がんばれ良牙くん!
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なまえさんと約束を交わしたすぐあと、俺は彼女の思慮深さを思い知ることとなる。
「良牙くん、家まで送ってあげるよ」
「……えっ!?」
「ご両親にもしばらく会えてないでしょ?顔を見せてあげたら?」
「なまえさん……!」
彼女の提案に胸がじ〜〜んとあたたかくなる。なんて心優しい方なのだろうか。
なまえさんは一度あかねさんと一緒に俺の家へ遊びに来たことがある。飼い犬のシロクロが子犬を産んだので、子犬に会いたいと訪ねてくれたのだ。
なので俺の家までの道のりを覚えているのだが、なまえさんが仰るとおり俺も久しく家へ帰っていないので、その提案は願ったり叶ったりだった。
……いや、待てよ?
普通ならばこの会話は男女逆なのでは??俺がなまえさんを送り届けるのが筋なのでは!!?女性より先に男が帰路につくなど、失礼極まりないのではっ!!!??
し、しかし無事に彼女を家へ送り届けたとしても、だ。明日の花火大会を一緒に迎えることは出来るのか!!?
俺の道に迷う癖を思えば、ふたつにひとつ、どちらかしか選べん訳なのだが……どうする良牙よ!!?
「……良牙くん、どうしたの?」
俺が頭を抱えて苦慮している内に、どうやら足が止まっていたらしい。
ほんの少し先を歩くなまえさんが振り返ってこちらを見ていた。
「す、すいません。つい考え事しちまって……」
「……そんなとき、あるよね」
なまえさんは口を開き何か言いたそうな顔をしていたように見えたが、深く詮索せずににこりと笑ってくださった。些細なことだが、その仕草に俺への配慮を感じて口元が緩む。
彼女は土足で人の心に踏み込むことをしない。
その優しさが言葉と仕草に出て、相手に伝わる。そんな彼女の人柄に触れて俺はなまえさんを好きになっていった。
俺が方向音痴なせいで家に行くか花火大会に行くか、どちらかひとつを迷っていると知ったら彼女は怒るだろうか。
いや、なまえさんのことだ。どちらも選んだらいいと言うかもしれない。彼女はそんな人だ。
だったら彼女の優しさに甘えてばかりではいられない。やはりこんな素敵な方より先に帰路につくなど言語道断だ!
「……なまえさん!」
「なぁに?」
「俺は自分の力で家へ帰ります!なのでなまえさんをなまえさんの家まで送らせてくださいっ!」
「……っ!?」
なまえさんは目を丸くして俺を見ている。
俺の言葉に驚いた様子で二、三度瞬きをしたのだが……なんだ、まずいことでも言ってしまっただろうか。
変な緊張で思わず拳をぎゅっと握った俺が、次の言葉を探していると――なまえさんは両手で口元を覆い、大きな瞳を伏せた。……と、同時に気付く。
彼女の頬が赤く染まっていることに。
「いまのは、ズルいよ……」
へにゃりと眉を下げ、力が抜けたように笑ったなまえさんが、あまりにもかわいくて……心から愛おしいと思った。
「そ、そうですかね……?」
「うん。すごく格好良かった……」
「!?」
なに言ってるんだろうね、私!と、顔を赤くさせたままパタパタと自身の顔を手で仰ぐなまえさんに、また込み上げる愛おしさ。胸がじんとあたたかくなった気がした。
なまえさんの頬を赤くさせたのは俺なのだと理解したとき、俺も彼女の発言で顔が熱くなっていくのを感じる。
……ちょっと待て。
いまなんと言ってくださっただろうか?なまえさんが、俺を、格好良いと言わなかったか!!?
目の前で聞いたから間違いではない、はず。俺はこの幸せな気持ちを一生噛みしめたいぜ……っ!
「お、おと、男として当然のことを言ったまで、ででですっ!」
「ありがとう。そしたらお願いしようかな」
「もちろんです!暗くなる前に帰りましょう!」
どうしてか、自然に歩けない。
スキップしたいくらい心も足も軽くて、だらしなく緩む口元から八重歯が見えていようが構いやしない。
普段は照れ屋な俺だけになまえさんに気を遣わせてしまっていたが、いまはそうはいかん!ここは俺がリードしなければ!
くそう、どきどきとうるさい心臓よ、落ち着け!!
「……ありがとう、良牙くん」
「俺がしたいだけなので、気にしないでください」
なまえさんはなにも言わずにはにかんだ笑顔を見せてくれた。……どうしてこんなに彼女はかわいいのだろうか。俺は本当になまえさんのことが好きでたまらんらしい。
隣になまえさんがいて、一緒に歩くだけでも俺の胸はこんなにも熱くなるんだと思い知らされる。
ただ家へ送るだけの短い時間だというのに、そのわずかな時間に彼女への気持ちを再認識させられた。
✽ ✽ ✽
商店街から無事になまえさんを家に送り届け、しばらく彼女の家の玄関をぼうっと眺めていた。ささやかなひとときが終わってしまった……だが、なんて有意義な時間だったんだろう。
俺は踵を返し、足早にその場をあとにしながら先ほどまでの幸せを噛みしめていた。
肩を並べて歩くだなんて、なんだかカップルみたいだったな……。カップル……いい響きじゃねぇか……っ!
ついその場で人差し指をつつき合わせつんつんしながら照れてしまい、俯いてその指先を見つめた。
『なまえさん!車が来てます』
爽やかになまえさんを引き寄せると、バランスを崩した彼女が俺に倒れ込んだところをそっと抱きとめる。
『きゃっ、ごめんなさい良牙くん』
『大丈夫ですよ、なまえさん。ケガはありませんか?』
『良牙くんが受け止めてくれたから大丈夫』
そうして互いの顔を見つめ合って、
『なまえさん……』
『良牙くん……っ!』
ふたりの影が重なったりしちゃって……!
カラ〜ンコロ〜ンと教会の鐘の音が鳴り、天使がラッパを持って俺となまえさんのしあわせを祝福している妄想までしちまったぜ。
なまえさんの家まで一緒に歩いた時間は、二人の心の距離も近くなったと俺は信じる!
……にしても、だ。
先ほどまでなまえさんと一緒だっただけに、妄想の中のなまえさんの声が妙にリアルだ。
「良牙くぅ〜〜んっ!」
ほ、ほら!
今も名前を呼ばれて……呼ばれて?
さっき家へ送り届けたばかりだというのに、わざわざ家を出て俺のところへ駆け寄ってくださるということは………、
『なまえさん、どうしたんですか?』
くるっと振り返る俺に駆け寄るなまえさんが、俺の胸に飛び込んできた。
『寂しくて会いに来たの!』
『俺も寂しくてたまらなかったぜ!』
熱い抱擁に応えるように、俺も彼女をぎゅううと抱きしめる。そうして互いの顔を見つめ合って、
『良牙くん……っ!』
『なまえさん……っ!』
ふたりの影が重なったりしちゃって……!
もしかしてさっきの妄想が実現されるうううう!!!??
近くまで駆け寄ってきているだろうなまえさんの足音が、俺の後ろに迫っている。
追いかけて来てくださったのなら、その思いに応えなければ……っ!どきどきと高鳴る胸の音が気持ちを昂らせていく。
「なまえさん……!」
すぐ後ろでアスファルトを蹴るジャリッという音がして、俺は勢いよく振り返った――――。
「きゃは☆」
「え゛っ!!?!?」
赤い髪をした女が満面の笑みでこちらを見ている。
ムカつくほど見知った顔に、頬が引き攣るのを感じた。
振り返った先にいたのはなまえさんではなく、女の姿をしたらんまだった。
「りょおがくんってば、どうしちゃったの〜?」
ぱちぱちとわざとらしく瞬きするらんまが大きな瞳で覗き込んでくる。ことの次第を瞬時に察して、額にぶちっと青筋が立つのがわかった。
先ほどまでの妄想のなまえさんと俺が、ガラガラと音を立てて崩れていく。わなわなと体を震わせる俺の視界が、ちょびっとばかし滲んだじゃねぇか。
「ふっ……。なにしとるんじゃ貴様はーっ!」
「だあって、面白ぇんだもん」
「ふざけるなっ!」
悔しさを払おうと番傘を手に取るとらんま目がけて振るうが、身軽に交わされ当たるどころかかすりもしない。
ひょいひょいと飛び跳ねて交わしながら変顔のような顔芸で舌をべっと出してきやがるし、本当におまえは俺の神経を逆撫でるのが上手い奴だ。
「“落ち着いてよ、良牙く〜〜んっ!”」
「その声……やめんかっ!その息の根を止めてやるっ!」
「似てんだろ?なまえの声真似。そー怒んなって!」
「人を騙しといてどの口が言うかっ!」
「“す・き♡”」
「っ!!!」
思わず動きが鈍ってしまった。
勘付かれぬよう距離を取るフリをしてみたが、悔しいことに奴にはお見通しらしい。
にんまりと満足そうな顔して、おちょくるのを楽しんでいるようだ。
なまえさんの口から一番聞きたい言葉を、こともあろうからんまから聞かせられるとは……!いや待てよ?今のは俺だけではなく、らんま自身にも向けた言葉か……?
しかしそれよりもなまえさんの声真似とわかっていながら、揺らいでしまった俺がいる。
「き、貴様!恥を知れ!なまえさんに申し訳ないと思わんのか!」
「なまえにも似てるって褒められたしなぁ〜」
「なんだと!?」
番傘をぎゅっと握りしめ、先ほどより力を込めて振り上げた。びゅっびゅんっと空を切るばかりで、おさげすらも捉えられない。らんまの声真似に動揺したからだと思われるのは癪だ。
しかし相手は女の姿のらんまだ。パワーでは俺が優位。力技で押し進めれば、俺にだって勝ち目はある。
体が温まってきたとき、俺の番傘がようやくらんまの腕を捉えた。両腕をクロスして防御したらんまは「いってぇ〜〜!」とわざとらしく声をあげる。
「ふん。らんまよ、余裕でいられるのもいまの内だぜ」
「な〜〜に言ってんだか。俺もおめーも、決闘のときの半分の力も出してねぇじゃん」
「ならばここからは本気でいかせてもらうが、いいんだな!?」
びゅんっと再び番傘をらんまめがけ振りかざす。
飄々としたその顔を、泣きっ面に変えてやるぜ!
「つーかよ、おめーら随分楽しそうに帰ってたじゃねぇか」
「なっ、見ていたのか?!」
「トレーニング帰りにたまたまだよ。……で?おめーも行くんだろ?明日の花火大会」
「それがどうした!本気で闘え!」
「決闘じゃねーんだし、そんなに怒んなくてもいいだろ〜〜?」
「だぁれが先に怒らせたのか、忘れたのか貴様は!」
「あ、そっか、俺だった!」
技をかわしながららんまは古典的にぽんっと手を叩く。そもそもお前がなまえさんの声真似をしたことが発端だというのに、どこまでも腹立つ奴だぜ。
空中で一回転し、地面に足をつけるとらんまは体制を整えた。無差別格闘早乙女流の構えをして奴は俺の懐めがけ間合いを詰めてくる。
ようやく本気になったか……!?
迎え撃つべく、俺は番傘を握る手に力を込めた。
「明日の花火大会、なまえは浴衣を着るらしいぞ」
……浴衣っ!!!??
間合いを詰めてきた刹那、ぽそっと呟いたらんまの言葉に、思わず浴衣に身を包んだなまえさんの姿が脳内に浮かび上がる。
結い上げた髪、うなじの色っぽさ、浴衣の袖からのびる綺麗な手、おそらくカラコロ鳴る下駄も履かれることだろう。…くっ!なんてステキなお姿だろうか。
普段の姿ももちろん素敵なことに変わりないのだが、浴衣となると話は別。俺の想像の中ですらなまえさんはとても似合ってらして、思わずごくりとのどが鳴る。
……なまえさんの浴衣姿、めちゃくちゃいい。
すごく、見たい。
「スキありっ!」
俺が脳内の浴衣姿のなまえさんに気を取られている最中、らんまの拳が鳩尾に食い込んだ。
決闘のときと比べると随分軽いパンチだったが、いまの俺の足を止めるには充分だった。
「ぐっ……!」
「ふっ、おめーもそうだろうがな、俺も明日は楽しみにしてんだよ」
バチバチッと俺とらんまの間に火花が散った。
俺がなまえさんを想うように、らんまもまた彼女が好きなのだ。許嫁のあかねさんや右京、シャンプーやらがいながらなまえさんを好きになるなど、なんて奴だ。
と、言いながら……俺も一時期あかねさんに想いを寄せていた。
二人の女性を同時期に好きになってしまった俺にとってお二人はどちらも大切な人に変わりないのだが、あかねさんには「一生お友達でいましょうね」と言われ、一線を越えることが出来ないと気付かされた。
時間はかかったが俺なりに踏ん切りをつけ、いまはなまえさん一筋だ。
「一人でもライバルは減った方が俺としてもいいんだよ」
「ふん、貴様も俺と同じ考えってか」
「あ!浴衣姿のなまえ!」
「えっ!!?」
バシャッ。
しまった、ハメられた!
……と、気づいた頃にはもう遅い。俺は豚の姿になっちまって、らんまの手首にがしがしと噛みつくしか出来なくなっていた。
「飛んでけお邪魔虫ーーっ!」
らんまは俺をまるで野球のボールのように振りかぶって投げやがった。どうやら俺を吹っ飛ばして明日の花火大会へ行かせないようにしたいらしい。
……ふざけるなよ、らんま!これしきのことで俺が挫けるとでも思ったか!
先ほどのらんまのように空中で体制を整え、電柱を足場にし、らんま目がけて俺は飛びかかった。
しかし飛びかかったタイミングを同じくして――――奴は俺のリュックをまるで砲丸投げのように回転しながら投げてきやがった。
「ぷ、ぷぎ〜〜っ!?」
勢いよく飛んできたリュックが顔面に衝突して、俺は意識を飛ばしかけたがすんでのところで耐えた。
しかしリュックもろとも飛ばされた俺は豚の手足をバタバタしたところでどうすることもできず、勢いのまま空の彼方へと消えていくのだった。
ちくしょう、らんまの奴!覚えていやがれ!!!
果たして俺はなまえさんと約束した花火大会へたどり着くのだろうか…………。