中編:交換日記と幽霊。
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そして昼休み。
例のごとくやってきた九能からなまえは交換ノートを受け取った。
初日はそのイレギュラーな存在に驚いていたクラスメイトたちも、毎日のこととなると九能がやってくることはもはや日常の一部となりすっかり馴染んでいる。
「お疲れ様。だけど順調そうね?」
なまえがパラパラとノートをめくりながら椅子に戻ると、一緒にお弁当を食べていたあかねが声をかけてきた。
「なんとかね……。今日私が書けば20ページまでいくよ!」
「は?まじかよ」
「そ、そんなに進んだの!?」
「月曜からやろ!?始まってまだ五日やない!?」
月曜から交換日記が始まり早、五日。
告げられたページ数は思った以上に進んでおり、同じく机を囲んでいた乱馬や右京も驚く。
乱馬はなまえに同情の視線を送りながら、交換日記の相手である九能を思い出しては一人ゾワゾワと肩を震わせていた。
そんな中、頭の中でページ数と日にちの計算をしていた右京は上手く合わないその数字に疑問を抱く。
「そもそも一日何ページ書いてるん?」
「九能先輩が3ページで、私が1ページって感じだよ」
「「「3ページ!?!?」」」
なまえの言葉に三人は口を揃えて驚いた。さっきから驚かされてばっかりだ。
そのページ数分の罫線上にはどんな言葉が書かれているのか――。
ついこの前どんなことが書かれているのか聞いたけどなまえは健全な感じだと話していたが……。
あれはほんの一部だけで、本当は目も当てられないような言葉がズラッと並んでいるに違いない。じゃないと3ページも書かない……。
と、三人はなまえの心労を思うといたたまれなかった。そしてノートの内容を深く考えるのは恐ろしい。
なにしろ相手は校内随一を誇る変態――九能なのだから。
「3ページも何書くんだよ……」
「九能先輩よっぽど嬉しかったのね……」
「にしても書きすぎやな……」
「ははは、」
口をひきつらせながら語る三人を見るなまえは苦笑するほかなかった。
「せやけど、進んでるんならええんちゃう?」
右京がそう声にした。
明らかに早いペース配分に驚いた乱馬たちだったが、確かにさくさく進んで幽霊〈なまえ〉が成仏するにはいいことかもしれない。
それはそうだ!と乱馬とあかねの顔がぱぁっと明るくなる。
そんなやり取りを見ていたであろう幽霊〈なまえ〉はどこからともなくにょきっと姿を現した。
{本来なら一日1ページずつ進んでほしいんですがね……}
「……え、」
{ゆっくり距離が近くなるというか、少しずつ相手を知る喜びを噛み締めると言いますか……、}
「え、」
{それが交換日記の醍醐味だと思うんです}
終わればいいってもんじゃない、まるでそう制するような物言いに四人は言葉が詰まる。
交換日記が始まったその日。幽霊〈なまえ〉は最後までノートが使われたのに、不完全燃焼で成仏出来なかったという話をしていたのだ。
神妙な面持ちでつらつらと語った幽霊〈なまえ〉の言葉に思わずなまえは声をあげた。
「え、ちょっと待って!?それじゃ、」
――このままだと交換日記が終わっても、あなたは成仏出来ないってこと……?
{……いえ、そこは大丈夫です。私が《そうあるべきだ》と思っていた固定観念にとらわれていただけですし。それに、}
「……それに?」
{九能さんが生き生きしながら書いてらっしゃるのを拝見してると、こういう使い方もありなのではと思ったんです}
「な、なるほど……」
納得しつつやっぱり幽霊〈なまえ〉の考えは九能先輩主体なのか……。と思うなまえたち四人。
そして幽霊〈なまえ〉はついさっきまでの真面目な顔からうって変わり、頬をほんのりと赤らめ、それと……と呟きもじもじしだす。
{九能さんが文字を書くたびになまえさんの名前もたくさん書かれていって……まるで私も彼に名前を書かれているみたいで嬉しくて、}
あはは、と照れたように笑う姿に幽霊〈なまえ〉に密かに話に注目していたクラスメイトたちの頬が緩む。
恋する乙女の顔はとてもかわいらしい。九能越しに彼の姿が重なるのだろうか。
「……本当にその彼のこと好きだったのね」
{えぇ、とても大好きでした}
あかねの一言に更に照れたように笑う〈なまえ〉の顔はとてもかわいらしかった。
そんな彼女の顔を見ていたなまえは心を決めて口を開く。
「……私、もうちょっと真面目に書くようにするよ」
{え!真面目じゃなかったんですか!?}
「あ、いや、その、そこまで乗ってはなかった、かな~。ははは」
視線を泳がせて笑うなまえに横で聞いていた乱馬は「あたりめーだろっ」と口にした。
「相手は九能先輩だぜ?真面目に交換日記なんかやってらんねーっての」
「……そうね。九能先輩は本気で書いてたとしても、もし交換日記をするってなったら当たり障りないことしか書かないわ……」
「まー普段の行いだけに、そら気持ちは乗らんわな」
「そう、そうなの。温度差がね……」
乱馬とあかねの言葉に右京となまえ、クラスメイトたちはうんうん。と頷くのだった。
そんなみなの様子に幽霊〈なまえ〉は少しガックリした表情を見せ、こう言うのだ。
{みなさんの九能さんに対する扱いが雑ではありませんか……?交換日記に対してのその気持ちはいただけませんね……このままじゃ私、}
成仏出来ないかも。
半ば脅し文句のようなそれに顔を引きつらせながらなまえは「がんばるよ……」と呟く。
早く〈なまえ〉を成仏させるためにも、このノートから解放されるためにも。
か細いながらも声に出して奮起するなまえであった。
交換日記。
17ページ。記入者《九能帯刀》
今日は久しぶりの雨だな。今朝は相合い傘が叶わず実に無念だった。
僕となまえくんが共にひとつの傘で肩を並べると、とても絵になる相合い傘になるだろう。きっと誰もが羨望の眼差しで僕たちを見るに違いないな。
そして僕はなまえくんの肩が濡れぬようそっと君を抱き寄せ、二人は密接し、折を見て傘の影に隠れて愛の口付けを交わすのだ……!
雨の日にしか出来ないなんという希少なロマンス!雨よ降れ!もっと降れ!
僕は雨が降る度になまえくんとこうしたいと切に願っている。
して、話は変わるがこの学校には伝説の相愛ガサというものが存在するらしい。本当にあるのだろうか?
もしなまえくんとその傘で相愛ガサをしたならば、きっと、いや、確実に世界一幸せなカップルになるだろう。
傘などなくとも僕はなまえくんと幸せになる自信はあるがな!はっはっはっ!
♡
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 ̄ ̄| ̄ ̄
九|
能|
帯|
刀|
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|
なまえくんの名前は自分で書いて欲しい。
「ひっ……!」
なまえは目を疑った。
手書きの相合い傘が描いてある上に、名前は自分で書けというまるで拷問のような文面があるのだ。
思わず声をあげたなまえに幽霊〈なまえ〉が横でにっこりと笑いながら釘をさす。
{名前、書きますよね?}
「さ、最近そればっかり……!」
{私のためにも書いてください!}
「……さ、さすがにそれは無理!」
お昼に頑張るって言ったのを前言撤回したい……!
月曜日、交換日記するなんて言わなきゃ良かった……。そう後悔しても遅いのはわかってる。
わかってるけど……!
「〈なまえ〉さんの気持ちはわかるけど、それとこれはまた別だよ……」
{そ、そうですよね……私も調子に乗ってしまって……すみません}
交換日記をしているのはなまえさんであって私ではないんだから……。
幽霊〈なまえ〉は《成仏したい》という思いが強すぎて、無意識に自分の気持ちを押し付けていたことに気付き顔をしかめた。
そんな彼女の姿になまえは何だか申し訳ない気持ちになる。
何度も成仏出来なかった幽霊〈なまえ〉の気持ちを思うと、事を急いてしまうのはしょうがないのかもしれない。
「じゃあさ、保留にするのはだめ?」
{え?}
今すぐは私の気持ち的に書けない。遊び半分で先輩が書いていたとしても――。
たかが落書きひとつの相合い傘だけど、これは譲れないよ。
なまえはそう言って幽霊〈なまえ〉を見た。
「真面目にするって決めたから。もし書こうと思えるときが来たら書く。……それでどうかな?」
{なまえさん……}
……わかりました。
そう言って頷いた〈なまえ〉の顔は笑みを浮かべている。
気持ちを汲んでくれた上での返事になまえはありがとう。と微笑み返した。
翌日。
「相合い傘に名前がない……!」
なまえからノートを受け取った九能は、自身が書いた落書きの傘に名前が無いことに愕然とし、あからさまに落胆していた。
……が。
「これは……!」
――今は相合い傘に名前を書くことは出来ません。書けるときが来たら書きます。
「……みょうじなまえめ……、憎い演出をしてくれる……!この九能帯刀、ますますなまえくんが気に入った!!」
なまえからの返事に気付き、先程まで落胆していた姿が嘘だったかのように「なんといじらしいヤツだ!」と、またポジティブに考えていた。
ちなみに幽霊〈なまえ〉と九能を納得させるために並べ立てた言葉なのでなまえ自身は名前など書くつもりはない。
しかし、それは現時点での話であって今後どう変わるかは誰も予測できないのである。
To be continued...
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九能ちゃんなら一度は相合い傘を書くと思います。笑
ところで相合い傘、ちゃんと表示されてますでしょうかー!?