中編:交換日記と幽霊。
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昼休みになり、なまえは例の交換日記を片手に、もう片方にお弁当を持ってあかねの席へやってきた。
机を動かし向き合うように座る。朝のメンバー乱馬、あかね、なまえに加え、席が近い久遠寺右京も話に加わることになった。
ちなみに教室内で話されている内容だけに、話はクラスメイトたちには筒抜けである。
「じゃあつまり、〈なまえ〉さんが交換日記に取り憑いてしまった話はこういうことね?」
一通り話を終えたところで、あかねが話を箇条書きにメモをしていた内容を読み上げる。
・名前は〈なまえ〉さん。16才。
・〈なまえ〉さんは好きな男の子と交換日記をしようと、交換日記を買ったその日に事故で亡くなってしまった。
・その無念な思いが交換日記を買った文房具店のノートに乗り移り、幽霊として存在するようになった。
・成仏するには交換日記を最後までしなきゃいけない。
・何度かノートは購入されたけど、〈なまえ〉さんが取り憑いてることに驚いてノートが捨てられたり、交換日記が始まっても最後まで続かなかったり、結局成仏出来ないまま今に至る。
・ノートは使用されなくなると文字が消えて新しくなり、自然と店頭に出る。
・今回ノートを買った九能先輩には一目惚れしてしまった。好きな人に似てたから。
・だから今回は何としても成仏したい。
「……で、いいかしら」
{あってます!あと加えるなら、相手の男性が好みじゃなかったりー、女の子同士の交換ノートに使われたりー、一応最後までいった試しはありはするんですけど、なぁんか不完全燃焼って感じで成仏出来なくて~~!}
あかねの説明に更に続けた幽霊〈なまえ〉は最後までいったことはあると言ったものの、結果としてダメだった話をあっけらかんと話した。
話を聞いていた右京が少し呆れ混じりに呟く。
「選り好みせんかったらえーんやない?そしたらはよ成仏出来るんちゃうん?」
{えー、だって、どうせなら満足して成仏したいじゃないですかー!}
「そんなもんなん……?」
〈なまえ〉の反応に更に呆れる右京だったが、「それよりも!」と乱馬がダンッと机を叩く。
「九能先輩に惚れたってなんだぁ~!?おめーの目は節穴か!?」
{えぇー!?九能さん格好いいじゃないですか!かなりのイケメンですよ!あ、でも乱馬さんもイケメンですよね!もし九能さんがだめだったら交換日記しません?}
「誰がするか!」
「もしかしてこいつ、かなりの面食いちゃうか」
「私もそう思う……」
「だけど相手がよりによって九能先輩……」
ウキウキした様子で話す〈なまえ〉に、乱馬は声を張り上げた。何がなんでもごめんだ!
そして二人のやり取りを聞いていた右京となまえとあかねは、ため息を吐くほかなかった。
{でも今回は成仏出来ると思うんですよね!九能さんが交換日記をしたいお相手の名前、なまえさんじゃないですか!私と同じ名前!もーこれ運命だと思って}
両手を絡ませてうっとりしながらもじもじ話す〈なまえ〉に、冷静さを取り戻した乱馬がコホンと咳払いをした。
「じゃあおめーは、交換日記を最後まで続けられれば成仏出来るんだな?」
{えぇそうですね!}
にこっと〈なまえ〉は笑った。
話を聞いていたクラスメイトたちからも、〈なまえ〉の肯定の発言に「おおお!」と歓声があがる。
しかし交換日記をしなければならない当の本人――なまえは、盛り上がるギャラリーとは裏腹にまるで魂が抜けたような気力のない声でポツリと呟くのだ。
「最後まで……、」
なまえの声に反応したクラスメイトたちの声が一瞬にしてピタッと止まり、教室が静まり返る。
幽霊〈なまえ〉が成仏するためには交換日記を最後までしなければならない。
その大役をかっているのはなまえと九能だ。
しかし九能はこの事実を知らない。
いやそれよりも幽霊が関わっていようがいまいが、校内一の変態とも言われる九能と交換日記をさせられるなまえの負担はかなり大きい。
皆が思っている以上に、とてつもなく、半端なく、やばいくらいに、あり得ないほどデカい負担だ。
そのことを忘れていたクラスメイトたちはなまえの発言にハッとし、皆がみななまえに同情し、クラスは静かになったのだ。
《――なまえ、頑張れ……っ!》
と。
「ええとちなみにこれ、何ページあるん?」
重い空気を変えようと右京が〈なまえ〉に尋ねた。ある程度の目処があるのとないのでは気持ちが違うのでは、と彼女なりの配慮だ。
そんな右京の問いに返された幽霊〈なまえ〉の言葉は驚くものだった。
{なんと100ページです!}
「「「「「100ページ!!!??」」」」」
右京や乱馬を始めとした、クラス全員がページ数の多さに驚く。
驚きのあまり皆の声が重なった。
{本当は60ページのノートだったんですけど、九能さんとのやり取りを堪能したいので追加しちゃいました!一日1ページだとしても三ヶ月ちょっとは楽しめますよー!}
完全に乙女の顔をした幽霊〈なまえ〉に、またしてもクラスの全員が同じことを思った。
《余計なことをーーー!!!》と。
「三ヶ月……、」
「す、過ぎたらあっという間よ!」
「せやでなまえちゃん。それにびっしり書かなあかん訳やないし、ゆるめでいこ!な!?」
「お、俺たちも力になるからよ!」
魂の抜けたなまえが石と化しそうになるのをあかねや右京、乱馬が声を掛ける。
しかし自分ですると決めたのだ。なまえは首をぶんぶんと横に振ると気合いを入れて拳を握ると立ち上がった。
「……だけど、するって決めたのは私だから〈なまえ〉さんのためにも、頑張って交換日記をするよ!!」
「「「「おおおおおお!!!」」」」
なまえの意を決した言葉にクラス全員が声を上げた。
拍手をしながら口々に「頑張れー!」「ファイトー!」「応援してるぞー!」と、たくさんの激励のシャワーをなまえに浴びせかける。
周りの声に元気をもらったなまえは、こうして九能との奇妙な交換日記を始めることになった。
交換日記。
1ページ。記入者《九能帯刀》
僕、九能帯刀と、みょうじなまえの神聖なる交換日記が始まることをここに記念する。
僕は今日、文房具店でこのノートを見付けた。
交換日記、それは男女交際における互いを知るための必要ツールであり、大きな一歩。
僕はその大きな一歩をみょうじなまえ、天道あかね、おさげの女……、誰と踏み出そうか悩んだ。
器用な僕だから三人全員と日記をして皆平等に愛を育もうと思ったが、それでは君たち三人がヤキモチを焼いてしまうのではないかと思って、一人に決めたのだ。
そう、みょうじなまえ、君だ。
このノートを手に取ったら一番先に君の顔が浮かんだよ、なまえくん。きっとこれは君と僕の仲を深めよという天からのお告げに違いない!
そうして僕は君と交換日記をすることを決意した。
君が今これを読んでいるということは、無事に受け取ってくれたようだな。なんと感慨深い。
そしてこのノートは僕と君の秘密のノートだ。早乙女などには他言無用だぞ!僕との約束だ。
前置きが長くなったが、これから僕と君のノートを始めるにあたり、僕から少し自己紹介を書いておこう。
九能帯刀、17歳。
風林館高校2年E組。剣道部主将。
…………、………………。
……………………。
…………。
帰宅してなまえは先輩から受け取った交換日記を開いた。
長い、長すぎる。
余すことなく使われたノートには、整った綺麗な文字がびっしりと並んでいた。
そして情報量がとてつもないくらい多い!
なんと九能先輩は初っ端から3ページも使って、自己紹介やらなんやらかんやら、いろんなことを書いてくれていた。
これは思ったより早く終わるかも……?
そう思いなまえは少しでも早く終わるようにと、交換日記の真新しいページにペンを走らせるのだった――
――が。
どうあがいても1ページしか書くことが出来ず、交換日記はいつ終わるのか。はたまた無事に幽霊〈なまえ〉は成仏出来るのか。
……と、先が思いやられるなまえであった。
To be continued...
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ドタバタ劇の始まりです!
ヒロインと差別化をはかるため、幽霊ちゃんには〈名前〉とかっこをつけています。ちなみに彼女の言葉は全て{ }このかっこです。