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「ふっふっふっふっふ、……ついに出来ただ」
深夜の猫飯店の厨房で怪しげな笑い声がひとつ。
男はセイロのフタを開けた。
白い湯気と共に覗くそれは、一口サイズのシュウマイ。湯気で曇った眼鏡を額に乗せ、男はニヤリと笑みを浮かべた。
「あとはこれを……くくくくっ」
男が口を閉じると厨房は外の雨音で包まれる。
外はひどい大雨だ。ビシビシとひさしや窓に大きな雨粒が叩きつけられては流れていく。
時折走る稲妻が荒れ模様をさらに引き立てているが、男は外の様子などお構いなしに高らかに笑った。
「よぉし、見ておれ!これでなまえはおらのもんじゃあああああっ!!!」
ピカッ。ゴロゴロゴロ……。
男の横顔が稲光で照らされた。
彼のその雄叫びは稲妻にも勝るもので、ふんぞり返って叫んだその顔はまるで悪人のような悪い笑みを浮かべていた。
「うるさいね、ムース。静かにするよろし」
バキッ。
突如現れた少女の鉄拳により男は床に突っ伏した。
起き上がる間もなく追い打ちをかけるように男に水がかけられ、その姿はみるみる内に小柄なアヒルになってしまった。
しかし鉄拳がよほど効いたのか、アヒルはピクリとも動かない。
「朝までそうしてろね」
冷たい視線を浴びせられたアヒルに手を差し伸べるものはおらず、また少女の言動を止めるものもいない。
アヒルをそのままに少女は厨房をあとにした。
厨房はアヒルを取り残したまま静寂に包まれる。
先程まで荒れくれていた天気も嘘のように今では雲間から月が顔を覗かせていた。
翌朝――。
「おはよ、なまえ!」
「おはよう、あかね」
「よっ」
「おはよう、乱馬くん」
昨晩の雨はすっかりやみ、空は晴れ渡っている。
道には大きな水たまりが点々としているが、まるで昨晩の雨が嘘のようだ。
登校中に後ろから声をかけられ、振り向いたなまえは声の主へ挨拶をした。
そして二人はなまえを挟むように横に並び、周りの者と同じように学校へ足を進める。
「昨日の雨すごかったよねー!」
なまえの右隣から少女――天道あかねが話し始めた。
「すごかったよね、雷も鳴ってさ」
「なまえは雷平気?」
「うん、全然平気」
「そっかぁ」
あかねは平然と答えるなまえに苦笑いをした。どうやらあかねは雷が苦手らしい。
そんな二人のやり取りを聞いていた少年が口を開く。
「けっ、雷くれぇどーってことねぇだろ。あかねはびびりすぎなんだよ」
「なんですってぇ!?」
少年の言葉にあかねが声を荒げた。
しかしすぐにその顔は少年をまるで見下すようなものに変わる。
少年――早乙女乱馬はあかねの意味ありげな視線に眉を潜めた。
「なんでい、その顔は」
「ふーん?乱馬、私にそんなこと言っていいの?」
「あ?どーいうことでい」
含みを持たせるあかねの口振りに乱馬はますます眉を寄せるが、全く見当がついていないようだ。
それを確信したあかねはなまえを見るとにっこり笑った。
「聞いてよなまえ。昨日の晩すっごく面白いことあったのよ」
「面白いこと?」
いやに満面の笑みを見せるあかねになまえは戸惑ったものの、話の続きを待った。
一方の乱馬は昨日の晩……昨日の晩……と、考え込んでいる。
「そう!昨日の夜ね、天気が荒れる前に家の雨戸を全部閉めたの」
「うん」
「雨はずっと降ってたけど、雷は突然鳴り始めたじゃない?」
「そうだね」
「そしたらどこから迷いこんでたのか、家に子猫がいてね。雷の音に驚いて乱馬の頭の上に飛び乗ったの!」
あかねのその言葉に乱馬がピシリと固まった。
そしてあかねが何を話そうとしているのか理解して冷や汗が流れる。
乱馬は猫が苦手なのだ。
昨晩の騒動はあかねにとっちゃ面白い話だったのかもしれないが、乱馬にとっては面白くもなんともない。
「ぅお、おい!あかね!」
「なによ、今なまえと話してるのに」
「べ、別にんな面白くねぇ話しなくてもいいだろ!」
「私は面白いと思うけど?……はっはーん、乱馬ってばなまえにバラされたくないのね?」
「ぅぐっ…!」
ニヤニヤと笑うあかねに乱馬は図星をつかれた。
自分が笑い者にされる話など――ましてやそれに猫が加わっているとなるとなおさら――面白くないし、むしろ恥ずかしい。
そんな乱馬の一瞬の隙をついてあかねはなまえの手を引き走り出した。
「行こっ、なまえ!」
「あ、こら待て!」
「待つもんですか!」
なまえをよそにどんどん話が進んでいくが、これはこれでそれなりに楽しんでいるなまえなのでされるがまま。
あかねと呼吸を合わせて走る中、チラリと後ろを見て乱馬の姿を確認する。
本気を出せばすぐに追い付くくせに、手加減しているのは乱馬もこの状況を楽しんでいるからなのか。
なまえは二人にバレないようにこっそり笑った。
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