中編:交換日記と幽霊。
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「え?もう交換日記返ってきたの?」
「まだ昼だぞ……、」
戻ってきたなまえの手元に今朝見たばかりのノートがあることに気付いたあかねは、口をひきつらせながらそう声にした。
その声に近くで右京の弁当をつついていた乱馬が反応し、同じくノートを確認すると口にせざるを得なかった。
「ねー、……だけど早く終わるのを考えたらいいのかな?」
{ちゃんと内容もしっかり書いてくださいよー!?}
ははは、と乾いた笑いを見せるなまえの背後から小言を言いながら、にゅっと幽霊〈なまえ〉が姿を表した。
今まで全く気配のなかった〈なまえ〉の突然の登場になまえをはじめとした皆が驚く。
「アンタどっから出てきたん!?」
「そういえば見ないなって思ってたけど、どこにいたの?」
{ノートが私の本体でもあるのでノートの側にいつもいますよ!姿は消すことも出来ますので、ちょっと……その、隠れてました}
右京やあかねの問い掛けに〈なまえ〉はほんのり顔を赤くし、もじもじしつつ髪を耳にかけながら答えた。
「なんや~?顔赤くなってんで」
{そっそんなことは……!}
「大丈夫?」
{大丈夫です!}
続いた会話にわたわたと両手を胸の前で振り、少し上擦った声で話す〈なまえ〉に右京の勘がピンッと働く。
「……はっはーん、わかったで。あの先輩と好きやった人が重なるんやな?」
{……っ、}
「当たりらしいな」
右京の言葉に更に顔を赤くした〈なまえ〉の後ろにぎくりという効果音を付けたいくらいに〈なまえ〉はわかりやすく動揺した。
そして観念したように話し出すのだが、恥ずかしさ故に照れた様子は恋する乙女そのものだった。
{そ、その……お姿を拝見できるだけで嬉しいので影ながらお慕いしてます……、}
「かわえーなぁ!」
「そんなに似てるの?」
{えぇ、凛々しい目元が特に……、}
「へぇー!」
恋愛話ともなると、女の子たち話し出すと止まらない。
顔を赤らめる〈なまえ〉に茶々を入れながらもきゃいきゃい話す女の子たちに置いてけぼりをくらう乱馬は、ぶすっとした顔をして少し面白くなさそうに話に割ってはいった。
「ちなみによー、九能先輩どんなこと書いてんだ?」
「それはー……、」
――このノートは僕と君の秘密のノートだ。早乙女などには他言無用だぞ!僕との約束だ。
口を開こうとして九能との約束を思い出したなまえは言葉を飲み込んだ。
いくら交換日記が幽霊〈なまえ〉の成仏のためとは言えど、プライベートな内容は話していいのだろうか?
などと考えていると、〈なまえ〉が覆い被さるように声を発した。
{それは九能さんとなまえさんとの秘密なので、乱馬さんには教えられませーん!}
「なっ!ちょっとぐれーいーだろ!」
{女の子のあかねさんや右京さんならまぁ考えますが、乱馬さんはダメでーす!}
「ほーぉ?」
九能の日記云々より自分だけ話に置いていかれたのが気にくわないだけの乱馬だったのだが、〈なまえ〉の度重なる発言に乱馬は更に顔をむっとさせた。
そして《女の子》というキーワードにピクリと反応し、口車に乗せられた乱馬は自身にばしゃりと水をかけるのだ。
「これでどうだ?」
女になったらんまはこれでどうだと言わんばかりにふんぞり返って自身をアピールした。
目の前で起きたことに幽霊〈なまえ〉は驚愕し、辺りを見渡す。
{え!?ら、乱馬さんはどこに……?}
「何やってんのあんたって人は……。乱馬は特異体質で水を被ると女の子になっちゃうのよ」
呆れながら説明をしたあかねに幽霊〈なまえ〉はジロジロとらんまの体を観察し、更にあかねが続けた
「お湯をかけると元の男の体に戻るのよ」という説明に、
{す、すごい……!}とまた驚くのであった。
そんな〈なまえ〉の様子に少し満足げならんまは得意顔でこう言うのだ。
「へっ、これなら文句ねーだろー?」
{うーん……、}
確かに女の子だし……、としぶしぶ納得した〈なまえ〉の言葉に
「よっしゃぁっ!」とオーバーリアクションなガッツポーズをしてらんまは喜ぶ。
どこまでも負けず嫌いな男――否、女――ならんまである。
反れてしまった話を、あかねがそれで?と切り出す。
「どんなこと書いてあるの?」
「んー、交換日記出来るのが嬉しい、楽しみにしてるって感じかな?」
細かな内容は伏せ、ざっくばらんとした日記の中身をなまえは話した。
これくらいならいいかな?と話の上の方だけをさらう。
詳しい内容は九能の名誉のためにも話さないでおこう。そうなまえは思った。
「思ったより普通やな」
「ほんとね」
「なまえ隠さなくていいんだぜ。もっとやばい感じなんだろ?」
「隠してないよ。本当にそんな感じだから」
いや、やっぱりいつもの変態っぷりは交換日記でも変わらないよ!?となまえは一人思うのだが、それを話すと長くなる上に内容を口にするのも恥ずかしい。そして約束も破ることになるので、それは内に秘めたまま。
そんななまえの複雑な気持ちを知る由もなく、あかねたちは意外だと口を揃えて話し出す。
「なんか変な愛の言葉とか綴られてそう……」
「あー、俺はぜってぇ御免なやつだな。考えるだけで悪寒がやべぇ」
「あの先輩なら妄想とかも書いてそうやなぁ」
{皆さん九能さんへのイメージがひどくないですか……}
幽霊〈なまえ〉の一言にあははは、と苦笑いしつつも、だって……ねぇ?と顔を見合わせる三人になまえも苦笑いするほかなかった。
そしてらんまは思い出したようにポンッと手を叩くとなまえを見る。
「そーいや、交際しろー!とか、デートするぞー!みたいなこと書いてあるかと思ったけど、大丈夫か?」
「あー……そういえば今のところそういうのないね。至って健全な交換日記って感じだから、大丈夫だよ」
「そっか、ならちったぁしばらくは安心だな」
らんまの横であかねが「変なところは真面目だもんねー、九能先輩」と言うと、
らんまが「変なところは、なぁ」とポリポリと頬をかきながら遠い目をする。
交際云々は、男の子ならではの発想だろうか?
なまえは気に留めていなかったことだけに、さりげないらんまの気遣いが少し嬉しかった。
「せやかて何やえらいことなりそうやったらすぐに言うんやで?」
「そうそう!いつでも協力するから!」
「うん、何かあったらよろしくね」
そしてらんまに続いて右京とあかねがなまえに声をかける。親指をぐっと立てこちらを見る様はとても頼もしい。
九能との交換日記は一対一だが、なまえには頼りになる友達がたくさんいる。もしものときも、そうでないときもこうして支えてくれる友人の存在は彼女の力になるのだ。
「ぶっ飛ばしたいときはいつでもぶっ飛ばしてやっからな!」
「あはは、ありがとう。まぁぼちぼち頑張るよ」
拳を突きだし更にエアーアッパーをやって見せながらのらんまの一言に、なまえは思わずぶはっと吹き出した。
ついさっきまでノートを見て顔をひきつらせていたなまえだったが、友人たちとの会話で元気をもらい、頑張ろう!と意気込むのだった。
なまえは自宅に帰って恐る恐る交換日記を開いた。
パラパラパラ。……ぱたん。
……また3ページも書いてある……っ!
机に項垂れるなまえだったが、少しでもページが進んでいる!とポジティブに考え、意を決してノートを再び開く。
交換日記。
5ページ。記入者《九能帯刀》
今朝はノートをありがとう。
僕は今猛烈に感動している!こうしてなまえくんと交換日記を無事にスタート出来たことが大変嬉しい。
そしてこの喜ばしい気持ちはいったいどう表現すればいいのか……なまえくんに伝えたいことが多すぎてまとまらない。
だがな、実はなまえくんが本当に交換日記をしてくれるとは思っていなかったのだ。
僕はいつも本気だったのだが、君には冗談に聞こえていたのだろう?
だから今回も半ばダメ元でなまえくんを誘ったのだ。しかし快く返事をもらえて僕は驚いた。
今朝君からのノートが帰ってくるまでは夢を見ているのではないかと思ったぞ。
だがしかし昨夜僕の手元にこのノートはなく、君がノートを受け取ってくれたのは事実であり、なまえくんからどんな返事が返ってくるのか考えていたら昨晩はあまり眠れなかった。
だがな!君からノートを渡されて、今朝はもやもやとしていた眠気が吹き飛んだぞ。
きっとこれも愛の力!君からのラブパワーをしっかと受け止め、本日も勉学に励みたいと思う。
して、僕は気付いたのだがなまえくんの字を見たのは初めてだな。なんと愛らしい字なのだろうか。
字からもなまえくんのかわいさを痛感するとは!やはり交換日記を君としたいと決意して本当に良かった!最高だ!
しかしながらこんな可憐な字で“九能先輩“と書かれるとなんだかこそばゆい気持ちになる。いやしかしたまらんぞ。
先立ってひとつ願い出たいことがあるのだが、次のページには僕の名前のあとにハートを書いて欲しいものだ。よろしく頼む。
九能先輩♡だぞ!
いや、♡九能先輩♡でも構わん!!
……………………………、…………………。
……………、……………………。
…………………。
長い。長すぎる。まだ続いてる……。
絶対、先輩授業そっちのけで書いたでしょ。
そう心の中で悪態をつきたくもなるなまえは、先程目に飛び込んできたハートマークに頭を悩ませていた。
「うーん」
{ちゃんとハート書かなきゃだめですよ!}
「えぇー……」
{だって、リクエストされてるんですから!ちゃんと対応しないと!}
そんななまえの気持ちを察知したのか、幽霊〈なまえ〉がまたにゅっと現れた。
そして交換日記の一文を指差し、はきはきと声にする。是が非でも書かせようとするその口ぶりになまえはあからさまなため息を吐くと口を開く。
「なんでそこまで要求のまなきゃいけないのよー……」
{それはっ、私と九能さんのためです!}
言い切った〈なまえ〉の言葉には間違いはない。なまえはうっと言葉を詰まらせた。
〈なまえ〉が成仏するためには、九能との交換日記を最後まで続けなければならないのだ。
もしここで投げ出してしまうと〈なまえ〉は再び成仏出来ずに文房具店へ戻ってしまう。
――投げ出してしまいたい気持ちは募っているけど、すると決めたのは自分だ。……でも、書きたくないものは書きたくない!!!
「そ、そりゃそうだけど……」
{続けるには九能さんのご協力も必要ですし……}
「いやいや、こんなことしたら絶対付け上がるって!」
{そこを、どうか!}
「ハードル高い!」
{ハート一つですよ!?}
「そのハート一つで意味が変わっちゃうのが九能先輩なのよ!!」
自身の両手を顔の前で拝むようにし必死に頼み込む〈なまえ〉と、ブンブンと両手を振って断固として断るなまえ。
譲らないなまえに幽霊〈なまえ〉はわざとらしくふっ……と視線を反らすと、悲しげな目でこう言い放つ。
{……なまえさんひどいです……。これじゃ交換日記終わっても成仏出来ない……}
そして両手で顔を覆うとわーんっと泣いて見せるのだ。
わざとらしいその態度になまえはあからさまなため息を吐いた。
もうこうなりゃ乗り掛かった舟!やけくそだ!
「ああああもう!はいはいわかった!書きますよ!!」
{やったー!その意気ですなまえさん!}
なまえの声にコロッと態度を変えた幽霊〈なまえ〉ははしゃいで見せる。その目元は全く濡れておらず、ウソ泣きであったのは明らかだ。
そんな〈なまえ〉に心で悪態を付きながらも、律儀に“九能先輩♡“と書きはじめるなまえなのであった。
To be continued...