中編:交換日記と幽霊。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
※このお話は番外編です。本編には直接関係ありません。
※九能は出てきません。
なまえの手元に交換日記がないとある休み時間。
「なぁ、思うんだけどよ」
「なに?」
「九能との交換日記、やめていーんじゃねーか?」
「……え、」
乱馬の発言になまえは目を丸くした。頑張れよ。と、顔をひきつらせながらそう言ってくれた口から真逆の言葉が出たのだ。
そんな乱馬の言葉にあかねと右京は大きくうんうんと首を縦に振る。
「あたしもそれは思ったわ……九能先輩相手はやっぱりいろいろとキツそうだし……」
「ウチも賛成。あの子、前も成仏出来んかったこと何度もある言うてたし、なまえちゃんが放棄してもえーと思うわ」
「そーそ、別におめーが犠牲にならなくったっていーんだよ」
「犠牲……、」
犠牲とは幽霊にちょこちょこ付きまとわれることだろうか、いや交換日記の相手である九能と関わりを持つことだろうか。
なまえはどっちだ?と考えるのだが、この場合はどちらも正解だ。
「しかも一回で三ページも書いてくんだろ?俺ぁぜってーやだな。九能センパイが書く日記なんて見れたもんじゃねぇ」
「あたしも九能先輩のはちょっと……、」
「怖いもの見たさはあるけどな!せやけどウチも勘弁や」
「あ、あははは……、」
ズケズケと口にする三人になまえは苦笑した。
そこまで九能に対して嫌悪感はないにしろ――だがゼロではないが――交換日記を放棄してもいいんじゃないかと何度も思った。
九能と交換日記、グラウンド百周どっちがいい?……なんて聞かれれば、風林館高校の生徒なら全員グラウンド百周を選ぶだろう。三百周走ってもいいから交換日記はしたくないという生徒の声も予想がつく。
九能との交換日記は体力勝負でないにしろ、それほど過酷なものだ。
「じゃあ〈なまえ〉さんは成仏出来なくてもいいの?」
交換日記を放棄するということは幽霊〈なまえ〉が成仏出来ないということ。それはそれで少なからず心に引っ掛かりを覚えるなまえはそう口にした。
そしてその言葉を聞いた右京はまるで待ってました!と言わんばかりのニヤリとした笑顔を見せると「それならウチに考えがあるで!」と溌剌とした声を上げる。
その意気揚々とした様子になまえはハッとするも、右京は構わず親指をびっと立ててウインクをした。
「ウチと乱ちゃんが交換日記したらええねん!」
「は、はぁ!?」
「でぇえええ!?」
あかねと乱馬は飛び上がるような大きな声を出して驚く。そんな一連の流れを見ながらなまえは、はははと苦笑いをした。
それぞれの反応を見せる三人を尻目に右京は、開いた口を閉じることなく水をえた魚のように生き生きとした様子で更に続ける。
「ウチと乱ちゃんやったら最後まで続けることなんてお茶の子さいさいやで!な、乱ちゃんっ!」
「そ、そぉかぁ……?」
「いっぱい乱ちゃんの好きなとこ書いたりウチのええとこ教えてもろたり……文字で紡がれる言葉に二人の距離は更に近うなるんやっ」
『ウっちゃん!俺の中に溢れる想いは交換日記の文字では追いつかないぜ……っ!』キラキラ
『ど、どういうことなん……?』ドキドキ
『文字ではもう我慢出来ないってことさ……!好きだ!ウっちゃん!』キラキラキラ
『ら、乱ちゃん……っ!ウチその言葉ずっと待っててん……っ!』ずきゅーんっ
『ウっちゃん……』ドキドキ
『乱ちゃん……』ドキドキ
そっと目を閉じたウチに察した乱ちゃんが近付いてきて……そうしてゆっくり二人の影が重なって――――、って!
「きゃー!いややわ、乱ちゃん!大胆なんやから!もうっ!」
突然大きな声を出した右京はどーんっと乱馬を突き飛ばした。
両手で自分の頬を押さえて首を横に振り自身の妄想に思いを馳せる右京は、キラキラとした背景を背負いながら顔をうっとりさせ体をくねくねとくねらせてる。
そんな右京の様子に全く面白さを感じないあかねは眉を寄せてぶすっとした態度で口を開く。
「なにそれ。理由付けて乱馬と交換日記したいだけじゃない」
「なんや面白ない顔してんなーウチと乱ちゃんが交換日記するんがそんなにイヤなん?」
「は、はぁ!?何言ってんのよ!乱馬とするぐらいなら九能先輩とした方がましよ!!」
あかねの心を見透かしたような右京の口ぶりに、先程まで九能との交換日記はいやだと言っていたその口から真逆の発言が飛び出した。
勢いで出たあかねの物言いにプチンときた乱馬は、頬をひきつらせながら怒りのマークを額に付けている。
「あんだと~~!?俺とあの変態を天秤にかけるたぁどういうことでいっ!俺だっておめーなんかと交換日記なんかしたくねぇっての!」
「あら奇遇じゃない思ってることが一緒だなんて!あたしだってお願いされたって御免だわ」
「おめーとするなら俺だって九能とした方がましだ!」
「それなら女の子になってになまえと代わってあげればいーじゃない!」
「おめーこそなまえの代わりにやりゃーいーじゃねーか!」
正に売り言葉に買い言葉。
九能との交換日記はしたくないと言っていた二人から、交換日記をしてもいいなんて発言が出るとは……未だに口論を続ける乱馬とあかねになまえは苦笑いを浮かべていた。
しかしそんな二人の口喧嘩に全くもって興味のない右京は、自分から切り出した話がズレていることに苛立ちを感じ、乱馬の腕を両手でぎゅっと掴み自分の方へ引き寄せる。
「九能はええから、ウチと交換日記しよーや、乱ちゃんっ!」
「あっ!ちょっと!!」
「えっ、だから俺は……」
右京の行動にあかねの怒りが更に増長する。
そんなメラメラとした闘志を見せるあかねを横目に、キラキラと輝く瞳を見せる右京に乱馬はたじたじな顔をしているが――
「あいやー!乱馬、交換日記するなら私とするね!」
「シャンプー!?」
――突如シャンプーの乱入で、その顔は驚愕の表情に一変する。
やべぇややこしくなってきた。
乱馬は声にこそ出さなかったが、これから始まるであろう少女たちの喧嘩を見越して頬を引きつらせた。
「どっから出てきたん!?てかなんでアンタと乱ちゃんが交換日記せなあかんねん!」
「私の方が右京より乱馬への気持ちいぱい書けるね!おまえに見せない乱馬の顔たくさん知ってるある」
案の定、バチバチと火花が散るような右京とシャンプーの口喧嘩が勃発する。
「はぁ~!?うちは小さい頃の乱ちゃんも知ってるんや!アンタ声変わり前の乱ちゃん知らんやろー?」
「何言うか!おまえこそ中国で武者修行してた乱馬のこと知らないくせに、偉そうな口きくな!」
「やかましいわ!ていうかアンタそもそも日本語書けるん!?書けへんと意味ないんちゃう~~?」
「言葉関係ないね。愛に国境は関係ないある!」
「せやかて伝わらんと意味ないやろ!?」
手は出ていないものの口を開く度にどんどんヒートアップしていく二人からは熱い闘気がメラメラと出ており、誰も止めるものはいない。否、止めようものなら飛び火するであろう緊迫感に止められないのだ。
なまえは変わらず苦笑しながら、あかねはフンッと鼻を鳴らして、乱馬はいつ自分に矛先が向くのかドキドキしながら見ている。
そんな中、無謀にもシャンプーと右京の間に割って入る屈強な精神の持ち主が現れた。
「それならばあなた方よりもお上品なお言葉で愛をお伝えする、この私の方が乱馬さまとの交換日記に相応しいんじゃありませんの~~!?」
「「小太刀!?」」
おーっほっほっほっ!!と高らかに笑う声と共に、黒バラの花びらがヒラヒラと舞い落ちていく。
突然姿を出した九能小太刀にその場にいた全員が驚いた。
どこから交換日記の話を聞いてきたのかいろいろと気に掛かるが、乙女の恋に時と場所など関係ないのだ。
「お前、言葉丁寧でもやり方陰湿ね」
「あんたに言われたかないわな」
小太刀の《お上品なお言葉》というワードにぴくりと反応したシャンプーと右京がジロリと小太刀を睨む。
「あら、本当のことを言ったつもりでしたが……図星でしたか?」
「どの口が言うね!」
「他人のこと言える口か!」
シャンプーと右京からが声を張り上げるも、余裕の笑みを浮かべる小太刀は気にする様子は全くない。
それどころか再び「おーっほっほっほっ!!」と高らかに笑うと、
「小娘どもそうして騒いでらっしゃいっ!」と言い放ち乱馬の元へ駆け寄った。
そして乱馬の右腕に自身の左腕を絡ませる。
「さぁ乱馬さま!これを機にわたくしと交換日記をいたしましょうっ!」
「ちょい待ち!うちのが先や!な、乱ちゃん?」
「あいやー!私とするね乱馬!」
続いて右京は乱馬の左腕をぎゅっと掴み、シャンプーは正面から抱き付き上目使いで乱馬を見つめる。
そんな二人の行動に苛立ちを覚えた小太刀は凄まじい形相でキッと二人を睨んだ。
「なんて憎々々々しい小娘どもっ!乱馬さまから離れなさい!」
「そういうアンタこそ離れーやっ!!」
「私の乱馬、おまえたちにやらないある!!」
三人の怒号が飛び交う中、乱馬は「お、俺さ!ちまちましたやつ苦手だからさ、交換日記とかはちょっと……」と発したのだが、その声は少女三人の耳には届いていない。
むしろその口論はますますヒートアップしていく。
「これじゃ埒があきませんわ。こうなったら闘いに勝った者が乱馬さまと交換日記するというのはどうですの?」
「ほー、珍しいこともあんねんな。うちも同じこと考えとったわ。手加減せぇへんで」
「おまえにしてはいい考えあるな。でもわたしが勝つに決まてるある」
「決まりですわね……いざ、勝負ですわっ!」
「臨むところや!!」
「返り討ちにするね!!」
一斉に乱馬から離れた小太刀、シャンプー、右京は勝負の掛け声を合図に三つ巴の闘いを始めだした。
リボンが舞い、ヘラが飛び、振りかざされる錘。正にそれは無秩序状態。
しかし三人を止める者はいない。
「……先輩の交換日記の話から乱馬くんと交換日記をするかしないかになってるよね?」
「ほんと、ばっかみたい」
傍観していたなまえが状況を確認しようと隣にいるあかねに尋ねるも、あかねは両手を広げて呆れていた。
乱馬のことになるとほんっと見境ないんだから。
ぶすっとした表情であかねは渦中の人物をチラリと見た。
「俺は交換日記なんかしたくないいいいいーーーーーっ!!!!!」
バタバタと両手をバタつかせ青ざめた顔をした乱馬は、わたわたとした足取りで駆け出しながらそう叫び、教室の窓からバッと飛び降りた。
「あっ!?乱馬さま!?」
「乱ちゃん!?」
「乱馬、どこ行くね!?」
乱馬が飛び降りた窓に駆け寄る少女たちも、乱馬と同じように窓から飛び降りると走り去るその後ろ姿を追いかけていく。
「お待ちになってください乱馬さまあ~~!!」
「まだ勝負ついてへんねん!待ちぃや乱ちゃん!!」
「わたし勝つある!ここで待つよろし、乱馬ーー!!」
「俺ぁ交換日記はぜってーしねえええええ!!!!!!」
悲痛な乱馬の叫び声を最後に、ドタバタと教室を飛び出していった四人の声はどんどん遠くなり、教室にはようやく静寂が訪れていた。
クラスメイトたちも四人のやりとりを見物していたが、当の本人たちが消えてしまったので再び普通の休み時間に戻っていく。
「……やっぱり交換日記は私がこのまま続けた方が良さそうだね」
残されたなまえはあかねにそう告げると断念しようかと揺らいだ気持ちを振り払った。
「右京たちの手に渡ったら〈なまえ〉さんもいざこざに巻き込まれて成仏しようにもしきれないかもね……」
「だよね……」
どこまで走っていってしまったのか。乱馬と少女三人(いや四人)の恋のバトルを思うと、九能との交換日記は期間限定なのでなんとかあと少しがんばろうと思うなまえであった。
END.
シャンプーと小太刀の登場はご都合主義です!
12/12ページ