がんばれ良牙くん!
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天道道場があるこの街にようやくたどり着いたと気づいたのは、見覚えのある白いチャイナ服の眼鏡野郎が出前で目の前の通りを横切ったからだった。
「思ったより早く着いたな……」
ふう、と汗ばむ前髪をかきあげた。
修業を終え、山をおり、ひたすら歩き続けた俺が予想よりも早くこの街にたどり着いたのは、ひとえに愛の力だと信じる。
夏の暑さにも負けず、強さに磨きがかかったこの俺をひと目見せたい。他の誰でもなく想いを寄せる彼女――なまえさんに。
なまえさんへの想いの強さが、俺をこの街へ導いたに違いない!これを愛の力と言わずになんと言う!
俺は息巻きながら彼女の家へ向かう。
なまえさんの家へ向かう道中、この街で一番賑やかな商店街に足を踏み入れた俺は、掲示板に貼られた一枚の貼り紙に惹きつけられた。
貼り紙には夜空を彩る魅力的な絵と、夏には欠かせないイベント名が書かれている。
「は、花火大会……っ!」
俺の頭の中に、肩を並べて夜空を見上げる俺となまえさんの姿がよぎった。
……これは千載一遇のチャンス!日付を見れば明日。俺にしては運がいい!
強くなった姿をひと目見せたいのはもちろんだが、俺はなまえさんと夏の思い出を作れないかとも考えていた。
山は修業で行くから外すとして、夏の定番、海やプールはまぁ言わずもがな選択肢から外すとする。
あとは天体観測、縁日、夏祭り。あげたらキリないが、中でも夏の定番である花火を一緒に見れたらなんて、淡い期待を抱いていた。
願ってもない絶好の機会。このチャンスを逃すわけにはいかない。なまえさんを花火大会に誘って、夏の思い出を作ってみせるぜ!
そして花火を見ながら俺と彼女は――……。
『花火すごく綺麗だね』
夜空に打ち上がる花火を見て、目をキラキラさせるなまえさんに俺は笑う。そしてキザったらしいがこう言うのだ。
『ふっ、花火はもちろんだが……、俺はなまえさんの方が美しいと思います』
『り、良牙くん…っ!』
『……なまえさんっ!』
目をキラキラさせたまま俺を見上げるなまえさんは、とてもとてもかわいらしい。そのかわいさに俺は彼女の肩を抱き、ぐっと距離を詰める。
ふ、と揺れたまつげが閉じたのを見て、俺もゆっくり瞳を閉じる。
そして打ち上がる花火の音を背に俺たちは、そっと唇を交わし――――!
「なーんちゃって!なーんちゃって!」
どわはははは!と笑い飛ばす。
花火大会でのなまえさんとのやりとりを想像して、思わず掲示板の半分をぶち壊してしまった。
ガラガラと音を立てて崩れる瓦礫など目にもくれず、俺は拳をぎゅっと握る。
よし、いけるぞ、響良牙!
思い出のためにも俺はこの花火大会に夏の全てを賭けるぜっ!ふはははははっ!
「あれ、良牙くん?」
花火大会のビラを前に意気込んでいると声をかけられた。思わず肩が跳ねる。聞き覚えのあるいま一番聴きたい声に、俺の胸はどくんどくんと高鳴っていく。
ゆっくり振り返ってみれば――やはり想い人のなまえさんが!
「こっ、こんにちはなまえさん!ご無沙汰しております」
「帰ってきてたんだね」
「あ、はい、つい先ほど……!」
俺は背負っていたリュックを下ろすと、なまえさんへのお土産を取り差し出した。受け取ってくれた彼女の喜び方ときたら、とにかくかわいい。この猛暑にも耐えうるお土産を見繕ってて正解だったぜ。
ありがとうと、喜んでくれるなまえさんの笑顔は愛くるしくてたまらない。胸の奥がじんと熱くなる感覚と、なまえさんのかわいさにくらくらしそうだ。
修業で各地に立ち寄ったからというよりも、この笑顔見たさにお土産を選んでいると言っても過言ではないだろう。
「そういえば良牙くん、行くの?」
「え?」
「ほら、花火大会」
彼女が指差す方へ目を向ける。
右半分が瓦礫になり左半分だけ残る掲示板には、先ほどまで食い入るように見ていた花火大会の貼り紙が。
そうだ、さっきまでなまえさんを誘わんと意気込んでいたいたばかりだ。
響良牙、男を見せるときだ!いざ誘うぞ、花火大会へ!!
「……あの、その、もしよければ、ですが……、」
“ 花火大会、一緒に行きませんか? ”
この一文を言うだけだぞ、俺!
だああああっ!勢いのままに誘えばいいものの、肝心の言葉がうまく出てこない……くそう。
ギクシャクと体を動かしながらも、どんどん小さくなる自身の声音に情けなさすら感じちまう。
「よかったら一緒に行かない?」
「……えっ!!?」
思ってもみなかった向こうからのお誘いに、俺は目を丸くした。
同時に、ぱちんっと両手を合わせた彼女は、目を輝かせながら嬉しそうに笑う。
蕾だった花が、俺の周りで一気に開花したような気がする。
な、な、こんなに嬉しいことがあっていいのだろうか!?
迷わずこの街に辿り着き、一番会いたかったなまえさんに会え、さらには花火大会のお誘いをいただくだとおおおっ!!?
まるで天に昇るような高揚感に包まれる。
「い、行きます!ぜひご一緒させてください!」
「もちろん!楽しみだね」
「は、はいっ!」
にこりと可憐に笑うなまえさんを見て顔に熱が集まってくる。
舞い上がる俺の心など知らぬなまえさんは、続けてとんでもないことを言ってくださった。
「花火大会は明日だから、ずっと良牙くんが帰って来るの待ってたんだよ」
「……えっ!?俺の帰りを……!?」
顔だけじゃない、全身が熱を帯びるような感覚に陥る。
おれの、かえりを、まっていた?
『全然会えてないなぁ……。良牙くんまだかな……』そわそわ
『なまえさん!いま帰ったぜ!』スチャッ
『良牙くん会いたかったわ〜っ!』ぎゅっ
『なまえさんっ!俺もです!』ぎゅうううっ
『もうこれで私たちずっと一緒ね』
『あぁ離れるのが惜しいくらいだ!』
離れていた時間を確かめるように、熱いハグをするなまえさんと俺がイメージとしてわきおこる。
こういうことか!!?
そういうことなのか!!!?!?!
そんな嬉しいことがあっていいのか!!!?!
……夢か?いや、もう夢でも構わん!!
愛の力で導かれ、夏の思い出をなまえさんと作れるのだ。現実でも夢でも、しあわせではないか……っ!
俺のために言葉をかけてくれるなまえさんがまるで天女のように神々しく見えるぜ……っ!
俺もなまえさんのお気持ちに誠心誠意お応えしなければっ!
「こういうイベントって、みんなで行くと楽しいもんね」
「……え?」
「あかねや乱馬くんたちとも行こうって話してたの」
ほかには右京とシャンプー、ムースも来るよ。
あとは良牙くんが来たらお馴染みの顔ぶれだねって話してたから、一緒に行けて嬉しいよ!
「……へ?」
がつーーーんと頭を殴られたような感覚。
て、て、て、てっきり二人きりで行けると思っていた花火大会だったのだが……どうやら違ったらしい。思えば《二人で行こう》などとは言われなかった。
俺は目に見えるほど大きく、ガクリと肩を落としてしまった。
「良牙くん?大丈夫……?」
「え、ええ。大丈夫です。すみません、驚かせちまって……、」
なまえさんは全く悪くない。俺の早とちりが原因なのだ。つい二人きりで行けるとぬか喜びして舞い上がってしまった俺が悪い。
勘違いしたばっかりに、勝手に俺が有頂天になっただけの話だ。
それだけの話なのだが……やはり二人きりで行きたかったぜ。
ピシリと音が鳴った方を見れば、かろうじて耐えていた掲示板の左半分のガラスにヒビが入っている。
するとガラスはガシャーンと大きな音を立てて粉々に割れてしまった。
それはまるで俺の心を具現化したようにも見えた。
ああ俺の心も天から地に落ちて、このガラスのように砕けちってしまったぜ……。
…………いや、まだふたりきりになるチャンスはあるはず。
隙を見てなまえさんの手を引き、迷子になったフリをすれば二人きりになれる!……はず!
俺は来たる花火大会に向けて息を荒くするのだった。
つづく?需要ありますでしょうか。現時点で未定です。