私と雲雀さんの約三十日闘争


ツナヨシ君が帰った後、私はぐずぐずと目を擦っていた。
恥ずかしい、悔しい、いろんな感情が目から溢れ、その度に目元をぐしぐしと擦る。

「いい加減泣き止め、目が腫れるぞ」
「な、泣いてない、です」

ヴェルデさんは溜め息をつくと、てこてこと歩き冷蔵庫の扉を開けた。
あ、それ冷蔵庫だったんだと半ば現実逃避をしながらヴェルデさんの動きを見る。

「ほら使え」
「え?」

やわらかいタイプの保冷剤を手に持っていたが、どういうことだと考えているとヴェルデさんが私の目にぺちりと当ててきた。

「わわ、冷たい、、、」
「冷やしておけ、もう擦るなよ」

目を閉じると冷たさが心地良い。
ごめんなさいと謝ると、ヴェルデさんはぶっきらぼうに何がだと言われてしまった。

「あの、その、色々と、、、。さっきも恥ずかしいところを見せてしまって」
「恥ずかしい?あれが?」
「だ、だって、あんなに感情的になるのは、論理的なヴェルデさんから見たら恥ずかしいことですよね?」

私がそう言うと、ヴェルデさんは鼻を鳴らし、おそらく工具箱を漁っているのだろう。
かちゃかちゃと金属音が聞こえてきた。

「あんなの恥ずかしい内には入らないだろう」
「そ、そうですかね」
「恥ずかしいと言うのは、相手の気持ちをまるで察することが出来ない癖に、自己ばかり主張する奴のことを言うんだ」

誰のことを言っているのだろう、もしかしてさっきの私のことなのでは、遠回しに嫌味を言われているのだろうかと若干不安に思う。

「天体の運動はいくらでも計算できるが、人の気持ちはとても計算できない」
「え?」
「かの有名なニュートンの言葉だ、リンゴの」
「え、あぁ、りんごの、、、」
「それと同じだ」

だから気にするな、ヴェルデさんからそう言われ、励まされているのかと気づく。
私はなんだか心が軽くなり、保冷剤を首におくとそのままタオルで結ぶ。
手伝います、もう大丈夫ですと伝えるとヴェルデさんは無表情のまま、そうかと呟いた。

ヴェルデさんの黒曜ランドの研究所には冷蔵庫の他にも台所があり、その日は結局、二人で簡単な夕飯を済ませ、そのまま作業を進める。
今日はこのぐらいにしようと言うヴェルデさんの言葉でお開きになった。
機械の油と煤で私は汚れていたが、ヴェルデさんは流石と言うか、ほとんど汚れていない。

「おや、お疲れ様です」
「お疲れ様ですっ」

他の皆がいる部屋へと戻り、挨拶をする。
口々に、面白いぐらい汚れてる、腹は減っていないかと声をかけられ、見かねたMMちゃんからは温かいタオルで顔だけふいてもらった。

「あ!あの、雲雀さんに伝えてくれて、ありがとうございました」
「あぁ、構いませんよ」
「ツナヨシ君がこっちにきて、それで教えてもらって、、、」
「そうでしたか」

クフフと上品に笑みを浮かべられ、私も同じように笑ってみせるが、へらりとどこか気の抜けた顔になってしまう。
ほら、洗いに行くわよとMMちゃんとクロームちゃんと一緒にお風呂場へ向かい、体を清める。
二人に挟まれ、目を閉じる気づかぬ内に寝てしまった。

夜遅く、トイレに行きたくなり目が覚めてしまった私は布団からもそもそと抜け出す。
ふとMMちゃんを見ると布団を蹴ってしまったのか片足だけ飛び出してしまっている。
よいしょと掛け布団をかけるとごろりと横向きになり、むにゃむにゃと寝言を言っていた。
クロームちゃんはというと、掛け布団にすっぽりと体をまき、すぅすぅと寝息を立てていた。
性格が出るなぁと私は微笑ましい気持ちになるものの、トイレへと急ぐ。

トイレを済ませた私は、とある部屋の明かりがついていることに気づきそっと部屋の中を覗き込む。

「ヴェルデさん?」
「ん?どうした、眠れないのか?」

くるりと椅子を回転させたヴェルデさんの足はぷらぷらと浮いていた。
赤ん坊サイズだからしょうがない、というか今の私も同じサイズだった。

「トイレに起きちゃって、何してるんですか?」
「別に、何もしていない」

私がじいっと見つめていたせいか、ヴェルデさんはふうと息をつくと何か飲むかと慣れた様子で椅子から飛び降りる。
冷蔵庫を開け、紙パックの牛乳とペーパードリップコーヒーを取り出した。
紙パックの牛乳はコップに注ぎ、電子レンジへ。
ペーパードリップコーヒーはコップにセットし、ポットのお湯を注ぎ、蒸らしながら丁寧にいれている。
こちらも随分と慣れた様子だった。
コーヒーの良い匂いが鼻を刺激し、私はどうしたら良いのだろうかと所在なさげにうろうろとしていると電子レンジが小さく音を鳴らした。

「ちょこまか動くな、座れ」
「あ、はい」

言われた通りに腰を落とし正座をすると、楽にしてろと言われコップを渡される。
どうやらホットミルクは私の分で、ブラックコーヒーはヴェルデさんの分のようだ。

「ここにも冷蔵庫とか、電化製品があるんですね」
「いちいち動くのは面倒だ」
「合理的ですね、合理的」

私の発音が面白かったのか、そうだなと茶化すかのように笑われてしまい顔が熱くなった。

「ヴェルデさんは普段からこんな遅くまで起きてるんですか?」
「まぁな」
「へぇ、すごい、、、」

私がホットミルクを飲むと、ヴェルデさんは口を開いた。

「元に戻れる」
「え?」
「私がちゃんと元に戻してやるから、だから安心しろ」

ヴェルデさんはコップに口をつけると、そのまま黙ってしまった。
もしかして、私が不安に思って眠れないと心配してくれているのだろうか。
さっきまで呑気に寝ていたことを思い出し、私は恥ずかしくなった。

「ヴェルデさんって、」
「ん?」
「優しいんですね」

私がそう言うと、ヴェルデさんはコーヒーを吹き出しむせてしまった。
慌てて私が背中をさすると、ごほごほしながら口元を拭う。

「始めて言われたな、そんなこと、、、」
「本当ですか?だって優しいじゃないですか」

ふぅふぅと呼吸を落ち着かせるヴェルデさんは横目で私のことを睨んでいた。
確かに、アルコバレーノの試練の時もボンゴレの初代の試練の時はとんだマッドサイエンティストだなぁとは思ったが、そこは内緒にしておこう。

「よく分からん奴だな、、、」
「え、ヴェルデさんが言いますか?」

私達は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
その後は少しだけお喋りをし、明日起きれなくなるからもう寝ろとヴェルデさんに言われ部屋を後にした。
部屋に戻るとMMちゃんとクロームちゃんがぴったりとくっついて寝ていたため、はてどこで眠るかと考える。致し方なく布団の下の方で寝たのだが、目を覚ましたMMちゃんの叫び声で目を覚ますのはもう少し後のことだった。

彼女が飲み物のお礼を言い、部屋を出たのを確認したヴェルデはいい加減出てきたらどうなんだと口を開く。

「ヴェルデ博士にこんな一面があるとは、、、。知りませんでしたよ」
「盗み聞きとは良い趣味だな、骸君」
「クフフ、出ていくタイミングを逃しただけです」

六道骸の顔を見たヴェルデは不機嫌さを隠そうともせず舌打ちをする。

「何の用だ」
「忘れてしまいました、たいした用事ではなかったみたいです」
「私は忙しいんだ。用がないならさっさと寝たらどうだ」
「おやおや、随分と手厳しい。彼女にはわざわざ飲み物まで用意したというのに」

六道骸は引き際を分かっていたのだろう、ハイハイもう寝ますからと言うと背中を向け歩き始めた。
そうそうと思い出したかのように足を止め口を開く。

「彼女の発明を進めるのも良いですが、貴方もあまり無理はしない方が良いですよ」
「さっさと寝ろ、クソガキが」
「はいはい、ではおやすみなさい」

そう言うと、今度こそ本当に六道骸は歩き始めた。

翌日、私とヴェルデさんは作業の続きを進めるものの、二人とも腕が短いため、届かない場所には腕が延びるタイプのモスカを使い作業を進めた。
モスカを操作するヴェルデさんの汗をふいたり、工具の準備を進める。
ぎりぎり手が届く作業の時には工具を渡すのが私の役目だった。二日目ということもあり、工具の名前は大分覚えてきた。
集中していたということもあり、私は背後から忍び寄ってくる影に気がつかなかったのだ。

「ラチェット、ラチェットレンチ、おい、ラチェットって言って、」
「ヴェルデさぁん!」

ヴェルデがどうしたんだと振り返ると一瞬で血の気がひいた。
目にはいってきたのは逆さ釣りにされている彼女の姿、そして特徴的なりんごの被り物。

「フ、フラン!なんでお前がここにっ」
「やあヴェル公」

逆さまにされたまま、ぷらぷらと横にふられている彼女は若干情けない声を上げていた。

「イタリアに帰省すると言っていただろうが!」
「昨日帰ってきたんですよー、師匠から聞いてないんですかー」
「な、」

六道骸が話そうとしていたのはこの事かとヴェルデは直ぐに気づいた。
言わなかったのは嫌がらせかと頭に血がのぼりそうになったが、それよりもまず彼女をどうにかせねばと考える。

「それより、これヴェル公のカノジョですかー」
「うわ、あ、頭に血が、血がのぼるぅぅ」
「ば、馬鹿!離してやれ!」
「いーからいーから、二人ともミーがあやしてあげます」

フランはがしりとヴェルデの頭を掴み、黒曜ランドには二人分の悲鳴が響き渡った。

「ひ、ひどい目にあった、、、」
「全くもう!バカフラン!!いじめるならヴェルデだけにしなさいよ!!」

結局フラン君から解放されたのは皆が戻ってきてからだった。
クロームちゃんからも怒られたフラン君は口を尖らせ拗ねていたが、私とヴェルデさんは疲労困憊、へとへとな状況だ。

「何故言わなかったんだ貴様ぁ、、、!」
「すみません、僕も先程思い出しまして。フラン、ちゃんと二人に謝りなさい」

フラン君はとことこと私達の方へ近づいてきて、ぺこりと頭を下げ、ごめんなさいと謝られた。
なんだなんだ、嫌に素直だなと思ったがクロームちゃんのおかげかと直ぐに分かった。

「いや、まぁ、明日から邪魔しないでくれれば、、、」
「大人しくしてろよ、フラン」

私とヴェルデさんがそう言うと、はぁいと間延びした返事が返ってきて本当に分かっているのだろうかと私達は顔を見合わせた。

そして翌日、フラン君は本当に大人しく過ごしていた。まぁ自分の修行もあるからだろうが、私達に構うことなく大人しく過ごしてくれている。
昨日の遅れを取り戻さなければ、私とヴェルデさんの動きは一昨日よりも早かった。

「ラチェット」
「はい」
「ニッパー」
「はい」
「バンド二本」
「はい」
「ニッパー」
「はい」
「バンド二本切れ端、処分」

はい、そう言おうとした瞬間、お腹がぐごごこと鳴ってしまい、ヴェルデさんにもしっかりと聞こえていたのだろう。

「飯にするか」
「す、すみません、、、」

ヴェルデさんが昼食を作っている間にフラン君のことを探しに行く。
別に良いだろうとヴェルデさんは嫌そうな顔をしたが、そういうわけにもいかず、私がフラン君を呼びに行くことになったのだ。

「フラン君、フランくーん!ご飯だよー!食べないのー?」
「ミーならここですよ」
「びゃっ」

柱の隙間からにゅっと声をかけられ、思わず飛び上がってしまう。
今の私の姿だとフラン君でも充分に大きかった。

「び、びっくりしたぁ」
「ヴェル公のカノジョじゃないですかー、なんか用ですかー」
「ヴェルデさんの彼女じゃないですってば、、、。お昼ごはん、一緒に食べませんか?」

フラン君は腕を組みうーんと何かを考えているのかどうかは分からなかったが、そこまで誘われたら行くしかないですねと間延びした声で答えた。
ヴェルデさんの所へフラン君を連れていくと、三人分のスパゲッティが机に並べられている。
良い匂いだなぁと鼻をうごかし、ヴェルデさんへお礼の言葉を伝えた。
三人でいただきますと手を合わせ、ミートソーススパゲッティを食べすすめる。
美味しい美味しいと私が喜んでいると、口のまわりが酷いことになってるぞとヴェルデさんがタオルでふいてくれた。

「ミーの前でイチャつかないでくださーい、そういうのってじょーそー教育に良くないって言うじゃないですかー」
「な、いちゃついてなんて、、、」
「フラン、お前まだ修行が残っているんだろう?食べ終わったら戻れよ」

ヴェルデさんは自分で口まわりをふき、お皿を流しに置くとひょいと椅子からおり、作業場に戻ろうとしていた。
私も残りのスパゲッティを慌てて流し込み、先程のヴェルデさんと同じように流しにお皿を置き椅子からおりる。

「二人は結婚式とか興味ないんですかー」
「え?」 

その瞬間、私とヴェルデさんの体からぽんと音が鳴り、驚きのあまり目をぎゅっとつぶってしまう。
おそるおそる目を開けると、なぜかウェディングドレスを着せられていた。

「な、な、ヴェルデさん!」

ばっとヴェルデさんの方を見ると、真っ白なタキシード姿に身を包まれたヴェルデさんの姿がそこにはあった。

「フラン!」
「パンパカパーン、パンパカパーン、パパパン、パパパン」
「人の話を聞けっ!」
「そんな怒んなくても、それにこれも師匠の修行のいっかんなんですよー」

結婚式の時によく使われる音楽を真顔で歌うフラン君、この子ちょっとこわいなと私は今更ながらに汗をかいた。

「お前の幻術が素晴らしいのは分かった、分かったから元に戻せ!」
「なに言ってるんですかー、まだアレが残ってるじゃないですか」

なんだなんだと私とヴェルデさんは顔を見合わせ首をかしげ、フラン君を見る。
フラン君は口をとがらせ、ちゅうとネズミの鳴き声のような音を出す。
私とヴェルデさんの、間抜けな声が重なったかと思ったらフラン君は両手を叩き囃し立てた。

「キース!キース!キース!キース!」
「貴様、、、!いい加減にしろよ、、、!」

ヴェルデさんは本気で怒っているようだった。
そりゃそうだ、好きでもない相手としたくはないだろう。
私はフラン君に向かって口を開く。

「フラン君、こういう事は本当に大好きな人としかしないんだよ」
「ヴェル公のこと、キライなんですか」
「嫌いじゃないけど、ヴェルデさんもきっと嫌だろうし、、、」

フラン君は口をとがらせたまま、ふぅんとあまり興味がなさそうな声を出す。
良かった、分かってくれそうだとほっとした瞬間、ヴェルデさんが口を開いた。

「おい、私は一言も嫌だとは言ってないだろう」
「え、」

フラン君はへたくそな口笛を一回だけふき、そしてまた両手を叩きコールをはじめる。
私は慌ててヴェルデさんに小声で話しかけた。

「ちょ、どうするんですかっ、せっかく丸く収まりそうだったのにっ」
「私のせいにしようとするからだ。大体アイツがあんな綺麗事で退くわけないだろう、鳥頭なんだから」
「鳥っていうか、りんごですけど、、、」
「おーい、早くキスしろー」

なんだか変なヤジが飛んできてしまっている。
どうしたらとヴェルデさんを見ると、肩に優しく手を置かれた。

「え、本当にするんですか!?」
「馬鹿!そんなわけないだろう!ビズっていうフランスの挨拶をするだけだ」
「び、びず?」
「頬を合わせて音を出すだけだ、良いからじっとしておけ」

じっとしておけ、とは言われたものの。
どんどんと近づいてくるヴェルデさんに思わず目に力を込めて閉じてしまう。
わ、わ、わ、これで良いのか、動かなければ良いのかと体を硬直させていると、頬と頬がくっつき、耳元でちゅっと可愛らしい音が聞こえてくる。

「ほらフラン!これで満足したか?早く元に戻せ!」
「えー、キスは口と口を合わせるんですよー」

フラン君からはブーイングの嵐だったが、私はなんだかさっきから顔が熱くてたまらなかった。

「お子ちゃまには分からないだろうな」
「えー、意味がわからないんですけど」
「分からなくて良い!さっさと戻せ!」
「ちぇ、まぁ良いですけど」

ぽんと再び音が鳴ると、私とヴェルデさんはつなぎ服姿に戻っていた。
ヴェルデさんはフラン君に早く修行に戻れと言い部屋から追い出してしまう。

「ふぅ、ヴェルデさんありがとうございました」
「全く、、、。煩い奴が帰ってきたもんだ」

早く進めるぞとヴェルデさんはすたすたと歩き始める。

「なんか、耳赤くないですか?」
「うるさい!早くやるぞ!!」

そんな怒らなくても、私はヴェルデさんの後をついていった。

その日の夜、お風呂から上がったクロームちゃんは現国の教科書とノートを開き勉強をし始めた。
見ても良いかと尋ねると、こくりと首を縦にふられた私はぺらぺらと教科書をめくる。

「黒曜中ではここまでやってるんだ」
「違う?」
「うん、と言うか、しばらく学校行ってないからなぁ」

私がへらへらと笑うと、クロームちゃんに頭を撫でられ慰められてしまう。
気を遣わせてしまったかと申し訳ない気持ちで教科書を見ていると、MMちゃんも私達のところへやってきた。

「MMちゃんは?宿題とかないの?」
「私が?やるわけないでしょ」

ふんと鼻で笑われてしまい、私は思わず苦笑いをしてしまう。
教科書を読みすすめていると、私の目にあるひとつの言葉がとまり、頭を悩ませることになった。

それから数日後、ヴェルデさんは出来たぞと弾丸を机の上に置く。
他の皆もわちゃわちゃと寄ってきて、ほうこれが、、、と感嘆の声を上げていた。
とはいってもフラン君はよく分かっていないのか、まわりに合わせているだけのようにも見える。
これで元に戻れる、良かったと皆から言われるものの、私は机の上の弾をじっと見つめていた。

「設計書無しにイチから造ったから時間はかかったがな」

ヴェルデさんはコーヒーカップに口をつけ、自信に溢れた笑みを浮かべる。

「どうした?弾丸だから銃で撃つ必要はあるが問題はない。安心しろ」
「心配は、してないです。あのヴェルデさん」
「なんだ」
「もう一個、お願いしたいことがあるんですけど、聞いてもらえないですか?」

私はコーヒーカップを置いたヴェルデさんのことをじっと見つめた。
ヴェルデさんは少しだけきょとんとした顔をし、私が口を開くのを待ってくれている。

その日の夜、六道骸は冷やかしだとばかりにヴェルデの部屋を訪れた。

「何の用だ、骸君」
「いえいえ、、、。不眠不休の生活に戻ってしまったヴェルデ博士の事が心配になりましてね」
「思ってもない事を言うな」

そう言ったヴェルデは椅子を回転させ机へと戻る。
カリカリと鉛筆を鳴らす背中に、六道骸は気にせず話しかけた。

「そんなに気に入ってるとは思いませんでしたよ」
「気に入ってる?何の事だ」
「彼女の頼みを聞くぐらいには気に入ってるんでしょう?」

ヴェルデは六道骸の方を見ようともせず、そんなわけないだろうと鼻で笑う。
ピタリと鉛筆の音が止まったかと思ったら、ヴェルデは独り言のように口を開いた。

「ただ、他者を簡単に頼ろうとしない彼女が、私に頼んできたのだから」

六道骸は、ふぅんと面白いものを見たと言うように笑い、まぁあまり無理はしない方が良いですよと告げ、そのままヴェルデの研究所を後にした。

アイツが小さくなってから約三十日が経過しようとしていた。
俺や山本や獄寺君が黒曜ランドへ顔を出そうとすると、他の黒曜メンバーに邪魔をされてしまい結局会うことは叶わなかった。唯一、クロームだけが幼馴染みの様子を教えてくれていただけだった。
ヒバリさんはあの日から、見るからに元気がなくなっていた。
どうしたもんかと校庭を歩きながら俺達が頭を悩ませていると、前にヒバリさんがいるのが見えた。

「ヒバリのやつ、元気ねぇな」
「けっ、自分が悪いんだろうがよ」
「ちょ、獄寺君!」

俺は慌てて獄寺君を静かにさせる。
下校時間ということもあり、周りに生徒はおらず俺達の会話はきっと聞こえてしまっているだろう。
その瞬間、校庭内に久しぶりに聞いた声が響く。

「雲雀さーん!!」

声の方を見ると、そこにいたのはアイツだった。
元に戻れたのか、良かったと胸を撫で下ろす。
ヒバリさんも気づいたのだろう。視線はまっすぐに幼馴染みへと向いていた。
何か喋ろうとしているのか、ヒバリさんは小さく口を開けていた、が、幼馴染みの方が早かった。

「覚悟ぉ!!」

幼馴染みがバズーカを肩で担いだ瞬間、ぼんと破裂音が響く。
弾丸は真っ直ぐとヒバリさんの元へ届き、そして。
大きな衝突音と共に辺り一面煙が舞い上がる。

「ちょ、なにしてんのアイツ!」
「無茶しやがって」
「おい!大丈夫か!ヒバ、リ」

俺達が慌ててヒバリさんの元へ駆け寄ると、そこにいたのは幼馴染み同様小さくなったヒバリさんだった。
ヒバリさんも訳が分からないのか、自分の手をぐーぱーぐーぱーと握りながら俺達のことを見上げる。

「ふっふっふっ、、、随分とかわいい姿になりましたね!雲雀さん!」

がちゃがちゃと肩に引っかけたバズーカの紐を揺らしながら、つなぎ服の幼馴染みは俺達の元へと歩いてきた。
ゴーグルを外し、にやにやと笑みを浮かべると軍手を外し、ヒバリさんのことを持ち上げる。

「己の欲せざる所は人に施すこと勿れ」
「はぁ?なんだよそれ」

俺達に気づいた幼馴染みはヒバリさんを抱き上げたまま久しぶりと挨拶をかわす。

「自分のしてもらいたくないことは、人もまた、してほしくないのだから、押しつけてはいけない。勉強が足りてないなぁ、ツナヨシ君!」

幼馴染みは気持ちが昂っているのか、歯を見せ笑みを浮かべた。

私がこの作戦を思いついたのはクロームちゃんの教科書を見てからだった。
雲雀さんは訳が分からないのか、ぽかんと口を小さく開いたまま私のことを見ている。

「ヴェルデさんに頼んで、元に戻る弾と小さくなるための弾をつくってもらったんですよ!」

雲雀は短くなった足をぷらぷらと動かし、怒っていたのではないかと、真っ直ぐに彼女のことを見つめていた。

「怒ってますよ!怒ってるから、ヴェルデさんにお願いしたんじゃないですかっ」

彼女は雲雀へ向かって、良いですかと口を開く。

「私と同じ状況になったら、雲雀さんはきっとすぐに根をあげますよ」
「そうだろうね、歩くのも大変そうだ」

でしょうと言う彼女は、いたずらが成功した子供のような顔で笑みを浮かべていた。

「雲雀さんが移動するときは抱っこして連れていってあげますよ」
「そう、じゃあお風呂も髪を乾かすのも君がやってくれるわけだ?」
「え゛」
「君がやったんだから当たり前だろう」

雲雀はそう言うと、先程とは打って変わってニヤリと広角をあげる。
彼女はニコリと笑みを浮かべ、雲雀のことをストンとおろすとそのまま走りはじめた。

「待ちなよ」

その瞬間、ボンと音が響き雲雀の体は元の大きさへと戻る。

「あ、雲雀さんも薬持ってたんだ!ひぇ、もう勘弁してください!」
「逃がすわけないだろう」

わぁわぁと悲鳴をあげながら逃げる彼女を執拗に追いかける雲雀。
その様子を遠目から眺めていたのらヴェルデとリボーンの二人だった。

「理解できんな」

リボーンは彼女から視線をそらさないヴェルデの横顔へ向かって口を開く。

「なにがだ?」
「普通あんな目に遭わされたら顔も見たくないだろうに」
「そうかもな。でもアイツは違ったんだろう」

不機嫌そうに鼻を鳴らすヴェルデの横顔に、リボーンはかつてアルコバレーノの呪いを受ける前の姿を重ねた。

「なんだ、何を笑っている?リボーン」
「別に」

ヴェルデは舌打ちをすると、短い足を動かし彼女の元へと向かう。
彼女は雲雀に襟首を掴まれ悲鳴を上げていたが、ヴェルデの姿に気がつくと大きく口を開いた。

「ヴェルデさん!」

雲雀も気がついたのだろう。
力が緩んだ一瞬の隙をつき、ヴェルデへと駆け寄る彼女の姿に雲雀は眉を寄せる。

「あの、この度はありがとうございました!」
「報酬ありきの契約だ、気にすることはない」
「報酬?」
「ヴェルデさんにいろいろ造ってもらったんで、その分これからもお手伝いをすることになったんですよ」

彼女は雲雀へと顔を向け、一生かけても払いきれるか不安なんですけどねと苦笑いをこぼす。

「ダ・ヴィンチの再来と言われた私の頭脳を使ったんだぞ、安いわけがないだろう」
「確かに、頑張りますね」

そう言った彼女の笑みにヴェルデは少しだけ呆気に取られたものの、いつもの調子で笑いはじめた。
僕が払う、そう口を開いたのは雲雀だった。

「雲雀さんが?どうしてですか?」
「元々は僕のせいだろう。僕が代わりに」 
「それはダメですよ、雲雀さん!」

雲雀の言葉を遮った彼女は腰を落とし、ヴェルデの肩を抱き寄せる。

「私がヴェルデさんと約束したことですから!私がちゃんと頑張りますっ」

ヴェルデは眼鏡のブリッジを上げ、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ雲雀を見上げていた。
そう言えば、と口を開いたのはヴェルデだった。

「フランから何か渡されていただろう。中身は見たのか?」
「あ、そう言えば、、、。中身なんだったんだろう」

元の大きさに戻った際に、フランからは封筒を渡されていた。
思い出、とだけ口にするとフランはへたくそな口笛を吹きそのままどこかへと行ってしまった。
ガサガサと彼女はつなぎ服のポケットを漁り、封筒を取り出す。
なんだなんだと封を開けてみると、ちょうど良いタイミングで風が吹き、彼女の手から何枚かの紙が散らばる。

「あ、これって、」

紙と言うのには少し厚い。
触ってみるとそれは写真だった。
写真には二人のウェディング姿が写っており、あの時のと声を上げる。

「フラン君、写真なんて撮ってたんですね」
「いや、恐らく念写だろう。ほら、所々ピンぼけしてる」

言われてみると、確かに端の方だったりドレスのレースの所が不鮮明だった。
なるほど、それで修行の一貫と言っていたのかとヴェルデと彼女は顔を見合わせる。

「これはどういうことかな」
「え、あ゛」

トンファーを構える雲雀に彼女の顔はみるみる内に青ざめていった。
立ち上がり、ジリジリと後退する彼女に対して前へとにじり寄る雲雀。

「記念写真、ですかね?」
「ふぅん、、、。記念写真、ね」

ピタリと二人の動きが止まり、乾いた声で笑う彼女と対象的な声で笑う雲雀、そして。

「じゃ、じゃあお疲れさまでした!さよーなら!!」

脱兎のごとく走る彼女のことを雲雀が素直に帰すわけもなく。途方もない鬼ごっこが始まってしまう。

彼女の悲痛な叫び声の中、ヴェルデは写真を拾い、そのまま白衣のポケットの中へとしまった。
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