中編:もしも本命には奥手だったら
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「なびきお姉ちゃんもなまえちゃんも、ほどほどにしてあげなさいよ!」
「あ、あかね……」
二人のやりとりを聞いていたあかねが見兼ねて別室へ足を踏み込んだ。
その後ろには飄々としたなびきの姿があり、いつでもシャッターを押せるようにデジカメを胸の高さまで持ち上げている。
あかねの一言にじーんとしたらんまだったが、なまえが先手を打った。
「あかねちゃん、着物似合ってるね」
「なまえちゃん話を逸らそうったってムダよ」
「だって似合ってるし、それに……」
「……っ!?」
「でっ!?」
勝ち気な表情をしていたあかねだったが、なまえの言葉に赤くなった顔を両手で押さえた。それとほぼ同時に驚いたらんまは三人の死角でガシャーンッ!ばしゃっ!と、派手な音を出してコケていた。
あかねの後ろで、だから突然衣装を変えるって言ったのねーとなびきがにやにやしながら呟く。そしてすぐさまあかねの前に立ち、赤面したその姿を写真に収めていくのだ。
『乱馬くんに着物が似合うって言われたんでしょ?』
二人だけの会話だと思っていたのになまえが聞いていると思わなかったのか、当の本人たちは顔を赤くしたまま無言になってしまった。
「似合ってるのも本当。乱馬くんのチョイスも当たりね」
「わ、私は自分の意思で衣装を決めたんだから……っ!」
「はいはい」
真っ赤になった顔で言われても説得力がない。
両肩をぽんぽんと叩いてきたなまえの顔が笑顔だったからか、あかねは恥ずかしげに視線を反らし、そのまま口を閉ざしてしまった。
《まもなく風林館高校のミス・コンテストを開催致します。どうぞ特設ステージへお集まりください》
「そろそろ始まるのね。二人ともいい写真撮ってあげるわ」
「はいこれ。終わったあとにでも飲んで。じゃああとでね!」
アナウンスが聞こえ、なびきとなまえはあっという間にステージ裏の楽屋をあとにした。
今度はステージでの華やかな写真を収めないといけないのだ。
突如静かになった楽屋内であかねは盛大にため息をついた。
「もう、お姉ちゃんもなまえちゃんも……」
本当に食えない人だわ。
去り際になまえから押し付けられたペットボトルのミネラルウォーターを二つ、ぎゅっと握りしめた。
口では本当に敵わない。どちらか一人ならまだしも二人一緒だともうお手上げ。
二人が出ていった方を見つめていたあかねだったが、ふと先程のなまえの言葉を思い出していた。
――乱馬くんに着物が似合うって言われたんでしょ?
どこで聞いてたんだろ……、
再びかっと赤くなるのを感じてあかねはブンブンと横に首を振った。
熱を冷ますように、この思いに気付かないように。
「……ち、違うわ。いーい?らんま。さっきも言ったようにこの衣装は」
「……」
「私の意思で決めて、アンタの意見なんか」
「……」
「聞いてない……って、ちょっとらんま!聞いてんの!?」
「わぁぁぁ!こっち見んな!!」
人の話に全く反応しないらんまの態度に痺れを切らしたあかねは勢いよく振り返った。
そしてあとから聞こえたらんまの言葉に後悔をすることになる。
「……!?」
「……だ、だから見んなって……」
膝を抱えて座り込むその姿は可愛らしさからは無縁のものだった。
少しでも力を入れればはち切れそうなほど服が張っており、豊満な胸は厚い胸板に変わっている。
そう、らんまから乱馬に戻っていたのだ。
「……何で?」
「さっきコケた弾みで熱いお茶がかかって」
「……あぁ、あの時の、」
「……で、えーと、その水くれねぇ?」
男の姿でのナース服は見ていられない。それはあかねや乱馬のみならず、皆が言えることだ。
この姿で楽屋を出たものならしばらくの間《変態》のレッテルが貼られるのは目に見えている。
あかねは抱えていたペットボトルの一つを乱馬へ放った。
乱馬は目にも止まらぬ早さでキャップを開けると頭から水をかぶり、ほどなくして一回り小さくなったその姿に二人で安堵する。
まさか女の姿で安心する日がくるとは。
「助かったぜ……さすがに男であの格好はまずいよな」
「そうね……」
まだ本番でもないのにらんまの表情は疲れきっている。うなだれるらんまを見ながら苦笑いをするあかねは口を開く。
「ねぇらんま。他にも償いしたんでしょ?別にミスコンなんて出なくてもいいんじゃない?」
「いや、出るって言っちまったからな。男に二言はねぇよ。それに……」
出ねぇ方があとあと怖ぇからな……。
両腕を押さえガクガク震えるらんまに、かける言葉も見つからないあかねであった。
「ねぇ、なびき」
「撮ったわよ」
楽屋を出て移動しながらなまえはなびきに話しかけた。
その返答は早く、そして名前を呼ばれただけにも関わらず内容は伝わっている。
なびきはなまえにデジカメの画面を見せた。
「さすがだね」
「当たり前じゃない」
その画面には膝を抱えて座るナース服姿の乱馬が。
男性らしいたくましい上腕や大腿には、はち切れそうな衣装が食い込んでいる。
「なまえがあかねにミネラルウォーター渡してる隙に気付いてね」
「あぁ、あの時」
「ていうかアンタも気付いてたんでしょ?」
「うん。だけどタイミングなくて。あのミネラルウォーター、あとで二人で飲もうって思ってたんだけどなー」
「いいじゃない。ミネラルウォーターが何十本も買えるほどのネタを掴んだ訳だし」
「それもそーね」
二人はにやりと口角を上げた。
もしもらんまがミスコンに出なければ、この――男の姿でのナース服――写真で揺すられたのは確実。
しかしミスコンに出ようが出まいがいずれ揺すられる運命は変わらない。
そんなこと知るよしもなく、らんまはステージへ向かうのだ。
知らぬが仏とはまさにこのことである。
To be continued...
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九能ちゃんとの絡みが…。次こそ絡みます!前置きが長い!