タラレバ話。
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「一緒にお弁当食べたり、授業受けたり。色んな行事一緒にしたり、放課後遊びに行ったり、楽しいだろうなぁって。猫飯店に遊びに行く今のままでも充分楽しいんだけどね」
「……そうじゃなぁ」
ついさっきおらも同じことを思ったばかりじゃ。今までだって何度も。ゆっくり一緒に過ごすなんてことは事前に予定を立てん限り難しい。
今日みたいにばったり遭遇するなど、滅多にないから余計に。
なまえが学校でどんな時間を過ごしてるのか知りたい。……というより、おらがただなまえの側におりたいだけじゃが。
「おらも同じこと考えたことあるだ」
「ほんと!?」
そう言うとなまえの声のトーンがあがった。
先ほどばったり出会ったときと同じような明るい声音に、おらの心が少し高鳴る。
「考えるだけでも楽しいだ」
「ね。考えるだけでも楽しいよね」
「あぁ」
ふふっと二人で笑ったところではた、と気付く。
風林館高校に通っておらんのはおらだけじゃない。シャンプーも良牙もじゃ。もしやなまえはさっきヒロシに会うたことやこの沈黙に気を遣わせて、おらを話の引き合いに出してくれたのではないか?と。
いや、そんな都合のいいことなど……おらは慌てて学校に通っておらん名前を引き出す。
「そ、そうじゃ。おらだけじゃのうて、シャンプーや良牙も学校に通ったら騒がしいじゃろうか」
「……え?」
「……なまえ?」
豆鉄砲を食らったように言葉を詰まらせたなまえは、ハッとした顔をしながら呟く。
「……か、考えたことなかった」
「?」
「ムースのことは考えてたけど、シャンプーや良牙くんも一緒の学校だったら、って……」
「……え?それはどういう……?」
「っ!……な!何でもない!」
なまえからの意味深な発言に、今度はおらが豆鉄砲を食らったように言葉を詰まらせる。
おらだけのことしか考えてなくて、えーと、つまり……?
ある考えに行き当たるが、いや、まさか。そんな都合のいいことがあるはずないだ。たまたまじゃろ?きっとそうじゃ。
そう心で己に言い聞かせながらも、淡い期待がないわけではない。
プイッと顔を背けたなまえの顔を覗き込もうとするが避けられ、めげずにまた覗き込もうとして避けられ。とうとう後ろを向いてしまわれた。
しかしあることに気づいて思わず声に出てしまった。
「なまえ。耳、真っ赤じゃぞ」
「~~っ!ほ、ほっといて!」
街灯に照らされ髪の間から覗く赤い耳。顔は隠せても耳は隠れておらんぞ、なまえ。
あからさまなその態度に、おらはまた期待をしてしまう。
おらだってなまえと同じじゃ。口ではシャンプーや良牙のことを言うたが、本心ではない。
して、それをどう伝える……?
「学校は本当に行ってみたいだ。日本の学校というものに興味がある」
「う、うん……」
顔を手で覆ったままの後ろ姿に、ぽつりぽつりと気持ちを口にする。
「なまえと学校に行くのは本当に楽しそうじゃ。いや、なまえと一緒におるんじゃ。今まで以上に楽しいに決まっとる。シャンプーや良牙がおらんでもな。……じゃが、願ってみても無理な話で、おらはおばばの手伝いをせにゃいかん。それが今のおらの仕事だ」
「うん……」
「じゃからな、おらは学校で行き詰まったとき、猫飯店がなまえにとってホッと出来るような場所であればなと、思うておる」
「……え、」
言葉を重ねるほどに緊張でドキドキと心の臓が速くなる。
じわりと汗ばむ手から買い物袋が落ちんよう、おらは手を強く握り締めた。
「…………おらは、その……、なまえにとってそういう存在になれたら嬉しいだ。学校には通えんが、いつでも猫飯店で待っておる」
「……!」
ゆっくりと振り返ったなまえの顔を見て心がほっと和む。
嬉しそうな照れたような、そのはにかんだ微笑みが心から愛おしい。
おらがいつもなまえの笑顔に救われてるように、おらもなまえに安らぎの場所を与えたい。
「そんな真剣に答えてくれると思わなかったから嬉しい。ありがとう」
「おらはいつでも真剣じゃ」
なまえのことに関してはな。
それはまだ声には出せず、ぐっと飲み込んだ。
「……私も、」
「む?」
「私もムースと同じだよ。ムースにとってそういう存在になれたら嬉しいな」
「……ぬっ!?」
なまえからの言葉におらは固まってしもうた。
まさか、まさか、やはりなまえもおらと同じで…………?
「……な、なーんてね!さっき私のマネしたお返し!」
「……あ、あぁ!そ、そうか!そうじゃよな!わは、わはははは!!」
「あ、あは、あははは」
そ、そらそうじゃよな!そう上手くいくもんじゃないだ!
なまえの言葉に期待してしまっただけに、上ずった声で笑い飛ばしてしもうた。
釣られて笑うなまえの声も重なる。
なまえの頬は耳と同じでほんのり赤くなっており、それを見ておらの体温がさらに熱くなるのを感じた。
おそらくどことなくぎこちない笑いだと、互いに気付いておる。
じゃがおらもなまえも、その先を言う勇気がなくて、今は笑うのが精一杯じゃった。
「……い、家、帰るけ?」
「う、うん!帰る!」
一通り笑い飛ばしたあと再び歩き始めたのじゃが、先ほどと同じようにまたなまえとの間に沈黙がきてしもうた。
しかしさっきとは違って重くのしかかるどころか、この沈黙が心地いい。
気になってちらりと目線を向ければ、同じくこちらを見上げるなまえと視線が合い、顔に熱が集まるのを感じて慌てて顔を背ける。
それはなまえも同じじゃったようなのじゃが、おらは知らぬまま。
静かなはずなのに、ドクドクと早鐘を打つ心臓の音が聴こえてくるような、そして聴かれてしまうのではないかとドキドキして。
早くこの心臓を落ち着かせたい気持ちと、なまえの隣で少しでも長く歩ければという両方を憂いながら、おらたちはなまえの家へと向かうのじゃった。
END.
おまけ。
猫飯店に帰宅したムースは、すぐにシャンプーに詰め寄られます。
「ムース、帰ったか。なまえはちゃんと家に送ったあるな?」
「もちろんじゃ!……って、なぜなまえのことを……?」
「ヒロシに聞いたね」
「そういえば猫飯店に行くと聞いただ」
「それで?ニヤケた顔をしてるいうことは、少しは進展したあるな?」
「むっ……!」
シャンプーに隠し事など出来ないムースは要約して話します。
「ぐっと距離が縮まったと思うだっ!」
「何、寝惚けたこと言うか!それじゃ店の宣伝してるみたいね!ちゃんと男らしく気持ちをハッキリ言うあるよ!!」
「な、なんじゃと!?」
「それだから全然進まないね!」
「み、店の宣伝に捉えられておったらおらは……おらは……」
バッサリ斬られるムース。
その様子を楽しむシャンプー。シャンプーはなまえとムースが両想いなことに気づいているので、少しずつしか進展しない二人にヤキモキしつつちょっかいだすだけ。
ちなみにヒロシも両想いなのを知っているので、お使いに出たムースがまだ帰ってこない、遅い!とぷりぷりしていたシャンプーに、なまえのことを伝えていました。
翌日。風林館高校にて。
「昨日、あれからどうだった?」
「ヒロシくん!えっとね、お家まで送ってもらったよ!あと……、」
「あと?」
「ホッとするような存在になりたいって言われた……」
「まじか!やったじゃん!」
「今まで遠慮して行けないときもあったけど、これから猫飯店に通ってもっと仲良くなりたいと思う!」
「おーすげー行動力。距離、縮まるといいな」
「うん、ありがとう!」
シャンプーは店の宣伝みたいだ!と言ったのですが、ちゃんとムースの気持ちは伝わっています。
なんとなくムースの好意に気付いたなまえは、もう少し距離を縮めたいと奮闘するのでした。