雲雀さんと私のおとぎ話みたいな騒動について


イグアナ科(イグアナか、立髪竜科、Iguanidae)は、爬虫綱有鱗目に属する科。別名タテガミトカゲ科。模式属はグリーンイグアナ属。近年は下位の亜科を独立した科とすることが多く、旧分類の「イグアナ科」の範囲は新分類の両面歯類(Pleurodonta)に相当する。

某サイトより参照、私は目の前に鎮座している生き物と図鑑を交互にみる。
黄色に灰色を混ぜたような色、背中にはたてがみのような突起が並んでおり、前足の付け根には丸い袋がついている。

私の目の前にいる生き物はイグアナで間違いなさそうだった。

天気の良い放課後、毎度のごとく雲雀さんに呼び出された私は応接室の扉を軽く叩く。
返事がないことを不思議に思いながらそのまま扉を開け、部屋のなかを見渡すも雲雀さんの姿はなかった。
なんだなんだ、呼び出しておいて不在か、とは口に出さずそのまま部屋の中へ足を踏み入れる。
ソファへ腰を下ろそうとしたら、雲雀さんがよく使っている机の下からカサカサと音が聞こえた。
私はおっかなびっくり机の下を覗くといたのだ、イグアナが。

イグアナは私に気づくと口を少しだけ開き舌をペロリと見せる。
足を動かす度に、長い爪が応接室の床を鳴らす。
応接室にイグアナがいることにも衝撃を受けたが、イグアナ自身もなぜ自分がここにいるのかいまいち分かっていないようにも見えた。

「どこから来たんだろう?もしかして雲雀さんのペットちゃん?」

私は図鑑に載っていたイグアナの持ち方を確認しながら抱っこを試みる。
イグアナは身体を左右に捻るが、窓の外を見た瞬間大人しくなった。

「おぉ、随分と人馴れしてる。いいこだねぇ」

イグアナは舌をチロチロと出しながらキョロキョロと周りを見ている。
なるほど、近くでみるとなかなか可愛いのかもしれない。
そんなことを考えていると、少しだけ開いた窓から黄色の小鳥が応接室の中へ入ってきた。

「ねぇ、雲雀さんどこに行ったかしらない?」

イグアナは黙ったままだったが、小鳥は雲雀さんの名前をカタコトで呼びながら私の肩へとまる。
小鳥はイグアナに対して興味津々、なのかは分からないが、つぶらな瞳を向けながら雲雀さんの名前を呼んでいた。

「鳥ちゃんも知らないかぁ。イグアナ君、きみは知ってる?」

小鳥だけが相変わらず雲雀さんの名前を呼び、イグアナは黙ったままだ。
まぁ、そりゃそうかと納得し、このまま置いていくのも心配になった私は雲雀さん宛のメモを残し校内を散策することにした。

途中誰かに会ったらまずいかなと思い、自分の着ていた上着をイグアナへ軽く被せ、顔だけチラリと見えるようにする。
幸いにも、放課後ということもあり生徒とすれ違うことはなかった。
幼なじみ達を除いては。

名前を呼ばれ、イグアナを隠すように振り返るとそこには幼なじみでもある沢田綱吉と獄寺君と山本君の三人がいた。

「どうしたんだよ、ヒバリさんに呼ばれてるんじゃなかったのか?」
「それが雲雀さん応接室にいなくて、三人は見てない?」

三人は顔を見合わせ、首を横に振る。

「つーかお前、なに持ってんだよ。ソレ」

獄寺君に気づかれてしまい、私は慌てて上着を隠すが時既に遅し、だ。

「あ、ちょっと、この子は」
「ん?なんだコレって、」

獄寺君が上着に手をかけた瞬間、イグアナがにゅっと顔を覗かせ頭を激しく縦に振る。
突然のイグアナに獄寺君は後退りをし、慌てた様子で距離をとっていた。

「イ、イグアナ!?」
「だから言ったのに、、、。イグアナ君もびっくりしたよねぇ?」

そのイグアナはどうしたのだ、なぜ抱えたまま歩きまわっているのだと幼なじみは顔色を青くしながら私に聞いてくる。
今までのことを三人に伝えると、獄寺君からは抱えたまま歩くんじゃないと怒られてしまった。

「まぁまぁ、落ち着けよ獄寺。俺、イグアナって始めてみるけど結構大人しいんだな」

山本君は腰を曲げ、笑顔でイグアナへ顔を近づける。イグアナは相変わらず興奮した様子で頭を縦に振っていた。

「フハハ!いい気味だな!雲雀ー!」

突然の笑い声に私達は声の聞こえてきた方向へ視線を動かす。
紫色のヘルメットにライダースーツ、窓のサッシに立っていたのはアルコバレーノのスカル君だった。

「久しぶりだねぇ、元気してた?」
「おう!久しぶりだな!」

スカル君はお行儀よく片手をあげ挨拶をしてくれる。雲の属性の彼は雲雀さんの家庭教師でもあった。

「って、今は挨拶してる場合じゃないだろ!スカル、お前なにか知ってるのか?」

幼なじみは私とスカル君の会話を遮り声を荒げている。スカル君はフッフッフっと楽しそうな笑い声を出していた。

「知ってるもなにも、俺様が仕組んだことだからな!」
「そんなことやってると、またヒバリにボコられんぞ」

獄寺君は呆れた様子でスカル君を見ていて、山本君は苦笑いをしている。
そんな二人とは裏腹に、心配御無用、今なら負ける気がしないとスカル君は不敵に笑う。

「ヒバリさんがいないからってお前なぁ」
「雲雀ならお前達の目の前にいるぞ?」

スカル君が答えた瞬間、見事な横蹴りが幼なじみへとクリーンヒットする。
ぶべっと言いながら倒れる幼なじみに対して、獄寺君と山本君は心配そうに声をかけていた。

「まだまだだな、お前も」
「リ、リボーン!」

リボーン君に睨まれたスカル君は小さい声でセンパイとつづけ、ヘルメットの上からでも分かるような汗をかきはじめている。
リボーン君の黒のボルサリーノのソフト帽は相変わらずピカピカと光っていた。

「おいスカル、お前ヴェルデに頼んで変なもんつくってねーか?」
「ふ、フン!お前には関係ないだろ!です、、、」

まるで蛇に睨まれた蛙、あぁここにはイグアナもいるんだったと阿保みたいなことを考えてしまう。

「それよりリボーン!ヒバリさんがどこにいるのか知ってるのか?」

いててと頬を抑える幼なじみの目には少しだけ涙がにじんでいた。
リボーン君は短くため息をつき、そこにいるじゃないかと私へ、いや正確には私の上着へと視線を動かす。

「もしかして、」
「そうだ!俺様がヴェルデに頼んで、人間を動物に変身させる弾を作ってもらったんだよ!」

スカル君はもうどうにでもなれ、といったふうに事の顛末を話してくれた。

応接室にいる雲雀さんへバズーカを発砲し、弾の能力により雲雀さんはイグアナへと姿を変えた、とのことだった。

「でもよ、ヒバリがそんな簡単に攻撃を受けるか?」

山本君は首をかしげ、確かにとリボーン君を除く私達も頷く。
雲雀さんだったらバズーカだろうがレーザー光線だろうが大丈夫、負けはしないだろう。

「雲雀だったらトンファーで叩き落とすと思ったからな、弾の中に薬をつめたんだ。案の定爆発してもろに弾の力を受けてたぞ」
「な、卑怯すぎねぇか、ソレ、、、」

獄寺君は非難の声を出していたが、私はなるほどと納得してしまう。
何事も傾向と対策を考えることは重要である。

「元に戻るためにはどうしたら良いの?」

私が質問すると、スカル君は楽しそうにまた笑いはじめた。

「特別に教えてやろう!元に戻るためには、、、」
「勿体ぶらずにさっさと言え」

今度はスカル君に対してリボーン君の横蹴りが炸裂する。
んぎゃと言いながら倒れこむスカル君、慌てて起き上がると、言いますからと手を横に振っていた。

「昔から伝わるお伽噺のように、キスをすることだ!それしか元に戻る方法はない!」

スカル君はまるで童話の意地悪な魔女のように仰けぞっている。
キスの言い方も力がこもってしまったせいか、キッスと聞こえた気もした。

「バカなこと言ってねーで早く元に戻せ」
「リボーン先輩!ほんとですって!ヴェルデがそう言ってたんですよ!」

げしげしと倒れているところを蹴られているスカル君は手を上にあげ降参のポーズをしている。
幼なじみは頭をかかえ、どうしようどうしようと慌てていて、獄寺君も山本君も眉をひそめていた。

「キスしたら戻るの?」
「あぁ!元に戻る!だが今の雲雀はイグアナ!その姿でキスをしようとするヤツなんて、」

私はイグアナの脇に手をいれ、まっすぐと向き合う。長い尻尾がぷらぷらと揺れ、真正面から見ると確かに鋭い目付きが雲雀さんぽいかも、なんて笑ってしまいそうになる。

「雲雀さん、嫌でしょうけど。ごめんなさい」

音も立てず、唇を合わせる。
次の瞬間、ボムッとやけに可愛らしい音が響き、先程とは違う重さを腕に感じる。
もくもくと白い煙が薄くなっていき、現れたのは学ランを着たいつもの雲雀さんだった。

「あわ、わわ、そんなぁ、、、!ぐぬぅ!今日のところは勘弁してやる!またな!雲雀ー!」

ぴょんと窓から飛び降りるスカル君に、リボーン君は三人に向かって、アイツを追いかけるぞ、ついてこいと言い、そのままいなくなってしまった。
私は脇の下にいれていた手を下におろし、雲雀さんはストンと床に足をつける。
雲雀さんは顔を下に向けたまま、その場から動こうとしない。

「あの、怒ってます、よね?」
「怒ってないよ」
「すみませんでした。緊急事態とはいえ、草壁さんの方が良かったですかね?」

本気で言ってるのかと雲雀さんから言われ、私は改めて謝罪する。

「だから、怒ってないよ」
「まぁ、その、犬にでも噛まれたと思って忘れてほしいというか、まぁ雲雀さんがイグアナだったんですけどねっ」

あ、まずい、場を和ませようとしたが失敗してしまった。
綺麗な人が怒るとその迫力も増すんだな、なんて少しだけ現実逃避をしてしまう。

「君、僕のこと好きなんだろう?」

私は思わず目を点にし、素っ頓狂な声を出してしまった。
雲雀さんは私のことを相変わらず怒ったような顔で見ていたが、そんなに怒らないでくれとは流石に言えなかった。

「愛する者とキスすれば元に戻るって、あの赤ん坊は言ってた」
「いや、愛するとは言ってなかったような気がするんですけど、、、」
「まぁ良いよ、僕もここまで好意を示されて断るなんて野暮な真似はしない」

そんな顔をされるほど私は嫌われているか、だったら事あるごとに呼び出さないでくれという気持ちでいっぱいになる。
近づいてくる雲雀さんに私はじりじりと後退りをし、へへっと乾いた笑い声をなんとか絞り出す。

「ひ、ひとまず今日のところは帰りますね?お疲れ様でした!さよーなら!」

逃げるが勝ち、脱兎のごとく、とはよく言ったものだ。
私は廊下を走り階段を飛び降りるかのようにくだる。

「待ちなよ」
「ひぇ、なんで追ってくるんですか!もう勘弁してください!」

叫び声を上げながら私は逃げる。
ちらりと後ろを振り返ると雲雀さんはトンファーを握っており、私は少し前にテレビで放送していたネイチャー番組を思い出す。
番組では肉食動物が獲物を追いかけまわし、最後は、、、。
なせだ、なぜこのタイミングでこの番組を思いだしたのか、いや理由は分かっている。
好きな相手をあんな顔で追いかけまわしたりはしないだろう、おそらくキスをした相手が私だったからかと納得することにした。

校舎裏、俺と山本と獄寺君の三人はスカルに対する制裁を終えたリボーンの元へと駆け寄る。
リボーンは満足そうな顔をしていた。

「しょうもないことしてんじゃねぇぞ」

コイツもこりないなとため息をつきたくなる。
実際、獄寺君はこりないヤツだなと声にだしていた。

「しょうもないとはなんだ、私の研究にケチをつけるつもりか?リボーン」

声の聞こえた先にいたのは白衣姿のヴェルデだった。
ヴェルデは短い足をとことこと動かしスカルに近づく。

「全く、研究のデータは取れたのか?」
「少しは俺様の心配をしろよぉ、、、」

相変わらず呻き声を上げているスカルには目もくれず、ヴェルデは鼻をならす。
俺は気になっていたことを確認することにした。

「ヒバリさんが元に戻ったのって、お伽噺に出てくるような、真実の愛のおかげなのか?」

自分で言ってて恥ずかしくなる。
お伽噺のお姫様が息を吹き返すように、野獣が王子様に戻るように、スカルもお伽噺のように、と言っていたはずだ。
ヴェルデは眉をひそめ、まるではじめて聞いた単語を繰り返すかのように口を動かす。

「真実の愛?」
「いや、アイツがヒバリさんにキスしたら戻ったし、スカルもお伽噺みたいにって言ってたから」

ヴェルデは紛らわしい言い方をするんじゃないとスカルへ言い、白衣のポケットに手をいれたまま話し始めた。

「あれは他者との唾液交換で元に戻るように作った試作品だ。真実の愛なんてものは関係ない。大体そんなもの分かるわけないだろう」
「だ、唾液交換、、、」

俺と山本君と獄寺君は顔を見合わせ苦笑いをする。
リボーンはヴェルデとスカルに向かって、茶々をいれるんじゃないと口を開く。

「彼女は雲雀恭弥に対して特別な感情は持ち合わせていないだろう」
「そんなの分からねぇだろ、嫌よ嫌よも好きのうちって言うからな」

リボーンとヴェルデは視線を交わし、少しだけ重苦しい空気が漂う。
先に目をそらしたのはヴェルデの方だった。
小さく舌をならし、スカルの襟を掴みずりずりと歩き始める。

「少しぐらいはデータを取ってるんだろうな?」
「は、離せ!優しくしてー!」

去っていく二人の背中を見ているリボーンは、なにかを考えているみたいだった。
山本はぽつりと、嵐のようだったなと呟き俺は同意するために頷く。

俺達は、幼なじみがまさかヒバリさんと熾烈な鬼ごっこをしているとは夢にも思わず、そのまま家路を急いだのだった。

その日、雲雀はいつものように応接室の椅子に腰をあずけていた。
彼女が来るのを心待ちにしている彼の姿は、気を抜いたら口笛を吹いてしまいそうな勢いだ。
ガサガサと木の葉が揺れる音に気づき、振り返るとバズーカを持ったスカルが木の枝に立っていた。

「雲雀!今日こそはギャフンと、って聞けー!」

雲雀はまるで気づいていないといった様子で椅子のキャスターを動かし体をもとの位置に戻す。
スカルは拳を震わせ、バズーカの標準を雲雀へ向け爆発音とともに弾が発射される。
雲雀は飛んできた弾をトンファーで叩き落とし、彼女が来る前に片付けてしまうかと体勢を整えた瞬間。
ボムッと弾が光り、雲雀は思わず目を閉じ、そのまま意識を手放した。

どのくらいの時間が経ったのかだろうか、何かを叩く音で目が覚め、次に聞こえてきたのは彼女の間延びした声だった。

「どこから来たんだろう?もしかして雲雀さんのペットちゃん?」

彼女に抱き上げられた雲雀は窓ガラスに写った自分の姿を見て固まってしまう。
それもそうだ、自分の姿がイグアナになってしまっているのだから。

そして、キスをしないと元の姿に戻らないと聞いた彼女は雲雀を真正面に抱き上げる。
彼女からこんなにも視線を向けられるのははじめての事だと雲雀は気づく。
唇を重ね合わせた瞬間、彼女の姿が白い煙で見えなくなるも、徐々に煙がはれていく。
目の前の彼女は安堵した表情を浮かべ雲雀の顔を見つめている。

だらしない顔にならぬようにと雲雀は力んでいた。
そんなことを知るよしもない彼女は謝罪を繰り返し、挙げ句の果てには風紀副委員長でもある草壁の方が良かったかとまで言っている。

雲雀の頭のなかにあるのはただ一つの感情だった。

彼女も自分のことが好きだったのだ、そうでなければわざわざ自分から唇を重ねないだろう、自分達は両想いではないか!

「君、僕のこと好きなんだろう?」

頬が緩まぬよう細心の注意をはらうが、その度に顔が険しくなっていくことに雲雀は気づいていない。
彼女が雲雀の気持ちに気づくのは一体何時になるのか、そもそも気づくことができるのか。

それは誰にも分からないことだった。
1/1ページ
    スキ