きながら雲雀さんの顔をちらりと盗み見る。

綺麗な顔だなと思いながら、花ちゃんとの会話を思い出す。
雲雀さんの好きなところ、好きなところ、、、。
改めて言われると難しいな、というか逆にどうして雲雀さんは私のことを好きなんだろうか。

「どうしたの」
「え、」
「見すぎ」

くすりと綺麗な顔で笑われ、咬み殺されてしまわれないうちに謝る。

「別に怒ってないよ」
「わわっ」
「これどうしたの?」

ぐりぐりと頭を撫でられた後に、髪の毛の先をくるくると指で巻く雲雀さん。

「友達がやってくれて、、、あ!校則は守ってますよね!?」

どっどっどっと心臓がうるさく鳴り、このままトンファーの餌食になってしまうのではないかと冷汗がとまらない。
別に今まで雲雀さんに乱暴をされたことはないが、幼なじみや他の生徒が殴られている姿は何回か見たことがあった。

「うん、校則違反はしてないよ」
「よかった、、、」
「可愛いね、似合ってる」

雲雀さんの可愛い発言に思わずデヘヘと変な笑い声が出てしまう。
ありがとうございますとお礼を伝えると、雲雀さんが口をきゅっと横一文字に結んでいることに気づく。

「あの、雲雀さん?」
「なに?」

名前を呼んだ雲雀さんは何時も通りの雲雀さんだった。
なんでもないですと告げると、変な子と優しく笑われた。

「そういえば今日はどうしたんですか?」
「今週の日曜日、空いてる?」
「日曜日?見回りですか?」

休みの日に見回りかと首をかしげると雲雀さんは違うと小さく口を開く。
雲雀さんから予定がないなら家に遊びにこないかと言われ、私は思わず驚いてしまった。
それもそのはず、雲雀さんの家に遊びに行ったことも、そもそもどこに家があるのか、というか雲雀さんのプライベートは謎に包まれているからだ。
群れることを嫌う雲雀さんのテリトリーに誘われたという事実に、意外と私のこと気に入ってくれてるんだなと嬉しくなってしまう。

「何も、」

私が黙ったままだったからか、先に口を開いたのは雲雀さんだった。

「何もしないから」

雲雀さんはさっきと同じように口をきゅっと横一文字に結び、何かを我慢しているみたいにも見えた。

「せっかく休みの日に会うのに、何もしないのはつまらないじゃないですか」

私がそう言うと雲雀さんは少しだけ驚いた顔をし、じっと視線が混じり合う。

「前に雲雀さんが貸してくれた小説、映画化してたの知ってます?DVD買ったので持っていきますね!」

私の言葉に雲雀さんは安心したかのように頷いた。

「せっかくのお休みに一緒に遊ぶのに、なにもしないんじゃつまらないよねぇ?」

目の前にいる花ちゃんは若干呆れた顔をしながら私の話を聞いている。
今日は土曜日のため、花ちゃんの家で宿題をするという建前を掲げた私達は教科書とノートを開きつつもお喋りに勤しんでいた。

「なにもしないって、、、。そういう意味じゃないと思うけど?」

花ちゃんの言葉に首をかしげていると、どこまで進んでいるのかと尋ねられる。
まだ全然進んでいないと真っ白なノートを苦笑いしながら見せると、そっちじゃないとため息をつかれてしまう。
なんだなんだと首を傾けると花ちゃんはちょいちょいと手を動かす。
机の上に身をのりだし耳を近づけると花ちゃんはそのままごにょごにょと小声で話し始めた。
部屋の中には私達しかいないのだから小声で話す必要もないだろうにと笑ってしまいそうになったが、花ちゃんの言葉を聞いた私はぎゅうと顔が熱くなる。

「な、なに言ってるの!?花ちゃん!」
「その様子だと少しも進んでないみたいねぇ」

慌てて花ちゃんと距離をとり、手を大きく振った。
花ちゃんは私の顔を見てふぅんとにやけた笑みを浮かべている。

「だっ、二人とも風紀委員だし!そ、そんな、」
「だから休みの日に誘ったんじゃない?」

シャープペンシルを器用にくるくるとまわしながら、花ちゃんは相変わらずからかうように笑う。

「そんなわけないよ!雲雀さんが、そんな、」
「まぁ明日になればわかることじゃない」

そう言うと花ちゃんはそのまま宿題に手をつけ始め、私との会話は強制的に打ち切られてしまう。

そんな話をしてしまったせいか、私は雲雀さんの家のインターフォンをなかなか押せないでいた。
なにもしていないのに顔が熱い、変な汗が出る。
押すぞ、押すぞ、押すぞ、、、!

「どうしたの」
「ぎゃ、ぎゃあ!」

インターフォンを押す前に雲雀さんが玄関から出てきて思わず飛びはねてしまう。
そんな私に雲雀さんは変な子と笑みを浮かべる。

「取り敢えず入ったら?」
「お、お邪魔します」

雲雀さんに手土産を渡すと気を遣わなくて良いと言われたが、せっかく持ってきたのだからと受け取ってもらう。
お邪魔しているのだから雲雀さんの家族に挨拶をしなくては、というよりも雲雀さんのお母さんやお父さんはどんな人なんだろうと気になった。

「あの、ご家族のかたは?」
「あぁ、今日は僕一人だから」
「え、あ、そうなんですか!?」

ど、どうしよう、やっぱり帰ろうかなと頭がぐるぐるとまわる。
花ちゃんがあんなことを言うから変に意識してしまってしょうがないじゃないか、心の中で悪態をつくが今更だった。

「飲み物持ってくるから、その辺座ってて」
「へ、へい、、、」

雲雀さんの部屋に案内された私は所在なさげに、うろうろとしてしまう。
テレビがあって机があってベッドがあって、意外にも普通な部屋だと辺りをきょろきょろと見回す。
というよりも、雲雀さんと二人っきりという事実を思い出した心臓は警告音を奏でるが如くうるさく鳴り響く。
がちゃりと扉の開く音が聞こえ、私は思わず変な声を出してしまう。

「何してるの、君は」
「いや!その、本棚にいっぱい本があるなって思って!」

確かに、雲雀さんの部屋の本棚には文庫本がたくさん置いてあった。
私の好きな作家の新作も見つけ、良いなぁもう買ったんだと羨ましくなってしまう。

「好きなの持っていって良いよ」
「え!良いんですか?」
「全部読んだやつだから」

雲雀さんにお礼を伝え、早速本棚の前で足を止める。
意外にも私と雲雀さんの本の趣味は似ているようで、どの本にしようかなと迷ってしまう。

「この作家さんの良いですよね!伏線のはりかたが本当に大好きなんですよ!」
「それが好きならこっちも好きだと思うよ」

不意に雲雀さんが私の後ろに立ち、そのまま本棚へと手を伸ばす。
私が少しでも動けば雲雀さんにぶつかってしまうような距離の近さに肩を縮めるしかない。
雲雀さんは全く気にしていないのか本のあらすじを私の耳元で話し始める。
雲雀さんとの距離の近さに心臓の音がうるさくて本のあらすじは少しも入ってこない。

「あ、あの!雲雀さん!DVD持ってきたので、一緒に見ませんか!?」

慌てて、さっと横に移動し、持ってきたDVDを掲げ、なんとか雲雀さんと一定の距離を保つ。
私も雲雀さんも読んだことのある小説が映画化されたものだから共通の話題にもなるし、映画を見ればこのうるさい心臓も落ち着くだろうと言う目論見もあった。
雲雀さんも頷いてくれたため、私達はベッドを背もたれに映画観賞を始める。
特に意味はないのだけれど、私と雲雀さんの間にはあと二、三人座れるようなゆとり保ちつつ腰をおとす。
これだったら大丈夫だろうと何に対する心配なのか分からないが胸を撫でおろした。
だいたい、私も雲雀さんも風紀委員なのに何を考えてるんだお前は、と言われたらぐうの音も出ない。
そんなことを考えながらテレビ画面を眺めていたら、雲雀さんがすっと立ち上がった。

「ど、どうかしましたか?」
「トイレ」
「じゃあ止めておきますね」

リモコンを操作すると、雲雀さんはそのまま部屋から出ていった。
緊張感の抜けた体は軟体生物のようにだらしなく倒れる。
応接室で二人っきりになったことも、二人だけで帰ったこともあると言うのに。
何だこの緊張感はとため息をつく。
そのままストレッチでもするかと体をぐいぐいと前に伸ばしていると扉が開き、私は慌てて姿勢を正す。

「お、おかえりなさい!」

あんまり雲雀さんの顔を見ないようにリモコンを操作して映画の続きを流した。
音と映像の動きに集中していると、なぜか分からないが雲雀さんは私の横に座り始める。
近くないか、、、?と考える私をよそに、雲雀さんは私の腰辺りに手をまわし映画の感想を述べていた。

「ねぇ、聞いてる?」

や、やっぱり近い気がする!
私は雲雀さんの方を向き、慌てて大きな声をあげる。

「あ、あの!」
「なに?」
「お、お手洗い、借りても良いですか?」
「だめ」
「え!?」
「冗談だよ」

雲雀さんはからかうように笑い、部屋を出て左の方だとお手洗いの場所を説明してくれた。

お手洗いまでたどり着いた私は腰を抜かしてしまう。
なんだよ!もう冗談になってない!心臓がいたい!あと手汗もすごい!
今まで知らなかった自分の体の変化に戸惑いながらも、取り敢えず用を足すことにした。
いつまでもお手洗いに籠城するわけにもいかず。
部屋に戻る私の足取りは重い。
ま、まずい、まずい気がする、いや、気のせいだ、気のせい、、、。
自分のなかで相反する気持ちがぶつかり合っているが現状引き分けである。

部屋に戻った私を見た雲雀さんは先程の私と同じように映画を流し始めた。
そうだ、気にしすぎだ、雲雀さんも映画見ているだけなんだから、、、!
私はよっこいしょと腰をおとす。

「ねぇ」
「あ、はい!なんでしょうか!?」
「こっちおいでよ」

雲雀さんがそう言いたくなる気持ちも、まぁ分かる。私は雲雀さんから遠く離れた、それこそ絨毯も届かない床の上に座っていたからだ。

「ここで充分なので!お気になさらずっ!?」
「良いからおいで」

言葉の途中だと言うのに雲雀さんは私の腕を引っ張る。
綱引きのように引っ張られた私は、そのまま雲雀さんと体を密着させながら映画の続きを見ることになってしまった。

「足崩せば?」
「だ、大丈夫です!正座好きなんですよね!」

緊張のあまり大分おかしなことを言っている自覚はあったが止められない。
背筋をこれでもかと伸ばし、太ももの上に置いた手は知らずのうちに握りこぶしをつくっていた。

映画に、映画に集中しよう、、、!
そんな私の決意に気づいていないのだろう。
雲雀さんは私の右手を握り、親指と人差し指の骨が交わる部分をぎゅうと押す。

「なにしてるんですか?」
「ツボ押し。合谷って言ってね、万能のツボなんだよ」
「そ、そうなんですか」

なんでこのタイミングで?
頭の中で疑問符が踊り狂っていたが雲雀さんはいつも通りだった。

「小さい手だね」
「そんなことないですよ、花ちゃんや京子ちゃんより大きいですから」

前に二人と一緒に手の大きさを比べたことを思い出す。京子ちゃんから指が長くて綺麗だねと優しく言われたことを思い出し、思わず鼻が高くなる。

「だってほら、こんなに小さい」

雲雀さんの手が私の手を隠すかのように覆う。
長くて綺麗な指先、しっかりとした骨格、爪は少しだけ深爪気味だった。
指先をきゅっと絡める動きに私の手には汗が滲む。
慌てて手を動かし、テレビ画面を指差す。

「ほ、ほら!そろそろ最後の方ですよ!見ましょう見ましょう!」

手を太ももの上に置き、再びこぶしを握る。
それはもう、これ以上は止めてくれと言う私の無言の抵抗だった。
黙ったままの雲雀さんが気になり、横目で盗み見る。
雲雀さんは私に向かって腕を伸ばしているところだった。
ひっと短く悲鳴のような声をあげてしまい、思わず体を横に動かそうとした、のだが。
足にじんじんと痺れが走り、中途半端な姿勢で体を横に崩す。

「あ、足が、、、痺れた、、、!」

正座をしていたせいだろう。
何をしているんだと自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。

「何してるの、君は」

うぉぉと変な声を出していると、雲雀さんはいつの間にか私に馬乗りになっていた。

「え、ちょっと降りてくださいよ」

茶化すかのように明るい声を出したが、雲雀さんは黙ったまま、動かなかった。

「雲雀さん、ねぇ、ねぇってば!!」

雲雀さんは相変わらず黙ったままだ。
上に着ている服の隙間から雲雀さんの手が入ってくる。

「だ、ちょ、ちょっと!!」
「うるさいよ」

抵抗虚しく私の両手は頭の方で動かないように片手で押さえつけられてしまう。

「お、お腹、ぶにぶになんで触らないでくださいよぉ、、、」

雲雀さんの手は温かいを通り越して熱かった。
お腹辺りを触っていたかと思ったら、どんどん手が動いて、そして、

「や、やだー!!」

私の声に雲雀さんの動きが止まる。
少しだけ力の抜けた雲雀さんと足の痺れが大分治ってきた私は慌てて抜け出す。
擬音をつけるのならしゃかしゃかである。
大分間抜けな姿だろう。

「まだ手も繋いでないしハグもしてないのにチューは早すぎるじゃないですか!!物事には順序と言うものがあってですね、、、!」

私はろくろを回すように手を動かす。
力を込めて話す私の手を雲雀さんはぎゅっと握ってきた。
え、握手?なんで今?なんて考えていたら、そのまま抱き締められる。
わ、雲雀さんいい匂いがするなぁと今この場には全く関係ないことを考えてしまう。

「はい、これで良いよね」

ぽんぽんと頭を軽く叩かれ、私の肩をがしりと力強く掴む雲雀さん。

「ど、え、え!?」
「君の言った順番通りだろ」

だんだんと私達の距離が近くなる。
は、肌も綺麗だな!この人!

「ま、待ってください!!」
「やだ」
「う、うわぁ!」

思わず右手で雲雀さんの頬を叩くような動きをしてしまう。
あ、やばいと思った瞬間、雲雀さんは私の腕を掴みそのまま反対方向に捻り始めた。

「いた、痛い!!」
「なに、どうしたの」

ぐぐぐっと捻られている方に体を傾けるが雲雀さんは相変わらず私の腕を掴んだままだ。

「す、すみませんでした!!思わず手が、手が出ました!!」

私の謝罪を聞いた雲雀さんは、ぱっと手を離してくれた。
痛かったなぁと腕を軽く振り、私は雲雀さんと向き合う。

「あの!こういうのはちゃんとしたシチュエーションでしたいんです!」
「シチュエーション?」

雲雀さんはベッドに腕を置き、頬杖をつきながら例えばと口を開く。

「た、例えば、、、海辺とか観覧車とか、、、?」

言ってて顔が熱くなる。
前に花ちゃんや京子ちゃん達と話した会話を思い出しながら、しどろもどろに言葉を繋ぐ。

「シチュエーションがそんなに大事?」
「そ、そりゃ、初めてですし、、、」
「僕はそう思わない」
「え゛」

思わず変な声が出てしまった。
雲雀さんの視線は真っ直ぐに私に向いていて、思わず下を見てしまう。

「シチュエーションよりも君とすることの方が大事だから」
「な、」

何を言っているんだこの人は!
ぱくぱくと口を動かし雲雀さんのことを見る。
私と視線がぱちりとあった雲雀さんはふんと鼻で笑う。

「まぁ君は相手よりもシチュエーションを重視するんだろう?」
「そ、そんなこと言ってないじゃないですか!」
「どうだか、、、」

ぷいと顔をそらす雲雀さん。
心外だ、心外であると私は思わず大きな声を出してしまう。
雲雀さんは相変わらずそっぽを向いたままだ。

「わ、私だって、誰とするのかって方が大事に決まってるじゃないですか、、、」

先程の勢いはどこへやら、私はもごもごと口を動かす。手だけではなく背中にまで汗をかき始めている。

「じゃあ君からしてよ」
「え!?」

くるりと振り向いた雲雀さんは早くしろと私のことを睨む。
急かしてきたぞ、この人、、、!

「わ、分かりましたよ、、、」

こうなった雲雀さんはテコでも動かないだろう。
少しずつ距離を縮めていく、のだが。

「あの、雲雀さん」
「なに?」
「目は閉じてくれませんかね、、、?」

ガン開きである。
雲雀さんの目はこれでもかと言うほど開いたままだった。
怖い、怖すぎるのである。

「しょうがないな、、、」

やれやれと言うふうに目を閉じる雲雀さん。
目を閉じた雲雀さんの顔はやっぱり綺麗で心臓がぎゅうぎゅうと痛い。
というか、なんでこんなことに。
このまま雲雀さんの思い通りになるのは誠に、誠に遺憾である。

口を横一文字に閉じ、ぎゅっと目も閉じる。
私はそのまま雲雀さんの綺麗な肌に、というか頬なのだが、口をくっつけた。
映画の音に紛れて恥ずかしい音が聞こえてしまい、私はそのまま体を丸め床に顔を隠す。

「何してるの、君」
「あ、アルマジロの真似ですけど!?」

アルマジロは約二十種類存在するが、全身を完全に球体のように丸めることができるのはミツオビアルマジロとマタコミツオビアルマジロの二種だけなのである、某サイトより参照、なんて現実逃避をしてしまう。
雲雀さんは黙ったままだった。

「は、恥ずかしい、、、!」
「アルマジロの真似が?」
「ちが、違いますよ!でも、好きな人とこういうことするのって、なんか嬉しいですね」

本心である。
顔はぎゅんぎゅんと熱いし、汗も止まらない。
でも、雲雀さんの柔らかい頬の感触を思い出してしまうと顔のにやけが止まらなかった。

「アルマジロの真似は分かったから、ほら顔見せて」

脇の下に手をいれられ無理矢理体を起こさる。
私の顔を見た雲雀さんはからかうように笑っていた。
何に対してなのかは分からないが、悔し泣きをしてしまいそうになり慌てて顔をそらす。

「わ、笑わないでくださいよぉ、、、」
「可愛いね」
「か、可愛くないですけど!?」
「僕も君にしたい、良いだろう?」
「口はまだ、だめですよ!風紀が乱れますからね!?」

はいはいと言う雲雀さんの声に力を込めて目を閉じる。
ひぃひぃと荒くなる息をなんとか止めていたのだが、雲雀さんが動く気配は感じなかった。
あれ、どうしたんだろうかと薄く目を開け少しだけ顔を動かした、ら。
口に柔らかいものがあたる感触、そして雲雀さんのしたり顔。

「顔真っ赤」
「な、はぁ!?」

先程同様、右手で雲雀さんの頬を叩くような動きをしようとした瞬間、雲雀さんは私の腕を掴みそのまま反対方向に捻り始めた。

「いた、痛い!!」
「学習しないね、君は」

ぱっと手を離され、もう掴まれてたまるものかと左手で右手首を隠す。

「な、な、口はだめって言ったのにぃ、、、!」
「君が動くからだろ」
「う、うぅ、、、!こんな時は!アルマジロの、」
「アルマジロはもう良いから、似てる似てる」

丸まろうとした私の体を引き寄せ、そのまま雲雀さんの膝へとお邪魔する。

「もう一回しよ?」

いつになく優しい雲雀さんの声に目がぐるぐると動く。

「な、な、なに言って、、、!」
「一回も二回も同じだろ」

後頭部をがしりと押さえられた私の抵抗虚しく。
擬音で表すなら、先程のがちゅって感じだったのに今はぶちゅうって感じだった。
手の置き場に困った私の姿を見た雲雀さんから口をべろりと舐められる。

「ぎゃ、ぎゃあ!」

猫が驚くみたいに体がはねたのだが、雲雀さんはお構い無しだ。

「君が動くから、、、」
「う、うそだぁ!絶対わざとですよね!?」

いけしゃあしゃあと口を開く雲雀さん、とんでもない人だと私の顔は赤いんだか青いんだか分からなくなる。
雲雀さんはけらけらと楽しそうに笑っていた。
今日だけでまさかこんなに進んでしまうとは。
雲雀さんと一緒にいる限り、私の心臓はこれからもうるさくなり続けるのだろう。

というよりも、雲雀さんと一緒にいたら心臓がいくつあっても足りないだろうなと私は観念した。
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