中編:交換日記と幽霊。
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「みょうじなまえー!」
爽やかな朝。
校門を通過して校舎へ向かっているとけたたましい叫び声と、こちらへしゅたしゅたと走ってくる叫び声の主である――九能先輩が見えた。
「待っていたぞみょうじなまえ!」
「おはようございます、九能先輩」
「おはよう、みょうじなまえ!今日はとても気持ちがいい朝だ!」
「そうですね」
鼻息荒く話し掛けてくる九能先輩は平常運行だ。
朝から鬱陶しいなんて思っちゃいないけど、いやちょっとは思ってるけれど、本当に元気だなこの人は。
そして九能先輩はキラキラと目を輝かせながら口を開く。
「こんないい朝にとても素敵な贈り物を君にしよう!」
そう言って目の前に差し出されたのは、一冊のノート。
表紙には九能帯刀の名前と、ご丁寧にみょうじなまえと私の名前まで書いてある。え?何勝手なことしてるんですか?
そう思うよりも先に、そのノートのタイトルに目を奪われた。その書かれている文字とは――。
「……交換日記?」
「そうだ!僕と君の愛のメモリーをこの交換日記に刻もうではないか!」
はっはっはっ!
そう高らかに九能先輩は笑った。いや、笑い事じゃないんですが。
私はノートから九能先輩へ視線を上げると、高飛車に笑う先輩の背後に目を疑った。
「おい、なまえ絡まれてるぞ」
「九能先輩も懲りないわねぇ……」
なまえが九能の後ろに気をとられている時を同じくして、クラスメイトの早乙女乱馬と天道あかねが登校していた。
校庭で繰り広げられている出来事を目の当たりにした彼らはその中心人物の姿を見てため息を吐いた。
その人物とは、自称・風林館高校の青い雷で知られる九能帯刀だ。
雷のように突然突拍子もないことを持ってくる正にトラブルメーカーな彼なのだが、そのトラブルに乱馬とあかねはよく巻き込まれているので、目の前の光景にそして巻き込まれている友人に、同情せざるを得なかった。
そしてトラブルを解消しようと自ら二人は元凶に飛び込む。
「なまえが困ってんだろ!やめろよ!」
「九能先輩、無理矢理はいけませんよ!」
「む、早乙女。僕となまえくんが交換日記をすることにヤキモチをやいているのか?」
「こ、交換日記だぁ~!?」
元凶である九能に激を飛ばすも九能独特の返しに、ぞわぞわっと悪寒が走る乱馬は口をひきつらせながらまた叫ぶ。
しかしそんな乱馬には目もくれず、九能はあかねの目の前にずいっと歩み寄ると真面目な顔をしてこう言うのだ。
「時に天道あかね、この日記にはなまえくんの名前を書いたため、お前とは交換日記をすることが出来ない……っ!楽しみにしていただろうが、次の機会にはぜひ僕としようじゃないか……!」
「だぁれがそんなこと言っとるかぁ!」
「あかねともなまえとも勝手に交換日記とかすんなって言ってんだろーが!」
見当違いな九能の言葉にあかねも乱馬も手を焼く。彼はああ言えばこう言うなどと言われる天の邪鬼とはまた違った変わり者なのだ。
そんな三人のやり取りに終止符を打ったのはなまえの一言だった。
「いいですよ」
「「え?」」
「む?」
「九能先輩と、交換日記、します」
「「ええええええ!!?!!?」」
なまえのまさかの発言に乱馬とあかねの驚きの声が重なる。
九能から受け取った交換日記をパラパラとめくり終え、なまえは胸の前でノートを両手で抱き抱えるようにして持った。
そのなまえの姿にどこから出したのか“天晴“と書かれた扇子を出してふんぞり返る九能は、なぁーっはっはっはっ!と高らかに笑う。
九能はニヤリと口角を上げ、優越感に浸りながら見下す目で乱馬を見た。
「聞いたか、早乙女よ!みょうじなまえは僕との交換日記に賛成のようだぞ!」
「お、お前いいのか!?」
「本当にいいのね?なまえ……」
「うん」
「ではなまえくん。最初のページは僕が書いておいた。返事を楽しみにしてるぞ!」
アデュー!
九能は去りながらなまえに向かってウィンクをした。その弾みで星が飛ぶ。
乱馬は腹立たしいその星を素手で地面にバシッと叩き付け、なまえに向き合う。
「お前!なんでそんな面倒なこと引き受けるんだよ!」
「だって、」
荒々しく話す乱馬になまえは歯切れの悪い言葉を口にする。
だって、だってなんだよ!
そう乱馬が言おうとしたとき、あかねが乱馬の背後を指差しながら「ら、乱馬、後ろ……、」と呟いた。
「あぁ?」
後ろがなんだってーんだよ!
そう思いながら乱馬が後ろを振り返ると、セーラー服を見に纏った女の子がこちらを見ていた。
普通の人間には考えられない、宙に浮いた状態でこちらを見ていたのだ。
「わぁああぁあぁあ!!?」
ゆ、幽霊!?
乱馬は驚きで声を上げながらすざっと飛び退いた。
乱馬の声に反応した周りで登校していた生徒たちも、セーラー服の少女の姿に「幽霊!?」「俺、初めて見た!」「宙に浮いてるー!」などと口々にし、辺りは一時騒然となった。
そんな中、周りを気にもせず幽霊は先程の九能のようにキラキラと輝かせた目を向けながら、両手を胸の前でぎゅっと握り締めてなまえの前におずおずと進み出て口を開く。
{あ、あの!ありがとうございます!}
ぺこっと一礼をして幽霊はそう言った。
思いもしない言葉に三人はきょとんとし、互いの顔を見合わす。
そして訝しげに乱馬は「な、何だおめー……!?」と口にした。
{幽霊です!}
「そりゃ見りゃわかる!」
{あはは、そうですよね。えーと、私〈なまえ〉って言います}
「なまえと同じ名前……?」
最近の幽霊は冗談も言ったりするのだろうか。幽霊〈なまえ〉は乱馬の反応にケラケラと笑いながら名乗った。
聞き慣れたその名前にあかねは隣にいる同じ名前の友人をチラリと見る。
なまえは幽霊〈なまえ〉を見ながらぎゅっとノートを握り締めた。
「九能先輩の後ろにこの子が見えて……、なんとなく交換日記を断れなかったんだ」
先輩から交換日記を手渡されたときに気付いたんだ。先輩の後ろにセーラー服姿の幽霊がいるって。
で、先輩の話を聞きながらその子を見てたら期待を込めた目でこっちを見てて……。
たまに祈るようなポーズでアピールしてくるし、なんか交換日記も断るに断れなかったのよね。
なまえは二人にそう告げた。納得した様子で話を聞いていた乱馬は幽霊〈なまえ〉を見上げ、
「ふーん?で、一体何なんだ?おまえ」
と聞くものの、
{見ての通り女子高生の幽霊です!}
と的外れな返事に
「だからそれはさっき聞いたっつーの!」
と、声を荒らげずにはいられなかった。
あああ面倒臭ぇヤツだな!!
乱馬は顔は笑いながらも、苦虫を潰したような気分になる。
その後予鈴が鳴り、駆け足で校舎へ走った三人はこの話を昼休みに持ち越すことにした。