中編:交換日記と幽霊。
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今日は朝方から雨が降り続けている。
色とりどりの傘が通学路を埋め、生徒たちは学校へと向かっていた。
なまえもお気に入りの傘で登校している。
そして風林館高校の校門を過ぎたところでこちらに向かって黒い傘が走ってくるのが見えた。傘を片手に走っているのは九能だ。
朝のお馴染みの光景となったノートの交換は雨の日も外でするらしい。
ノートが濡れるかもしれないから下駄箱で待ってればいいのに、なまえやほかの生徒がそう思う中、九能は溌剌とした声を出した。
「おはようなまえくん!生憎の雨だが傘越しに僕を見上げるなまえくんもすこぶる愛くるしいぞ!」
「は、はぁ……」
どんな状況であれ九能は言葉を並べ立てる。彼にとってマイナスな状況とはないものか。
なまえが苦笑いをしていると九能はまた突拍子もないことを言うのだ。
「さぁその傘を閉じて僕の大きな傘に入りたまえ。校舎まで相合い傘をしようではないか!」
傘を少し上に持ち上げまるでおいでと言わんばかりに片腕をなまえの方へ差し出す九能。
その様子にひっと恐怖を感じたなまえは顔をひきつらせた。
「しませんからっ!!」
「ん?いやよいやよも好きの内だな!?」
「どうしてそうなるんですか!絶対しません!」
「なぜだ?交換日記は良くて相合い傘がダメな理由は何だ?」
「そ、それは……、」
相変わらずの九能の口ぶりに乗せられていくなまえだったが、思わぬ返しに言葉が詰まる。
返事をじっと待つ九能はその黒い双眸でなまえを捉えて離さない。
それも束の間、その真っ直ぐな力のある瞳がひとつ瞬きをすると九能の口角はニヤリとあがった。
「そうか、わかったぞ!僕と相合い傘をするのが照れるのだな!?」
「違います!!」
「はっはっはっ。何、隠すことはない。僕となまえくんがそういう仲だと全校生徒に見せ付ける絶好のチャンスじゃないか!」
「そうじゃなくて!!」
「照れ屋なのだな、なまえくんは」
拒否しているというのに、どこまでもポジティブな九能は自分の都合のいいように解釈してばかりだ。
これは何を言ってもダメだ。すぐ九能先輩のペースに載せられる。
なまえはわざとらしくため息を吐き、鞄から交換日記を取り出した。
「それより!ノートです!!」
「おお!楽しみにしていたぞ!」
「ってノートに頬擦りしないでください!」
すりすりすり。
そんな効果音が聞こえそうなほど、顔をポッと赤らめた九能はデレデレとしながらノートに頬を寄せる。
まるで溺愛しているペットに頬擦りする飼い主のようだ。
なまえの声に、む。と反応した九能は傘を肩にかけ、ノートの表紙をめくる。
「では、早速……」
「ここで読まないでください!」
「そう言われると余計読みたくなるなぁ」
「あーもう!」
ザーーと雨が降る中でもしっかり聞こえる九能の声となまえの苦笑まじりの苛立ちの声に、二人を避けて通る他の生徒たちは哀れみの視線を送るのみだった。