響良牙
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「明けましておめでとう」
毎年恒例のゆく年くる年を見ながら、年が明けた。
テレビのチャンネルを変えると、興奮したリポーターや芸能人たちが各々新年の祝いの言葉を述べている。
彼らとは対照的に、俺は大好きな彼女と一緒にゆったりとした年明けだ。
「去年もお世話になりました。今年もよろしくお願いします」
毎年の決まり文句ではあるが、お互いに向き合ってきちんと正座をし、一礼する。
ストーブか、こたつの暖かさなのか。
先程熱々のそばを食べたからなのか。
彼女――なまえの頬はほんのり赤かった。
「こちらこそよろしくお願いします」
同じ言葉が掛け声もかけていないのに、同じタイミングで出るとは。
決まり文句にしろ、嬉しい。
しかし、そんな自分達に少し笑えてくる。
「こんなに被るとはな」
「被り過ぎて笑っちゃうよ」
確かにな。
笑いながらテレビを見れば、同じような沢山の笑顔の人たち。この時間、一瞬一秒を場所は違えど祝している。
キラキラと輝くようなそれにも、自然と頬が緩む。
しかし、なによりも。
「なまえと新年を迎えられて良かったぜ」
「嬉しい。私もだよ」
本当に喜ばしいことだ。
ぬくぬくと暖まったこたつに再び入り、肩を並べた。
ところで、自他共に認める方向音痴の俺がなまえの元に辿り着いたのは、31日の午後11時過ぎ。
つまりなまえの元にたどり着いたのはつい先ほどのことだった。
一緒に年越しをしたいと話していたのは、9月頃からか。
会う度にそんな話をしていたのだが……なにせ方向音痴の俺は、12月後半になればなるほど、なまえの家から遠ざかっていた(らしい)。
察しの通りクリスマスにも会うことも叶わなかった。
たまに自分がいる土地の名物や観光地、名前が入った画像を送るすると、必ずと言っていいほど折り返しの電話がかかってきた。
そうして地元の人に道案内をしてもらうよう口酸っぱく言われしまった。
どれだけなまえは、俺と一緒に新年を迎えたかったのだろうか。
いや、ずぼらな俺がたまにとは言えど、いつもより頻繁に連絡を取っていたのだから、年越しの瞬間を一緒に過ごしたかったのは、俺の方なのかもしれない。
ぼんやりとテレビを見ながら、なまえがホットココアを口にする。
今度はアーティストが曲を披露していて、新年を迎えた喜びを歌に乗せていた。俺でも知っている有名なやつだ。
彼女がカップを置いたのを見計らって、俺はそっとなまえの肩を抱く。
「今年はいい年にしてやるからな」
「……なんでそんな自信満々なの?」
「まぁ、その、何だ……」
――お前を幸せにするくらいの自信なら、たっぷり持ってるからな。
肩を抱いた手を滑らせ、腰をぎゅっと抱いた。
俺を見上げていたなまえが、ぱっと下を向く。こてんと俺の肩に頭を預けたかと思いきや「もうっ」と言いながら、なまえは俺の鳩尾に軽くパンチを入れた。
痛くもかゆくもないけれど、大好きな彼女のかわいい行動にまた口元が緩む。
「……なまえ?」
「ちょっと……格好良すぎ」
どうしたんだ?と、顔を覗き込もうとしたときに飛び出た彼女の言葉に、俺は思わずくはっと笑ってしまった。どうやらなまえは照れているらしい。
いつもならばなまえの言葉に顔を赤くするのは俺の方だというのに。
「大好きな彼女にそう思われるのであれば、彼氏冥利につきるぜ」
「なんで、そんなことサラッと言えちゃうのー?」
「さぁ、なんでだろうな」
たぶん、ようやくお前に会えたことが嬉しくて、いつもよりひとつかふたつ、頭のネジが緩んでるんだろう。
それにな、俺のことを格好いいと言ってくれるのであれば、俺は似た言葉をお返ししたい。
なまえだって、可愛すぎるぞ?
その仕種や、声に表情、言葉の一つ一つが。俺にとってはかわいくてたまらん。
「なまえもかわいすぎると思うがなぁ」
「ちょっと、やめてよ」
「本当のことだぜ?少なくとも俺にとっては」
こんなキザったらしい歯の浮くような台詞、普段の俺なら言えやしない。
なまえの髪の間から覗く耳は赤くて、おそらく俺も同じように赤いのだろう。顔はもとよりなまえを好きな感情が爆発して、体中が熱くてたまらんのだから。
「もー……良牙のばか」
なんだ、そのかわいい言い草は。
その一言を聞いて、だらしなくゆるむ頬を俺はどうにも出来なかったが、戻そうとする理性も働かない。
日頃俺に言い寄ってくるなまえの気持ちが理解できるとともに、なまえの姿を見ては自分を重ねる。
いつも俺はこんな風に顔を赤くしてはどぎまぎしているのか。
そう思うとまた一つ笑みがこぼれる。
「はいはい。今年もよろしくな、なまえ」
頑なに顔を上げようとしないなまえの前髪にそっと唇を落とした。
きゃっ!と慌てるような声と同じくして、また鳩尾にパンチがひとつ飛んでくる。
その衝撃すらかわいくて、こうやって、まったりのんびりとした一年の始まりを君と共感出来る、幸せを俺は噛みしめていた。
こんな日がずっと続くといい。
明けまして、おめでとう。
今年もよろしくな、なまえ。
END.