私と雲雀さんと瓜ちゃんと、
わがまま【我が儘】とは、他人のことを考かんがえず、自分のしたいことを押おし通とおすこと。また、そのさま。
某サイトより参照、かわいい恋人の我が儘は聞きたいものなのである。
必死に足を動かす姿は端から見たら滑稽かもしれない。
走らないでください、そんな声が遠くから聞こえてきたが知ったこっちゃない、目的地まではあと少しだと男は足を止めない。
扉を掴み、そのまま叩きつけるように開く。
「あっ、雲雀さん!お疲れさまですっ」
ベッドの上に座り、軽く手を上げる彼女の姿を見た男、雲雀はため息をついた。
「何やってるの、君」
「いやぁ、しくじっちゃいました」
頭と腕に包帯をまかれているのにも関わらず、へらへらと笑う彼女。
信じられない、馬鹿なんじゃないのと雲雀にしては言葉を選ぶ。
選んだとしても出てくる言葉がこれなのだから、もうしょうがないのだろう。
「じ、自分のせいです!すみませんっ!!」
ベッドの横に立っていた男は腰を九十度以上に曲げ、頭を下げる。
その姿を見た彼女は、またしてもへらへらと笑った。
「大丈夫ですよ!これぐらい、いつものことですから」
「何時ものことってどういうこと?」
雲雀は彼女の言葉をすかさず拾い上げ、睨みつける。
あ、まずいと眉をひそめるが、彼女はひとまず半分泣きそうになっている男を元気づけようと男の背中をばしばしと叩く。
「ほら!この通り元気ですから!皆、大袈裟ですよねぇ」
「大袈裟なもんですか!」
声のした方へと視線を向けると、ワンピースの白衣を纏った、ここの上長でもある女性が立っていた。
いや女性なのか男性なのか、まぁそこは置いておこう。
上長でもあるそのお方は看護婦長と呼ばれていた。
だから、ここでも同じように呼ぶことにしよう。
頭のナースキャップが小さく見えるのは看護婦長の体が大きいから、そして袖から出ている二の腕も筋肉により少しきつそうに見えた。
看護婦長は大股でベッドへと近づくと彼女の顔を覗き込む。
「貴女、今月ここに運ばれたのは何回目だったかしら?」
「あの、その、二回?」
「三回です!!」
ひぇっと小さく悲鳴を上げるが看護婦長の声は止まらない。
彼女が病院へ担ぎ込まれた事実を知らなかった雲雀。言ったら怒られるだろうと彼女は敢えて黙っていたのだが、もう遅い。
雲雀は事実を確認するために口を開く。
「ちょっと、僕は聞いてな」
「黙っててちょうだい!今は私が話しています!」
看護婦長は相手が雲雀だろうと気にしなかった。
雲雀も看護婦長の勢いに圧倒され思わず口を閉じる。
「良いですか!しばらくの間は絶対!絶対!絶対安静!ですからね!!」
「そ、そんな大袈裟な、、、」
「大袈裟じゃありません!頭を打ってるんですよ!」
「あ、ちょっと、」
彼女は雲雀をちらりと見て、顔を青くするが看護婦長は止まらなかった。
「この間は火傷!今回は頭!だぁれが毎回死ぬ思いで治療してると思ってるのかしら、、、!?」
「あ、ありがとうございます、でも明日も仕事が、、、」
その瞬間、看護婦長は彼女の両頬を片手で挟む。
おちょぼ口になりながらも必死で言葉を繋ごうとするが、看護婦長はにっこりと笑みを浮かべた。
「しばらくの間は?」
「あ、あんひぇに、してまひゅ、、、」
「分かってもらえて良かったわ。あら、風紀財団の雲雀君じゃない」
看護婦長は居たなら言ってくれれば良かったのにと先程とはうってかわって雲雀に優しく微笑む。
「この子の上司がいるならちょうど良いわ。ちょっと働き方を変えた方がいいわよ、この子」
「ちょ、ちょっと!」
どういうことだと雲雀は看護婦長のことを見上げる。
たくましい二の腕を組み、ため息交じりに話を続ける看護婦長。
会話を止めようとする彼女の言葉を誰も聞こうとはしなかった。
「この子、ボンゴレとの合同任務多いでしょ?合同任務の時に後輩ちゃんを庇おうとして怪我してばっかりなのよ」
「あ、あの!俺のせいなんです!」
先程同様、男は腰を九十度以上に曲げ、頭を下げる。
「お、俺がへましちゃって、先輩はそれを庇おうとしてくれて、、、」
男の目には涙が溜まっており、少しでも動けば溢れてしまいそうな勢いだった。
泣かれても困る、そう言った雲雀の言葉に男は肩を震わせる。
「雲雀さん、そんな言い方しなくても、、、。私なら大丈夫ですから」
「ほ、本当に、すみませんでした、、、!」
「ほら、泣かないで、、、」
男の背中を優しく叩く彼女の姿を見て雲雀は眉をひそめた。
ボンゴレボス、沢田綱吉と幼なじみでもある彼女は頼まれ事を断れない性格だった。
若手だけで心配だと頭を悩ませている彼に、であれば自分がついていこうと申し出たのは容易に想像がつく。
君の上司は誰だか分かっているのかと問い詰めると、とぼけた顔で、仕事ではなく幼なじみの力になりに行くだけだと言われてしまった。
男と看護婦長が出ていき、病室には雲雀と彼女の二人っきりになる。
先に口を開いたのは彼女からだった。
「すみませんでした」
「それはどの立場で言ってるの?」
一瞬不思議そうな顔をするものの、雲雀の言葉の意図に気づいた彼女は少しだけ苦笑しながら両方ですと顔を赤らめる。
「恋人と部下としてです」
「そこは恋人としてだけで良いよ」
「心配させてごめんなさい」
「本当だよ、死ぬほど心配した」
「死ぬほどって、、、」
雲雀の言葉は本心だったのだが、軽口としてとった彼女は小さく笑いをこらえる。
「沢田のは断りなよ」
「そうします」
てっきり嫌がるかと思ったが、やけに彼女は素直だった。
「恋人に、死ぬほど心配させてまで優先させたいことなんてありませんよ」
「馬鹿なんじゃないの」
あぁ、思いっきり怒りたかったのに。
飲み物を買ってくると雲雀は立ち上がり病室をあとにする。
飲み物を買いに行っている間に、彼女が病院の階段から転げ落ちたと看護婦長が顔を真っ赤にして雲雀に伝えに来たのは数分後のことだった。
雲雀さんが出ていったことを確認した私はベッドへと横になる。
あんまり怒られなかったなと胸を撫でおろし、そういえばと思い出す。
ここの自販機は小銭しか使えないのだけど雲雀さんは持っているのだろうか。
私は財布の中から小銭を何枚か取り出し、よいしょと体を起こした。
安静に、とは言われていたがこのぐらいなら良いだろう。
廊下に看護婦長さんがいないことを確認し、そのままそろそろと歩き出す。
一つ訂正したいのは私は階段から転げ落ちた訳ではない。
廊下の階段下を歩いている時に上の方から危ないと言う声が聞こえ、なんだなんだと声のする方を見る。
あ、と思った瞬間、私は上から落ちてきたもの、いや、ものというのは不適切かもしれない。
とにかくそこで私の意識は途切れた。
次に意識を取り戻した私の目にはいってきたのは誰かの後ろ姿だった。
くるりとこちらを振り向き、私の目が開いているのに気づくとぱっと顔が明るくなる。
「良かった!お前、心配したんだぞ」
雲雀さんではなかった。目の前にいたのは、獄寺君だった。
「全く、走るなって言っただろうが、、、」
ぶつぶつと文句を言いながらも私の頭を優しく撫でている。
何故だ、何故獄寺君が私の頭を撫でているのだ。
獄寺君は優しい目で私のことを見つめており、雲雀さんはどこにいるのだろうかと体を起こす。
体を起こしたはずだが視線が先程と変わらないことに違和感を覚える。
あれ、あれ、と視線を下の方に向けるとやけにふわふわとした、まるで猫のような手が見える。
いや、これは、もしかして。
ベッドの横においてあった斜め下を映しているスタンドミラーの鏡の位置をちょいちょいと直し自分の顔を覗き込む。
これは、これは、
「ニ゛ャアアァァァ!!!」
「ど、どうした!?瓜!!」
三角の耳はピン立っており、真っ赤な大きな目にゆらゆらと揺れている長い尻尾、鏡に映っていたのは獄寺君のボックス兵器でもある瓜ちゃんだった。
「ニャ、ニャ、ニャー!!!」
必死に獄寺君にジェスチャーで伝えようとするも伝わるわけがなかった。
扉が開き、私と獄寺君の視線が分かりやすく動く。
慌てる私達の元に来たのは雲雀さんと、
「やっぱりここにいた」
雲雀さんにお姫様抱っこをされた私だった。
少しだけ時間を巻き戻すとしよう。
雲雀は病室へ慌てて戻り、ベッドの上で寝ている彼女のことを見る。
看護師が看護婦長に処置は終わりました、大丈夫そうですと笑みを浮かべながら話す。
雲雀は彼女の胸が寝息と共に動いていることに安堵した。
看護婦長は相変わらずぷりぷりと怒っていたが、寝ている彼女に何を言っても無駄だろうとため息をつく。
「雲雀君、この子普段から甘えられてる?」
雲雀が不思議そうな顔で看護婦長を見ると、腕を組み額をおさえながら言葉を続ける。
「前の時も、その前の時も、頑なに自分のことは自分でしようとしてたのよ。危ないから私達のことを呼んでって言ってるのに、、、」
彼女が自分に甘えたことはあったのだろうか。
多少無理をしても、自分でなんとかしようとしていた彼女の姿を思い出す。
それは出会った時から、今も変わらなかった。
雲雀が何かを言おうと口を開こうとした瞬間、彼女の目が薄く開く。
「なにしてるの、君は」
「全く!絶対安静と言ったでしょうが!」
「婦長、一度落ち着いてください」
看護師にどうどうと宥められ、今回は一体何が起きたのだと看護婦長は鼻息を荒くした。
彼女はきょとんとした顔をし、雲雀の顔をじっと見つめる。
どうしたんだと雲雀が彼女へと近づくと、花が咲くかのように顔を綻ばせた。
その顔は、雲雀が見たこともない無防備な顔だった。
「にゃあ」
一言だけそう呟くと雲雀の体へ飛び込む。
落とすわけにはいかず、雲雀は彼女の体を横抱きにする。
ぐりぐりと雲雀の首もとに頭を擦り付け、にゃあにゃあと嬉しそうに言葉を発する彼女の姿に三人とも驚きを隠せないでいた。
「だ、だいたん~、、、」
「だ、大胆じゃなくて!何があったの!?」
「あ、それが、獄寺君さんのところの瓜ちゃんとぶつかったらしくて、、、」
顔を赤らめながら話をする看護師は雲雀と彼女に釘付けだった。
看護婦長は獄寺はどこにいるんだと、心なしか先程よりも二の腕の筋肉を膨らませながら地を這う声で看護師へと問い詰める。
「そ、それが、瓜ちゃんも気絶してしまって、、、。私が彼女を見ますと伝えたので、今は恐らくボックス診療所に、、、」
言い忘れていたのだが、ここは普通の病院ではない。
ボックスが傷ついた際に治療できるようにと沢田綱吉が作った、病院兼ボックスのための特別施設だった。
フロワは分けた方がいいだろうと言うことで、渡り廊下を挟んで施設は分かれている。
さて、話をもとに戻そう。
彼女は相変わらず雲雀の首もとに頭を擦りつけ、文字通り喉をならしていた。
「いいの?」
「なぅ?」
「ほら、他の人が見てるけど?」
雲雀は特段気にしていなかったが、後から彼女に怒られるのが面倒だったのか。
看護婦長と看護師に視線を向ける。
彼女は二人の顔をじっと見つめ、興味がなさそうに雲雀へと視線を戻す。
雲雀の顔を両方の手で挟み、視線を混ぜ合わせると嬉しそうに笑みを浮かべた。
「にゃう、にゃう」
貴方がいればそれでいいのだ、貴方の視線を独り占めしたいのだと言われているようで雲雀は思わず体が熱くなる。
そう、と一言雲雀は呟き、彼女の体を抱き締めた。
あぁ、あの子ではないのか、そのことに気づいた雲雀の行動は早かった。
彼女を横抱きにしたまま病室から出ていく雲雀の姿に看護婦長もその事に気づいたのだろう。
看護師だけは相変わらず、あらあらまあまあと顔を赤らめていた。
雲雀と看護婦長はボックス治療室へと向かい、そして、
「ニ゛ャアアァァァ!!!」
「ど、どうした!?瓜!!」
やっぱりそうなのかと雲雀と看護婦長は顔を見合わせた。
「これで、喋れるはずですよ」
私の首に首輪がされる。
私の首というのは語弊があるかもしれない。
正確には瓜ちゃんの首に、だ。
ささ、喋ってみてくださいと促され、私は雲雀さんの顔を見ながら口を開く。
『ひ、雲雀さぁん!』
少しだけ機械交じりの声に違和感を覚えたが、自分が思ったことを話せることにひとまず安心する。
「ほほ、良かったです!こんなこともあろうかと、作っていた甲斐がありますよ」
ジャンニーニさんはお腹を揺らしながらにこにこと微笑む。
こんなことってどんなことだと言いたかったが、嬉しそうなジャンニーニさんを前に口を閉じる。
『なんでこんなことにぃ、、、!』
だぁんと机の上で手を叩くものの、ふわふわとした手ではいかんせん迫力がない。
「つまり、瓜とコイツが入れ替わっちまったってことなのか?」
獄寺君は私と瓜ちゃん、正確には瓜ちゃん姿の私と私の姿をした瓜ちゃんを交互に見る。
瓜ちゃん姿の私を見た獄寺君はげっと声を漏らす。
声を漏らした理由はすぐに分かった。
「なーう」
雲雀さんも獄寺君も看護婦長さんも椅子の上に座っていたのだが、瓜ちゃんは何故か雲雀さんの膝の上に座っていた。
(ジャンニーニさんは私の首輪の調整のためしゃがみこんでおり、私は机の上へと座っていた。)
ごろごろと喉をならし、雲雀さんへと頬摺りをしている顔はにやにやと情けない顔をしている。
端から見たら、いい歳をした女が人目も憚らずにいちゃいちゃとしているだけにしか見えなかった。
『雲雀さん!瓜ちゃんおろしてあげてくださいよ!』
「おりたくないってうるさいんだよ」
雲雀さんは瓜ちゃんの頭、正確には私の頭をよしよしと撫でる。
瓜ちゃんは雲雀さんの顔を覗き込みにゃあにゃあと嬉しそうにないていた。
「なんでこんなことに、、、」
「なんで、ですって?」
ぽつりと溢した獄寺君の言葉を拾ったのは看護婦長さんだった。
「獄寺さん、ボックス治療室以外では禁止だと、私は何回貴方に言ったかしらね、、、?」
「それは、瓜が嫌がって、」
「言い訳は結構、こんなことになって一番大変なのは誰か分かっているのかしら、、、!?」
その瞬間、看護婦長さんのナース服の袖が盛り上がった筋肉により、ばりぃっと破ける。
獄寺君の悲鳴を聞きながら、自業自得だと言う雲雀さんの声と、うんうんと頷くジャンニーニさんの声が聞こえてきた。
『それにしても、いつ戻るんですかね、、、』
「まぁ気長に待ちなよ、どっちにしろ暫くの間は絶対安静なんだから」
雲雀さんはどこから持ってきたのか猫じゃらしを片手に私の前でゆらゆらと揺らす。
瓜ちゃんの本能なのか、私は思わず猫じゃらしに飛びつくが雲雀さんがタイミングよく上に動かしてしまう。
『で、でも、この格好じゃ、こまる、というかっ』
「うん」
『それ、に、雲雀さんも、こま、り、ます、よねっ』
「別に」
『って!遊ばないでくださいよ!もう!』
猫じゃらしをタイミングよく揺らされ、翻弄されていた私は慌てて机の上で大人しく座る。
「ごめんごめん、そんな怒らないで」
『全くもう、、、』
私の、正確には瓜ちゃんの頭を撫でる雲雀さんの顔はどこまでも優しい。
この人、小動物好きだもんな、私は気持ちよさに目を細め、されるがまま撫でられる。
雲雀さんの手をぱちりと叩いたのは瓜ちゃんだった。
「なう!なう!なーう!!」
「どうしたの?」
ぶうぶうと怒る私、いや瓜ちゃんは雲雀さんの顔を両方の手で挟むと無理矢理視線を自分の方へと向ける。
「ちょっと、痛いよ」
「にゃ、にゃ、にゃーう」
雲雀さんの視線が自分に向いたことに満足したのか、にこぉと不気味な笑みを浮かべ、雲雀さんの頬へキスをした。
『ぎゃ、ぎゃー!!やめてぇ!瓜ちゃん!』
「なーう!なう!なーう!!」
慌てて止めにはいる私へ威嚇をするかのようになく瓜ちゃん。
「ほら、落ち着きな」
私の肩、つまり中身は瓜ちゃんなのだが、ぽんぽんと私の肩を叩く雲雀さん。
瓜ちゃんは嬉しそうにぎゅうぎゅうと雲雀さんへと抱きつき、くんくんと首回りの匂いを嗅ぎ始めた。
仲がよろしいんですねぇとジャンニーニさんの声が聞こえてきたが私はそれどころではなかった。
『うぅ、ううぅ、、、!』
私が己の痴態をさらし、思わず床に突っ伏していると、帰ろうかと雲雀さんから声をかけられる。
『帰るって、』
「その姿じゃ何もできないだろう?僕の家においで、こっちも連れて帰るから」
こっち、とはつまり私の姿をした瓜ちゃんのことだ。
ちょっと待ったをかけたのは、心なしか少しぼろぼろになった獄寺君だった。
「なに?文句でもあるの?」
「文句というか、なんでお前が両方連れて帰ろうとしてんだよ」
「君のせいでこうなったのに随分と図々しいことを言うね」
「そ、それは、悪かった、巻き込んじまって申し訳ない」
獄寺君は私へと頭を下げ、謝罪の言葉をつなぐ。
大丈夫、ではないが、怒ってもしょうがないと私は獄寺君へ頭を上げてくれと伝える。
「獄寺さん、今度からは施設のルールは守ってくださいね、、、?」
ぐぐぐと獄寺君の肩を、指が食い込むほど掴む看護婦長さん。
看護婦長さんの顔は般若のお面を張り付けたかのようになっていた。
獄寺君は首を勢いよく縦に振り、その姿にジャンニーニさんは小さい声でひぇっと悲鳴を上げた。
「ほら、帰るよ」
『と、というか、瓜ちゃんも連れて帰るんですか?』
「しょうがないだろう?僕から離れないんだから」
「にゃ、にゃ!」
雲雀さんの肩へ腕を絡ませながら嬉しそうに甘える瓜ちゃん。
うぅ、と私は膝から崩れ落ちそうになる。
『じゃ、じゃあ私は獄寺君のとこ行きますよ』
「は?」
『だって!自分のそんな姿、見たくありませんよ!』
そうだ、それだったら獄寺君のところに行こう。
自分の馬鹿な姿を見なくてすむなら、それもありだろう。
「まぁ別にいいよ」
『へ?』
「今の君だったら、僕のお願いはなんでも聞いてくれそうだし」
雲雀さんは瓜ちゃんの頬を指で優しく撫でる。
気持ちいいのか、うにゃうにゃと目を細めすりすりと雲雀さんへ絡みつく瓜ちゃん。
ぴきぃと私が固まると雲雀さんは瓜ちゃんをお姫様抱っこしたまま部屋から出ていこうとする。
一瞬で私の脳内には、目もあてられない自分の姿が想像できた。
ま、まずい、私はぴょんと机の上から飛び降り、慌てて雲雀さんの後を追う。
『待ってくださいよ!雲雀さん!』
後ろの方から、絶対安静ですからね!と言う看護婦長さんの声が聞こえてきたが雲雀さんはそのまま歩みを止めない。
その瞬間、私の前にはいつの間にか看護婦長さんのたくましい脹脛が見え、雲雀さんの肩をがしりと掴んでいた。
「絶対、安静ですからね、、、?」
「分かってるよ」
雲雀さんは顔色一つ変えなかったが、瓜ちゃんは近づいてきた看護婦長さんに威嚇するかのように顔をむっとさせ、しゃあと一言ないた。
雲雀さんの所有する自宅の一つでもある高層マンションへとたどり着き、私は思わず座り込む。
ここまでは車で来たのだが、雲雀さんにべたべたと触る瓜ちゃんを助手席に乗せるのは危険だろうということで私と瓜ちゃんは後部座席に乗っていた。
雲雀さんから大人しくしていろとシートベルトを装着するところまでは良かった、のだが。
車がゆっくりと走り始めると、寂しいからなのか
にゃあにゃあと悲しい声で鳴き始めたのだ。
私ではない、いや、私ではあるのだが、正確には瓜ちゃんが、だ。
『瓜ちゃん、雲雀さん運転中だから静かにしないと、、、』
「にゃ、にゃあにゃあ!」
『し、しーですよ!しー!』
なんでなんで、どうして!と駄々をこねる自分の姿を見るのは中々に辛い。
しかも声がにゃあである。
私の気持ちをどうか察して欲しい。
『うぅ、大変だった、、、』
「大丈夫?」
『大丈夫です、雲雀さんもお疲れ様でした、、、』
運転中だというのに、後部座席で随分と騒いでしまった。
気が散ってしまってしょうがなかっただろうに。
「別に、気にしないで良いよ」
『ありがとうございます、あの、雲雀さん』
「にゃう!にゃうにゃう!」
私と雲雀さんが話していると瓜ちゃんが雲雀さんの背中へのしかかる。
「あぁ、仲間外れにされたと思ったのかい?」
「なう!」
「ごめんごめん、いいこいいこ」
「なぁう、なぁう!」
元は四本足で生活していたからだろう。
瓜ちゃんは四つん這いになりながら雲雀さんの後ろを歩き回っていた。
なんだこれは、一体全体私が何をしたのかと頭が痛くなってきた。
その後、皆でテレビを見て休憩をしていたのだが瓜ちゃんは全く興味がないのか、雲雀さんの膝の上に頭を乗せうにゃうにゃと楽しそうに寝っ転がっている。
視線が自分に向いていないことが許せないのか、体を起こすと雲雀さんの顔へ胸を押し付け視界の邪魔をしていた。
『ちょ、ちょっと!瓜ちゃん!』
「良いよ、別に」
雲雀さんは瓜ちゃんの脇の下に手を入れ、そのまま大人しく膝の上に座らせる。
「どうしたの?構って欲しいの?」
「にゃ!」
その通りだ、何故構ってくれないのだ!と言うように瓜ちゃんは雲雀さんの首元へ抱きつく。
ぽんぽんと背中を叩く雲雀さんは表情も変えなかったが、私はなんだか胸に重たいものが溜まっていくのが分かった。
「なに?」
『別に、なんでもありません』
雲雀さんが私の方を見るが、こんな顔、といっても今は瓜ちゃんの顔なのだが、見られたくないと首を動かし雲雀さんの視線から外れる。
雲雀さんは短く、そうとだけ言うと瓜ちゃんの楽しそうな声が聞こえてきた。
おそらく雲雀さんに撫でられているのだろうなと、ちらりと私が視線を戻すとやっぱりその通りだった。
ざわざわと胸が波立ち、私は見たくもないと目を閉じる。
次に目を開けた瞬間、自分の体へと戻っていた、なんて都合の良いことが起きるはずもなく。
私の目にはいってきたのは自分の顔、もとい瓜ちゃんだった。
私はソファーの上で寝ていたのだが、瓜ちゃんは覗き込むかのように私の顔を見ていた。
毎朝鏡で見ている顔よりも緊張感のない、ぽかんとした顔に思わず苛立ってしまう。
『なに、、、』
「なーう!」
『なーうじゃ分かんないよ、なに?』
「にゃうにゃう」
自分のへらへらした顔を見て、雲雀さんはどうして私のことが好きなのだろうかと思わず疑問に思ってしまう。
可愛くもない、美人でもない、どちらかと言うと間抜けな顔。
相変わらず目の前の自分はにやにやとだらしない顔をしながら楽しそうに、にゃーにゃーとないていた。
『だからぁ!』
「どうしたの、大きい声だして」
不思議そうな顔でリビングの扉を開け声をかけてくる雲雀さん。
雲雀さんに気づいた瓜ちゃんは四つん這いのまま、雲雀さんの元へと駆け寄りぐるぐると膝辺りへ頭を擦りつけたいた。
『なんでもありませんよ、、、』
「何でもないことないだろう、どうしたの」
「にゃ、にゃ、にゃう!」
まるで私にいじめられたのだと雲雀さんに告げ口をしているかのように見え、私は思わず口をきゅっと結ぶ。
「君は後でね、どうしたの?どこか痛む?」
心配そうな雲雀さんの顔。
私の心配をしているのか、それとも瓜ちゃんの心配をしているのか。
なんでもないですと呟く声はやっぱり機械交じりで、私はソファーから飛び降りそのままリビングを後にする。
都合よく扉の開いていたベッドルームへと入り、そのままベッドの下で丸くなる。
誰とも会いたくない、私はそのまま目を閉じた。
雲雀さんから名前を呼ばれ目を開くと辺りは暗くなっていた。
どのくらい寝ていたのだろうか、ごそごそとベッドの下から出ていくと雲雀さんに頭を撫でられる。
「どうしたの、本当の猫みたいになっちゃって」
そう言う雲雀さんの声は、まるで私のことをからかっているみたいで、私は思わずにゃーとないてみた。
雲雀さんがびっくりした顔をしたものだから、冗談ですよ冗談と私は慌てて訂正する。
「笑えない冗談は嫌いだよ」
『えへへ、すみません、、、』
「お腹減っただろう、ご飯できたから」
ご飯と言う単語を聞いた瞬間、私のお腹はぐうと鳴った。
素直な体だなと思いながらも、私と雲雀さんは一緒にベッドルームを後にした。
リビングに着くと行儀よく座っている瓜ちゃんがいた。
私達を見ると、にゃあと嬉しそうに声を上げる。
「お待たせ、それじゃあ食べようか」
焼き魚を箸でほぐし、私の、というよりも瓜ちゃんの口へ運ぶ雲雀さん。
「ほら、口開けて」
『ちょ、そこまでしなくても、、、』
「君、自分が魚を犬食いしてるところ見たいの?」
うっと言葉をつまらせる。
確かにそれは嫌だな、私は大人しくその光景を見ていることにした。
焼き魚の匂いをくんくんと嗅ぎ、これは自分の好きなものだと気づいた瓜ちゃんは口を開き、もぐもぐと食べ始める。
お腹の減り具合に我慢ができなくなった私は猫の手で焼き魚を持ち上げ口へと運んだ。
「美味しくない?」
『え、あ、いや、美味しいですよ』
「そう?冷ましておいたけど熱くない?」
『大丈夫です、、、』
「にゃう!にゃうにゃう!」
早く次を寄越せと言うようになく瓜ちゃん。
はいはいと世話をやく雲雀さんの声は心なしか楽しそうだった。
その日の夜、怪我をしたばかりなのだから風呂には入らない方がいいだろうとそのまま寝ることになった。
ベッドへと潜り込んだ瓜ちゃんは疲れていたのかすぅすぅと眠り始める。
『なんか、随分と楽しそうですね』
「そう?」
『まぁ、別に良いですけどっ』
私は瓜ちゃんの枕元へと移動し、そのまま丸まって眠る姿勢になった。
機嫌を取ろうとしているのか雲雀さんは私の頭を撫でる。
私は雲雀さんの手に安心したのか、そのまま寝てしまった。
猫はよく寝る生き物だと、なにかで見た知識を思い出しながら。
翌日、私は施設の渡り廊下で獄寺君に預けられた。
私の診察のためだったのだが、この間の看護婦長さんの姿を思い出したら着いていくとは言えず、それだったらと雲雀さんが獄寺君を呼び出し、暫くの間見ていろと頼んでくれたのだった。
最近はボックス兵器を狙った窃盗団も出てきている、二人はそんな会話をしていた。
相変わらず瓜ちゃんは雲雀さんにべったりとくっついていて、私は思わずため息をついてしまう。
「悪かったな」
『え?』
「迷惑かけて、悪い」
『あ、あー、大丈夫だよ、しょうがないしょうがない、、、』
獄寺君と談話室で待っている間、思い出したのは二人のことだった。
このまま戻らなかったら、どうしたら良いのだろうか。
奇妙な共同生活を続けないといけないのだろうか。
「お、おい、泣くなよ」
『泣いて、ない゛、、、!』
猫も泣くのか、いや生き物だから泣くのは当たり前か。
泣く理由が外的要因なのか内的要因なのかの違いだけだろう。
『う、うぅ、、、!』
獄寺君はどうしたら良いのか分からなかったのか、口は閉じたまま、私の目元をハンカチでぽんぽんとおさえる。
『雲雀さん、は、、、!』
「ヒバリがどうかしたのか?」
『私の顔が、好きな、だけなんだぁ、、、!』
獄寺君は素っ頓狂な声をだし、急にどうしたんだよと私の顔を見ていた。
『中身は、瓜ちゃん、なのにぃ、あんな優しい顔で、お世話じでぇ、、、!』
「んなわけねぇだろ、、、」
『わ、わがっでるよ゛!可愛くないじ、美人でもないげどざぁ、、、!』
「そういう意味じゃねぇよ、、、」
『蓼食う虫も好き好きっで、言うじゃん、、、!』
「あー、だから!そういう意味じゃねぇって言ってるだろうが!」
『じゃ、じゃあ、どういう意味なわげぇ!?』
わんわん、いやこの場合はにゃんにゃんかと、わりかしどうでもいいことを頭の隅で考えながら泣く私に獄寺君はあぁもうと大きい声を出す。
「お前はその、昔から、」
『む、昔からぁ?』
「か、か、かわ」
「何をしている、獄寺隼人」
じゃきんと仕込みトンファーが開く音がし、獄寺君の首元へとまわされていた。
うわっと慌てて距離を取る獄寺君に雲雀さんは目を吊り上げ、じりじりと距離を詰める。
「人のものに手を出そうとするなんて、いい度胸だね。咬み殺す、、、」
「だ、出してねぇよ!」
片手にトンファー、もう片方の腕に瓜ちゃんを挟み込むように抱えているのだから器用なものだ。
瓜ちゃんもしゃーと言いながら獄寺君へ威嚇をしていた。
「ほら、帰るよ」
「にゃ!にゃう!」
雲雀さんと瓜ちゃんが私の顔を見る。
やだな、なんだかもう嫌だな、私はぽつりと帰りたくないと言葉を漏らす。
「なに言ってるの、ほらおいで」
「なう?なーう?」
『やだ!雲雀さんなんて、そうやって瓜ちゃんと二人で仲良くしてれば良いじゃないですか!』
ばっと四足歩行で走り始め、雲雀さんの足を縫うように廊下へ飛び出す。
あぁ、情けない、恥ずかしい、もうどうしたら良いのだろうか。
目をぎゅっと閉じたまま走ったせいか何かにぶつかり、そのまま跳ねかえる。
慌てて目を開けると、帽子を深く被った男が網を持って立っていた。
跳ねかえりそうになったのは私が網のなかにいたからだった。
え、と声を上げようとした瞬間、男は肩に提げていたバックの中へと私を押し込む。
『な、なに!だれ、』
「ん?なんだコイツ、この首輪のせいか?」
男はがちゃがちゃと乱暴に首輪を外し、そのまま床に落としたかと思ったら足で踏みつけてしまった。
舌打ちをし、そのまま私の頭を押さえつけバックのジッパーを閉める。
ご丁寧にがちゃんと南京錠の音までが聞こえてきた。
近くに持ち主がいたら面倒だと男は走り始める。
バックの中は少しだけ広く、私の体は上へ下へと叩きつけられる。
なんとかして自分がここにいることを伝えようとするも、出てくる言葉はにゃあにゃあと言う鳴き声だけだった。
ばたんとドアの閉まる音が聞こえたかと思ったら、興奮した様子の男の声も聞こえてきた。
「アニキ!やったんですか!?」
「あぁ!ガット・テンペスタ!嵐猫だ!コイツは高く売れるぞ!」
「やりましたね!アニキ!」
「バカ!早く車出せ!持ち主が近くにいるだろうから!」
その言葉を皮切りに、アクセルをふかす音が聞こえてきて私の体はばんと前に動く。
車が動き出してしまったのだろう。
そうか、コイツらが雲雀さんと獄寺君が話していたボックス窃盗団かと気づく。
体を揺すぶられ思わず吐きそうになるがなんとか堪え、どうやったら逃げられるのかと頭を回転させる。
「コイツを売ったら予算達成だ!上も文句ねえだろう!」
「そうっすよね!あそこで張ってた甲斐がありましたね!」
興奮した声の様子、予算達成、上も、つまり二人はどこかに所属をしており、その末端なのか。
運転をしている男が何かに気付き、アニキと呼んでいた男の肩を叩く音が聞こえてきた。
「アニキ!後ろからバイクが、、、」
「ん?バイクだとぉ?おい、引き離せ!」
雲雀さんだ!私は雲雀さんがずっと乗っている黒いバイクを思い出し、雲雀さんと名前を呼ぶが出てきた言葉は勿論にゃあだけだった。
「コイツの持ち主っすかね、、、!?」
「知るかよ!おい!あそこの信号渡れ!」
「え!?でも赤っすよ!無理っすよぉ!」
「バカ!交通違反が怖くてアソコで働けるか!おら!行くぞ!」
分かりましたよぉと情けない声が聞こえるものの、車のスピードは落ちることなく走り続ける。
クラクションの音が響いたのは男達の車が信号無視をしたからだろう。
「アニキ!無事渡れましたよぉ!」
「当たり前だろ!事故なんて誰も起こしたくねぇんだから!止まるに決まってるだろうがよ!」
「で、でもアニキ、後ろのバイクも着いてきてんすけど、、、」
「なんだと!?ちくしょう!やっぱりコイツの持ち主かよ!」
なんとしてでも撒けよ、良いなとは言うものの雲雀さんが撒けるわけがないと私は一息着く。
車は右折と左折を繰り返し、その度に、まだ着いてくる、どうしたら良いのだと情けない声が聞こえてきた。
状況が変わったのは少ししてからだった。
「あれ、後ろのバイク、、、」
「おい!撒けたなぁ!おい!」
「ハイッす!撒けたっす!」
涙声と興奮した声、ばんばんと肩を叩く音。
嘘だろう、雲雀さんを撒いた?そんな馬鹿な!
その後も車は走り続け、がたがたと揺れたかと思ったらゆっくりと停車した。
後部座席のドアが開く音がしたかと思ったら、男達は鼻唄を歌いながらバックを下ろし始めた。
がちゃりと南京錠を外す音がし、ジッパーが開けられると眩しい光と共に男達のにやついた笑みが見える。
「おうおう、しょんぼりとしちまって!大丈夫でちゅよぉ、新しい持ち主も可愛がってくれまちゅよぉ」
ぎゃはぎゃはと笑い、私の背中を掴むその顔はどこまでも下品だった。
なんでこんなことに、なんで、その瞬間、先程の雲雀さんとのやり取りを思い出す。
ーやだ!雲雀さんなんて、そうやって瓜ちゃんと二人で仲良くしてれば良いじゃないですか!
違う、私だ。私のせいだ。
雲雀さんは帰ろうと言ってくれたのに。
私が変な意地をはったせいで。
「そういや、なんであのバイク途中でいなくなったんすかねぇ?」
「大方、諦めたんだろう。所詮ボックス兵器だ、代わりならいくらでもいるんだからよぉ」
「そんな訳ないだろう」
聞き慣れた声、その瞬間、紫色の光が私の前を勢いよく通りすぎる。
私を掴んでいた男は避けることができず、そのまま後ろへ弾き飛ばされ建物にぶつかった。
ぎゃっと言う声と共に私から手を離し、そのまますとんと床に着地する。
「クピィ」
「ニャウ!」
そこにいたのは針を大きく膨らませたロールちゃんだった。
「アニキぃ!」
「安心しなよ、君もすぐに咬み殺してあげるから」
「お、お前は、雲雀恭弥!なんでここに、、、!」
建物にぶつかった男は体を起こし、雲雀さんの顔を見ていた。
「その質問に答えるつもりはないな、僕は機嫌が悪いんだ」
「ふん!この程度の攻撃で何を言ってやがる!おい!やるぞ!」
「へ、は、ハイッす!」
二人は指輪に炎を灯しボックスを開こうとするが、雲雀さんはその隙を与えずに男達をトンファーで殴りつけていた。
「な、な、」
「罪もないボックス兵器を傷つけるのは僕の良心が痛むからね、君たちだったら遠慮なく咬み殺せる」
地面に倒れている男達は顔を青くし、がたがたと体を震わせてる。
「ま、まて!」
「やだよ、何のためにロールの攻撃を緩めたと思ってるの?」
「へ、へ?」
「僕の手で咬み殺すためだよ」
ぎゃああああと男達の叫び声と鈍いトンファーが叩きつけられる音が響く。
その音に驚いた鳥達が一斉に飛び立った。
ロールちゃんの目を塞ぎ、私も思わず目を閉じた。
「終わったよ」
「ニャ」
私の頭を優しく撫でる雲雀さん、雲雀さんの頬には少しだけ血が飛び散っている。
ロールちゃんをボックスに戻している雲雀さんから視線を少しだけ横にずらすと、原型を止めていない男達の顔が見えた。
痛みのせいか少しだけ体がぴくぴくと動いており、文字通り虫の息だった。
「見なくて良い、どこも怪我してない?」
私を抱き上げ、くるくると体をまわし入念に確認をする雲雀さん。
良かった、怪我はしていないようだと優しく抱き締められ、私は堪らなくなり思わず泣いてしまう。
「ニャ、ニャウ、ニャア、、、」
「怒ってないよ、君が無事で良かった」
「ナァウ、ナァ、ニャウ」
「僕の方こそ、ごめん」
「ニャ、ニャウ?」
「普段、甘えてこない君が、僕に甘えてくる姿がどうしようもなく愛おしかった。あわよくば君が嫉妬してくれないかなって期待もしてた」
「ニ゛ャ、ニャア!」
「嫌な訳ないだろう、かわいい恋人の我が儘は聞いてあげたいに決まってる」
「ニャ、ニャウゥゥ、、、」
「嫉妬して、いじけてる君も可愛かったよ」
「ニャ、ニャウ!」
「ああ、言っておくけど、君の顔が好きなだけじゃないからね」
「ニャ?」
「君の生き方も、考え方も、全部全部愛してる」
「ニ゛ャ、ニャアァァ、、、」
というよりも、なんでさっきから会話が成立しているのだろうか。
ジャンニーニさんが用意してくれた翻訳機は壊されてしまったのに。
「分かるに決まってるだろう、僕は君のことを愛してるんだから」
「ニャ、ニャウゥゥ、、、」
「ほら、帰ろう。あの子も心配してたよ」
車ががりがりと道を削る音がし、ばたんと乱暴にドアが開く。
運転席からおりてきた獄寺君は後部座席のドアを開き、少しだけ体を車体にのせ、何かをがちゃがちゃと動かす音が聞こえてくる。
私が、つまりは瓜ちゃんが後部座席のドアから顔を出し私と雲雀さんに気づくと四足歩行で私達へと駆け寄ってきた。
先程の音は瓜ちゃんのシートベルトを外していたのだろう。
「なう、なう、なーう?」
「ほら、大丈夫かって聞いてるよ」
「ニャウ、ニャウ!」
瓜ちゃんは私の頬をぺろぺろと嬉しそうに舐めはじめる。
獄寺君も私達に駆け寄り、大丈夫かと口を開く。
「遅いよ、何してたんだい?」
「しょうがねぇだろ、、、。コイツが、瓜がないたり俺の顔を引っ掻いてきたりしてきたんだよ」
確かに、獄寺君の顔には赤い引っ掻き傷がついていた。
申し訳ないと私が謝るものの、とうの本人でもある瓜ちゃんはぷいと顔を横にそらし、知らんぷりをしている。
「にしても、よく分かったな。コイツらの場所が」
獄寺君は倒れたままの男達を不思議そうな顔で見ていた。
確かに、どうしてこの場所が分かったのだろうか。
「簡単なことだ。ナンバーが分かってからは哲に連絡しておいたからね」
「あぁ、そうかよ」
なるほど、近くにある防犯カメラを草壁さんがしらみつぶしに漁ったということだろう。
「バイクで追いつけなかったのかよ?」
「彼らの大元を潰さないと意味がないからね、じゃあ後は頼んだから」
そう言うや否や、雲雀さんは獄寺君の乗ってきた車へと足を進める。
「お、おい!俺はどうやって帰るんだよ!」
「煩いな、特別に僕のバイク乗ってきて良いよ。彼女も疲れてるんだろうから、休ませてあげないと」
雲雀さんは私の頭を、つまりは瓜ちゃんの頭なのだが、優しく撫でると後部座席のドアを開き優しくおろしてくれた。
瓜ちゃんも慣れた様子で後部座席に乗り込み、私の頬へとすりすりと頭を擦りつけている。
「ほら、大人しくしてて」
「にゃう?」
最初の頃に比べて随分と素っ気ない態度だ。
あ、もしかして、
「あんまり君に優しくすると、僕の恋人が焼きもちやいちゃうからね」
「ニ゛ャ!」
「なーう?」
「ニャ、ニャ、ニャー!!」
私が悲鳴じみた声をあげると雲雀さんにしては珍しく声をあげて笑っている。
私達は雲雀さんの運転する車に揺られ、無事に家へとたどり着いた。
「この子も疲れちゃったんだろうね」
「ナウ」
翻訳機が壊れたままの私は、相変わらずにゃうにゃうとしか言えずにいたが困ることはなかった。
「甘えてくる君も可愛いけど、早く君とお喋りしたいな」
「ニャウ!」
「ふざけてないよ、キスだって我慢してるんだ」
「ニャ?」
「見た目が君でも、君は焼きもちやくでしょ」
「ニ゛ャ!ニャー!!」
「違わない、あぁ早く君と、、、」
その言葉の先を言わずに、雲雀さんの目蓋が閉じる。
不意に私もとてつもない眠気に誘われ、抗うことも必要もなく、目を閉じた。
雲雀はぎしりとベッドが小さく軋む音が目が覚めた。
辺りは暗くなっており、暗闇のなか、何かが覆い被さるかのように自分の上にいることに気づく。
「な、なーう」
彼女は雲雀が目を覚ましたことに気づくと、自分の顔を隠すかのように、ぐりぐりと雲雀の首元に頭を擦りつける。
「にゃ、にゃあ」
ぐるりと彼女をベッドへと押し倒した雲雀は、そのまま彼女を抱き締め、ぷちぷちと服のボタンを外し始めた。
「わ、わ!待ってください!私!私です!瓜ちゃんじゃないです!!」
「うん、知ってる。元に戻れて良かったね」
「ちょ、ちょっと待ってください!わ、わ、ズボン下げないで!」
「なに、うるさいよ」
「ひ、どこさわって、あ、ちょ、あ!」
ばしばしと雲雀の背中を叩き、どうどう落ち着いてくださいと声をあげる彼女。
雲雀はのそりと顔を上げ、慣れてきた暗闇の中で二人の視線が交わる。
「なんで、分かったんですか?」
「君のことを愛してるからね」
「だ!そう言うことじゃなくて!」
「分かるに決まってるだろう?」
あんな顔を赤くして、にゃあって恥ずかしそうに誘われたら
「さ、誘ってない!誘ってなんかないですよ!」
「はいはい、分かったから」
「瓜ちゃん横にいますから!それに、お風呂!昨日からお風呂も入ってないんですからね!?」
「お風呂入ったら良いってこと?」
「な、な、そんなわけ、」
「良いよ、たまには風呂場でしようか」
「わ、わぁ!」
横抱きに持ち上げられ、すたすたと歩き始める雲雀。
彼女は足と腕をばたつかせ、なんとか抵抗をするものの雲雀は気にしてはいないようだった。
「ちょ、ちょっと!待って!」
「待たない、ずっと我慢してたんだから。君の可愛い声たくさん聞かせて?」
彼女の頬が段々と赤色に染まっていく。
心なしか目には涙が浮かんでいる気もした。
「う、うぅ、、、!」
「うん、いいこいいこ、大人しくできて偉いね」
彼女は雲雀の肩へと顔を隠し、小さい声でにゃあと下手くそな猫の鳴き声を真似た。
1/1ページ
