タラレバ話。
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「人多いね」
「夕方の買い物時じゃからのう」
そんな会話をしながら商店街で彼女と肩を並べて歩いておるが、おらの顔ニヤけてないだか?大丈夫け!?
おばばからお使いを頼まれ商店街へ足を運ぶと、賑わう人混みの中に見慣れた後ろ姿を見付けた。
こんなところでバッタリ会うとはこれが運命というやつだか!?と、おらは嬉しくなってすぐにその後ろ姿へ駆け寄った。
声をかければなまえも家の使いを頼まれたらしく、目的の店も、そして帰る方向も同じなので一緒に行くことになり、おらの気持ちはさらに昂る。
あああこの時、この瞬間が嬉しいだ~~!!!
嬉しさを噛み締めつつニヤニヤしてるのを悟られんよう、平常心を装いながら口を開く。
「最近はどうじゃ、学校は楽しんどるか?」
「うーん、ぼちぼちかな」
乱馬くんがゴタゴタに巻き込まれてるなーとか、右京がお好み焼き弁当をお裾分けしてくれたりとか、あかねたちとおしゃべりしたり……それなりに楽しんでいるかな?
そうなまえは答えた。
「そっちはどう?お店忙しい?」
「うーん……まぁぼちぼちじゃな」
「なにそれ、私のマネ?」
「はっ!そ、そういうわけじゃないだ!」
わかってるよ、冗談。
そう言ってクスクス笑うなまえの笑顔にドキッとする。からかわれているというのに、どーもこの笑顔におらは弱い。
自分のペースを保っているつもりでもいつの間にかなまえのペースに引き込まれてしもーとる。
もしもおらがなまえの恋人だったら、いつでも隣に並べて、いつでもこの笑顔を見られるんじゃろうか。
などと考えておると店に着き、お互いの買い物が終わったら店の前で待ち合わせと決めて別れた。
別れたのも束の間、おらの買いたいものは割と早く見付かり、レジへ向かおうと店内を歩いておると談笑している男女が目の端に入った。
男は後ろ姿で顔は見えんが、女の子はなまえで。さっき見たばかりの愛らしい笑顔を話し相手の男に向けているところだった。
一気に心がざわめく。
あの男の服装は風林館高校のもんで、なまえと同じ高校の学生だとすぐにわかった。
普通の談笑に見えるが、なんだか入り込めない雰囲気がそこにはあって。
なんとも言えん気持ちになる。
……おらが風林館高校に通っておれば、なにか少し変わっておっただろうか。
学校生活とは無縁なおらじゃが、何度か編入してみたいと思ったことはある。
学生になればなまえと同じときを過ごせるし、少なくとも店の手伝いで過ぎる今よりはずっと長く側にいられるだ。
なまえはどんな顔して、どんな話をして、どう過ごしておるんじゃろうか……。
しかしそんなことが許されるはずもなく、おばばに頼んだところでシャンプーも行きたいと言い出しかねん。
おらが欲しくても手に入れられん学校でのなまえを知っておるその男に、ちぃとばかり嫉妬した。
「あ!ムース!」
なまえの声にはっとして、いま一度彼女の方を見るとこっちに歩いてくる姿が見えた。
後ろ姿だった男がこちらを振り向く。その顔は見覚えのあるもので、あの茶色の髪……確か乱馬の友達のヒロシとやら。
などと考えておるとそやつと目が合い、不敵に笑ってきた。……なんじゃ。おらに喧嘩売るだか?
「じゃ、俺行くわ。頑張れよっ!」
「ありがとう。またね」
しかし身構えたもののヤツはすぐにこの場を去り、少し拍子抜けする。
「友達と会っちゃって」
「お、おー……たまに乱馬と店に来る……」
「そうそう、ヒロシくん。猫飯店にラーメン食べに行くらしいよ」
今はソイツの話など聞きとうない。
その言葉を飲み込んでおらは笑顔を張り付けた。
「そうだか。なら早う帰らんとな、おばばやシャンプーが待っとるしの」
「……そ、うだね」
妙に歯切れの悪いなまえを尻目にレジへ向かうとすぐに精算し、店を出て彼女が来るのを待った。
ほどなくして来たなまえじゃったが、先程と違い少し表情が暗いように見えたが……それは日が落ちて辺りが暗くなったせいなのか。
「……」
「……」
店に行くときとは違い、帰り道は静かなもんじゃった。
歩けば歩くほどこの沈黙が重くのしかかってくる。
ええと、何を話せば……、
一歩一歩歩く度に何を話すべきか何の会話をしたらいいのかと考えを巡らせたが、巡るだけで口からは何一つ言葉が出らんかった。
どうしても考えても考えても先ほど見た二人が頭から離れん。
ヤツとはただの友達なんか?
それとも片思いの相手か?
おらが知らんだけでアイツと付き合っとるんけ?
楽しそうに話しておった二人が脳裏から離れてくれん。
長い息を吐きながらチラリと横目でなまえを伺うも、街灯の光で影になったその表情は読み取れず。
またなまえからも話しかけられることもなく、おらは更に悶々としていた。
「…………ムースは……さ、」
「な、なんじゃ……?」
どうしたもんかと考えておった矢先、なまえが口を開いた。
まさか話しかけられると思ってなかったおらは、驚いたことに悟られんようギュッと買い物袋を握りしめる。
「……その、学校に行きたいって思ったこと、ある?」
……へ?
思いもよらぬところからの発言に、おらは一瞬止まってしもうた。
「な、なんじゃ?いきなり……」
「ごめんごめん。タラレバな話だけど、私は考えたことがあるんだ。もしムースが同じ学校に行ってたら~って」
「ほう……」
思わぬ切り口じゃったが、この重い空気から解放されてほっとする。
……重いと思うとるのはおらだけかもしらんが。
尚も話し続けるなまえの言葉に耳を傾けた。