中編:遠回りの恋心。
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健康レジャーランドに行ったあの日から、ムースとの連絡がぱったり途切れた。
途切れた、と言うよりあえてとらなかった。
学校帰りに猫飯店に足を運ぶのもやめたし、電話がきても出なかった。メールがきても返信をしなかった。というよりは、出ることも返信の文字を考えるのも出来なかった。
もやもやした気持ちの中、どんな顔をすれば、どんな会話をすればいいのか――わからない。
今まで自然に出来ていたことが、急に難しくなってしまった。
「最近、なまえちゃんどないしたん?なんか調子あがらんな」
「そーかぁ?普通に見えるぜ?」
「いーや、あれは何かあったに決まってんで、乱ちゃん」
風林館高校一年F組の教室の窓から、なまえはぼんやりと空を眺めていた。
そんななまえの後ろでは、男女三人がこそこそと会話をしている。彼女の友人である、あかね、右京、乱馬の三人だ。
右京が切り出した言葉に、神妙な面持ちであかねは問いかける。
「右京もそう思う?」
「あぁ。なーんかぼーっとしとるし、なんや考えちゃぁため息ついとる。なんもない訳ないで」
「さっき話したときは普通だったぞ?」
「ばかね、乱馬。頑張って元気なふりをしてるのよ。私たちに気を使わせないように……」
――頼ってくれていいのに。
三人が淋しそうな後ろ姿を見つめた。ざわざわと賑わう教室の中で、窓際でぽつんとたたずむその背中は淋しげだ。
「何か知らねーのか?」
「知っとったら、こないに悩まんでえぇやろ」
「まぁそーだよな……」
「……実は、ちょっと心当たりあるんだ」
あかねは目を伏せて思いを巡らせた。
健康レジャーランドでばったりなまえと会ったあの日から、ずっと気になってた。
観覧車から歩いてきたなまえの顔は、今すぐにでも泣いてしまうんじゃないかって心配になるほど、悲しみに満ちていて。
声をかけても反応はないし、まるで逃げるようにその場を離れていった。
なまえは無視したり、失礼なことを平気でするような子じゃない。だからこそなまえの行動が印象に残って、どうしたのだろうと心配で気が気じゃなかった。
休み明けに『レジャーランドに来てたの?』って話しかけてみたけれど『用事があってすぐ帰っちゃったんだ。挨拶出来なくてごめんね』と、なまえは申し訳なさそうに笑っていた。
そのときも、あのとき見た泣きそうな表情をしていたものだから、その先を聞くことは出来なかった。
なまえのあんな顔を見たら、なにかしらの理由があっての行動ってことくらいわかる。
きっと、なにかあったのね……ムースと。
「どないなこと?」
「私の考えていることがあってるかはわからないけど……、」
「もったいぶらねーで教えろよ」
「全くアンタって人はほんとにデリカシーがないんだからっ」
「あんだとー?」
そう簡単に言える訳ないでしょ。右京ならともかく、乱馬には。
あかねはチラリと右京に視線を送る。意味深な目配せに、察しのいい右京はニィと笑う。
「……はっは~ん、そういうことかいな。そうと決まれば、今日の帰りはうちに寄っていかへん?」
「いいの?右京」
「もちろんや!こないなときこそ友達の出番やで。そやろ?」
カラッとした笑顔で笑う右京の気前のよさに、あかねは「そうね」と微笑んだ。
そんな二人のやり取りに頭の回転が早い乱馬もその意図を察したようで、手をポンッと合わせた。
「なーるほど。んじゃ俺も行くぜ」
「乱ちゃんはあかん」
「乱馬はダメよ」
「な……っ!?」
二人の声がばっちり重なり、乱馬は目に見えるほどのショックを受けていた。まさか拒否されるとは思っていなかったようで、ちぇっ、なんでー。といじける乱馬。
「乱馬はいいかもしれないけど、なまえはそうはいかないのよ?それに女の子同士だから言えることだってあるのよ」
「せやで〜乱ちゃん。なまえちゃんのことを思うんやったら、ウチらに任してくれへん?」
二人の言葉にしぶしぶ了承する乱馬だったが、正直納得はしていない。心配する気持ちは同じだ。あかねと同じくして乱馬もなまえの姿を見ていたからこそ、心配なのだ。
この前健康レジャーランドで会ったときの顔、頭から離れねーからな……。二人の前じゃすっとぼけてみせたけど、なんとなく俺にも状況は理解できる。
しっかしここまで言われちゃ、どーあがいても俺はお呼びじゃねーらしい。と乱馬は独り言ちするのだった。
三人が三様の思いを抱きながら、再びなまえの後ろ姿に目を向ける。
窓から吹き込む風が、空を眺めるなまえの髪をふわりと撫でていた。