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普段ならばおばばの使いとなるとしぶしぶといったところじゃが、今回の使いは嬉しいもんじゃった。
店にいるとなまえと二人きりになれる時間をあまり持つことが出来ない。
なまえは学校、おらは店の手伝い。なまえが店に来ても混雑時は構ってやれず、またおらが出前で不在のときに来ていた、なんてすれ違うのもよくあること。
夜は片付けや翌日の準備など、あれこれしておる内に結局会えんまま一日が終わることもよくある。
会いたいときこそ会えんことが多い。
今日のように突然使いを任せられることもしばしば。
おらと彼女は付き合っているわけだから、会うのに理由はいらん。
しかしどうにか口実つけて二人きりになれんかと仕事中も考えていた。
そんな中頼まれた使いは願ったり叶ったりじゃった。
しかし楽しい時間はあっという間で、おばばの使いを済ませたのちに新しく出来たというカフェの人気メニューを食べたり、池のボートに乗ったりと……会えなかった分を埋めるように、おらはなまえと過ごす時間を満喫していた。
『ムース、無理しなくていいよ?』
『いーや!前々からなまえと乗りたいと思ってただ!』
『それは嬉しいけど……本当に大丈夫?』
『大丈夫に決まっておる!』
大見得をきって乗ったボートは内心ハラハラだったが、無事に濡れることなく水の上でも会話を楽しんだ。
ボートから降りたおらたちは池の隣にある自然豊かな公園を散策し、人通りの少ないベンチに座って二人きりの時間に浸っていた。
「あ……もう月が出てるね」
なまえの言葉に茜と濃紺に染まる空を見上げた。東の空に淡い月が浮かんでおり、太陽は少しずつその姿を隠していく。
ーーもうそんな時間なのか。
楽しい時間はあっという間で、もうすぐ夜になるのかとおらは少し寂しくなった。
「もうそんな時間か、早いのう……」
「そうだね……」
日が落ちていくということは、そろそろ帰らないといけない。
だけどおらはもう少しベンチで肩を並べてこうしていたい。少しでも長くなまえといたい……そんな気持ちを吐露するわけでもなく、おらは月をただぼんやり眺めた。
もう少し一緒に、なんて言うとなまえは困ってしまうかもしれんから。
「……」
「……」
少しずつ変わりゆく空の色と白い上弦の月を眺めながら想いを馳せる。
なまえにとって、おらはどれくらいの存在なのだろうか。
この間見上げたときの三日月くらい?
今日の半月くらい?
それとも、これから見る満月?
おらにとって彼女は満月でも足りないくらい大きく、そして大切な存在だ。
おらという月を照らしてくれる眩しい太陽のような、なくてはならない存在。
月の満ち欠けで気持ちを量るなど、恋人なのだからそんなこと気にすることない、はず。
それでもわかっていながら深く知りたくなるそんなおらは……貪欲なのか。
そんなことをぼんやりと考えながら月からなまえに目を移すと、彼女は月を見つめている。その横顔はおらと同じように何か思い耽っているようにも見えた。
「…なまえ?」
「ん…?」
優しく吹く風に髪がふわりと揺れ、なまえは柔らかい髪を耳にかけた。
見慣れたその仕草も、いまはおらの鼓動を早めるには簡単なもので。
とくんとくんと高鳴る胸を悟られないようなまえを見つめていると、ゆっくり、月からおらへと視線が動く。
「どうしただ?」
少し上擦った声に緊張しているのを勘づかれただろうか。
こんなにもおらはおまえのことで頭がいっぱいじゃ。好きで好きでたまらない。
「……ちょっとムースのこと考えてた」
最近全然二人きりになれなかったもんね。だから今日は嬉しくて。
ふふ、と愛らしく笑いながらそう続けたなまえの頬は赤く、おらの胸はじん、と熱くなる。
寂しかったんはおらだけじゃなかったんじゃな。
会えない間にも好きの気持ちで溢れておったというのに、気持ちが重なるとこんなにも嬉しい。
「おらもなまえのこと考えてただ」
「嬉しい……。ねぇムース、」
恥ずかしがり屋の彼女は滅多に自分から進んで繋ぐことが出来なかったのに。おらより一回り小さな掌が、おらの手を遠慮がちに掴んだ。
はにかんだ笑顔のなまえの頬はきっと沈む夕日にも負けない程の色をしているに違いない。
黄昏時の今だが、その頬の色は手に取るようにわかる。
気持ちが昂って繋いだ手をぐっと引き寄せ、彼女を抱きしめた。
「ムース?」
「……いま、幸せで、おかしくなりそうじゃ」
華奢な肩を抱いて首筋に顔を埋める。きっとおらもなまえに負けんくらい同じ赤い顔をしてるにちがいない。
どうしてこんなにも、こんなにも愛しいのだろうか。
おらの心は日を待たずして、半月から満月に満たされていく。会えない時間を埋めるように。
「私もすごく幸せだよ」
おらの腕の中でなまえはふふ、と笑った。
少し体を離して顔を覗き込むと、そこには優しい眼差しの君。
なんてこんなにも、おまえはかわいいだか。
かわいくて、愛しくて、どうしようもないほどなまえが好きだ。
「なまえ、」
おらが口を開こうとすると、なまえはおらの肩に手を置き、少し腰を浮かせ背伸びをした。ゆっくり閉じる瞼にその行為がなにか直ぐに理解できたけれども、おらはなまえの唇に人差し指を置いてそれを阻止した。
途端にぱち、と彼女の目が開く。そして事の重大さに打ちひしがれていたが、おらは気にしない。
だって、
「おらからしたいだ」
ーー笑顔でそう言えば、瞳を大きくしたなまえの頬は先ほどよりも更に赤くなったような気がした。
ゆっくりと顔を覗き込んで片手で頬を包み、親指で優しく撫でる。
くすぐったそうに、恥ずかしそうに視線を逸らすなまえに、おらはそっと唇を重ねた。
触れるだけのそれはおらの愛と彼女の思いを確かめるには十分すぎるほどの時間で。
「……ムース、」
「ん……?」
なまえがおらの名前を呼ぶ度に、おらは浅くついばむような優しい口付けをして返事をした。
…………なんて、幸せなんだろう。
わざとリップ音を立てて名残惜しく唇を離し、最後になまえの額にキスをした。
そしてまたあの愛らしい声で彼女はおらの名前を呼んだ。
「……大好き」
幸せそうに微笑むなまえを見て、おらの心はこの上ないほど華やぎ、そしてなまえに愛されているなぁと改めて思う。
こんなにも幸せな想いとあたたかな気持ちにさせてくれるのはなまえだけじゃ。
おらは再び親指で頬を撫で、その華奢な体の背に手を回し、もう一度強くなまえを抱きしめ囁いた。
「……おらも、大好きじゃ」
END.
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とっても甘い…………!!!