中編:遠回りの恋心。
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「なまえ、おらと出掛けるだ!」
「あのねぇ……」
名前を呼ばれて振り返ると、花束を持ってポストに話しかけるムースの姿。またか。と小さく息をついた。彼のド近眼には困ったものだ。
早乙女乱馬。彼が来てからというもの、なまえの周りは更に賑やかになった。
親友のあかねは、まさかの彼と許婚。
乱馬を追ってきた方向音痴の良牙。
中国からこれまた乱馬を追ってきた女傑族の少女、シャンプー。
そして、そのシャンプーを追ってきたド近眼のムース。
あちこちから色んな人たちがやってくる。
初めは戸惑う面ばかりだった。しかし、みんな悪い人ではないため打ち解けるまでに時間はかからなかった。みんな揃うことはなくとも、一対一で話して盛り上がったり、慰めたり。
毎日の変化が楽しくて仕方がない。明日は何が起こるのだろうか。乱馬たちはトラブルに巻き込まれてうんざりしているかもしれないけれど、傍観者の私としてはそれすらもどきどきわくわくするのだ。みんなには申し訳ないけれど。
中でも最近はムースと顔を合わせたり、遠出したりする。
その原因は悲しいことに彼が思いを寄せるシャンプーだ。シャンプーは乱馬のことが好きでムースには目もくれない。ムースが言うには、子供の頃から冷たい視線を浴び続けているそうだ。
中国の掟が絶対とは言えど、日本で育った私からしてみれば少しはかまってあげてもいいのではないかと思う。それでもムースはことある事にシャンプーをデートに誘おうと努力をしている。結果は見えていても、だ。
しかし、ムースが頑張ってゲットしたチケットや努力が水の泡になってしまうのは、可哀相だしもったいない。
まぁつまり何が言いたいかというと、どうしてムースと遠出するのか。それは私がシャンプーの代わりに出掛けるからなのだ。
「しまった、間違っただ!」
眼鏡をかけてずんずんとなまえに近寄るムースは、先ほどの言葉を繰り返した。
「おらと遠出せんか、なまえ。水族館でイベントがあるそうじゃ」
「……シャンプーは?」
わかっているのに、聞いてしまう私は馬鹿だ。この言葉ですらムースを傷付けているのかもしれないのに。
ムースは抱えられた――シャンプーが好きな甘い香りの――花束に視線を落とした。
はは。と空笑いが聞こえる。
「……今回も失敗じゃ」
自虐的な笑いになまえも花束に視線を向けた。あぁ、やっぱり。始めからわかっていたのに。
「……そっか……」
「……お前が辛気臭い顔をする必要はないぞ?逆に付き合わせて申し訳ない」
そんなことないよ、なまえがポツリと呟くとムースはふぅ、と短い息を落とした。
「次こそは一緒にいくぞ!シャンプー!!」
勢いづいた彼になまえはうん。と笑みを零した。
ムースの努力が報われて欲しい。いや、これだけ努力をしているのだからきっと報われる日が来るだろう、と思いながら。
「頑張って、ムース」
「おう!ところで水族館は明日までなんじゃが……大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
明日、10時に駅前。と決めて二人は別れた。
なまえが帰り様ちらりと後ろを振り返ると、花束を見つめてたたずむムースの寂しそうな後ろ姿がとても印象的だった。
確かにチケットはもったいないけど、本当にいいのかな。毎回の如く考えてしまうが、ムースがいいと言っているのだから有り難く受け取るしかない。
落ち込んでいるムースのために何かしてあげたい、なまえは家路を急いだ。
to be continued...