負けられない闘い
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「ったく乱馬の奴……」
乱馬が出ていった扉をぼんやり見ながら、良牙は小さくぼやく。そしてひとつ息を落とした。
こんな真面目な話など滅多にしない。普段はすちゃらかな奴なくせに、俺が気を使うべきところを、逆に気ぃ使いやがって……。
俺も唯一、お前ライバルと認めとるんだ。勝負だけじゃねぇ。なまえさんのことでも手強い相手だったぜ、お前は。
すると乱馬が閉めた扉がガタタッと音を立て、再び動く。
なんだ、乱馬。まだ言い足りんことでもあったのか?
良牙がそう尋ねようとしたとき、道場に足を踏み入れたのは乱馬ではなくーーなまえだった。
「よかった、良牙くん目が覚めたんだね」
「なまえさん……!」
「……傷の具合どう?」
「だいぶ、落ち着いてきました」
なまえは安堵したように微笑んだ。
「夕焼けがキレイなんだ、一緒に見ない?」
何を言おうか考えあぐねていた良牙は、なまえに誘われるまま、道場をでた。
そして道場の縁側兼廊下に、なまえと肩を並べて腰を下ろす。彼女が言うように鮮やかなオレンジが空を彩っている。
「ね、キレイでしょ?」
「あぁ」
目を奪われるようなキレイな夕焼けを、なまえさんと共に見ることが出来るなど……闘いの前には考えられなかったことだ。
いつもなら二人きりにさせまいと、乱馬がウロついてるし、なんならその乱馬を狙うシャンプーや右京もいたりして、なまえさんとのんびり過ごすことはほとんどなかった。
ここまできたならば、乱馬の計らいをムダにするわけにはいかん。
「あの、なまえさん。今日の決闘のことなんだが……」
「……うん」
「その……、」
こういう場に慣れていない良牙は、ひどく緊張した面持ちで奥歯をぎゅっと噛む。今までで一番近い距離にいるというのに、二人は顔を合わすことなく、空を仰いだままだ。
良牙はチラリとなまえに視線向けるが、夕焼けをじっと見ている彼女はこちらを見る素振りはなかった。
「……あんまり無茶、しないでよ」
「えっ、」
「二人とも傷だらけでボロボロになるまで闘ってさ」
「……すまん」
「でも、嬉しかったよ」
「!」
良牙はバッとなまえを見た。
未だ空を見上げたままのなまえの顔は、西日に照らされている。
自分たちの闘いに“嬉しい”なんて言ってくれるとは……、良牙はなまえの真意を読み取ることは出来ないまま、その横顔から目が離せなかった。
『……もし、二人がなまえを好きだとして、なまえを賭けた闘いだって言ったらどうする?』
あかねの言葉は、本当だった。
闘いのあと聞こえてきた声の数々に、二人が私に好意を寄せてくれていたのだと知ってしまった。
一人や二人じゃない声の多さに、今回の決闘が起きた理由も、自分か要因だったのだと気付かされた。
そんなに今まで大事に想ってくれていたなんて、気付かないにも、鈍感にもほどがある。
「二人の気持ち、すごく伝わったよ。ありがとう」
ふわりと風が吹き、なまえの髪をサラサラと撫でていく。
あぁ、そういう意味で“嬉しい”と言ってくれたのか、良牙はようやくなまえの真意を理解する。そして尚、こんなにもゆったりと近くでみるなまえの横顔を、良牙は愛おしく思った。
『まだ聞かないでくれ』
あのとき告げた言葉を、今ここで伝えなければ――。
「なまえさん……俺――、」
――なまえさんが好きです。
風になびく髪を押さえながら、なまえの視線が、良牙の真剣な眼差しと交わった。
西日に照らされた真剣な顔の彼は、いつもより何倍もステキで格好いい。
本人から聞けた願ってもない言葉に、嬉しさのあまりなまえは涙が出そうになるのを必死に耐え、笑ってみせた。
「嬉しい。私も、良牙くんが好きだよ」
「――っ!」
目を大きく見開いた良牙は、突如自身の頬を殴った。
予想外な行動になまえは驚くが、良牙はこれが夢ではないと噛み締めているようだ。
二人は最初から両思いだったのだ。
ようやく通じ合った嬉しさで、それぞれの胸がじんわりと熱くなっていく。良牙は嬉しさのあまり、思わずなまえを抱き寄せた。
「……良牙くん!?」
「……その、嬉しくて……。それにこんな顔見せられんっ」
大胆な彼の行動になまえの顔がかああと赤くなる。
どくん、どくん、と洋服越しに良牙の鼓動が伝わり、もしかしたらそれは自身の鼓動より速いかもしれない。
こっそり視線を上げて良牙を見れば、表情こそわからないものの、髪の間から真っ赤な耳が覗いていた。
愛おしさに心が満ち溢れるなまえは、そっと良牙の背に手を回した。
「……もう二度と会わないなんて、言わないで」
「あぁ……すまない。そんなこと二度と言わん!何があっても俺がなまえさんを守る。だからなまえさんもずっと側にいてくれ」
「うん……約束だよ、」
良牙がなまえを抱きしめる手に力が入る。
なによりも誰よりも大切にしたいと、守りたいと想った相手だ。なにがあっても俺はなまえさんを守る。乱馬と交わした男の約束も、破ることなどしない。
そう心に誓う良牙は腕の力を緩め、なまえの体を少し離した。
「あぁ、約束だ」
良牙が見せたのは、今までで一番穏やかな笑顔だった。彼のトレードマークの八重歯がひょっこり覗く。
そんな彼の笑顔になまえの胸がじんわり熱くなる。好きな人と想いが通じる喜びに胸がいっぱいなのだ。
良牙の意志の強い瞳に、いまは彼の想い人であるなまえが映っている。
大事にしなければ、と良牙もなまえとの想いが通じた喜びを噛み締めていた。
良牙自身は気づいていないが、なまえ想う気持ちが、彼の意志の強さと繋がっている。今回の決闘に勝利したことも、それだけ彼がなまえを想っていたということだ。
お互いの柔らかな微笑みを見て、二人の距離は再び自然と縮まり――そっと唇が触れた。
二人を照らす夕焼けは、さらに色を濃くしていく。
END.