ヤンデレ。
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ほんの、出来心だった。
小太刀が持っているクロロホルムを少しばかり借りて、みょうじなまえに嗅がせた。
まるでドラマのように彼女は地面に倒れた。
クロロホルムを嗅がせて、どうしようというのか。
それは、ただ単にみょうじなまえの寝顔を見てみたい、という願望からだった。
しかし、実際に目の前ですやすやと眠る彼女を見たら、僕の中でささやかながらもある感情が生まれた。
こんな姿にさせたのは僕、というーー優越感。
こんな愛らしい姿を見せたくない、というーー独占欲。
口元が上がるのがわかった。
見せたくないのならば、見せなければいい。
何の迷いもなく僕はみょうじなまえを抱きあげ、そのまま自宅へと向かった。
「……こ、こは?」
「目が覚めたか」
「……九能先輩……、」
目を覚ましたみょうじなまえはゆっくり起き上がると、目をこすった。
自宅に着くと僕は彼女を抱き抱えたままある部屋へと向かった。自室とは違うそれは、僕以外に出入りがない半地下の部屋。よっぽどではない限り誰も足を踏み込むことのない場所だ。
というのもここは僕専用の第二の部屋として作られている。
おおよそ八畳ほどの広さのある半地下の部屋は、フローリングで壁はコンクリートの打ちっぱなし。
壁の上の方、天井ギリギリのところには縦約20センチほどの横長の窓が付いており、出入り口はドアだけ。
シャワールームとトイレも完備されているのだが家具は一切なく、ただただ広いだけの部屋だった。
そんな何もない空間にいまは僕とみょうじなまえの二人だけ。
学校の机ひとつ分の距離があるのだろうか。ほんの少し離れたところで僕は正座して彼女を眺めていた。
窓から差し込む光も弱くなり電気をつけていないため、部屋の中は薄暗い。
日没はとうの昔に過ぎ、少しずつ空もこの部屋も黒に染まっていく。
「って、九能先輩何を嗅がせたんですか!何もしてないですよね!」
意識がしっかりしてきたのか、みょうじなまえは僕の顔を見るなりそう言った。
何もしてないさ、君の寝顔をただ眺めていただけ。
ポケットからスマホを取り出した彼女は、無機質に光るそれの時間を見て、あーだこーだと呟いている。
そんな彼女を、僕はただひたすらにぼんやりと眺めていた。
「え、もうこんな時間!?早く帰らないと」
「……」
「薄暗いはずですよね~、」
「……」
「えーと鞄は……あ、あった」
「……」
「私、夕飯の準備しなきゃいけないんですよ」
「……」
「……、……九能先輩?」
「……」
「聞いてます?」
彼女と少し離れていた距離が縮まっているのに気付いた。
は、と我に返るとみょうじなまえが僕の顔を覗き込んでいた。
黒い双眸が僕の目を見つめている。
「あ、あぁすまない。どうした?」
「いや、帰ろうと思って……」
「帰る?………………、何処に……だ?」
「何処って……、」
家に決まってるじゃないですか。
どうしたんですか、先輩。とみょうじなまえは、笑い混じりに僕に尋ねた。どうかした覚えはない。
ふふふ、と無邪気に笑う彼女は、言葉の最後と同時に僕の肩を軽く叩く。
反射的にその細い手首をぐっと掴んだ。
「今日から君の家はここだ」
「……え?」
「君の帰る場所、生活する場所は、ここだと言っているんだ」
瞳を反らさず隙を与えもせず、僕はそう告げた。
僕は真剣だ。
みょうじなまえに、誰に何を言われようと、今言った言葉を撤回するつもりはない。
みょうじなまえの手を掴んでいないもう片方の手を彼女の腰にまわし、ぐっと自分の方へ引き寄せた。
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