笑顔。
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「ちょっと……離してください」
「いいじゃん、少し遊ぶくらい」
つれないなー。
ケラケラと笑いながらブレザーの制服を着た茶髪のチャラチャラした男二人が、帰宅途中であろう少女にしつこく付きまとっていた。
その少女はあかねと同じく風林館高校の制服を着ており、その表情は冷静を保ちながらも苛立ちが見える。
「ねぇいいだろーなまえちゃん」
「ご遠慮します」
「そんなこと言わずにさー」
馴れ馴れしく名前を呼んでくるその男二人になまえは嫌気が差していた。
事は少し前に遡る。
下校中に用事があったなまえは商店街に寄った際、用事と合わせて新しくオープンしたというクレープ屋を見に行こうと決めていた。
良牙が修行から帰ってきたときにデートで行きたいと思っていたので、一度下見に行きたかったのだ。
会えない時間は寂しいが、相手を想う気持ちは変わらない。良牙がいない間はこうして行きたい場所をちょこちょこリサーチしてはデートの計画を練っている。
そんななまえがクレープ屋に来たかった理由はただ一つ。
二人一組でクレープを二つ購入すると、クレープの上に飾られる半月のクッキーが二つ揃うことでハートの形になるという、魅力的でカップル受けするクレープを良牙と食べたいからだ。
オープンしたてのクレープ屋は大繁盛でカップルや女の子たちで行列が出来ていた。
いつかあの行列に私たちも並べたら…なんて考えるだけで口元が緩む。
店の前に立て掛けられていたメニューボードを覗いたなまえは思わず「美味しそう」と独り言を口にしたのだが、思わぬ形で返答が返ってくる。
『ねぇ君、その風林館高校の制服……なまえちゃんだよね?俺らと一緒にクレープ食わねえ?』
なぜ制服だけで自分のことがわかるのか不思議ななまえだったが、すぐさまその誘いを断った。
しかしクレープ屋を離れても商店街を離れても尚しつこくその二人はなまえに付きまとっており、何度も何度も誘いを断っているのに諦めない二人に、なまえもそろそろイライラが限界に近かった。
「ねーちょっと遊ぶくらいいいじゃん」
「いやですっ。何度も言ってるじゃないですか!お断りします!それに私、彼氏がいるので」
「今は彼氏は一緒じゃないからいいじゃん」
「だからっ!」
「……本当は彼氏なんていないんじゃないの?」
「えっ、」
一人がなまえの右腕を掴み、路地に引き込んで家の塀を利用し、なまえを追い詰める。
背中は塀、前には二人の男。振り払おうにもびくともしない掴まれた右腕。
なまえの逃げ場はどこにもなかった。
「彼氏がいるならクレープ屋だって一人じゃ来ねえだろ?」
「つまんない意地は捨ててさ、楽しいことしようよ」
「(良牙……っ!)」
目の前の男たちが少しずつ顔を近付けてくる。なまえはぎゅっと目を瞑った。そんな様子を見て男二人はにひるに笑った――そのときだった。
「貴様らああっ!!」
屋根の上から声を荒げながら飛んできた良牙が、なまえの右腕を掴んでいる男を蹴り上げた。
反動で地面に叩き付けられた男は、腹を押さえうずくまる。
「っ、誰だてめぇ!?」
「……お、おいやめろ!やべぇって!」
突如現れた良牙に、目の前で相方を蹴られてキレたもう一人の男は悪態をつくが、蹴られた方の男は完全にビビっていた。
そんな男たちの声に激しく苛立ちを感じた良牙は、闘気を剥き出しにしたままギロリと二人を見て口を開く。
「汚ねぇ手でなまえに触ってんじゃねぇっ!!
なまえは俺の女だーーーっ!!!」
ドオオンッ!ガラガラガラ……。
大きな衝撃音に次いで、粉々に砕けたコンクリートがガラガラと音を立てながら地面に落ちていく。
あまりの突然の出来事に言葉を失った男二人は、ぎくしゃくしながらギギギッと首を動かす。
先ほどまで自分たちが立っていた場所を確認すると、見るも無残に塀が木っ端微塵に砕かれていた。
サーーッと血の気が引いた二人はやばい奴の女に手を出してしまったと後悔すると同時に、早くこの場から消えたい一心にかられ――
「「す、す、すみませんでしたぁーっ!!!」」
――ものすごい剣幕で睨み付けてくる良牙の顔も、ずっと声をかけていたなまえの顔も見れないまま、ずっこけながらも二人はあっという間にその場から逃げ出した。
「(マジだったのか……、)」
一部始終を屋根の上から見ていた乱馬は、終始ポカンとした表情をしていた。
口からでまかせで話しちまったけど、まさか本当になまえのやつ絡まれてたのか。まじか。なんつーか、なんつーか……。
ま、いっか。これで俺も良牙に逆恨みされずにすむぜ。
……このあとどーなんのか見てぇけど、やっと会えたんだから今回はここで帰っとすっか。
なまえに駆け寄る良牙を一瞥して、乱馬は気を利かせその場をあとにした。
「大丈夫かなまえっ!?ケガなどしていないか!?」
「う、ん……」
「……良かった」
良牙はほっと安堵の息をつき、なまえの頭を撫でる。
先程までの覇気迫る目付きとは違い、なまえを見下ろす良牙の眼差しはとても優しい。
「……ありがとう、助けくれて」
「なまえが危ないときは必ず俺が助けに行く」
「……うん」
嬉しそうに微笑んだなまえに良牙はどきっとした。この笑顔はいつ見ても幸せな気持ちにさせてくれる。
そして脳裏に焼き付いて離れないほど大好きな笑顔だ。
ああ、本当に俺は彼女の元へ帰ってきたんだな。
「いつ帰って来たの?」
「ついさっきだ。乱馬に案内してもらって……」
そういえば案内してくれた乱馬の奴は何処にいったんだろうか。案内してくれた上になまえが男に言い寄られていたとも教えてくれて。
これは流石に礼を言わねばならな――……。
「、いっ!?」
「……おかえり、良牙」
礼を……と考えていると小さな衝動に体が反応した。後ろから感じる温もりとふわっと香る優しい匂い。
ドキドキしながら視線を少し後ろに向けると、なまえが腰に抱きついていた。
……そうだよな、会うのは三週間振りだもんな。
良牙は一度なまえから離れ彼女に向き合うと、そっとなまえの背に手を回した。すっぽりとおさまる一回り小さな華奢な体が壊れないように、それでいて離れていた時間を埋めるように優しくぎゅっと抱き締めた。
互いに自然と笑みがこぼれる。
「ただいま」
満面の笑みでこちらを見上げてくる彼女への愛しさで心が満ち溢れていく。
会えない時間は寂しくて会ったらこうしたいああしたいと考えていたが、いざこの笑顔を見ると今までの寂しさが一気に消し飛んでしまうのは不思議なもんだ。
それだけ俺はなまえの笑顔が、彼女の存在が愛しくてたまらないのだろう。
彼女の笑顔と温もりと優しい声音を感じながら俺はもう一度なまえを抱きしめた。
そんな俺たちを包むように柔らかな風が一つ吹いた。
おまけ。
「ねぇ良牙。美味しいクレープ屋さん見つけたんだけど、行かない?」
「そ、それは、まさか……!」
「そ、デートだよ!」
「もちろん行くに決まってる!!」
数十分後。
商店街のクレープ屋さんの前でふたつのクレープを持ち、半月のクッキーをくっつけ合い楽しげに笑う二人の姿があったとか。
END.
ヒロインちゃんの名前が知られていたのは、乱馬やあかねなど目立つメンバーとよく商店街にいたからだと思います。
きっと前から目つけられてたんでしょう!