ヤンデレ。
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「よくわからないんですけど……、っていうか離してください」
ぐぐっと体や腕を動かして抵抗するみょうじなまえ。
困惑したような表情と焦りのみえる声に、僕の心が感じたことのない感情でゾクゾクと溢れだした。
「わからなくてもいい。僕がわかっているんだから」
「……せ、んぱい?」
「君は今、家に帰ってきているんだ。これから何処に行く必要がある?」
「先輩、」
「何も怖がることはないさ、僕を信じろ」
「九能先輩っ!」
大きな声と同時に、どんっと強く感じた衝撃は、みょうじなまえが僕の胸を突き飛ばしたものだった。
みょうじなまえが、僕の側を離れたーー?
彼女が突き飛ばした胸のあたりを目で確かめ、撫でてみた。みょうじなまえが僕に触れた場所だ。
そうしてみょうじなまえへと視線を移し、じっと彼女の目を見つめる。
戸惑いのある、少し潤んだような瞳が、僕の黒い独占欲を駆り立てていく。
「……何だ、」
「どう、したんですか、先輩らしく、ない……」
「僕、らしく……ない?」
僕はいたって正気だ。
しかし僕の中に湧いた気持ちは僕も理解できない。理解するつもりはないが。
新たな感情を知れた喜びと彼女が僕に見せるその様が愛おしくて、いろんな気持ちが混沌としたまま、ゆっくりみょうじなまえに詰め寄る。
「それはどういう意味だ?聞くが、僕らしいとは何だ?」
「く、のうせ、」
「どうなんだ、みょうじなまえ。君から見た今の僕というのは、いつもとどう違うのだ?」
「せ、んぱ…………、」
「どうして答えない?君が僕らしくないと言ったのではないか」
ゆっくり、逃げるように後ずさる彼女の動きに合わせて動いていたら、気付けば壁まで追いやっていた。
薄暗かった部屋もあっという間に黒に包まれている。
それはもう、真っ黒に。
みょうじなまえは何も言わない。僕の問いになにも答える様子はない。その変わり小刻みに揺れる肩と手が声にならない答えを出しているのかもしれない。
僕は気付かぬふりをした。彼女の口から聞きたいのだ。
そうして一言も発しないまま、互いに見つめたまま、時間ばかりが過ぎる。
電子音もないこの部屋で聞こえるのは、互いの呼吸だけ。
ずっとこのままでも構わない。二人で時を刻めるのならば。
しかし僕は先に進むことにした。軽い深呼吸をして口を開く。
「……僕は、なまえくんが好きだ」
「……!」
「だから、君を僕のものにしたい。僕の側にいてほしいと切に願う。……否、願ってはいられない。僕はそれを今から実行する」
「私、は……」
「今、君が誰を好きでも構わない。たが僕は決断した。どう転んでも君は僕のものだ」
我ながら饒舌だ。思いの丈は伝えた。
最後に笑って見せたのだが、上手く笑えていただろうか。自然と口元が上がるのが自分でもわかった。
しかしはたから見れば、きっと嫌な笑みなのだろう。
みょうじなまえの眉が寄せられ、恐怖の張り付いた顔を見て、そう思う。
彼女を想う気持ちは抑え切れない。
理性を捨てたのはいつだろうか?
きっとみょうじなまえという存在を知ったとき、出会ったとき、会話をしたときーーその場面場面で少しずつ知らぬ間に捨てていたのだろうな、と思慮しながら怯える彼女を見た。
僕はゆっくり手を伸ばし、なまえくんの頬を撫でようとした。
「いやっ!」
パンッと乾いた音がした。頬にのばした手を跳ね退けられた。
驚く僕の一瞬の隙を狙ったのか、彼女は僕の手の中から逃げ出した。
タタタタッとフローリングを走る足音が響く。
勢い、僕は振り返ると出入り口のドアへ向かって走るみょうじなまえの後ろ姿。
離れていくその背中にどくん、と大きく心臓がなった。
行くな行くな行くな行くな行かないでくれ。側に側に側に僕の側にーー、息を飲んだその瞬間。
手に触れたのはーー僕の相棒だった。
――――ドスッ
「………何処に行くんだ?」
「……ぁ……っ、」
一歩一歩、確実に彼女に近付く。
大きな音にみょうじなまえは驚愕したのだろう。また声にならない声を出して床に座りこんでいる。
いや。正しくは、腰を抜かしたと言うべきか。
「……もう少しで、出れたのに、な……」
「……っ、」
「本当に、残念だ……」
座りこんだままの小さな背中が愛しい。後ろからそっと抱きしめる。
びくっと肩を揺らしたみょうじなまえに、再び感じる優越感。
「言っただろう?ここが家なのだから、何処にも行く必要がないと」
「……」
「大丈夫だ、僕を信じろ」
放心する彼女を横目に、ちらりと視線だけ上へ向けた。
視線の先には黒い木刀が床とほぼ水平にドアに刺さっている。
彼女を外へ行かせたくない気持ちが、そこには形として残っていた。
みょうじなまえが僕の意表をついてドアへ走っているとき触れたのは、常日頃から愛用している木刀。それを僕はドアへ向かって投げた。
あの時手に触れていなければ、彼女を引き止めることは出来なかったかもしれない。
やはりあの木刀は僕の相棒に相応しい。
「大丈夫だ、何も怖がることはない」
くくっ、と喉で笑った。
彼女の顔を覗き込めば、二筋の涙の跡。
片方を舌で拭う。みょうじなまえの涙だと思うと、それだけで僕の心は満たされていく。
しばらくずっと抱き締めたままでいたが、みょうじなまえは何も言わなくなってしまった。
彼女が言葉を紡ぐ前に、荒々しく唇を塞いでいたら。
彼女が身をよじり腕の中から抜け出そうとするとき、首筋に甘噛みをしたら。
彼女が僕の体に爪を立てようとしたとき、制服のシャツを破き二つの豊満な頂に吸い付いたらーー。
みょうじなまえは何も言わなくなってしまった。
否、言わなくさせたと言うべきだ。
僕の行動一つ一つに様子を伺うようなそぶりを見せるなまえくんは、やっとの思いで僕の腕を抜け出し、今や部屋の隅で肩を震わせながら膝を抱えている。
そうやって君の頭の中が僕で支配されるといい。
悲しみも、喜びも。全ての感情に僕という存在が寄り添えばいい。
「そう案ずるな、僕がずっと側にいる」
再びなまえくんに近寄り、優しく頭を撫でる。そうして顎に手を添え、上を向かせた。
先ほどまでの彼女とは違い、みょうじなまえの瞳には光が宿っていない。黒々としたそれは、ぼうっと僕を見つめている。
再びぞわぞわとした感情が込み上げてくる。
何だ、僕を煽っているのか?
額に唇を寄せ片手で頬を包み、親指でその柔らかな頬を撫でた。刹那、一筋の雫が流れる。
また黒い独占欲が溢れ出すのがわかった。
ーーもう、後には戻れない。
僕に見つけられた君がいけないんだ、みょうじなまえ。
……一生、離すものか。
END.