中編:遠回りの恋心。
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「……どーいうことでい」
「……最近、なまえと出かけることが多くてな。この前のレジャーランドもそうじゃ。お前もあの場におったから知っておるじゃろ」
「あぁ」
「元々、おらはシャンプーと行くつもりだったが断られ続けてな……チケットの期限が迫ってるのもあってなまえを誘ったんじゃ」
目を落としたままのムースは、ポツリポツリと言葉をつむいでいく。
……結構前にな、福引きで映画のチケットを当てただ。しかも最後のペアチケットでな、シャンプーのデートに狙っておったから嬉しくてたまらんかった。
しかしシャンプーにはことごとく断られてのぅ……。だが捨てるには気が引けるし、期限もそうなくてな……おらは試しになまえを誘ってみただ。
いつもおらの話を聞いて、相談に乗ってくれるなまえに前々からずっと礼をしたいと思っとったからじゃ。
あとから知ったんじゃが、ペアチケットはなまえも狙っておったらしい。願ったり叶ったりだと、とても喜んでおった。
それからというもの、シャンプーに断られる度におらはなまえを誘って出かけておったんじゃ。
それがおらたちの発端じゃ。
この間のレジャーランドも同じでな、シャンプーには相手にされんかったくせに、またなまえを誘ったんじゃ。なまえの優しさに甘えての。
しかしじゃ。まさかあの日、あの場でシャンプーに会えるとは思わんくての。いつものように店に出ておったし。
でも会えたことが嬉しくての、なまえと一緒におることも忘れておらはシャンプーの元に走ったんじゃ。
観覧車から降りてきたなまえのひどく傷ついた顔を見たとき、なんちゅうことをしたんかと……気づいたときにゃもう遅い。今も忘れられん。
いつもおらを慰めてくれたのに、なまえを放置して自分勝手なことをしてしまっただ。
取り返しつかんことをしてしもうたんじゃ。すぐに謝ろうとしたがすんでのところで間に合わんかった。
連絡をしても取ってもらえんし、店にも来んくなった。学校にも行ったがタイミングも合わん。日にちも経ってもっと会いづろぅなってしもうた。
それでどうにも仕事に手が付かんようになってしもうたんじゃ。
「そうか……、」
乱馬はムースの話を遮ることなくじっと黙って聞いていた。
思い詰めた胸の内を語ったムースの左手には、携帯電話がある。ぎゅっと携帯電話を握りしめ、連絡が来るのではないかと見つめているだろうムースの表情は、俯いたままで読めない。
しかし力の入った握りこぶしが、今のムースを表しているのは間違いない。
後悔の念と自分への怒り、なまえのことを思えば思うほど自分が許せないのだ。怒鳴られ責め立てられた方がどれだけましか。
どうしたら再びなまえと話すことが出来るようになるか――彼は真剣に悩んでいるのだ。
「それからというもの、なまえのことばかり考えとる。今までシャンプー以外の女のことを、こんなにも考えたことはないというのに……不思議なもんじゃ」
「不思議?」
「あぁ。シャンプーを誘う気にならんのはまぁ仕方ないとしてだ。いつの間にかおらの中で、なまえの存在が大きいものになっておったんかと思うと、、、不思議でな」
やっと顔を上げたムースの表情は、困った、不思議だと悩んでいる割には、僅かながらも笑みがこぼれていた。
投げやりな、渇いた笑いではなく――優しさが滲みでた笑みだった。
乱馬はおもう。自分がどうこう言う前に、ムースはもう答えが出ているのかもしれない。
二人の間に今までどんなことがあったのかわからないが、あれだけ悩んでいるムースの胸の内を聞いたのだ。なんとなく乱馬は察しが付いた。
もしかしたら、という仮定のことではあるが。ゆっくりと口を開く。
「……なぁムース。お前さ、なまえが好きなんじゃねぇか?」
きっと、彼は後押しが欲しいだけなんじゃないか、と。
to be continued...