中編:交換日記と幽霊。
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九能と交換日記をすると決めてから翌日。その噂と幽霊の存在は既に全校生徒に知られていた。人の噂とは早いものである。
なまえと共に登校する乱馬とあかね、そして幽霊〈なまえ〉の姿を見た風林館高校の生徒たちは、好奇な視線で四人を見ていた。
そんななまえたちに駆け寄る人物が一人。この噂のきっかけをつくった九能帯刀だ。幽霊〈なまえ〉は九能の姿を確認すると咄嗟に姿を消した。
「なまえくん!おはよう!今日もいい朝だ、さぁ朝のハグを……」
口早にそう言いながらなまえに抱き付こうと両腕をばっと広げた九能の手はなまえに届くことなく、
「「やめんかい!」」
――乱馬とあかねのダブルキックによって遮られた。
ぐしゃっと倒れる九能だったがむくりと起き上がり、あかねに詰め寄る。
「天道あかね、そんなに僕からのハグを楽しみにしていたのだな?ではまずはお前から……」
「ちがーう!」
めきょっ。
今度は顔面にあかねの拳を受ける九能だった。
相変わらずの九能の様子に苦笑しながらなまえは鞄から一冊のノートを取り出す。退散していただくには効果てきめんのノートだ。
「九能先輩、はい、交換日記です」
「む、書いてくれたのか!?みょうじなまえ!!!」
ノートを両手で受け取ると自身の前に持ってきた九能は、ぶるぶると肩を震わせた。
そして恐る恐るパラパラとページをめくりなまえの文字を確認すると、バシッとノートを閉じてぎゅっと抱き締め、更に手のひらで目元を押さえ天を仰いだ。
「こ、これは、夢か……?」
「現実ですけど」
「ぼ、僕からしようと言ったものの……本当にしてくれるとは……!くっ……!ありがたく頂戴するぞおおおなまえくんんんっっ!!」
そう言って九能は大粒の涙をボロボロと流しながらノートを持たない手でガッツポーズをすると、その喜びをじ~んと噛み締めていた。
大袈裟な……そう思いながら苦笑いするなまえの気持ちを九能知ることもなく、ただひたすらに感動に浸っている。
「止まったな?教室、行くか」
「そうね」
「では九能先輩、失礼します」
嬉しさでその場に花を散らして自分の世界に入ってしまった九能に、今がチャンスと乱馬とあかね、なまえは教室へ向かうことにした。
周りで登校している他の生徒たちも九能を横目に……否、関わり合わないように視線を反らしながらゾロゾロと校舎へ向かうのだった。
そして時は変わり、昼休み。
ガヤガヤと賑わう教室で、乱馬は伸びをして首をゴキゴキ鳴らすと口を開いた。
「あー、腹へったなー!」
「アンタ早弁してたでしょ!?」
隣の席のあかねは信じらんないと続けてそう言った。
乱馬はよく3時間目に早弁をする。今日も今日とて英語の授業中にしていたのだ。
昼休みまで我慢しなさいよ、などと言ってもやめようとしない乱馬は、食欲旺盛で成長期だから仕方ないと言う。
「それに、いくら食ってもかすみさんの飯は美味いからな~どっかの誰かさんと違って」
「どっかの誰かさんって誰よ!?」
「さーな、そこで鼻息荒くしてる寸胴女ってとこか」
「乱馬ぁぁあ!!」
お馴染みの光景にクラスメイトたちは気にもせず、今日も通常運転だななんて呑気な会話をしながら昼食を取っている。
そんな二人に声を掛けたのは右京となまえだった。
「乱ちゃん!うち乱ちゃんの分のお弁当も持ってきてん!一緒に食べへん?」
「まーまー、あかね、一緒にご飯食べよ?」
「食べる食べるー!」
「あっこら乱馬!も~……ご飯にしよっ、なまえ!」
右京の声にコロッと態度を変えた乱馬は、まるで尻尾をパタパタ振る犬のようだ。そして乱馬は右京の元へ跳んでいく。
そんな乱馬の態度にぶつくさ文句を言うあかねだったが、気分を変えようとなまえの誘いに乗り弁当を鞄から出した。
そんな賑やかな教室に、突如凛とした声が響く。
「みょうじなまえはいるか!」
1年F組の教室に響いたその声の主は九能だった。
滅多に来ることのないその存在は一瞬にしてクラス中の注目を集める。
しかしそんなことを九能は気にも留めていない。
名前を呼ばれたなまえは怪訝な顔をしながら九能が立っている扉まで向かう。
なまえの存在を確認した九能はポッと顔を赤らめた。
「何ですか?」
「お、おぉ……みょうじなまえ。こ、こうして教室で逢引きするのも学生らしくていいものだな……」
先程までの威勢のよさを感じられないほど少し照れたようすで話す九能に、呆れながらなまえは口を開く。
「……わざわざそんなこと言いに来たんですか?」
「ああ、いや、君にこれを」
そう言って九能がスッと差し出したのは一冊のノート。昨日から校内で持ちきりの話題、あの交換日記だ。
だがそのノートを見たなまえは目を丸くした。昨晩練りに練って文章を考えて書き出したというのに。今朝渡したばかりなのに。
何故こんなにも早く返ってくるんだ……?と。
目の前のノートになまえは顔がひきつるのを感じた。
「……もう書いたんですか?」
「あぁ、君へのこの熱い想いを書き出していたら、明日に持ち越すのはどうにも出来なくてな」
ふっ……っと歯をキラリと輝かせてうっとりしながら笑う九能。
彼は本気で交換日記を楽しんでいる。
なまえはそう確信するとともに、今晩はノートから解放されると思っていただけに、多少げんなりとしながらノートを受け取るのだった。