中編:もしも本命には奥手だったら
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「……」
「……」
九能が来てからおおよそ一時間が経過していた。
邪魔をしない、そう会話をしてから二人は一言も発しなかった。
始めはガタガタと音を立てていたプリンターも今は仕事を終え、出された写真はなまえが一枚一枚仕分けをしてあとは束ねて袋詰めをするのみだ。
やっと終わりの見えた作業になまえはふぅと息を吐き、横にいる九能をチラリと見た。
おさげの女ブロマイド集を未だ眺めるその姿は、一時間前とさほど変わらない。
相変わらず……。そう心で苦笑したなまえだった。
「九能ちゃーん?なまえー?」
「なびき」
「む」
そんな静寂の中、ガラガラと扉の音が響く。
九能が閉めてからというもの、しばらく開かれることのなかったそれはなびきによって開かれた。
なびきは九能となまえの姿を確認するとにこりと笑みを浮かべて二人に近付いてくる。
「どこいってたの?」
「ちょっとね」
なまえが問う。
本来ならミスコンのデータはなびきが持ってくるはずだったのだ。それなのに姿も見せず、どこにいたのかもわからない。
なまえの問いかけに飄々とした顔でなびきはそう言った。食えない女だ。
そして二人の元に来たなびきは、再びにこにことした笑顔を浮かべて九能を見ると口を開いた。
「それより九能ちゃん」
「……もうそんな時間か?」
「そんな時間よ」
「む……、」
なまえを他所になされた会話の内容こそは理解出来なかったが、眉間にシワを寄せ考え込む九能になまえは首を傾げる。
「……用事あるんなら行ったら?」
「……」
なまえの言葉にじっと彼女を見る九能だが、返事は返ってこない。
そんな九能をチラリと見たなびきは小さく口角を上げた。
「なまえ、あとどのくらいで出来そう?」
「……え、えーと、あとは袋詰めだけだから……30分もないくらいかな」
「そっか、あとは私が代わりにやるわ。一時間来なかったお詫び」
話を変えてきたなびきに少し戸惑ったなまえだったが、まさかの申し出に一瞬止まってしまった。
「え、いいの?」
「いいのいいの。あんたもせっかくだから少しは文化祭を楽しんでらっしゃいよ」
そう言ってなまえのところまで来ると、ポンポンと肩を叩いたなびき。
ここに来るまでの間、知らないところでなびきは文化祭を楽しんだのだろうか?
なまえは少し躊躇った。
「本当にいいんだね?」
「全然OKよ。終わったら販売もしとくわ。それにこういう単純作業って一人の方がはかどるタイプだし。……ね?」
「え、うん……」
半ば強引に話をまとめられ、立った立った!と急かされたなまえは言われるままに席を立つ。
そしてその椅子に腰かけたなびきは肘置きに肘を乗せ、頬杖を付くともう片方の手をヒラヒラさせて微笑んだ。
「じゃ、九能ちゃんエスコートよろしく」
「……やむを得ん。みょうじなまえ行くぞ」
「え、」
なびきの一言に、開いていたおさげの女ブロマイド集を閉じた九能はスッと立ち上がった。
そしてそれを懐にしまうと、なまえに向けて顎で出入口をさし、そのまま扉の方へ向かう。
「ほら、行っちゃうわよ」
ヒラヒラさせていた手で今度は人払いをするような動きを見せたなびきになまえは僅かに眉を寄せる。
「なびき、なに企んでるの?」
「あら、なにか企んでるように見える?」
「……怪しいんだけど」
「そう?気のせいじゃない?」
笑顔のなびきは本当に怪しい。私に内緒でなにかお金が動いてる気がする……。
そうでなきゃこの怪しさを説明出来ない。
なびきの返答に考え込んだなまえだったが、なびき単独で動くこともあれば逆もまた然り。稼ぎ方は二人共同と決まってはいないのだ。
仮に単独で動いていたとしても、理由がどうあれなまえは考えるのをやめた。
「……報酬は山分けよ」
「ブロマイドの?わかってるって。ほら、行った行った!」
念押しの一言を残すなまえに、なびきはケラケラと笑いながら再び手を振った。
後ろ髪を引かれる思いのあったなまえだったが九能のあとをついていき、出入口まで来ると一度振り返る。
先程までいたそこには、顔の高さまで上げた手を振るなびきの姿が。
その姿に聞き出すのこそやめたものの、やはり気になるなまえ。
「……なんか怪しいよね、なびき」
ポツリと溢した一言。
「天道なびきが怪しいのは今に始まったことではないと思うが」
妙に納得する言葉を吐いた九能を思わず見上げたなまえ。
長くいるのは自分のはずなのに。よく見ていること。
彼女のことを的確に表現したその言葉になまえは小さく笑った。
「それは言えてる」
肩を揺らしながら足を踏み出したなまえ。九能によって扉は閉められる。
二人はパソコン室をあとにした。