「ハヤトさん今日もお疲れ様です！」
「あ、ありがとうございます....」

彼女と暮らす家にあるダイニングチェアに座って、彼女が作ったご飯を食べようとした直前。そうだ！忘れてました！と私の元へ駆け寄ってきたのが、数秒前のこと。今現在、私は彼女に頭を抱き寄せられ、よしよしされている。そう、よしよしされているのだ。
彼女はとてつもなく人を甘やかすのが上手い。例えば、仕事で疲れて帰ってきた時はお疲れ様ですと笑顔で迎え、労ってくれる。私のどんな話でも、楽しそうに嫌な顔せず聞いてくれる。私が家に帰ってきてもなお、仕事に追われている時は何も言わず、温かい飲み物を用意してくれる。何より彼女に抱きしめられると、暖かくて、柔らかくて、胸がいっぱいになって安心するのだ。私だって男なのだから、彼女を甘やかしたいと思っている。思っているのだが...。

「こうなってるんだよなぁ...」
「ん？どうかしました？」
「あ、いえ、なんでもないです」

彼女が体を離した後、食事と入浴を済ませて一緒にベッドに入った。そして、また私は彼女に抱きしめられながらベッドに横になっている。普通逆だろう！そう思いますよね、私もそう思うんです。これでは男の立場がないと。思うのにこの心地よさに抗えないんです。情けない...。その日はお風呂上がりの彼女の優しい匂いを感じながら眠りについた。
当然、次の日の目覚めはとてもすっきりしていた。

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「名前さん」
「は、はい、何でしょう」

それから数日後、私は決意をした。その決意が揺らがないうちに彼女に伝えなければならない。そう思って、帰宅してすぐに彼女にソファに座るよう諭して、私も隣に座る。話がありますと変に真剣に言ったせいか、彼女の表情は硬っていた。

「あの、あのですね」
「はい」
「....しばらくあなたからの頭ぎゅーとなでなでは禁止にします」
「...............はい？」
「ですから、」

さっき言ったことをもう一度繰り返す。数秒の沈黙の後、彼女があ、え、あー、そういう....と自分の中で先程の言葉を咀嚼しているようだった。

「え、なんででしょうか...？も、もしかして嫌でしたか....！」
「あ、いえ！決してそういうわけではなくてですね！むしろ良すぎて、このままじゃダメになりそうというか....」
「ダメになりそう」

あれ、これ結構恥ずかしいこと言ってないか！？そう気づいた瞬間、一気に顔が熱くなった。やばい、恥ずかしい。え、どうしよう、めっちゃ恥ずかしい。

「あ、いやその....とにかくですね！禁止です！」
「りょ、了解しました....」
「その代わりと言っては何ですが、しばらくは私があなたを甘やかします。甘やかします」
「2回言いました？」
「大事なことなので」

そう言って私は彼女に更に近づく。彼女と数秒間目を合わせてから、少し下にある彼女の頭を抱き寄せた。小さいなぁ...。慣れない手つきで、優しく彼女の髪に触れる。

「よ、よしよし」

羞恥心に耐えながら、言葉を繰り返す。好きな恋人を甘やかすというのは、やはり幸福感が高いもので。

「大好き、好き、大好きです、名前さん」

ついつい言葉が溢れてしまう。それからしばらく好き好き言いながら、撫で続けていたら彼女が声を上げた。

「す、すとっぷ！すとっぷ！」
「ど、どうしました？」

一旦体を離して、彼女の顔を見て思わず目を見開いた。

「これ....うわ、待って、見ないでください」

彼女の顔は真っ赤に染まっていた。それはもう、真っ赤に。普段の彼女の表情からは予想もつかないほど動揺していて、たまらなく嬉しくなった。そして何より、

「.......かわいい.........」
「えっ」

私に、私の手で、こんなに顔を真っ赤にさせて、戸惑っている彼女が、可愛くて仕方がない。

「い、今までこんな風に、誰かに撫でられることなくて....うぅ、恥ずかしい....」
「.....私が初めてなんですね、嬉しい」
「そ、そうですよ！....全部、ハヤトさんが初めてです。頭を撫でてもらうのも、抱きしめてもらうのも、ぜんぶ」
「わぁい、じゃあもっとたくさん撫でてあげますね」
「えっ、いや、待って！今日はもう！大丈夫です！これ以上は！」
「だーめ」

もっともっと、俺に甘やかされて、どろどろになってください。そう言って、もう一度彼女を抱き寄せた。